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第139話 キセキ






「ヤ、ヤミは!? ヤミはどこに行った!?」
ヤミが蒼い光に包まれたかと思ったらそれは一瞬で途切れてしまった。
そして光とともにヤミの姿までもがなかった。
蒼い光……。
それは言い伝えの通りだった。
あれは彼方からの光。
おそらくこの解答は間違ってはいないだろう。
だがなぜ今現れたんだ?
俺は非現実なことが起こったことによって混乱していた。
そしてさらに、あってはならないことが目の前で起きた。
「……う…」
ピクッと由佳の指が瞬間的に動く。
「……えっ?」
い、今動いた……?
俺は自分自身を疑った。
「…う……ん……」
今度は瞬間的じゃなかった。
指だけじゃなく口や足も弱く動いた。
ま、間違いない! 由佳は生きてる!
そして極めつけに由佳の瞼が細くも開いた。
「ゆ、由佳!!」
脳死と判断されたはずの由佳が小さく動きを見せたことにより一同は驚いた。
「由佳!? 私がわかる!? お母さんよ!? 由佳!?」
意識がハッキリしているかどうかを確認するため、由佳の母親は名前を呼ぶ。
「お、お母…さん。 なんで泣いて……」
「由佳ぁ……!!」
母親はギュッと抱きしめる。
「わ、私なんでここに……。 そ、そうだ! ヤ、ヤミちゃんは!?」
「……え?」
俺は疑問に思った。
由佳は眠っていたからヤミが消えたことは知らないはずだ。 なのになんで由佳は起きてすぐにちょうどいなくなったヤミを気にするんだ…?
「や、やっぱりあれは夢じゃなかったんだ……」
由佳はヤミがどうなったか知っているかのような表情だった。
「おい由佳……、お前ヤミがどうなったか知って───」
俺が聞こうとした刹那、
「い、生き返った!? そんなバカな!?」
さっきまで別室にいた医師はバタバタと再度由佳の状態がどうなっているか助手に問う。
すると耳を疑う結果が報告された。
「た、高橋さん…、萩野さんの状態は全て正常です…」
「せ、正常だと……!? そんなことあるわけないだろ! 出血だって激しく体力も失っていたのにそんな…!」
医師は助手の言葉が信じられず計測データを自ら覗く。
だがそこに偽りはなかった。
誰がどう見ても正常と判断するしかなかった。
医師はまだ機械だけでは信用できず由佳が負っていた傷を探す。
「な、ない…!? ここにあった傷が消えているだと…!?」
「………」
俺もそれを見て由佳が助かった嬉しさよりも不思議に思う気持ちが強かった。
いったい何が起こっているんだ…。
蒼い光、ヤミの失踪、由佳の意識回復……。
あり得ないことばかりが俺の身近で発生している。
これは奇跡と言えるのか…?
それとも誰かが神様みたいな力を持っていて意図的に俺達を救っているのか…?
そして何より……。
「俺はたぶんあの蒼い光を知っている」
いつ…? どこで…? 俺も由佳みたいに死んだときか?
だがいくら考えても答えは出なかった。









「ただいまー…」
深夜十一時帰宅。
由佳はもう大丈夫そうな顔をしていたが念のため一週間の入院となった。
俺はヤミのことを知ろうとしたら今夜はゆっくりさせてと言われ明日見舞いついでに話を聞くことに。
「………」
ヤミはいったいどこにいっちまったんだ…。
深く考えるがわかるわけがなかった。
諦めて俺はいつもどおり玄関を開ける。
中は当然灯りは点いておらず暗い闇が漂っていた。
そういえばこなたはどうしているんだろう…。
ヤミが病院に来たからあいつもてっきり来てるかと思ったのに……。

“行ってあげて。 それが私のためでもあって、由佳ちゃんのためでもあるから……”

「………」
もうこなたは家に帰っては来ないのだろう。
だからヤミを送った後に病院には入らずそのまま……。
靴を脱いでリビングの電気を付ける。
冷蔵庫を開けるとかがみさんが買いだめしておいたプリンとつかさが作ったクッキーが残っていた。
俺は無心でそれを取って食べる。
その時の味は何も分からずただパクパクと食べ進めた。
そして疲れが溜まった足でフラフラと風呂場へ向かう。
服をポイッと適当に投げ捨てタオルを用意……してあった。
「……?」
俺タオルなんか用意してたっけ…。
過去を振り返るがそんな記憶はこれっぼっちもなかった。
「まぁいっかぁ……」
考えるのも面倒だ。 さっさと風呂に入って寝よ…。
俺は素っ裸になって出陣する。
風呂場の電気が最初から点いていることに疑問を抱かずに……。


「ふぇ?」


「え?」


……………………。

………………。

…………。

暫し沈黙。
そして女の子の悲鳴。
「キャアアアアッ!!」
「うわあっ!?」
声に反応して慌ててドアを閉めた。
「……ッ!?」
な、なんだ!? 一人しかいないはずの家に誰かいたぞ!?
湯気のせいで顔は見えなかった。
だがわかる。
あれは女の子だ。
胸はつるぺったんだったけど長い青髪が見えた。
「……って青髪?」
も、もしかして…。
俺は予想が当たっているかどうかドア越しで確かめる。
「こ、こなたか?」
「………うん」
少し遅れて返事がきた。
や、やっぱりこなただったか。 でも……。
「お前…、帰ってきてたのか…」
「だから言ったじゃん…。 ずっと友達でいるって…」
ずっと……。
「ホントに……」
「え?」
「ホントにそれでいいのか?」
「……椿君?」
「俺さ……たしかにこなたには近くにいてほしいけど結局こなたの気持ちに応えてやれない……。 だったらいっそのこと俺から距離をとった方がこなたが楽なんじゃ……」
「………」
「自分は何を言っているんだろうと思う。 けどこのままじゃこなたが可哀想なんじゃ──」
「いいよ」
即答かつ落ち着いた口調だった。
「私はただ椿君の近くにいたい。 ただそれだけで嬉しいよ」
「こなた…」
「だって好きって気持ちは変わらないんだもん」
「……ッ」
前向きなこなたに対して俺は罪悪感を覚える。
こんな真っ直ぐな強い想いを持ってるこなたを俺はフッてしまった……。
「こなた……」
「なに?」
「ごめん……」
「椿君は自分がしたこと間違ってるって思ってる?」
「………いや、間違ってない」
「じゃあ謝らないでよ。 椿君は正しいんだから」
明るい声だった。
でも少し震えた声質に聞こえたのは俺だけなのだろうか…。

「そうだな……。 謝ったらダメだよな……」
言うことは他にもあるんだ…。
こいつには謝罪じゃなくて……。
「こなた、ありがとう…」
感謝の言葉を……。
「うん」
こなたは一言で受け取った。
一滴、また一滴と涙が床に落ちる。
もうたくさん泣いたのに…。
枯れることを知らないくらい泣いたのにまだ出続けた。
俺は何を恐れていたんだ…。
こいつは言ってくれたじゃないか…。
ずっとそばにいるって…。
だったら何も心配することなんかない。
信じていれば怖いものなんか一つもないんだ……。






「なぁ…こなた……」



「どしたの?」



「お前今幸せか…?」



「そういう椿君は…?」



「俺か? 俺は……そうだな……」



「……?」



「これから始まるんだと思う。 本当の幸せは……」



この時、月は蒼い光を放った。



いろいろな悲劇を乗り越えた俺達を祝福するかのように……。







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