018 ハナビVSネジ
―――火影の執務室
現在、執務室には二人の人物が居た。
一人は当然のごとく火影。もう一人はナルト。
もっとも、ナルトは今来たばかりだが。
「ナルト……何故警備全てをかいくぐって、ワシの机の上にいきなり現れる」
「え? だって此処の警備ざるだし」
「……」
ナルトは最近毎日此処に来ていた。
なんとなく、父親が預けても安心できると言う人物を知りたいと思っただけだ。
それ以外にも、暇と言うのもあるのだが。
「なあ、火影」
「なんじゃ?」
「気にするなよ? 確かに俺はアンタのもとで幸せになったわけではない。だが、俺は今幸せだ。お前が知っているミナトは弱い奴だったか? 周りを変えられないくらいに。俺は自分で幸せを作ったんだ。だから……気にするな」
「……」
ナルトは気づいていた。火影がナルトに負い目があるのを。いつもナルトを見る目が、謝っているように見えていた。
「あんたは俺を捨てたのか?」
「違う! ワシは……ナルトを探した。だが……見つけられなかったのだ」
「知ってるよ」
「おぬし……?」
「俺は九尾を入れられた。だから赤子の頃から意識が在った。父さんの顔も、母さんの顔も覚えてる。父さんがアンタを信用していたのも知ってる。アンタなら俺を探そうって思うだろうな。だけど、俺は逃げたんだ。里で虐げられるってわかってたから……逃げたんだ。いくら火影だろうとアレ程の被害。その元凶が俺に入っていたなら、里人はわかってはくれないからな。だから、狐に頼んで運んでもらった」
ナルトは、ぽつぽつとその時のことを語った。何を思って逃げたかも。
実際ナルトは全くと言っていいほど恨んでいない。木の葉のあり方は好きじゃないが、火影自体は嫌いじゃなかった。むしろ、里人の事を思う、いい指導者だと思っている。
「ワシを……許してくれるのか……」
「許す許さないも、俺はもとから誰も恨んでなかった。ただ、里人には尾獣達の事をわかってほしかっただけだ。そうじゃないと、アイツらがうかばれない」
そう言って、ナルトは愛おしそうに腹を撫でた。そこにいるだろう妖狐達を。
「すまん……スマンナルト……あの時見つけてやれなくて」
「だから……あれは俺が望んで逃げたんだ。火影のじーさんは悪くない。なあ、じーさん。わかってもらえなくてもいいから、尾獣達の真実を巻物にでもしてくれないか? 別に皆に見られなくてもいい。ただ、知ってる人がいてほしいんだ。俺達が死んだ後も尾獣達は生き続ける。ずっと人間の敵になるのは……ツライ」
ナルトは本当にそれが気がかりだった。人間の寿命など、80年程。妖狐は死なない限り永遠。未来永劫、真実を知っている人間が九陽だけって言うのはつらい。そして、九陽が死んだらそれで終わり。
「約束しよう。かならず巻物にして記録を残すと。だから、教えてくれ。尾獣達の事を」
「ああ。教えるよ。尾獣の全てを」
ナルトは笑顔で、ゆっくりと口を開く。
のちに伝えられることになる、その伝承を。悲劇の尾獣達と、心を通わせた人柱力達のお話。
これが何れ二大大国となる、火の国と水の国の同盟への足がかりでもあった。
―――演習場
ナルトは、演習場に来ていた。
近くを通りかかった時、感じたことのある、不安定なチャクラを感じたからである。
そして、そこに行くと、案の定……居た。
「ヒナタ……お前その身体で突きの練習か?」
「え? ……あ、ナルトくん……」
ヒナタはバツの悪そうな顔をした。なぜなら、とてもじゃないが外に出れるような身体ではないからだ。一度心臓が止まっているのだ。しばらくは入院のはずが、病院の服で突きの練習をしていた。
「あ、ありがとうございます。……ナルトくんが治してくれたって……あと人工呼吸……」
