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最終話 ありがとな




チュンチュン…。
「……ん…、朝…?」
窓の外は明るく小鳥がパタパタと飛んでいた。
俺は大きなあくびを一つしたあとに頭をかく。
「………いつのまにか寝ちまってたのか」
参ったな…。 昨日はせっかくのパーティーだったのに家主が寝てたなんて……。
てかそもそもなんのパーティーだったんだろ…。
「まぁいいや、とりあえず飯だな」
パーティーでもコーラや一口サイズのアップルパイ以外何も口にしていなかったので腹ペコだった。
階段を早々に下りてリビングに行く。
そこにはいつもみたいにみんなが座って待っているかと思っていた……。
でも目の前にある光景はその“いつも”を一瞬で裏切った……。
「………え?」
な、なんでだ…?
なんで揃いも揃っていないんだよ…。
まだ起きてないのか…?
時計は七時二十分を表していた。普通ならかがみさんやみなみちゃん、ゆたかがここの椅子に座って食事をしているはずだ。
普段はつかさも眠い目を擦りながら歯を磨いていて、こなたやみさおはパジャマ姿で、
「「だる〜…」」
とたった今起きてくるのが日常だ。
だがそんなほのぼのとした空気はなく、今の俺には焦りしかなかった。
「こ、こなた…!? みんな…!?」
慌てて家中探すがやはりどこにもいない。
アホ毛の少女もツインテールも他のみんなも誰一人として影すら残していなかった。
みんなどこに行っちまったんだよ……。
部屋に戻ってベッドに寝転がる。
もう訳がわかんねえ…。
家の周りは隈無く探した…。
だがそこには過去の想い出しか映ってはいなかった……。
「………」



みんなで食事したリビング……。



“今日はカレーか”
“うん。 お姉ちゃんが作ったんだけど椿君カレー大丈夫?”
“ああ、カレーは好きだぞ”
“よかったぁ。 お姉ちゃん張り切ってたもんねー”
“ちょっつかさ! 余計なこと言わない!”
“素直じゃないかがみ萌え〜♪”
“う、うるさい! い、いいから早く食べるわよ!”



ゆたかやみなみちゃんと一緒に皿洗いした台所………。



“みにまむテンポで歩いてー♪”
“なんだか楽しそうだな”“ふぇっ!?”


“…ごめんなさい”
“何が?”
“…あのゲーム。 初心者の私が桃原君に……”
“別にいいよ。俺が弱かっただけだから気にしないで”



「くそっ…」
この家は想い出が積もりすぎてる…。
だからこそ逆に辛い…。
苛立ちが増して体を反転させる。
するとふと窓から蒼い光が見えた。
「ん…?」
今のってまさか…。
バタバタと玄関を出て道端に顔を出す。
しかしそこにあったのは蒼い光ではなく……。
「み、みんな……」






「つ、椿君、起きてたんだ…」
こなたがひんやりした空気をつなぎ止めるようにサッと言葉を出す。
「みんな…、どうして……」
「え〜と…、実はもう一度椿の寝顔見ようかなって思ってさ」
みさおが笑いながら言う。
だがその笑顔の奥は笑っていなかった…。
「そうじゃない! 俺が聞きたいのはそんなことじゃない…!」
「つ、椿君…」
つかさは普段とは違い真面目な顔をしている。
そしてそれはみんなも同じだった。
「なんでみんなこの家を出てくんだよ!? また一緒に生活するってかがみさん言ったじゃんか!!」
「……うん」
微弱な反応に俺はさらに重ねていく。
「意味わかんねえよ!! みんな楽しくなかったのかよ!? 俺達が一緒に過ごした時間をもう味わいたくねえのかよ!?」
俺の質問にみなみちゃんが答える。
「……確かに楽しかったです。 毎日が充実してて手放したくないくらいに……」
「だったらなんで!? ちゃんと説明してくれよ!!」
するとこなたは言いたくないはずの事を言う。
「だって椿君は……、由佳ちゃんの彼氏じゃんか……」
そうだ…。 俺は昨日から由佳の彼氏だ…。
でも…!
「それとこれとはなんも関係がないじゃないか…!」
今度はゆたかが口を開いた。
「……あるよ。 だって椿君彼女いるのに私たちと一緒にいたら由佳ちゃんきっと怒るよ…?」
「う……」
言われてみればそうだ…。
彼女がいるのに他の女の子と寝泊まりなんて最悪だ…。
けど俺はそう簡単に諦められるほど器用じゃない…!
「じ、じゃあ由佳に頼んでみるから! それならいいだろ!?」
しかしみんなは首を縦には振らなかった。
こ、ここまで言ってもやっぱり無駄なのか…。
つかさがリボンを風に揺らしながら言った。
「椿君も分かっているはずだよ…。 私たちの気持ちを変わることはないって…」
「………」
つかさの言う通りだ。
そんなことしたってみんなは俺の家には戻らないってことぐらいわかってるよ…。
けど納得できなかった…。
なんとかしたかったんだ…。
楽しかった時間をこれからも続いていられるようにしたかった…。
「椿君の気持ちは分かります…。 でも仕方ないんです。 みんな別々になることが本来のあるべき状態なんですから……」
「みゆきさん……」
あるべき形…。
そうさせたのは俺が由佳を選んでしまったから…。
みんなといる幸せより由佳といる幸せを選んでしまったから……。
「椿、後悔だけはすんなよな! 自分が選んだ道なんだから最後まで突っ走れよ!」
「みさお……」
「そうッスよ。 悩んでる姿なんて椿先輩には似合わないッス」
「ここにいないミンナもきっとツバキのいくミチをオウエンしてるネ!」
「ひより……パティ……」
「今さら迷うなんて私が許しませんよ」
「永森さん……」
「桃原ぁ!! 不純異性交遊は禁止されとるけどウチがそんな規則から守ったるから安心せー!」
「私も得意の銃で守ってあげるよー♪」
「黒井先生……成美さん……!」
みんなが俺に勇気をくれて、そして背中を押してくれる…。
俺の信じた道を光で照らしてくれる…。
それは心強い光だった……。
「椿君」
「かがみさん……」
「二ヶ月間の幸せをありがとう」
「……え?」
「今までホントに楽しかった。 だからその……お礼よ」
かがみさんは照れながらも言う。
だが俺はかがみさんの目から反らして小さく呟く。
「………それはこっちの台詞だよ」
“ありがとう”って感謝の言葉は俺が言わなきゃダメだろうが…。
なのになんでかがみさんが言うんだよ…。
たくさんの幸せをもらったのは俺の方じゃねえか…。
情けなかった俺が変わったのもみんながいてくれたからじゃないか…。
何もない暗い日々を明るくしてくれたのもみんなが俺の手を繋いでくれたからじゃないかよ…!
我慢できずに涙が流れる。
ポツポツと透明の滴が落ちていった。
その時こなたが一歩前に出てくる。

