挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ダークマター 作者:なしか 空
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

84/250

前に続く

「……早速尾行がついたようだな」竜平は小雪を抱いたままつぶやいた。
「えっ? マジですか」
「見るな。後ろの植え込みだ。このまま知らん顔でいろよ。いいか、小雪」ささやくようにいう。「これからせいので、ふた手に分かれて走るぞ」
「それでどうするんですか?」
「山谷の宿で落ち合おう」
「でもう……」
「二人一緒より、そのほうが捲きやすい。相手が股裂きになってあわてているうちに」
「でもきっと若様のほうを追いかけますよ」
「そのほうが返っていい。女の脚じゃ逃げ切れんかも知れん」
「でもう……」
「だが油断するな。相手は一人じゃないかも知れない。人混みの中を選んで走るんだ。完全に捲いてしまうまで走るんだぞ」
「でもう……」
「携帯で連絡を取り合えばいい。ーー心配ないって! ぼくは走るのは速いんだ」
「ウチだって学年で一番だった」
「そうか。それなら心配ない。本庄の携帯は肌身離すなよ」
「わかりました」
「よし。じゃあ、行くぞ!」
 ーーいち・にの・さん!
 で二人は走り出した。最初は同じ方角だったけど、公園を出るとふた手に分かれた。
 植え込みの中から姿を現した連中も、二人が竜平の後を追い、一人が小雪の後を追った。

    Ⅹ 

 (てい)は杉並の戸髙組に寄った帰りに思わぬ所で獲物と出会った。灯台元暗しとはよくいったものだ。さるお方のお膝元にいたとは思いも寄らぬことであった。
 それをすんでのところで取り逃がしてしまったけど、それはそれでよかった。無粋な連中に捕まっておれば、元も子もないことになっていたかも知れない。
 獲物は一匹ずつ、群れに気付かれないように、密かに片付けていくものだ。
 キャバクラの女を苛性ソーダーで痛めつけて、獲物の情報を仕入れた。
 苛性ソーダーの小さな破片一つを、女の手の甲に乗せると、(ぬぐ)っても拭っても、ぬるぬるするだけで、どんどん皮膚に浸透してゆく。氷の上に焼けた鉄片を置いたようなものだ。
 ――キャッ! 
 ――何これ!
 女は悲鳴を上げて必死で拭い、助けてと懇願した。
 そして知ってることを洗いざらい喋った。
 表情の乏しい平べったい顔に、細い鼻ヒゲを生やした逓は、女の手を水道の水で洗い流してやってから、いった。
 ーー命が惜しかったら、このことは忘れろ。
 無用な殺生はしない主義だった。命乞いする者を殺したことはない。
 だが、得られた情報からたどっても、獲物の交友関係は同じ水商売の女ばかりで、手掛かりは何も得られなかった。父親は硬派だったというが、あきれた女たらしだ。交際していた白木の娘とも久しく接触はないようだった。
 どこに潜伏しているのか、探す当てをなくして、歌舞伎町のカフェでコーヒーを飲んでいると、懐で携帯の着信音がした。スタイリスティックの『愛がすべて』だ。
「オレだ」「……そうか」の間に三分の間があった。
 やれやれーーという風に逓は首を振って、コーヒーを飲み干した。
「女たらしのくせに、何て大胆なヤツだ」とつぶやいて、席を立った。

    Ⅹ

 竜平は新橋駅の中を逃げまわり、階段を駆け下りたり、エスカレーターを駆け上がったり、また階段を駆け下りたりして、地下二階の銀座線に飛び乗って、難を逃れた。こういう時スイカは便利だ(ハリウッド映画ではどうだったか?)。
 そうなると、駅とは反対方向に逃げた小雪のことが心配になった。
 ビルの中にでも逃げ込んで、行き止まりになったら……。
 携帯で電話してみる。
 コール音はするけど、出ない。まだ逃げまわっているのだろうか……。

    Ⅹ

 逓が歌舞伎町からタクシーを飛ばしていると、また『愛がすべて』の着信音ーー。
「オレだ」「そうか」今度は一分も間がなかった。
「……やれやれ、また別のスケといやがったか」とつぶやいた。
「えっ? 何か?」運ちゃんが返事をした。「何かいわれましたか?」
「なあに、可愛い子ちゃんが、可愛がって~て、真昼間からいって来てるのよ」
「ははは。それはそれはーー」

    Ⅹ

 竜平は胸騒ぎがしてならなかった。一緒に逃げたほうがよかったかなと後悔する。
 そして自分はヤクザの親分には向いてないなと思う。本庄のいう通りだ。
 電車は渋谷に向かって走っているのだった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