真っ赤になったヒナタにナルトは問う。
「何故知っている?」
「えっと……ハナビがお見舞いに来て、間接キスですって言って……」
ますます顔が赤くなるヒナタを見て、ナルトは頭を抱えた。そこまで壊れていたかハナビ……と。
「まあ、訂正すると、人工呼吸ではなく、気管洗浄だ。あのままじゃ詰まって死んでた」
「あ、そうですね……ハハ……」
(こいつ苦手だ……話が続かない……)
「ナルトくんが言った通り医療忍者になろうかな……わたし忍は向いてないだろうし……」
「はあ……ったく」
「え? あたっ」
ナルトはヒナタの頭をパコンとはたいた。
「お前は強かったよ」
「……弱かった。ナルトくんがアドバイスしてくれたのに……結局負けちゃっ、あふっ……いたい」
ショボンとするヒナタをもう一度叩く。
「あのなぁ……俺は言っただろ? 強いってのは何か? 精神だと。あの時のお前はまさしくあの場で一番強かった。死ぬ限界まで己を変えようと戦ったお前が弱いわけないだろ? そうだな……身体だけ強くなりたいなら。何か目標……と言うか、何かの為に成し遂げたいと思うのがいいんじゃないか?」
「えっと……ハナビみたいのですか……?」
「いやー……あいつの場合は不純と言うか。まあ、実際それで強くなってるから効果は在ったんじゃないか?」
「ハナビは……ナルトくんにあってすごく強くなったと思う……身体も心も。今ではお父さんに反発してるもん。わたしは、好きな人って……いないけど……」
(キバは可哀そうだな。お前の恋愛は敵いそうにない。あんだけわかりやすいのに)
そう言いながらも、ナルトはどこか面白そうにしていた。基本、からかうのが好きなのだ。
「いや、何もそれだけじゃないぞ? 例えばそうだな……ネジがむかつくならネジを倒したいって思うとか? 漠然と強くなりたいってのよりいいと思うぞ? ちなみに、ハナビは俺の隣に並びたいのだとさ。わかるかヒナタ? お前とネジより更に難しいぞ。八陽全員でかかっても勝てない俺と同じになりたいってさ……まあ、嬉しかったけど。何か目標があるといい」
「……ハナビは幸せだね。そんなに思ってもらえて……私なんか……あたっ」
ナルトはもう一度叩く。すぐに落ち込むのが悪い癖だと言うように。
「自分卑下すんなうざったいから。思ってもらえるんじゃない。思わせてるんだ。思わせるだけ努力したなら、見返りが必要だろ。てか、お前さっきから見てたけど根本的に掌底がおかしい!」
「え? え? だってこうだって……」
「違う! ハナビは全く違うことしてるぞ。まあ、亜流として俺が教えてるんだが……」
そう言って、ヒナタが突いていた木の前で、ナルトは構える。
亜流ではなく、本当に日向流柔術。
「白眼で見てみろ。俺のチャクラの動き。柔拳の基本は、チャクラを手に纏わせるだけだと、威力が通らない。地面に足を踏み込んだ衝撃を、チャクラとしてかけ抜けさせる。そして、衝撃を与えるときに、ちょうど掌に纏うように……フっ」
ナルトは、ズドン、とチャクラを纏った足で踏み込み、力を掌から逃がすように打ちつける。
それだけで、バゴン、と木が折れ、粉々になって吹き飛んでゆく。柔拳により、木の内部から爆発したのだ。
「と……こんな感じだ」
「えっと……すごいけど。フェンス突き破って民家が……」
日向の視線の先には、確かに民家の屋根を破壊している木の破片が……。さすがに破片で屋根を壊すとは、物理的に不可能だと思っていたのだが、チャクラが木々に流され、強化されていたのだ。
「まずい! 逃げるぞ! またじーさんに色々言われる!」
「え? え、キャっ!?」
真っ赤になったヒナタを抱き上げ、ナルトは飛雷神の術を使って移動する。
