ぼくの兄がロリコンな件について
今、僕は隠れている。
たったひとりの家族のパパから。
ここなら、きっと見つからないはず。
僕しか知らない内緒の場所に隠れて、僕は……巷で話題のゲーム、「ミニマムモンスター」略して「ミニモン」をやっている。音はイヤホンにして聞いている。これなら、ばっちりだ。
お陰で止まっていたゲームもさくさく進んでくれる。いいことだ。
なんで、隠れているのかって?
それは……ちょっと時間を巻き戻そうか。
「えええ!? アキ君、新しい家族ができたって?」
友達の由美ちゃんが声を上げた。
「そう、新しいママが出来るんだって。でも、それはいいことだと思うんだけど」
「何か……気に入らないことでも、あるの?」
そばに居た瑠璃ちゃんが尋ねる。
「それを勝手に知らない間に決めちゃったってことっ!! そういうのって、ちゃんと僕に相談して決めることだろっ!!」
だんと、机を叩いて立ち上がる。
「でもさーオレら、小学4年生だよ?」
巧がドッチボールで遊びながら、そう答えた。
そう、僕はまだ4年生だ。だからって、何も相談しないで決めちゃうってのは、反則だ!
それに……。
「新しいママにはにーちゃんがいるなんて、聞いてないっ!!」
というわけで、その新しい家族と会う日に、こうして隠れることにした。
どうせ、ドジに輪をかけたパパがこんなところを発見できるなんて……。
「みーつけた」
突然、明るくなったと思ったら、そこにいたのは、パパ。
ついでにいうと、僕が隠れていたのは、押入れに入ってた大きな箱だったりする。
「え、えっと……」
「ほら、行くぞ! 美咲さんが待ってる!」
そうそう、美咲さんってのは、新しいママの名前だ。
「ぼ、僕は……」
「ゲームが好きなら、そのままでいいから」
「で、でもっ!!」
ひょいっと抱き上げられた僕は、そのまま……車に乗せられて、二人の待つレストランへと向かったのだった。
「こんにちは、アキちゃん」
「こ、こんにちは……」
目の前にいる、初めて見たママは……女子高生にしか見えないくらい若いママだった。
「驚いただろ? これでも40さ……ぐおっ!!」
パパ、女性の年齢、言っちゃダメだ。というより、本当に美咲さんは若くみえる。
「ふふふ、私、もともと童顔なのよね。最近やっと女子高生に見られるようになったの」
ってことは、今までは、中学生とか小学生に見られたってことですか?
えっと、うん、今は深くつっこまないでおこう。
で、僕は視線をその隣に移す。
パパと同じくらいの背丈の、痩せた感じの……お兄さん。
いや、それだけならいい。
なんで、髪が白いんですか!?
ついでにいうと、目元、見えません!!
おどおどしてるし、明らかに緊張しているというか、なんというか。
「あ、あの子、可愛い……」
「えっ?」
初めて聞いたお兄さんが出た言葉は。
「また? 虎、小さい子についていっちゃダメよ」
「ま、またって……」
美咲さんはにこっと微笑んで言った。
「この子ね、小さい子とか可愛い子とか可愛いものに目がないの」
えっ……?
えっと、今、なんて……?
「だから、可愛いものに目がないの。ほら、虎の持ってる携帯。このストラップも可愛いでしょ?」
いや、可愛いクマたんだけど、うん、えっと……。
それって、男が持つようなもんじゃないと思う。
それくらいファンシーな可愛いクマたんだった。
って、虎?
「ああ、紹介が遅れたな。この子がお前のお兄さんになる虎だ。あ、名前が虎だからな?」
……あの、虎ってタイガーの虎だよね? どう見たって、目の前のにーさんは、虎っていう雰囲気ゼロです。むしろ、もやし? みたいな?
「ぼ、僕はアキです。よろしく」
「あ、よろしく」
にこっと笑うと、可愛い気がする。目元が見えないから、ちょっと怖い気がするけど、悪いヤツじゃなさそうだ。ぎゅっと手を握ると、意外と虎の手はごつごつしていた。
「おっと、ほらアキ。そろそろ帽子脱ぎなさい。顔が見えないだろ?」
いや、虎はいいのか、虎の目元は。
そう突っ込みたかったけど、パパは僕が手を伸ばす前に帽子をさっと取ってしまった。
ぱさりと長い髪が落ちる。
「ふえぇえええ!!」
虎が変な声を上げてる。
「悪いか、僕は女の子だ」
「だ、だって、アキっていうから、てっきり……ええええっ!?」
虎は混乱している。
「あら、虎に言ってなかった? アキちゃんは可愛い女の子よ?」
「ふえええええっ!!」
とひとしきり叫んだ後。
「ぎゅ、していい?」
「変態っ!!」
僕はそういう虎の弁慶の泣き所を、がつんと蹴ってやった。
その後は、あっという間だった。
僕の家はもともと一軒家だったし、美咲さんちは、手狭なアパートだったこともあって、すぐ美咲さんは僕の家に引っ越してきた。虎も一緒に。
まあ、僕の家、意外と広いし使ってない部屋とかもあったし、それに……。
「まあ、素敵っ!! こんなにごちゃごちゃしてなかったら、もう理想以上だわ」
ごめん、美咲さん。それ、僕らには、それ以上綺麗にすることできませんでした。
綺麗好きの美咲さんのお陰で、僕の家は見違えるように綺麗になったし。
なにより、賑やかになった。
むぎゅっ!!
