第69話 空白
「ただいまー」
由佳の声が廊下に反射を繰り返して俺のとこまで届く。
足音が近づいてきてリビングのドアが開かれる。
「夕食買ってきたよー」
かがみさんが先に入り由佳は後から入ってくるのだが二人の様子が少しおかしいことに俺は気づいた。
「由佳とかがみさん、どうかした? なんかどっちも視線が下にむいちゃってるけど……」
「ふえっ!? ベ、別に普通よ」
かがみさんは否定するが由佳は相変わらず鬱な感じだ。
やっぱり何かあったんじゃ…。
いや、今の俺は他人の心配なんかしている場合じゃない。
もし負けたら、もう俺はここには存在できないんだから…。
「お、俺もう腹ペコで限界だからさ、早くご飯食べよ」
できるだけ明るく振る舞う。
こんな暗い気持ちで最後になるかもしれない時間を終わらせたくない…。
「そうね、じゃあ料理は私に任せて」
「私もー」
つかさはかがみさんを手伝おうとすると、
「あ、つかさは向こうでくつろいでて」
「え? でも…」
「お願い、今晩の夕食は私一人で作ってみたいの」
かがみさんにしては珍しく一人で作りたいと言い、
つかさはわかったと小さく頷いて了承した。
「ご飯できたわよー」
かがみさんは人数分の皿をテーブルの上に並べた。
「ワアァッ! コレってもしかしてワタシタチがコドモのころにニホンのアニメでヤッテタ
“荒木家の幸せ”にでてくるドンカレーハンバーグじゃないデスカ!」
「荒木家の幸せ?
そんなアニメやってたんだ」
「椿先輩知らなかったんすか?」
「全然」
「…私も知りませんでした」
どうやら知らないのは俺とみなみちゃんだけのようだった。
この特色カレーハンバーグとやらはただカレーにハンバーグがついているだけと思っていたがカレーの色が青っぽくなって海みたいになっていた。
「…なんか色がおかしくないですか?」
みなみちゃんもそれに気づいて指摘する。
「大丈夫だよみなみちゃん。
それは青色だから美味しいの」
ゆたかは笑顔でみなみちゃんに勧める。
こうなってしまったら仕方がない。
ゆたかにも料理があまり得意ではないのに頑張って作ってくれたかがみさんにも悪い気がする。
けどやっぱまだ抵抗が…。
「私もこれお母さんに作ってもらったことがあるんだけど凄く美味しかったの。
だから大丈夫だよ椿君」
「そーだぞー。あやのがこう言ってるんだから早く食えってヴァッ」
「………」
あやのさんとみさおの保障はあっても俺には一歩の勇気が出せなかった。
「しょうがないな〜。じゃあ椿っち、あーん」
「へ?あ、ああ、あーん…ってちっがーう!」
「ちぇっ、つまんなーい」
由佳はスプーンを自分の皿に戻す。
…ったく、こいつ最近やたら俺に近づいてきてる気がするけどどういうつもりなんだ……。
「…なら私たちが先に一口食べて椿先輩はその後に食べたらいいんじゃないすか?」
「……それもそうね。
それじゃ、みんな揃っていただきます」
『いただきまーす☆』
かがみさんに続いて俺以外はカレーを口に運ぶ。
…この反応で美味しかったら食よっかな。
『ベビィブュルバッ!?』
突如、全員が悲鳴をあげた!
「っ!?」
い、いったい何が起こったんだ!?
「し、し、舌がー!!」
ひよりが舌を抑えながら叫ぶ。あまりの痛さに全く関係ない眼鏡までもが割れた。
…この時、俺は同じような光景を過去にあったような気がした。
たしか家庭科の実習で…。
「……あ」
思い出した。
あのゼリー?を作ったのはたしか俺だったなぁ…。
「ベファァァァァッ!」
みさおは走り回って洗面所へ。
なんだかデジャヴな気分がします。
「キャァァァァァッ!!」
俺は反応を見た後に食べようと思いました。
「オエエッ!!ゲホッガホッ!!」
しかしこんな……。
「ヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァーーッ!!」
こんな惨劇を見た後にいったい誰が食べようと思うのでしょうか?
「つ、椿ぐーん!」
「へ? う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
僕は口の中が腐ったように感じました…。
「………」
午後10時、ようやく落ち着いてきた。
みんなも自分たちのいる部屋でゆったりしているだろう。
あやのさんとパティ、ひよりは意識が多少しっかりしてから帰ったが由佳は泊まるとのことで部屋割りは迷った。
まあそれは後で報告しようじゃないか。
ともかく今は横になりたいのさ…。
しかし今日に限ってあんな現世では拝めないような代物を食べさせられるなんて……。
「桃原君、起きてますか?」
「……こなた、どうした?頭痛いのか?」
「い、いえ、そうじゃないんです。
ただ教えてほしくて…」
「何を?」
「つかささんに聞いたんですけど、
わ、私が最初に桃原君の家にいたんですよね」
「ああ、そういえばそうだな」
「ど、どうして私が桃原君の家にいたんでしょう?」
…………………
……………
………
「どうしてなんでしょう?」
「え、あ、わ、私に聞かれても……」
「あ、ごめん。俺にもいまいちわかんなくて。
確かこなたは男の子と一緒に暮らしてみたいとか言ってた気がするんだけど……」
「お、男の子といいい一緒にですか!?」
「で、でも他にちゃんとした理由があったと思うから安心して」
「はあ…そうですか」
しんみりとするこなた。
まぁ実はそれしか理由がないってことは黙っておくか。
そして話は続く。
「あの、私のこともっと教えてもらえないでしょうか。
前までどういう風なのか気になって…」
これは教えてもいいんだろうか…?
だけどこなたがオタクでいたずらっ子っていうのは、今のこなたにはキツイかもだな。
けど潤んだ瞳が俺に向けられて断る状況ではなかった…。
「あんまり…ショック受けないでね……?」
「?」
俺はこなたがどういう人間か知る限りを全て話した。
一応俺の話術で痛い単語を軽くしたのだがあまり効果は出なかった……。
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