第109話 おかえり椿君
「やっと学校に行けるのか…」
一週間の謹慎のせいで体はだいぶなまっていた。
気持ちもだいぶマイナス側に傾いており、やる気は最悪だ。
しかもソファーで寝るのにはさすがに限界を感じて床に寝だしたがこれもかなり精神的にくる。
いい加減自分の部屋のベッドで豪快に寝てみたいもんだ……。
カーテンを開けると入り込んでくる日差しに目を細める。
このときばかりは生きてるって実感が湧くのは俺だけなんだろうな。
みんなで朝食を済まして一緒に登校。
これも当たり前のはずなのに妙に嬉しかった。
教室に入ると真っ先に高良さんが挨拶してくれる。
「おはようございます、椿君、泉さん、つかささん」
「おは……ん?」
ごく普通の挨拶だがどこかに違和感がある…。
「どうかしましたか?」
「い、いや…、いつから高良さん俺を名前で呼ぶようになったかなぁって思って……」
「え、えっと…いつからでしょう?」
「……ま、いっか。名前で呼ばれるのもなれてしまったしな」
チャイムが鳴って俺は自分の机に座る。
鞄を横にかけて携帯をいじっていると、受信メールの表示になる。
「……?」
知らないメルアドだ…。
しかもこんな朝っぱらから誰かと思い開いてみると、
“サッカー部に入らないか? by梨原”
「部活か……」
確かに興味はある。
サッカーだってしたい。
でも今は子猫達が家に住み着いているから無理だな。
素早くメールの返信をしてもうすぐ始まる授業の準備をする。
「おい、桃原!!なんで入ってくれないんだよ!!」
ちっ、わざわざこっちまで来るなよメールで返せよ理由は言っただろと、
つっこまなければならないポイントは多くあるが口にはしない。
めんどくさいからな。
俺は梨原を避けるために話を変える。
「あ、なあみゆきさん、ちょっとノート見せてくれ」
「無視しないでくれる!?」
「うぉっ!」
ヌゥッと目の前に突如現れる梨原に思わずビンタをする。
っていうか顔を近すぎだ。
「も、桃原…」
梨原は地面に伏しながら俺の名を呼ぶ。
「お前さっきノートを求めてたよな…?」
「そうだけど?」
急に梨原の目が光る。
すぐに起き上がり『桃原が僕を頼ってくるのをずっと待ってました』みたいに言った。
「なに?ノートを貸してほしいって?」
「誰もお前なんかに頼みはしない」
「しょうがないなぁ。部活に入るなら貸してあげてもいいぜ?」
「あ、つかさでいいや。ノート見せてくれ」
「部活入らなくてもいいから少しは頼ってください!」
どっちなんだよ…。
しかも部活に入らないでいいってお前の当初の目的から脱線してるじゃねえか。
こいつ構ってほしいだけなんじゃないか…?
まぁいいや。 こいつのノートを見せてもらうか。
「じゃあ…梨原、ノート見せ――」
「おまたせ!」
準備早いな、おい。
隣のクラスまで全力で取ってきた梨原は息を切らしていた。
俺は早速ノートをパラパラと見て写すとこを探す。
へー、かなり字が綺麗じゃねえか。
げっ…。やっぱり一週間休んでたからけっこうな量だな。
今日中に終わらせれるか微妙なラインだ。
「梨原、このノート明日まで借りていいか?」
「あ、すまん。 そのノートは俺も借りてる側だから無理だ」
「………」
こ、こいつ役立たね〜…。
「…ん? ななっ!?」
俺は昼飯を食ったあと食後の運動もかねて散歩していると、渡り廊下にいる一人の女の子に目がいく。
あ、あれってもしかして…由佳!?
陵桜の制服を着ているが間違いない!由佳だ!
なんであいつがこの学校に!?
見つかったら大変だぞ!?と言っておきながら何故か俺が隠れてしまう。
逆に由佳は鉛筆を片手に持ち、堂々と学校の向こうにある景色を描いていた。
その筆遣いは繊細で思わず見とれてしまう。
「どうかなさいましたか?」
みゆきさんが後ろから声をかける。
「いや、ちょっとあいつが気になって……」
「あら、もしかして惚れたんですか?」
「それは有り得ない」
「凄く可愛らしい方ですし気持ちはわかりますよ」
「いやその前にあいつはこの学校の生徒じゃないから」
「へ?そ、そうなんですか?」
気付いてなかったのかよ…。
「前に会っただろ、萩野由佳。 あいつは違う学校に通ってるんだがどうやって侵入してきたのやら…」
とにかく由佳が他校の生徒だとバレたらややこしくなるので声をかける。
「お前、こんなとこで何やってんだ?」
「あ、椿っちじゃん。 なんでここに?」
「それはこっちのセリフだっつうの。
なんで陵桜にお前がいる。 それにその制服はどっから徴収してきた」
「ムズカシイニホンゴワカリマセン」
こ、このやろー…!
あくまで喋らないつもりか…!
俺は怒りを燃やしていると由佳の手元を見て疑問を持った。
「お前……絵なんか描けたのか?」
「そだよ。 前にここ潜入したときここから見える景色がすごく綺麗でさ。
だから描いてみたいなって」
前にって、何回潜入してんだよ…。
しかし由佳が絵を描いてるなんて知らなかったな。
今描いてる絵を見るとレベルは相当高い。
「もしかしてお前……画家目指してんのか?」
「うん!」
「……ふーん…」
由佳の眼は真剣だった。
そんな由佳を見て俺は複雑な気持ちになる。
なんだか差をつけられたみたいで…。
「……ま、ほどほどにしとけよ。じゃないと厄介な事になっちまうぞ」
「なになに!もしかして心配してくれんの?」
やけに嬉しそうにする由佳。
「当たり前だろ。お前が捕まった時、『椿っちが――』とか言って俺まで道連れにされる可能性がある」
「あ、バレてた?」
由佳は筆を置いて片付けだす。
「時間が危ないからそろそろ帰るね」
「……ちょっと待て。そのイーゼルとか画材はどっから持ち出した」
俺は由佳が直そうとするものを指差すと笑顔で答える。
「美術室だったり♪」
やっぱりか…。
通りでイーゼルに美術部って書いてる訳だ…。
本当なら手伝ってやりたいが余計な巻き添えは勘弁だしな。
「俺は教室に戻るけど絶対先生達にバレないでくれよ」
「了解♪ またね椿っち」
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