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前に続く

 洋子は慌ただしく身繕いして学生会館を飛び出た。
 タクシーを拾ってニュースでいっていた日本橋の東部病院に向かう。
 しかし東部病院では、城島小雪も本庄英志なる者も、もういないといわれた。
 受付の女性は移送先をいわない。
 知り合いだからと食い下がっていると、目付きの鋭い中年の男が現れて、「あなた、どういう関係の方?」という。
 不審な目で男と受付の女性を見る洋子に、男はダークスーツの内側から警察手帳を垣間見せた。
「榊原竜平さんの知り合いの者です」といって洋子は学生証を見せた。「同じ大學に通う友達です」
 刑事はちょっと考えてから、移送先の病院名を教えてくれた。
 洋子は再びタクシーで、池袋の木の内総合病院に向かった。

 木の内総合病院の受付で聞くと、五階のICUに入っているという。ここでも身分証明書の提示を求められた。
 目立たないけど、きっと警護の私服警察官がいるんだろうなあ、と思いながら洋子は、床に示された青い線に従ってエレベーターホールに向かった。
 エレベーターで五階へ、五階のエレベータホールに出ると、中年の男女が二人、壁際にいて、鋭い視線を向けて来た。
 今度は床の黄色い線に従って廊下を行くと、T字型に交差する通路に突き当たった。
 その手前左角がナースセンターで、通路を挟んで向かい側が集中治療室のようだった。
 ナースセンターの受付で聞くと、「城島小雪さんは面会謝絶です」といわれた。
「付き添いの方々はどちらに?」と聞くと、受付の看護師は、「この角を左に曲がって行くと、ICUの先に待合場所があります」といった。
 いわれた通りに行くと、右手にコの字型に引っ込んだ場所があり、そこがソファーや、公衆電話、自動販売機などがある、待合場所のようだった。
 両サイドのソファーに面会者が静かに腰掛けていたし、たった今馳せ参じたばかりというような男女が、九州弁で騒がしく(たむろ)してもいた。それもかなりの年配者たちばかり。
 それらがいっせいに洋子を見た。それも殺気立った目付きで。
 洋子はその異様な目付きにたじろいだ。竜平の姿を求めたけど、その中には見当たらなかった。
 立ちすくんでいると、どこからか声がした。
「洋子さん!」
 左手の通路から竜平がやって来た。
 その横にはいつか見たことのある太った男が、腿に包帯を巻いた姿で、松葉杖を突いて歩いている。
 竜平は左手首と、右手に白い包帯を巻いていた。
「こん氏は誰か?」と、やって来た竜平にいった者がいる。
「大學の友達の白木洋子さん」と竜平はいった。そして、「面会はやはりできんて、叔母ちゃん」という。
「ああもせからしか! ーー源五郎丸! お前が行って院長に掛け合って来い!」
「ばってん、若が行ってダメならーー」
「いいけん、行って来い!」
 牛が立ち上がったような大男がのそのそ動いた。
 洋子はこんな大きな男ーーというか老人ーーを見たことがなかった。
 老人なのに筋骨隆々で、太い腕をしており、盛り上がった両肩の上に、太い首と大きな頭が、伸び放題の白い眉と白い髭、ゴツゴツした頭にも白い髪の毛がまばらに生えている。
「竜平、小雪が生きるか死ぬかという時に何か! お前にオナゴはほかにおらんはずぞ!」
 声の主に睨まれて洋子は小さくなった。これが光子の電話相手だった博多の叔母ちゃんか。着物姿が(いき)な、光子に劣らぬほどの背の高い女。随分なお歳のようなのに、背筋がピンと伸びていて、その顔に女ヤクザだと書いてあった。
「よくここがわかったね」
 と、洋子は竜平に腕を取られて連中から引き離された。
 洋子は、大分の実家まで出掛けたことを竜平に話した。
 竜平は目を丸くして、そして、例の憂愁の色を浮かべていった。
「悪いけど、このまま帰ってくれないか。君とぼくとは、住む世界が違う。ぼくはご覧の連中の側の人間だ」
 洋子は初めて竜平の真摯な顔を見た。目と目が正面からぶつかり合った。竜平の瞳は異様な光を発して、恐いくらいだった。
「ぼくは何度か夢を見た。見てはいけない夢を見た。だけどもう……。君には迷惑をかけてしまった……」
「……そんな」
「実家に行ったのなら母から聞いたかも知れないけど、ぼくにはぼくの人生はない。今ぼくの命を守ってくれた()が生死をさまよっている。好むと好まざるに係わらず、ぼくはそうした人たちによって生かされ、そしてそういう人たちのために死ぬことを運命づけられている」
 エレベーターホールまでやって来ると、竜平はボタンを押して、エレベータが下りて来るのを待った。
 エレベーターが下りて来ると、「ぼくの前に立ちはだかる何者も容赦しない」といって、開いたドアに手を掛け、洋子が乗り込むまで閉めようとしなかった。
 中には何人か人が乗っていて洋子は乗り込むしかなかった。
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