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  Scenes 作者:Drealist
少女は心に、すんでいて
窓辺からそよぐ風に、気づけば4時を過ぎていた。

雲が漂う切り取られた空間は、見飽きるほどに眺めたものなのに
どこか自分をここではないどこかへ誘い出してくれるような、
そんな気がして、俺は感傷を覚えた。



いつのことだったか……
そうだ、あれは幼稚園の年少組のころだ。

「わたし、サトちゃんのお嫁さんになる!」

記憶のなかでは、目の前の女の子が笑ってそう言っていた。
髪を左上だけ結って、可愛さだらけの少女に見えた。

「……うん」

同じく幼い俺はその真意がわからず、
差し伸べられた手に戸惑うことしかできなかった。

そのころの俺は、とにかく臆病だった。
たとえば家で喉が渇いたとき、冷蔵庫を開けるのにも許可が必要だった。
それだけではなく、お茶や牛乳、ジュースのどれを選ぶかにも
俺自身の判断よりも親の許しがなければならないと思っていた。

もちろん今となっては、そんなことは子供じみた勘違いだと断言できる。
俺が冷蔵庫に触れるとき、母さんが怒るようなことは一度もなかった。
それでも俺が怒られると予想してしまったのは、
単純に人が信じられなかった、怖かったからだった。

そしてあの、那々絵の言葉にも僕は怯えた。

「わたし、サトちゃんのお嫁さんになる!」

俺がその手を差し出す少女像を回顧するとき、
ひとつ留まった感情が起こるということはない。

ときには、後悔。
なぜあのとき、那々絵のことを信用できなかったのか。
少しでも信じていれば、うなずいて彼女を喜ばせてあげられたのに。

またあるときは、諦め。
所詮は幼いころの記憶。今ではどうしようもない過去のこと。
そして俺がこうであったら、と願う希望の混じった幻想に過ぎない。

別の日には、恥じ。
いつまでも思い出にすがる女々しさに、声を上げたくなる。
顔が赤くなるほど興奮して、そしてそんな自分に気づいて冷めてしまう。

そして、怒りを覚えることも。
なんて自分は愚かなことをしたのか。
なぜ俺はこんなに悩まなければいけないのか。
どうして俺だけ、皆は幸せそうなのに、と。

「わたし、サトちゃんのお嫁さんになる!」

そんなときでも、彼女は笑いかける。
幼いながら俺の葛藤をすべて知って、その上で笑ってくれるような。
いや、幼いからなのかもしれない。

「ぼくはそんなものほしくない!!」

思いきり振り払ってみても、彼女は笑ったままで。
そして躊躇したあげく耐えられずに、俺はその手を握ってしまう。

けれどその暖かな感触に、
俺はどうしようもなく取り返しのつかないことをしてしまったと、
淡く、そのくせにやたら痛い、軋みを感じる。


今ではあのとき手を握った後、幼い俺がどう応えたのか、
それを思い出すことはできなくなっていた。

ただ、俺に優しく嬉しそうに笑いかける少女がいるだけで。



夜のとばりが降り始め、辺りは紺に染まりつつあった。
ケータイを見ると、5時半をとうに過ぎていた。

楽しい時間は過ぎるのが早いとか、
ぼうっとしていると時間が過ぎてしまうとか、
今の俺にはどっちを信じればいいのかわからなかった。

窓を閉じるとき、ピシャリと大きな音が鳴ってしまった。


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