「うわあ、虎、なにすんだっ!!」
「小さくて、ふわふわしてる……」
隙をついて、事あるごとに抱きついてくる虎を除いて。
がつん。
「うわあ、アキちゃん、何するの?」
頭突きで撃退。虎は鼻を押さえて涙目になってる。
「急に抱きつくなって言ってるだろ!」
「もっと可愛い言い方した方がもっと可愛いよ?」
「うるさい、黙れロリコン虎!!」
そういって、僕は家を飛び出した。
「はー、清々するー」
久しぶりに外に出たような気がする。
帽子を深々と被り、いつものように、公園へ。
今日はブランコにでも乗って遊ぼ……おや?
思わず立ち止まる。
「おい、持ってきたんだろうな? 蒼太」
「ううう……」
そこにいたのは、クラスメイトの蒼太と見知らぬ年上の学生。たぶん中学生か?
涙目で、蒼太はいやいや何かを差し出そうとしてる。
お金だ!
「何してんだっ!!」
僕は飛び出していた。
「なんだ、お前?」
「あ、アキ……」
「お父さんやお母さんに、他人からお金を奪うことはいけないことなんだって、教えられなかったのか? 僕よりもずっと年上のクセに!!」
「何だとっ!!」
僕と、年上のアニキとの戦いだ。でも負けないぞ! 僕だって、ここいらじゃあ、喧嘩に強い剛志よりも上なんだからな!
得意の蹴りで一人をぶっ飛ばし、もう一人は体当たりでぶっとばした。
「よし、今のうちに……」
逃げろという前に……蒼太はさっさと逃げてしまっていた。あいつ、逃げ足だけは速いんだよな。
「このガキがっ!!」
「うわっ」
アニキ達が僕の帽子を奪った。ばさりと髪が落ちる。
「なんだ、お前……女だったのか?」
「女で悪いか」
思わず凄んでみせるが。
「じゃあ、このままひん剥いて、写真取れば、新たな金ヅル、ゲットじゃね?」
根まで腐ってやがったか、こいつら!
「やられてたま……いたっ!!」
僕は気づかなかった。後ろにこいつらの仲間が居たなんて。僕は腕を掴まれてしまった。
「は、離せっ!!」
「おい、こいつをトイレに連れ込むぞっ!!」
「やめ……ふがふが」
すぐさま別の仲間が僕の口を大きなハンカチで縛った。お陰で声が上手く出ない。
じたばた暴れるも、相手は3人。
くっ……男って、こんなに力があるのかよっ!!
正直……こんなに男が怖いなんて思わなかった。全然、歯が立たない。
だ、だれか……誰か助けてっ!!
「そこまでだっ!!」
「ふがふがっ!!」
なんと、そこにやってきたのは、あの気弱な虎だった。確か、虎は高校生だったような……けど、こっちは3人もいるんだぞ、大丈夫なのか? いや、こりゃ、返り討ち決定じゃ……。
なんて見てたら。
「ぐあ!」
「うおっ」
「ぐえ……」
え? あの……えっ??
あっという間に虎は3人の男達を倒してしまった。
キックとかパンチとか、一撃で。
「病院送りにされなかっただけ、マシだと思え! ……アキ、大丈夫か?」
そういって、虎は僕の口に縛られたハンカチを外してくれた。
「と、虎っ!!」
思わず抱きついてしまう。
ついでに虎は、びっくりしておろおろしてる。おいおい、嬉しいシチュエーションじゃないのか、おい?
「なんで、こんなに強いんだ?」
「おふくろに弱い男はモテないからって、無理やり格闘技仕込まれた」
「へっ?」
僕らはゆっくりと公園の入り口に向かう。
「俺の親父がダメなくらい弱くって、そんなんじゃ世間に取り残されるって脅されて、お陰でプロでなければ、ああやって倒せるくらいになった」
いや、プロじゃなくても、あれはいくらなんでも……。って、虎のおじさんって確か事故で死んだって言ってたような。
「うん、喧嘩っ早いけど、すぐ倒れてたんだって。で、空手が得意なおふくろがいつも助けてたんだってさ」
なるほど……。じゃあ、空手は美咲さんから教えてもらって…………うん、美咲さん怒らせないで置こう、うん。
公園を出たそこで、待っていたのは蒼太だった。
「アキ、大丈夫? 怪我してない?」
「大丈夫だ、ちょっと擦り傷ができたけど、たいしたことないぞ」
にっと笑ってやると、蒼太も笑顔になった。
「蒼太君って言ったね。教えてくれてありがとう。お陰でアキを助けることが出来た」
そう虎が声をかけると。
「にーちゃんも格好良かったぞ! すっげー強かった!」
そうにこにこと言われて、虎は。
「………か、可愛い……」
「やめとけ、あいつは男だ!」
「いや、男の子だ……」
虎が間違いを起こす前に頭を殴って、引きずることにした。
これを境に、僕は虎を兄と認めることにした。
けど、兄なんてまだ言わないけどな。
こんな変な家族になったけど……まあ、これはこれでアリかもな。
「アキーっ!!」
ぎゅむっ!!
ばきっ!!
この家族らしからぬ、スキンシップがなければ、だけどな。