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前に続く

 前方の交差点の車の流れを止め、銀行ビルの角から右折して現れたパトカーと覆面車は、左側歩道を歩く三人には目もくれず走り去った。
「通報があったちゃね」竜平が福岡弁でいう。
「あいつもう逃げたっちゃろか」前を警戒しながら、先頭を歩く小雪が、振り返っていう。
「まだ油断ならんばい」後方を警戒しながら本庄がいう。
 竜平を挟んで、ボディーガードの二人は、前後に一列に並んで歩いた。
 そこへタイヤが鳴るような音がした。
 キュルキュルキュルーーー?
 三人は辺りを見まわして警戒態勢を取る。
 交差点の信号が赤に変わったので、こちら側の車両三台は横断歩道前で停車した。
 当然交差する側の道路は青になって車が流れ始める。
 その寸隙(すんげき)を突いて、いきなり銀行建物の角から、黒い外車が、スキール音を立てて、ドリフトしながら交差点に現れた。
 動き始めた直進車の鼻面を掠めるようにしてまわり込んで来ると、対向車線から歩道上の三人めがけて銃弾を浴びせかけた。
 スモークガラスからマズルフラッシュが緑色に瞬く。
 その火線は的確に竜平に向かって集まった。
 本庄の巨体が横っ飛びに飛び、小雪の小さな体が飛んだ。
 だが本庄の素早い反応より、遅れた始動の小雪のほうが体が軽い分早かった。
 パシッ、パシッという被弾の音を立てて小雪の体は竜平に抱きとめられた。
 二人は後ろ向きに倒れる。
「ーー若!」
 本庄が二人の上に覆い被さる。
 カマロは対向車線にまではみ出し蛇行しながらタイヤを軋ませて走り去った。
 ブレーキ音やクラクションや怒鳴り声を残してーー。

「ーー誰か! 救急車を! 誰か、救急車を呼んでください!」
 竜平は血に染まった小雪の小さな体を抱えてヨロヨロ歩きまわった。
 本庄英志も左太腿に被弾していた。そこを押さえてびっこを引きながら竜平の後を追う。
「若、大丈夫ですか?」
 車や人が集まり始めた。大変な騒ぎになった。
「小雪、ああ、小雪……」
 戒名まで差別された一族の娘は生まれた時からこういう運命を背負わされていたというのか。
 竜平の頭の中に、ふいに叔母の民子の遺書の一節が浮かんだ。叔母の民子も小雪と同じ年頃だった。

 “どうか、民子の屍を踏み越えて、不条理と戦ってください”

「バカな……バカげている……」
 ブツブツつぶやきながら竜平は夢遊病者のように小雪を抱いて歩いた。暖かい血が肌に伝わって来た。
 やがて救急車が到着し、小雪と本庄を乗せて、竜平も同乗して病院に向かった。
 パトカーが先導して走った。

 救急車の中、応急処置を終えて横たわった小雪の閉じられた目蓋から、涙がにじみ出て流れ落ちた。
 握った竜平の手に微かに力がこもった。
「ーー小雪!」
「……りゅぅ……」
 だがまた小雪の手から力が抜けた。
「――小雪! ――小雪!」
「大丈夫です、また気を失っただけです」検脈しながら職員がいう。
「血液型、ご存知ですか?」
「B型だ」本庄英志がすぐに答えた。
 どうして知ってるのだろうと竜平は思う。こういう事態に備えて、一家の者の血液型を知らない若頭ではない。
 竜平はA型だった。
「俺もB型、俺のを使ってくれ」自分自身が大量出血している本庄がいう。
 やがて救急車は救急病院の門をくぐって入った。
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