―――逃亡中。
「なあ……何か俺誘拐犯になってんだけど? 化け狐が日向の長女誘拐したって」
「えーっと……私が昔誘拐されたからまたか、と?」
冗談じゃない。ナルトはただ逃げただけだ。だが、なぜか病院から日向の長女を誘拐したと言う話になった。そして、現在大勢の忍に追われていた。
しかも、化け狐ってことが何故か定着していた。
「って、危な!」
「キャっ!」
眼下からの火の塊を避ける。
ナルト一人なら当たっても平気なのだが、ヒナタは別である。消炭確定。
「あれ目的変わってるよな? ヒナタの捕獲から俺討伐に。あんなの喰らったらヒナタ火傷じゃすまないぞ?」
「おかしいな……何でだろう?」
「さあ」
ヒナタの問いかけにナルトは答えなかった。言ったところで変わらないと思ったからである。
「お前落としていい?」
「無理よ……此処から落ちたら死んじゃうし……」
「どうすっかな……」
ナルトはめんどくさくなっていた。
いっそ殺すか? と思っていたが、あれは日向の暗部。ハナビに迷惑がかかる。
「それより……今日本戦じゃない?」
「あ……そう言えば会場に行く途中でヒナタ見つけたんだった」
そのころ、既に開会式は始まっていた。
―――会場
火影は護衛二人を背後に控えさせ、一番高い位置に座っていた。そこにはほかに四つの空きイスがおいてある。
そこに、風影が到着する。
「遠路はるばるお疲れじゃのう」
やってきた風影に挨拶をする。風影もどうやら護衛は二人のようだ。
「いえ……今回はこちらでよかった。まだお若いとはいえ。火影様にはちとキツイ道程でしょう。早く五代目を置きめになった方がよいのでは……?」
「ハハ……まあそう年寄り扱いせんでくれ。まだ五年はやろうと思っておるのに……」
風影の不躾な問いに、笑いながら答える火影。
五大国ではあるが、やはり仲は悪い。過去、お互いが争っていた国同士であるのだ。
「そんなことどーでもえーです。それにしてもめんでーです。勝つのなんて主殿にきまってるしー。早く初めて帰らせれーです」
『!?』
いつの間にか、水影が椅子の一つに座っていた。護衛は今回も無し。
「み、水影殿……いつのまに!?」
「いつの間にって今。警備が弱すぎねー。横を通ったことも気づかないってありえねーです」
「ハハ……面目ない」
水影のお菓子を食べながらの物言いに、火影は冷や汗を流す。
つまり、簡単に暗殺が出来る。と言うことである。
警備を強化しようと、心に決めた瞬間だった。
「お久しぶりです……水影殿」
風影の言葉に、仙狐はチラっと風影に視線を向ける。
「“アンタ”とは初めてです」
「……」
その言葉で、何故か風影は、表情を思案顔に変えた。
風影の葛藤などどうでもいいとばかりに、水影はお菓子を要求する。
「では、そろそろ始めますかの……」
火影が立ち上がり、一歩前に出る。
「えー皆さまこの度は木の葉隠れ中忍選抜試験にお集り頂き、まことにありがとうございます! これより、予選を通過した十名の『本戦』試合を始めたいと思います。どうぞ、最後までご覧ください!」
予選より広大な敷地を使っての会場。周りは全ての席が客で埋まっていた。選手は現在ナルトとサスケ以外は来ているようだ。
「……十名なら。二人足りないようですが……」
「言葉にする前に自分でさがせーです。主殿は近づいてますねー。もう一人は誰かしらねーです」
風影の問いには、仙狐が適当に答える。
こんな子供が水影をやっているなど、一体誰が思おうか? ただの我儘な子供だ。ナルトも後々変えようと思ったが、『こんな楽してお菓子食べ放題な仕事やめられない』と、仙狐が突っぱねたのだ。
「サスケは後で来るんじゃよ」
