貴方のメイド
貴方のメイドはグループ小説企画の作品で、テーマは二人称です。たまに一人称がありますがお許しを!
真っ赤に光り輝くお日様、まるで微笑んでいらっしゃるようで――。
本日も少し体を動かすと汗がにじむほどの陽気、洗濯物がよく乾くであろう……そんな天気。
窓を開け放ち風通しをよくして開放的にする。微風が心地よく貴方はニハハと笑い朝食のトーストを驚くべきスピードで食する。おかわり、おかわり、貴方の活気に満ちた声が何度もこの空間に響く。その度トースターは大忙し、毎朝ご苦労様です! 貴方の代わりに私が謝辞を述べます。
「おなかいっぱーい」
机に突っ伏しニコニコ笑う貴方、一つも残さずに食べて下さったのは嬉しいですが食べ過ぎは体に毒、腹八分が最適と聞きます。ですが貴方の体調を管理するのはれっきとした私のお仕事、体調を崩されてしまわれたら責任は全て私にあるのです。
「クレア……難しい顔をしてるけど、悩み事?」
貴方は私の表情を見て気に掛けてくれた。小さな顔を近付けおでことおでこをくっつける――私はご主人様を心配させている駄目メイドだ。
「ご主人様、私は大丈夫ですのでお気になさらず」
「いつも僕が悩んだ時クレアは相談に乗ってくれるでしょ、だから今日は僕が相談に乗ってあげる!」
「……ホントですか? でもご主人様に女心が理解できるとは到底思えないんですが」
「恋バナなのか、クレア! それは僕が最も苦手とするご相談だ」
「そう言うと予想していたので、私はお気になさらずと仰ったのですよ」
「ごめんクレア。力足らずで相談にも乗れなくて」
「いえいえ、お子様のご主人様に恋バナをしようとした私が悪いのです」
「それは普通に傷付くよ」 貴方が大きく口を開けてアハハと笑った、だからつられて共に笑う。笑うのは楽しい、そして癒しだ。毎日の忙しい日々を一瞬だけ忘れさせてくれる……。
「朝食が済みましたので二十分の休憩の後、家庭教師のチャーリー先生による授業があります。後継者として頑張って下さい」
さっきまでとは声柄を変えて話す。貴方もさっきまでと顔付きは違い、落ち着いている。返事をして御馳走様ですと手を合わせ、洗面所へ歩いていった。
「……辛いですが頑張って下さい」
こんな事しか言えない。貴方はもう十分頑張っている、辛いけど涙を流さず頑張っている。息が詰まるから助けてあげたいけど、私はメイド、雇われの身である私が貴方を助けるなんてできない。だけど、突破口にはなれる――前に進のは貴方だけれど。つまりは貴方次第で道は作られるという事。
「さて、チャーリー先生が来る前に片付けますか」
気合いを入れ、壁時計を見て、貴方がまだ洗面所にいる事を確認して、ふかふかのソファーの上に寝転がっている革製の日記を取り、表紙をゆっくり捲る。
貴方は几帳面だから毎日必ず日記を書く。その日記はチャーリー先生だけが見る事を許されたのだけど、彼が先日、
「自分だけがこの赤裸々に綴った日記を見るのは息苦しい。だからクレア君、君にもこの日記をみてもらう。但しこっそり、そして二人で解決策があるか思考をめぐらそうではないか!」
強制的に、一方的に、チャーリー先生は話を進め一人で勝手に決めてしまった。私は一言も喋れずただ相槌を打つ事しかできなかった。別にやらなくても良いと思う、だって、もし貴方に見つかったら立場的にヤバいから。
「緊張するなぁ」
一ページに目を通し、瞬きの回数が自然と増えた。
今日、新しいメイドが来た。クレアという名前でとても優しい女性だ。お姉ちゃんが出来たような、そんな感じがした。
「……」
一日中雷が光っていた。こわい、恐ろしい、でもクレアが手を繋いでくれていたから安心した。呼吸が荒かったけど落ち着いた。ありがとうクレア。
「…………」
苦しい。胸が痛くてはち切れそう、死んだ方が楽なんじゃないのかって思った。でも、クレアが必死で看護してくれたから死んだら駄目だってわかった。まるで僕を我が子のように心配してくれたから。クレアが悲しまないように、生きよう。そう思った。
「………………」
冷たい、僕は理由もわからず冷たくされる。寒い、凍てついたような空気。だから僕は厚着する、暖炉の前に座る。あついけど我慢する、こうすれば冷たく感じないから。
「食器を片付けないと」
貴方の事がこの日記によってもっとわかった。でも今は色々話さなくても良い、そう思った。
「クレア」
ふかふかのソファーに座っている貴方。ヤバい、もうばれてしまった。
「何故君がその日記を見ている? 答えろ」
貴方は睨んでるような目付きで言った。
「見馴れない物でしたのでコレは何なのかと気になって、少し中を見ただけです。内容は覚えていません」
嘘を付いた。けれど仕方がない。
「チャーリー先生に言われたんだろ? 何故あの人は秘密にしてくれない。これで何人目なんだ……」
チャーリー先生は皆に日記を読ませていたのか。何故そんな事を? それとも彼はあの事を知っていて、それで面白がっている?
