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第12話 心の行方



「大事な話し…ですか?」
「せや、だからよく聞いてくれ」
黒井先生は一拍開けて口を開く。
「お前、今のこの家の生活をどう思う?」
「えっ?」
…どう思う?それはいったいどういうことだろう?
黒井先生の言葉の意味が理解できず俺は考え込んでしまう。
「あー…すまん、今の言い方は少し解りづらかったか。なら今の生活のままでいきたいと思うか?」
「まぁ…はい」
その言葉に裏はなかった。俺は自分の気持ちに正直に質問に答えた。
「そか、でもな…それはいかんことやっちゅうのはわかるな?」
…たしかにそれはそうだ。
黒井先生の言う通り、健康な高校生男子が女子高生をたくさん家に連れて一緒に泊まっているなんて世間では認められるわけがない。互いに節度ある関係ならまだ大丈夫なのかもしれないが俺達にはそんな関係はお構いなしにしている。
「一般的に考えて言うと、すぐに全員それぞれの場所に帰した方がええと思うんや。いずれみんなこの家から離れる。だったらバレてない今がベストや」
「はい……。でも俺は…」
「わかっとる…。お前の言いたいことはだいたい解っとるんや…」
黒井先生は俺の心を見透かしたように喋る。
「今の生活がお前にとって…めちゃめちゃ大事なんやろ?」
「………」
「泉達とおるのが……あいつらとおる時間が今一番大切になっとるんやろ?そして、それを…失いたくないんやろ?」
「…はい」
俺は核心を突かれた。
最初からわかっていたことだ。
始まりがあれば終わりがあるってことぐらい。
泉さんが最初に泊まるって言った時、俺はそんなのいつか終わるだろうと思ってたのに。
でも…いくらいけない事だと頭でわかっていても体がそれを否定する。
いつまでも俺の家にみんなの色が彩られるはずがない。
みんなの声が混ざり合うことも無い。
なのになんで…、失いたくないって思うんだろ…。
叶わない願いなのに、なんでみんなと一緒にいたいって思うんだろうか…。
みんなが消えると思うと、なんでこんなやるせない気持ちになるんだろ…。
俺はいつのまにか俯き、拳をきつく握りしめていた。
「…なんで……、いつから俺はこんなふうになったのかな…。入学した頃はのんびり過ごしたいって…思ってたのに…」
「本当のお前が…楽しんどるんやろな…友達と過ごす今を…」
「…最初はそんなこと……」
「……それが…友達や」
布団の上に座っている俺を黒井先生は低くしゃがみそっと抱く…。
「最初は気まずくても話しをするうちに、同じ時間を歩くうちにみんなの色を知り、想いが紡ぎ、かけがえのないものになっていくんや…」
「………」
「そしてそれは一生もんになる。うちもそうやから…」
…………友達……か。








時間が経っていくにも関わらず俺は悩んでいたが、黒井先生は意外なことを言う。
「うちは別に今のままでいいと思うで」
「……え?」
「だって人生一回しかないんや。だから多少道を間違えてもええと思う」
「でも…それは!」
「大丈夫…、絶対に大丈夫や……。うちがバッチリサポートしたる。だから自分の心に納得いくまであいつらをよろしく頼むわ」
黒井先生は笑いながら俺を安心させてくれた。
「ありがとう…ございます」
「かまへんかまへん、なんたってうちの自慢の生徒やからな」
……この人が先生で本当によかった…。
「ところで桃原、誰が本命や?」
「ぶっ!?」
「あの中におるんやろ?うちにだけこっそり教えてくれへんか?な?な?」
黒井先生はじわじわと俺から聞き出してくる。
「そそそそんなのいませんよ!」
しかし自分の生徒の言うことは信じようとはしなかった。
「嘘はつかんでええからはよ教えろ。泉か?柊姉妹か?それとも一年か?……まさかうちか!?」
「そんなまさかは存在するわけがない」

──バキッ!

「いてっ!」
黒井先生の代名詞、ゲンコツが俺の頭に…。
「そないはっきり言わんでもわかっとるわ!! ホンマに冗談が通じんやっちゃな」
おのれ関西人…。
いや神奈川出身だったっけ…。
「あ、そろそろうちは帰るわ。ここにおってもしゃーないし、朝早く出ても誰かに見られるかもしれへんしな」
「そうですか…」
そう言って黒井先生は立ち上がり玄関に向かう。
「じゃあ桃原月曜日な。誰か決まったら教えろよ!せやないと成績表にガムつけて開かんようにするからな!あとこの話の内容は他の奴らに言うなよ!うちが今まで創ってきたイメージが壊れてまうから!約束やぞ!ええな!!」
それだけを言い残し黒井先生は俺の家から出ていった…。






「えっ、黒井先生もう出て行っちゃったんだぁ」
朝、みんな目が覚め食パンを食べながらつかささんが残念そうにする。
「うん。いろいろ話したけど学校の先生達にはなんとか対処してくれると思うよ」
「そっかぁ、年上キャラがいなくなって寂しいね桃原君」
「キャラは関係ないし寂しくもないけどな…。あの人いきなり先生みたいなこと言い出したからびっくりしちゃったよ」
「いやまぁ先生だからね。ところで桃原君、その話した内容は教えてくれないの?」
「たしかに気になる」
「…詳しく教えて下さい」
かがみさんに続いて他のみんなも身を乗り出す。
「ごめんね、話さないって約束しちゃったから」
「えーっ」
泉さんが残念そうに肩を落とす。
「それに……」
「それに?」

“成績表にガムつけて開かんようにするからな!”

「ガムをつけられるのは嫌だしな」








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