「私さ、正直椿君のこと地上最強のヘタレだと思ってた…」

「…え?」

「みんなが泊まりに来ることになって反論してたけど結局流されて止めきれてなかったから“あ、椿君ってギャルゲーに出てくる主人公だ”って思った…」

「………」

「でもゆうちゃんを助けたり…、私の記憶を取り戻すために命捨てたり…、つかさのために停学になったり……。 自分のことなんかいつも後回しにして行動する……。 そんな優しさに私は恋した……」

「こ、こなた……」

「椿君に逢えてよかった……。 こんな私でも本当の恋ができたから……」

「………っ」

「私、絶対に忘れないよ…! 椿君と一緒にいた時間、絶対に忘れないよ…!!」

……辛い。

「椿君と一緒に食べたご飯忘れない…!!」

……寂しい。

「椿君と一緒に話したことも忘れない…!!」

……切ない。

「椿君からの誕生日プレゼントのことも忘れない…!!」

……悲しい。

「私たちは……ずっとずっと一緒だよ…!!」

でも俺の心はそれを凌駕する幸せがある…!

我慢できずに涙が流れる。

ポツポツと透明の滴が落ちていった。

「なんだよ……」

お前等だけ言いたいこと言いやがって……。

感謝してるのは俺だってのに……。

「みんな…」

余計な言葉は必要ない……。

ただ一言をみんなに伝える……。

「今まで……ありがとう……!!!!」

───俺達の夢の時間はここで終わった……。











みんながそれぞれ家に帰った後、俺は一人で家に入った。
いつもと全く同じ家なのにどこか違う。
静かで無駄に広くてなんか寂しい。
でもこれがみゆきさんが言っていた本来のあるべき形なんだな…。二階にあがってもやはり階段が軋む音しか響かない。辛い気持ちが俺を押し潰しにかかる。
「みんな……」
会いたい……。
話したい……。
またみんなで暮らしたい……。
でも前に進まなくちゃいけない……。
いつまでも女々しい気持ちでいたらみんなが覚悟して決めた想いを無駄にしてしまう……。


“私たちは……ずっとずっと一緒だよ…!!”


「……わかってるよ」
俺達に別れなんてない……。
俺達が築いた時間は思い出と共にココにある…。
俺は由佳が描いた絵に向き合った。
ありがとう……。
俺はみんなと出逢えて本当によかった……。



「こなた……」



“私の初恋はもう終わったんだよ…”



「かがみさん……」



“椿君がいない世界なんて私は認めないっ”



「つかさ……」



“大丈夫…もう泣かないよ……”



「みゆきさん……」



“それ以上言ったら私が怒りますよ……”



「ゆたか……」



“私はみんなにとっていらない存在なんです……”



「みなみちゃん……」



“つかさ先輩の笑顔を取り戻してください”



「みさお……」



“背景から卒業できたかな…”



「あやのさん……」



“椿君優しいから…”



「パティ……」



“イマのツバキはキライネ”



「ひより……」



“私の夢はこれで消えちゃうんだ……”



「黒井先生……」



“本当のお前が楽しんどるやろな……、友達と過ごす今の時間を……”



「成美さん……」



“お姉さんにドーンと任せなさい!”



「店長……」



“あ、あれは伝説の少女Aではないか!”



「梨原……」



“俺は夢を実現させてお前を待ち続けるからな”



「白石……」



“あきら様はどうかクビにしないでください”



「小神さん……」



“白石をもし許さないのなら私はアイドルを辞めます!”



「ゴットゥーザ様……」



“あんたはバカみたいにお人好しだな”



「そうじろうさん……」



“世界で一番かなたを愛してる…”



「永森さん……」



“みんなはさ、あんたのこと笑ってるけど私は好きよ。 そういう面白いところ…”



「ヤミ……」



“俺はずっとココにいる”



「由佳……」



“椿っち、ありがとう…”






無色だった我が家にみんなの想いが集まる……。



みんなと過ごした僅かな時間……。



それは神様がくれた最高の幸せだった……。





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