「貴方がたの忍は時間も守れないのですか……」
「砂隠れなんて一人しか残ってないじゃねーですか」
とてもじゃないが、親密な雰囲気とは言えない。
むしろ、一触即発である。
ステージでは、九人の下忍が並んでいた。
たった今、ナルトが現れたから九人である。
「兄様。姉様と一緒でしたが、どうしたんですか?」
「んー、突きが甘いから教えてたら、日向の暗部に追いかけられてた。で、ヒナタを観客席に送ってきた」
事実ではあるが、民家を壊したことなどは言っていない。
「はー……日向は最強の体術ってあの家系は思ってますからねー。他の人が教えるのは許せないんです。わたしは兄様に教えてもらってますが」
「お前も日向だろ? しかも次期当主」
「え? わたしは当主になんてなりませんよ。全力で断ります。皆殺しです」
「いいのか……」
「だって、その……」
ハナビがチラチラとナルトを見るが、ナルトは無反応であった。ハナビはそれを見て歎息した……。
ナルトはハナビの想いに気付いているが、あえて気付いてない振りをしているだけだ。ハナビが嫌いなわけではない。むしろ好きだ。だが、ハナビ一人を優遇すると、フウやヤヒメが暴走するかもしれないのだ。
「いいかてめーら!」
そこで、試験官が口を開いた。
「これが最後の試験だ! 地形は違うが、ルールは予選と同じで一切なし。どちらか一方が死ぬか負けを認めるまでだ。ただし、オレが勝負がついたと判断したらそこで終わり。わかったな?」
シカマルとテマリが冷や汗を流す。両方が九陽の相手である。下手したら一撃で殺される。
「じゃあ、一回戦は日向ネジ対日向ハナビ。その二人以外は会場外の控室まで下がれ!」
「兄様! 見ててください!」
「はいはい。わかったから頑張れよ?」
「はい♪」
そこで九陽全員が消え去る。
それを見たシカマルが、傍らにいたテマリに近寄る。
「なあ、テマリだっけ? オレ達死ぬんじゃないか……?」
「……アンタだけ勝手に死ね」
それだけ言って下がるテマリを見、シカマルは肩を落とす。
そして、ネジとハナビだけが残った。
「日向一族同士の戦いか……面白いな」
「日向の天才と、日向の秘蔵っ子ってところだね……」
観客席で見ていた、何も知らない中忍が呟く。
「では、第一回戦始め!」
試験官が合図をするとともに、二人は構える。
ネジは日向流。ハナビは亜流。
「ふむ……あの構え。やはり日向の構えではないか……あれほど言ったのだがな」
「宗家の者なのに情けない!」
観客席で、ヒアシとその分家の長が会話する。
(だが……あの構えの時のハナビは強い……。負けられないと、自負しているところがあるしな。だが……アヤツには勝てない)
ハナビの亜流の構え。それは、ナルトの構えである。だからこそ、ハナビに負けることは許されない。そして、前に重心をかけたその構えは、攻撃特化。避けることなどはなから考えていない。
勝てないのならば、死んだほうがマシ。
「ハナビ様……アナタはいつまでそのようなお遊びを続けるつもりですか。この一か月も、ずっとあの者達のところに通い。慣れ合って来たのではないですか?」
「ネジ兄様……貴方は何もわかっていません。復讐心しか持っていないアナタは。そんなアナタに、わたしが……負けるはずがない!」
ドンと足元の地面にクレーターが穿たれ、ハナビは一直線に飛翔する。
だが、それはネジもわかっていたこと、軽く横に身を引いて避ける。
「そのような邪流。わかっていれば簡単に避けられ……ッ!?」
横を通り過ぎたところで、ハナビは左手をチャクラで地面に吸着し、回転するようにその場に停止する。
チャクラを地中深くまで差し込み、急停止を可能にした技である。亜流では、これが出来ないと自爆することになるのだ。