「それでは日記はお返しします」
まだ授業までには時間がある。一刻も早くチャーリー先生に問い詰めたい。
「おい、話はまだ終わっていない」
「……」
スミマセンご主人様。今は貴方に構っていられない、チャーリー先生に確かめなければ成らない事がありますから。
「クレア、お前まで冷たくするのか?」
貴方は手を掴んだ、力強く。しかし、
「復習はしましたか? 昨日勉強した事柄を覚えていなかったら、チャーリー先生に笑われますよ」
そう言って貴方からさっと離れ、机上に置かれてある食器をトレイに乗せてキッチンへと向かう。その時鏡越しに見えたのは貴方の悲しそうな顔、二人だけの空間に小鳥の囀りが聞こえてきた。
「……クレア、何故僕を邪険にする? 父上や母上、他のメイドや家来達も皆冷たい。僕が何か悪戯をしたのか? 僕が嫌いになったのか?」
しんとした室内に貴方の声と私の心音だけが聞こえる。さんさんと降り注ぐ日の光が眩しく感じた。
私は食器を流し台に置いて蛇口を捻る。ザーという水音が心を落ち着かせる。間髪を入れずにスポンジを手に取り食器用洗剤をそれにかけ、染み込ませる為に泡立て食器にこびり付いた汚れを丁寧に洗う。
「……クレア……答えて……くれ……」
水音が貴方の声を微かにさせる。私は聞こえていないふりをして、食器を黙々と洗い続ける。
貴方の日記とイワン様が仰った事が頭を混乱させる。目を閉じて私に仰ったイワン様の言葉を思い出す――
「お前には初めて言うが、スターリング家の後継者はあの子ではない。理由は毎日世話をしているお前には分かるであろう……そういう事だ。私の口からあの子に真実を話すのは荷が重い。だからクレア、お前も苦しいかもしれないが真実を打ち明けてくれ。期限は問わぬ、最終的に言わなくても良い、全てはクレアの判断に任す。スマナイ……スマナイ……」
イワン様は啜り泣いていました。愛情を注げなかった事、光り輝く命を次々に捨てた事を許してくれ――そう私には聞こえた。
「コホン、コホン」
その咳き込みに反応し、急いで振り向いた。貴方は口元を手で押さえフローリングの床に座り込んでいて、指の隙間からは赤いものが流れ床に小さな水溜まりができている。
「ご主人様! 無理をなさらずに!」
手も拭かずに貴方の側へ急ぐ。一刻も早く貴方を助けなければならない! そんな使命感に背中を押されたから。
「コホ、スマナイ……病弱な体で」
これが貴方を後継者をしない第一の理由。何も知らない貴方は常日頃勉学に勤しみ、夢を抱いている。その姿を見るたびに心が痛み、何とも言えない重圧が襲いにくる。
「ご主人様は悪くありません、悪いのは大切な体を蝕む病です」
貴方の小さな背中を優しく擦り落ち着かせる。興奮すると胸が握り締められたように痛みターゲットを苦しめる病。お前は許せない、何故私ではなくご主人様を選んだのだ? 貴様がそこに居座っているから分家の人間が後継者になるかもしれないんだぞ?
