第9話 フラグ立ち
えええぇぇぇぇぇぇっ!?
……これはなんのイベントだ!?
泉さんは冗談なのか?
それとも……。
普段から変なことばっかり言ってるから意図がつかめない。
一時の沈黙がとても長く息が詰まりそうになる。
「……泉さん、えーと……」
何を言ったらいいかわからず、時間が過ぎていく。
やがて泉さんが
「……桃原君は私のこと好き?」
「…っ!」
そんなこと急に言われても…。
だいたい
「嫌い?」って聞かれたら嫌いじゃないと応えられるが、
「好き」って聞かれたら好きじゃないと完全否定してしまう。
自分の気持ちに正直になれば解決するだろ!って読者は思ってるんだろうけどそうしたら泉さんとの関係が壊れてしまう気がする。
それに泉さんを傷つけたくない。だけど……。
「……もういいや」
「…………へっ?」
突然泉さんは俺の答えを諦めた。
「その様子じゃ私のこと………好きじゃないみたいだしね」
「泉さん、それは…」
「違わないよ。…だって……返事……返ってこないもん…」
背中をみせ涙ぐむ泉さん。この時、俺はとてつもなく重い罪悪感が沸き上がった。泉さんをこんな姿にしたのは間違いなく自分。
突き刺さる何かが心を折る。
戻らない時間。
消えてしまう関係。
失うことがこんなにも辛いなんて知らなかった。
失いたくない。
ただそう願った…。
「…泉さん」
「今までありがと。すごく短かったけど…楽しかったよ」
そう言って泉さんはゆっくりリビングから去ろうとする。
「待って!泉さん!」
しかし泉さんは振り向かず歩いていく。
「泉さぁぁぁぁんっ!!!」
「な〜んてね☆」
…………………。
……………。
………。
「はいっ?」
さっきの澄んだ声とは裏腹に、くるりと振り返る泉さんは緊張感のかけらもない雰囲気をだす。
「いやー、なんかいい感じだったね〜。テレビのドラマみたいで私も少し緊張しちゃったよ!
桃原君もきっとわ・ざ・と・ノってくれたしね〜。なかなかノリがいいじゃない」
「………………………………………なんだ…………………冗談かぁ……………、よかった…。………でも…」…………なんかからかわれた気分。
だけど安心した。
もし、あれが本気ならどうしようかと…。
極度の緊張感から脱出して、俺は汗だくになる。
ベタな展開でも実際に遭遇してみると焦るもんだな…。
電気をつけて泉さんに牛乳をついであげる。
「はい、泉さん」
泉さんの前にコップをそっと置く。
「…これは私が小さいからって馬鹿にしてるの?」
テーブルにあごをつけながら皮肉そうに俺を睨む。
「い、いや、違うよ!ただ何となく牛乳好きかなって思っただけで…ホントだよ?」
「…まぁいいけどね」
コップを両手にとりコクコクと飲み干す。
その姿を見て改めて思った。
「…小さい」
「む、なんか言った?」
「いえ何も!」
…危ない危ない。聞こえてたのか。
でもホントに小さいな。
とてもじゃないが高校生にはあまり見えない。
性格は別として…。こんな幼かったら電車とか映画とか得しそうだな。
「…ねえ桃原君」
「え、何も考えてないよ」
「それは聞いてない」
「あ、そ、そっか、で?」
「アニメでさ、主人公って殆どがへたれだと思わない?」
………いきなり女子高生がこの話題でいいのか?
「えーと、別にどうでもいいんだけど」
適当に答えると泉さんは目を細め睨みつける。
「はぁ…桃原君とは相性はいいと思ってたのにがっかりだよ」
「いやアニメは好きだけどさ、そこを突いたら面白くないじゃん。」
「むぅ…」
「それにそこを言うならヒロインにも問題あるんじゃない?」
「例えば?」
コップを置いてソファーに寝転ぶ泉さん。俺は椅子に座りながら話を続ける。ける。
「だってそんなへたれにめちゃめちゃ可愛い子とかがくっついちゃったりする方がおかしいじゃん。むしろムカつく」
「それはしょうがないよ。そうしないとゲームになんないしさ」
「でもなんか納得がいかないんだよなぁ…」
「……もしかして憧れてる?」
「え゛!?」
いきなりの弾丸に焦りを覚える。
「まぁその気持ちはわかるよ。だってあんな可愛い子達に群がられたら幸せだろうしね〜☆」
……まさか泉さん…。
「…レズ?」
「あ〜、期待を裏切るようで悪いけど私そっちには興味ないんだよね〜。それにそういうのって実際あると気持ち悪い」
泉さんが嫌なものを食べたような目になる。
確かにそんなのがあったら見てられないな。
もしそんな奴がいたら神だな、うん。
それから泉さんとはアニメの好きなキャラ、ストーリー、制服、MADなどについて朝まで語り合った。
「朝だぞ〜。起きろ〜」
二階から降りて来たかがみさんが目覚まし声を響かせる。
「桃原君おはよう…って起きてたんだ。でもなんか眠たそうね。」
…いや…まず寝てませんから…。