「……亜流・蜘蛛縛り」
通り過ぎる瞬間に、ネジの体躯に絡まされた鋼糸。それがネジの身体を空中に巻き上げる。
「わかっていませんねネジ兄様……」
「くっ!」
既に背後に移動してハナビが掌底を放つ。
ネジは咄嗟に身をひねって避けるが、右腕にかすってしまう。
「手加減はしました。ですが、数カ月は動かないでしょう」
かすっただけで、ネジの右腕は不自然な方向に折れ曲がっていた。その部分より先が黒く変色している。
チャクラと生命の点穴を突かれ、内部に衝撃を全て放出したのだ。
日向流ではありえない、亜流だからこその柔術。もしこれを日向がみたら、異端だと糾弾するだろう。それほど歪な技。
「くっ……片手で十分だ」
そう言って、ネジは左手を左足に乗せるような、おかしな構えをとる。
「あの構え……」
「あれは……当主様の構えですか?」
(ハナビには驚かせられたが、これは更に驚かされる。ネジがまさかアレを会得してようとは……)
ヒアシがそんな会話を繰り広げている中、ヒナタは思う。
(お父さんは知らない。ハナビの本気を……わたしやネジ兄さん、お父さんに怪我をさせないように、いつも手加減していることを……当主にされるのが嫌で、弱いフリをしていたことを……)
ヒナタはハナビとナルトとの組み手を中忍試験で見てしまった。そのとき、ハナビは今まで手加減していたのだと気付いたのだ。
「柔拳法……八卦六十四掌」
ズザッっと、足を移動し、ネジがハナビに迫る。
『八卦二掌!』
点穴を狙った突きを、ハナビは棒立ちしたまま左手でいなす。
『四掌!』
猛攻な突きを、ただ左手だけでいなす。
『八掌!』
『十六掌!』
『三十二掌!』
『六十四しょッくっ!?』
最後の一発で、ハナビはネジの腹部を蹴り飛ばした。
ネジは20メートル程後ろに蹴り飛ばされ、地面を削りながら着地する。
「左手だけで……防いだ、だと……」
「日向一族が、脚で攻撃……」
ヒアシ達が会話している最中、ハナビは俯いていた。
そして、右手を前にだし、何かを掴んでいた。
「ハナビ様……アナタは――」
「許さない……」
「は?」
ハナビの手に握られていたもの……それはハナビの長い髪であった。ほんのひと房。本数にして約500本。
だが、それだけで十分だった。いや、例え数本でも逆鱗に触れていただろう。
「兄様が……兄様がキレイだと言ってくれた髪を……アナタは……許さない日向ネジーー!!」
「ッ!」
ハナビが顔をあげると、目は真っ赤になり、瞳孔が縦に裂けていた。そして、身体から真っ赤なチャクラがほとばしる。
「なっ!? コレは九尾の!」
火影や、過去をしっている上忍達が立ち上がる。
だが、何故ハナビがそれを使えるかわかっていない忍がほとんどだ。知っている物は混乱し、対処が遅くなってしまっている。
「あー、あの子が主殿のお気に入りかー。契約させたーですね」
「み、水影殿。契約とは……」
仙狐の眠そうな目をした説明に、火影が慌てる。
「あれっすよー。口寄せ。ただ、相手が尾獣レベルってことはお宅らにとっては人柱力ってやさーです」
「なっ!?」
火影が驚いている中、仙狐は心底どうでもよさそうだった。
妖狐種族は長生きだ。だから放任主義である。もちろん、契約したのはナルトが初めてだが、個々が気にいった相手と契約するなら別に構わない。ほとんどはナルト以外と契約しようとは思っていないようだが。
「そのチャクラはなんだ……」
「わからないですよね……ネジ兄様には。くだらないことばっかり考えてるアナタには……。ですが……それで他人の大事なものを壊していいと思ってるんですか?」
ハナビは髪にチャクラを流し、ピンと張らせる。それは、細く、黒い槍のようだ。