「クレア、ありがとう」
赤色の水溜まりに透明な液体が落ち波紋をえがいている。貴方は泣いているんだ、と思い抱き付く。
「クレア……」
嬉しそうな声、流れる涙、だけど貴方は恥ずかしそう。頬が真っ赤だ。
「見ませんよ、泣き顔は」
貴方は強がりで負けず嫌い。他人に涙なんて見せない――これが貴方の志。だから、ご主人様に正面から抱き付くんじゃなくて背後から抱き付いている。
その時チャイムが室内に鳴り響いた。王室警護官が貴方の為に来たのであろう。
「お願いがあるんだ……」
唐突な発言。
「胸を触ってくれ」
無言で頷き貴方の胸部に触れる。
「動悸がしてるでしょ」
貴方の言う通り、心臓が規則正しく脈打っている。
「僕は生きている! 人より少し力は劣るかもしれないけど、僕だって毎日を精一杯生きてるんだ!」
今までに聞いた事のない大声。これは生きている証、そう捉えて良いのか。
背後からは足音。応答がないので鍵を使って開けたようだ。
「クレア君、話があるとても大切な。廊下で待ってるよ」
声はチャーリー先生。こんな時に何なのよと思いつつ、ご主人様は王室警護官達に任せ部屋を出ようとした時擦れた声で、
「クレア……」
私に向けて手を伸ばす貴方は、涙を流していた。 「私は直ぐに貴方の側へ戻ります。だから安心してお待ち下さい」
笑顔で言った、貴方が落ち着くから。
「うん」
――バタン。
扉を閉めて早速チャーリー先生に問う。
「大切な話とは何ですか? 手短にお願いします」
「大切な話だから時間はかかるよ〜」
「で、何ですか?」
「イワン様が先程自殺したよ、首を吊って逝っちゃった」
「……」
「コレを見るかい? イワン様の気持ちがよ〜くわかる代物だ」
チャーリー先生はポケットから一枚の紙切れを取り出した。読んでごらんと言って、それを私に渡した。
「遺書ですね」
「ああそうだ。イワン様の残した最期の言葉だよ」
チャーリー先生は悲しんでいる。だが、その姿を見て溜め息を付くしかなかった。この遺書は偽物、だってイワン様はあの後奥様の目の前で……。
「これは先生が作った偽物ですね」
全てはこの人が仕組んだ罠だろう。皆が冷たくなったのは偽物を見せたから。中身は絶句するような嘘八百を並べたに違いない、だから皆冷たくなかったと。ご主人様をもっと信じてほしい。
「これが偽物? 君は何を言っているんだ、面白い奴だな、ハハハ」
腹を抱えて笑いだした。お前のその行動が全てを物語ってる。ていうか、イワン様が遺書を書くなど不可能。既に手遅れ。
「先生の目的が漸くわかりました。ご主人様の――」
目を見開きチャーリー先生を廊下に残し、急いで貴方が待つ部屋に入る。
――バタン。
眼前にはぐったりしている貴方、口元から血を吐き出している貴方、痙攣している貴方。シナリオ通りに事が進んでしまった……。
王室警護官達は汗を流し口をぽかんと開け、腰が抜けていた。
「ご主人様に何があったのですか!」
叫び、風前の灯し火となった貴方に駆け寄る。
「ちゅ、注射を射ちましたら、すす数秒後血を吐き出しまして苦しんで」
「そうですか。ご主人様が苦しんでいるのに何もしなかったんですね」
腰にあるポーチから解毒剤を素早く取り出す。
「では王室警護官としてご主人様をお守り下さい、チャーリー先生から」
「えっ?」
貴方に解毒剤を飲ませた瞬間、銃声が鳴り響いた。
バァン――
貴方を守る為私が盾となった。背中に激痛が走り、何かが流れた。チャーリー先生は不気味に笑いながら、あの男のせいでお前らは不幸者だな、と言い銃声が聞こえ静かになった。王室警護官達は走りだす人、止血をする人、叫んでる人様々。そして――
「クレア……僕は、後継者なんだ……」
擦れた声。よく聞かないとわからない。
「わかっています。私は貴方のメイドですから」
「僕は……僕は――」
何かが止まった。
「これからも隣にいます、もう離れない。だって私は」
貴方と血の繋がった――。
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