延々と続く泉さんとの話題に眠気はこなかったのだが、ここにきて一気にピークが押し寄せてくる。
一方泉さんは……。
「おはようかがみ〜☆」
…元気だな。
泉さんはテンション高めになっていた。
たぶん家ではいつも夜更かししてるんだろうなぁ。
そのおかげで一日眠らなくても潰れない体を手に入れたのだろう。
「ぉはよぅ……」
「あ、おはようつかささん」
階段からつかささんが目を擦りながらリビングに入る。
相変わらずこの子は朝は苦手なんだな。
「みなさんおはようございます」
「…おはようございます」続いて小早川さんと岩崎さんがさっぱりした表情で
挨拶をする。
「二人ともおはよう」
なんか一晩寝たら俺はこの状況をおかしいとはもう思ってはいなかった。
「ふぁ〜〜あっ」
かがみさんが作った朝ご飯を食べる途中、俺は大きなあくびをした。
「ホントに眠たそうね。大丈夫なの?」
かがみさんが心配しながら卵焼きをパクリッ。
「大丈夫大丈夫…たぶん」
「気分悪かったら直ぐに言ってよね。あたしが看病してあげるから」
「「「「「えっ!?」」」」」
今……なんて…。
「まさかお姉ちゃん桃原君のことが!?」
「い、いや違うわよ!ただ世話になってるからそのお返しみたいなものなの!」
「かがみ先輩が不純異性交遊を…」
「いやゆたかちゃん誤解してる!」
「…貴女という人は」
「みなみちゃんまで信じないで!」
多方面からの攻撃にことごとくツッコむかがみさん。
「かがみ私とは…遊んでたんだね……。さよなら!」
「ちょっ、こなた!違うってば!」
「嘘つきっ!かがみの、かがみのばか〜!」
「わかったから!看病はしないから!だから変な展開を起こすな!」
…もともと看病なんていらないんですけど。
「じゃあ私が看病してあげるよ〜」
つかささんが笑顔で割り込む。「いやつかささん、看病いらないから」
「じゃあ私がするってことで」
泉さんが勝手に即決。
「ちょっ、もともと私がするはずなんだけど!」
…もともとかがみさんは何もしないはずなんだけど。
「あのー、私もお世話になってるので私でよければ…」
「…私もやってみたい」
五人がテーブルを挟んで言い争う。
これは止めないといかんな。
「みんなストーップ、ストーップ。とりあえず学校に行かないと遅刻しちゃうから早く食べよ。その議題は歩きながらすればいいから」
この言葉に素直に従いその場を逃れる。そしてチャッチャと準備を済まして家を出た。
しかし学校までもう少しのところで戦争勃発。
「だーかーらー!看病は私がするっていってるでしょ!」
「それじゃかがみだけズルイじゃん」
「そうだよ〜。お姉ちゃんだけズルイよぉ」
「ここは看病された経験者の私が」
…ダメな方の経験じゃん。
「…これは譲れない」
…岩崎さんまでマジなんだな。
しかしさっきから一つの問題が浮かび上がる。それは………。
「−−おい、なんだよありゃ」
「−−たった一人の男に女子が群れているぜ」
「−−どれが本命なのかな?」
「−−もしかして全員遊びかもよ」
「−−最低ね」
…痛い、痛すぎる。
周りの生徒達が目線を俺だけに向ける。
そうとも気付かない五人は延々と争った。
そして終末の時。
「このままじゃきりがないわね」
「そだね」
「そうだぁ。いっそ桃原君に決めてもらうのはどう?」
「へっ?」
「それがいいですね」
「…では桃原先輩、選んで下さい」
「え、いや、そんな選ぶだなんて」
「ここで決めなきゃ男じゃないわよ!」
「そんなぁ……」
でも強いて言うなら……。
「迷うんなら私だよね〜☆」
……それは正直不安。
「私の方がこなたよりしっかりしてるわよ」
……冷たくされそうで恐い。
「私も看病してみたいなぁ」
……絶対ドジ踏むから安心保証0%、入会したくありません。
「看病…させて下さい…」
……逆に看病しなきゃいけなくなるな。
「…どうでしょうか」
……沈黙の時が続くでしょう。
こん中から選べって言われてもなぁ。
「誰にするの?」
「えーと…」
「もちろん私よね」
「うーんと…」
「ドキドキッ」
「その…」
「桃原先輩…」
「つまり…」
「………ごくっ」
「…みんな…かな?」
……………………………。………………………。
…………………。
……………。
………。
「えぇぇっ!?」
「いやだって決められないよ!」
「ここまでヘタレだとは…」
「………もういいわ、早く校舎に入りましょ。桃原君だっていきなりで迷っただろうしね。ここは保留にしときましょ」
「かがみさん…」
「ほら早くしなきゃ遅刻よ」
「うんっ!」
みんなに続いて校舎に入ろうとしたら後ろから肩を掴まれた。
「ちょっと桃原、職員室まで来い」
「え゛っ」
ずっと近くにいた生徒指導の先生に捕まった。
………まさかバレた?
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