「逃げてください……わたしの大事を壊したアナタを……殺します!」
「ッ!?」
ネジが逃げるが、ヒュンヒュンと長い髪が突きささる。
「八卦とは……点穴の数が351しかないから、それが最高だと思われがちですか……間違いです。八卦百二十八掌で終わりじゃないんですよ。兄様が使っているのを見て知りましたが」
「何……?」
ハナビは空中に、チャクラで髪の槍をうかばせながら続ける。
「生命の点穴を数えれば……最高が1365穴。アナタが切った髪の本数が、493……チャクラの点穴で足りない142穴。生命で補ってもらいます」
ヒュン、とネジのチャクラの点穴に紙の槍が刺さってゆく。まるで、あらかじめ刺さる予定であるかのようにトストスと刺さる。
「チッ! 回天!」
ネジが回転をして、髪を防ごうとするが……、
「ぐふっ……」
「わたしが髪を無駄にするわけないじゃないですか? それはチャクラを身体から大量に放出し、回天して相手の技を弾く術。ですが……わたしが髪に込めた想い(チャクラ)はそんなものじゃないんですよ?」
そして始まる、一方的な虐殺。
ハナビの髪はどんどんとネジの点穴に吸い込まれてゆき、更には生命の点穴にまで入り込んでゆく。
「……ハナビのチャクラと、術……あれは既に日向ではない……」
「はい……あれは体術ですらありません……」
日向として守ってきた伝統。ハナビを当主にした場合。そこで、完全に道を外れてしまう。
そうなると、ヒアシは決断するしかなくなる。
「ハナビを当主にすることは不可能だ……」
「おっしゃる通りで……」
この時、ハナビが当主となる宿命は消え去った。それは、奇しくもハナビの思惑通りでもあった。
「アナタは過去のしがらみにとらわれ、何も見ようとしない。そんな盲目の様な目ッ、っで!」
「ぐっ!」
四肢が動かないネジを、ハナビは蹴り飛ばす。
そして、地面に落ちる前に先回りし、上空へと蹴りあげる。
「何も見えないアナタが……!」
影分身をしたハナビが数人上空へ現れる。
その瞬身の速度は、移動の瞬間を誰もが視認することが出来ないでいる程だ。
見えているのは九陽くらいだろう。
「他人をバカにするなーーーっ!」
「がはっ」
5人のハナビの双獅拳がネジに叩きこまれる。
ネジはそのまま落下し、地面を揺らし、地面に叩きつけられる。そして、辺りが土煙に包まれた。観客は、皆息を呑む。
土煙が晴れた場所には、全身の骨が折れ、チャクラが枯渇し、倒れたネジだけが居た。
試験官や、観客は静寂していたが、やがて、試験官が立ち直った。
「しょ、勝者日向ハナビ!」
その声に反応し、観客から大きな歓声が上がる。
ハナビは、ヒアシを見つめる。ヒアシは、ハナビを睨みつけ口を動かす。
“お前は破門だ”と……。
ハナビはニコリとして頷く。
ハナビの姿を風影は、身を乗り出して見ていた。
その目は欲望。一体風影の何がそうさせるのかわからないが、貪欲に、蛇が獲物を見るような、ギラギラとした目だった。
そこで、ハナビは火影に視線を移す。
「わたし、日向ハナビ――改め“ハナビ”は木の葉の里を抜けて、九陽の里の忍となります!」
ハナビの叫びのような宣言に、皆が唖然とした。
里抜けは重罪だ。普通、抜け忍として死ぬまで追われることになる。それを、このような大きな場で叫んだのはハナビが初めてだろう。
ナルトは苦笑していたが、他の九陽は腹を抱えて笑っていた。
そして、仙狐も爆笑していた。
「あははは! 面白い! おもしれーです! ハナビちゃん! この水影が許すです! 九陽の里はハナビちゃんを歓迎すーです!」
「み、水影殿!? これは我々の問題であって……」
「関係ねーです。ハナビちゃんは既にうちの里人けってーです」
