第29話 君の春はまだ…
「……どうして椿君がそこにいるの…」
ゆたかはこっちを向きゆっくりと俺を見つめる。
「いなくなってびっくりしたから……。さあ、早く帰ろ。かがみさんたちも帰ってきてるしこなたとかも心配してるよ」
しかしゆたかはその場を動かない。
「………私はみんなにとっていらない存在なんです…」
「それは違う!!」
「違いません!!」
ゆたかは激しく否定する。
「…だってそうじゃないですか!いつも私は身体が弱いせいでみんなに迷惑かけて!それでもみんなは笑顔でいてくれて……こんなのもう……!私がいない方がみんなは楽じゃないですか!!」
声が歪み、ゆたかは言葉が出せなくなるほど泣いていた。
「本当は………、本当は椿君だって私のこと目障りって思ってるんでしょ!?私のこと迷惑だって…そう思ってるんでしょ!?」
「……俺は、ゆたかと一緒にいて楽しかった…」
「絶対ウソ!!そんなの信じられません!!」
「だったら!……ゆたかは俺といて楽しくなかったのかよ」
「………っ!」
「ゆたか言ったよな…、俺たちが初めて逢った時に。『みんなと早く仲良くなりたい』って。あの言葉は嘘だって言うのかよ………」ゆたかは顔を隠すように下を向く。
「俺はこんな形で、ゆたかとケンカしたまま終わりたくない…。みんなでもっと笑っていたい…!」
声を張り上げゆたかに気持ちが伝わるようにまっすぐ見る。今、ゆたかが何を思っているかはわからない。でも……。
「椿君に…」
ゆたかは必死に抵抗の意思を見せる。
「私の気持ちがわかるんですか!」
ゆたかの目から大きい涙の滴が落ちていくのが瞳に映る。その涙の意味を俺は知っていた。
昔の友達にも似た状況があったから……。
毎日ドジばっかで、つねに周りを心配させる奴が…。
その時俺があの子に言った言葉は…、
「もっと俺を信用してくれよ…」
「っ!?」
ゆたかは涙を拭う。
しかし止まらない涙はゆたかの頬へと流れ落ちるばかりだった。
そして俺はここからは自分の本気の想いを伝えるために勇気を出す。
「俺さ…あんまりいいところないけどみんなに言われて気づいたんだ……。俺のいいところは『優しさ』だって…。だから俺ができることっていったらゆたかと優しく接することなんだよ………」
「……そうだよね。椿君、優しいとこあるからいいよね…。でも私には…」
「あるよ」
「え?」
ゆたかは小さな声で反応する。
「ゆたかにもあるよ、いいところ」
「そんな気休めは……よしてください」
顔をふいっと背き俺にか弱そうな後ろ姿を見せる。
「ゆたかのこと見てて、俺は羨ましいって思った」
ゆたかはピクリと揺れる。それを見た俺は話を続ける。
「いつも正直で素直で……誰にも真似できない思いやりを持ってて………。それになんかゆたかといたら
とても心が和んで、癒されて、嫌なことなんてどこかにいっちゃって悩みを忘れさしてくれる…。そんなゆたかの存在に、俺はずっと……憧れてた」
「……………」
「だから帰ってきて。俺にはゆたかが必要だから…」……………。
長い沈黙が続く。しかし俺はできることはした。だからあとはゆたか次第だ。
俺は黙ってゆたかの返事を待つ。
そして天気はいつのまにか雨雲で覆われていて、ポツポツと雨が振り出す。
だがそんなものに気をとられずに俺はただゆたかの言葉を聞きたかった。
「………なんで?」
雨の音を合図にゆたかは口を開いた。
「なんで椿君はこんな私に優しくしてくれるんですか?」
「………ゆたかが俺にとって大事な人…だからかな?」
「……そうですか」
ゆたかは微笑む。やっと今日初めてゆたかの笑った顔が見れた。
「…ありがとう」
足元をふらつかせながらこっちに近づく。
これでやっと…。
そう思った気の緩みと同時に、
「あ…」
ザパーンッ!
ゆたかの体がバランスを崩して橋から落ちる!
「ゆたか!?」
最初は何が起きたか理解しづらかったが、さっきまで側にいたゆたかがいなくなったのに気づき俺は慌てて橋から覗く。そこにはゆたかが水の中でもがく姿があった。
泳げない!?いや、まさか気分でも悪くして泳ぐことができないのか!?
最悪の事態が起こり体に寒気が走る。
どうして気付いてやれなかったんだ!
ゆたかの身体が一般より弱いのはわかってたのに!
今日初めて笑ってくれて仲直りしたのに!
「くそっ!どうしたら…!」
雨のせいで川の流れは速く人を抱えて泳げることはできない。しかし考えているうちにゆたかの姿は遠くなっていく。その光景がもう二度と会えなくなるような嫌な気分にさせた。
「〜〜〜〜〜っ!!!!ああもう〜!馬鹿か俺は!!
今、何が大切かなんてわかりきってるじゃないか!!!」
あの笑顔……、そしてそれをこなたたちにも見せてやりたい!!
俺は邪魔な服を脱ぎ捨て、十メートル以上ある高さから川へと勢いよく飛び込んだ。
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