第49話 零地点
バイト開始から五時間、ようやく仕事が終わった。
「つうわけで今日は助かった。おまえらのおかげだ。」
「いえ、そんな。こちらもこんなにもお給料をいただいてしまって」
「なーに、いいってことよ。ところで桃原、さっき由佳様が来てなかったか?」
「由佳様?まあさっき来てたけど……」
「私がどうかしたの?」
由佳がひょっこりと現れる。
「あ、由佳様!今日も店長をやらしていただいてありがとうございます!!!」
…え、なにその態度?
「いやいやそれより店の方は大丈夫?」
「ゆ、由佳様が私めの心配をしてくださるとは感激であります!」
「またまたー。んじゃ私デートがあるからまたね兄沢っち♪」
「はいっ!頑張ってくださいーー!」
…なんかキャラが違う。
……由佳っていったい何?っていうかこいつらの繋がりはなんなんだ?
俺たちは普通なら一直線に帰るのだが、「今日は疲れたねー」
「つかさもよく頑張ってたしねー。かがみのコスプレも見れたことだし萌えまくったねー」
「うっさい!それよりもうくたくただから早く帰って寝ましょ。今からデートでウハウハの椿君なんかほっといて」
「うっ…」
なんかトゲのある言い方だな…。
だいたいデートっていっても今からなにすりゃいいんだよ。
「あれ、かがみもしかして妬いてるの?」
こなたがかがみさんをからかうように言う。
「ちち違うわよ!別にそんなんじゃないんだからね!椿君も早く行けば!?彼女ずっと待ってたんだから!」
いやそんな怒って言わなくても…。
「じ、じゃあちょっと俺行ってくるから。できるだけ早く帰ってくるよ」
「朝に帰ってきてもいいけどねー☆」
「ごめん、かなり遅くなっちゃって」
「いいってことよ。椿っちが時間にいい加減なのは昔からだしね。でも罰は受けてもらうよ♪」
「罰…ってまさか!」
「そのとおり!アイスクリーム伝説の五段!」
ぬぅ、やっぱりそれか。こいつなにかと俺にアイスばっかおごらせるんだよなぁ…。しかも昔と変わらず五段を躊躇なく頼みやがって。
「ほら行くよ」
由佳は俺の手を握って先導する。
この光景も全く変わらない。こいつのこういうところも五年前と――。
『ほら椿っちー、こっちこっち♪』
『ちょっ待てよ!健全たる男子中学生に何をさせる気だ!』
『何って別に?』
『別に?じゃないだろ!なんで下着選ぶのに俺もついてこなきゃいけないんだ!』
『いいじゃんかー。椿っちだって自分の好みのパンツやブラをこーんな可愛い女の子が身につけてたら嬉しいでしょ♪』
『自分で可愛い言うな!それに嬉しくない!』
『ほんとに〜?』
『………』
『ぷぷっ♪照れちゃって可愛い♪だいたい椿っち心ん中では『周りが下着ばっかで最高!』とか考えてんじゃないの?』
『〜〜〜〜〜っ!だーもー早くしろ!俺帰るぞ!』
『あ、ちょっと待ってよ!まだアイスの件があるでしょうが!』
『アイス?そんなの覚えてないな』
『むき〜!しらばっくれるな!椿っち言ったじゃん!アイスおごってくれるって!』
『たしかに言ったが五段とは言ってないぞ!』
『細かいことは気にするな〜!』
『アホかー!いいか四百円も差があるんだぞ!四百円!バイトしてない一般市民には意外と四百円はクセモノなんだぞ!?』
『ちっさ!椿っちってそんなにちっさい男だったっけ!?思い出してごらん!ドラクエでラスボスを倒しにいったあのときを!椿っち仲間全員わざと死んだ状態にして結局一人だけで旅立ったじゃん!あんときは椿っち輝いてたよ!十万する防具も普通に買ってたじゃん!あのでかい器量はどうしちゃったの!?』
『そりゃゲームだからいいんだよ!ともかく早く下着決めろーーー!!』
…あんときは忙しかったなぁ。いつもあいつに振り回されてたっけ。
でも…楽しかった。
由佳といると安心できて普通に話して一緒に笑って…。そんな日々がずっと続けばいいと思った。でも、卒業前にあいつは…、
『どうした由佳?わざわざサッカーゴール前まで呼び出して』
『…うん、実はね…』
『?』
『…椿っちさ、彼女とかいるの?』
『彼女?こんな俺に彼女がいると思うか?』
『……そう…だよね』
『なんか嫌なことでもあったのか?随分元気ないみたいだしお前らしくないぞ』
『…そうだね、こんなの私らしくないよね』
『ああ。んで用事って?』
『うん……、
私さ、
椿っちのこと好きなの!』
『……………へ?』
『へ?じゃなーい!』
『いや…だってお前今何て……』
『だーかーらー!椿っちのことが好きなの!どうしようもなく好きなの!大好きなの!!』
『………』
『だから……私と付き合ってください』
『………』
『………』
『………』
『……椿っち?』
『……ごめん、俺はお前の彼氏にはなれない…』
『………え?』
『今の俺は両親が死んで心がボロボロなんだ……。だから今は恋愛とかできない……』
「………」
あの時は両親で頭がいっぱいだった。
でも今はどうなんだろう…。
俺は由佳のことが好きなのか…?
「椿っちどしたの?なんか悩み事?」
「……あ、いや、なんでもない」
楽しいって気持ちはある。でもそれは好きって気持ちとはちがうんだろうな……。
「変な椿っち」
「どこも変じゃねえよ。 そういえば今からどこ行くんだ?」
「ふっふっふっ。どうせ椿っちはなんも考えてないと思ったからさ、ちゃんと決めてきたのだー!椿っち!あれを見よ!!」
由佳が指す方向を凝視するとそこには…、
「ラ、ラブホテル!?」
そう、どこから見てもラブホテルだ。
まさかこいつ本気か!?
「ちっがーう!なにいやらしいこと考えてんのよ!あっちあっち!」
「あ、観覧車?」
ホテルの後ろ側にそびえ立つ観覧車を由佳は指していたらしい。
全くややこしいな…。こなたが別れ際に変なことを言ってたから
「まさか!?」と思っちまったじゃねえか。そんなとき、由佳はボソリと呟く。
「まあ私は椿っちだったら行ってもいいんだけどね♪」
「え、今何か言った?」
「ううん、なーんにも♪さ、早く乗ろ乗ろー♪」
ふぅ、相変わらす元気いいなぁ…。
でもあれからけっこう時間は経ったんだしこいつは俺のことどう想ってるんだろう………。
ただの友達なんだろうか…。それともあいつはまだ…。
「自分に振られた相手か…、
これほど気まずい関係はないよな………」
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