仙狐は口寄せで、ナルトのお下がりである羽織と、額当てを取り出し、ハナビに投げつけた。ハナビの疑似尾獣である、九尾の刺繍が入った羽織り。
ハナビはそれを受け取り、羽織をはおり、額当てを首にかけた。
「里抜けは大罪だとわかっているのか?」
ハナビの周りに大勢の暗部が集まるが、次の瞬間壁まで弾き飛ばされた。
上空から降りてきた白い羽織をはおった者達に。
「ハナビは俺達の里の人間だ。勝手に手を出さないでほしな」
それはもちろん九陽達である。
「里人は家族。それはどこもおなじなんだよー?」
「……触れさせない」
フウやヤヒメが続けた。
更にそれを取り囲むように、木の葉の忍が現れる。
「うむ……試験が終わったら話し合いと言うことでいいかのう?」
「おっけーです。あーでもめんでーですから本人達だけでよーです」
仙狐は既に興味を失ったのか、お菓子を食べていた。
火影が後で話すとのことなので、木の葉の忍達は睨んでくるが、ハナビをそのまま通した。ハナビは木の葉の控室にはいかず、九陽側にやってくる。
「いやーにしてもハナビには驚いた。堂々と里抜け宣言だもんなー」
思い出したのか、フウや多由也、君麻呂が笑いだす。
「本当は抜けるつもりはなかったんですが。さっき破門って父様に言われまして。後、きーちゃんとずっと居たからかもしれませんが、きーちゃんがいなくても最近じゃ襲われます。狐に誑かされたとか言われて」
言っていることは過激だが、ハナビは嬉しそうだった。
「まあ、ようこそハナビ。九陽の里へ」
「はい♪」
ハナビの笑顔を見、そして視線を運ばれてゆくネジに移す。
「お前さっきのわざと外した? それとも全力?」
「わざとですね。だって、生命の点穴なんて突いたら死点以外でも動かなくなっちゃいますし。最後あの人が崩れたのは思い込みです。思い込みは一種の幻術って本当でした」
その言葉でナルトは確信した。
ハナビは間違いなく九陽側に染まってきていると。このまま木の葉ではやっていけないだろうと。
九陽は別に人を殺すことが楽しいわけではない。ただ、その方が後腐れなく、簡単に方がつくからそうしているだけである。ハナビも、あそこで殺したら日向の跡取りがハナビに確定してしまうと思い、あえて殺さなかっただけである。その考えは木の葉では受け入れられないだろう。
「まあ、九陽の里についてくるのはいいが、実力的には微妙だからマンセル組んでも特Aが精いっぱいだぞ? ネジなら弱いから大丈夫だったが、カカシ当たりだと簡単に殲滅させられる」
「うー……確かに。速さもないですし……鋼糸は細さが足りなくて束縛以外に使えないですし。兄様のところだとわたしはどれくらいの強さですか?」
ナルトは少し考えた。術の数、速さ、威力。チャクラだけは狐を飼ってるので計算外だ。
「んー、下忍と中忍の間? 術が鋼糸と日向流の亜種だけだし……。あとは幻術を解くくらいか。手が少ないとそれだけダメだ。次の試合は棄権した方がいいかもしれない」
「むー……わかりました。勝てる気がしませんし、修行してからです」
次の試合はハナビ以外全員が九陽になるだろう。そうしたら、尻尾の形成が出来ないハナビなど、手加減されても一撃で死んでしまう。
「とりあえず、木の葉の修行の百倍くらいつらいから覚悟しとけ。実際心臓止まるまでしたりするし」
「はいっ♪」
ナルトは、本当にわかってんだかわかってないんだかなハナビの頭を撫でながら、天を仰ぎ、歎息する。
試験終了後の面倒事を考えて。
(てか、火影のじーさん過労で倒れるんじゃないか?)
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