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前に続く

前回の高級時計の名前を誤っておりました。
ピアジュではなくピアジェです。
    Ⅹ

 竜平とすれ違った長身の男は、ビルを出てから携帯電話のディスプレーを見ていた。
 そこには竜平の全身像が映し出されていた。
 男は大股で歩いて道路を渡り、ちょうど竜平がタクシーから降りた辺りまで来て、ビルを振り返り、六階の明かりが灯っている窓を見上げた。
 そして、携帯電話を耳に押し当てた。
 コール音がして、相手が出ると、「とんだ紐付きだな」といった。
 それから二言三言話してから携帯をカチャリと閉じた。

    Ⅹ

 竜平に迷いが生じた。
 ここは蛇覇那記者の意見を聞いてみょうと思った。
 そう思って階段のほうへ行き、エレベーターの乗降客が見える位置から、蛇覇那記者に電話した。
 記者はすぐに出て、「落ち着き先は決まったかね」と、のん気な声でいった。
 竜平は今までのあらましを手短に語った。
 いや、語り終わらないうちに、蛇覇那記者のだみ声が耳を打った。

「ガッテム! 今すぐそこから退去しなさい!」
 びっくりして竜平は辺りを見まわした。
「いいかね、そこは丸ごと連中の巣窟だ。君は今、最もデンジャラスな所にいる。ボディーーガードも一緒かね?」
「いえ、本庄とは連絡が取れなくてーー」
「オーマイガー! 今すぐそこから立ち去るんだ! ーーいいね!」
「わかりました」
 竜平はあわてて逃げ出そうとした。
 だが、その前にエレベーターが開いて、数人の男たちが飛び出して来た。
 とっさに竜平は階段に隠れ、あとずさりに階段を上がって、二階に逃げた。
 二階には金融会社と法律事務所と会計事務所とが入っている筈だった。手前の金融会社はパス。法律事務所に逃げ込むのが一番安全だと思った。
 といっても、追いかけられて来たワケではないから、ここは冷静に、クライアントを装って入り、時間稼ぎをしょうと思う。
 『根本法律事務所』という厚い杉板の表札があるドアの黒いプッシュホンを押した。中から「どうぞ」という声がした。
 入って正面に受付があり、女性事務員が応対に出ていた。
「ご相談ですか?」
「はい。アポなしで申し訳ありませんが……」
「ちょうどよかったです。先生がいらっしゃる時で。どうぞ」と中年のメガネを掛けた事務員は、衝立で仕切られた応接室に竜平を案内した。
「お掛けになってお待ちください」
 事務員が去って五分は待たされてから、弁護士が現れた。
「お待たせしました」
 テーブルを挟んでどっかりと腰を下ろした弁護士は、竜平の前に、根本一郎という名前の名刺を置いた。
 根本弁護士は、テカテカの黒々とした髪を、オールバックに撫で付け、広い額の下に横長の小さな銀縁メガネを掛けて、サメの皮に似た〈シャースキン〉スーツの襟からは青いシャツを覗かせていた。
 両手指には色取り取りの大きな石の指輪を嵌め、何と、左腕にはピアジェポセションの腕時計をしていた。
 竜平は知りもしなかったけど、彼こそ闇の守護神といわれる、知る人ぞ知る弁護士であったのだ。闇社会のみならず、政財官界の主だった連中の顧問弁護士でもあった。彼のところへ持ち込まれた案件は、その幅広い人脈を駆使して、きっと起訴前に示談で解決され、裁判に至ることはなかった。
 バブル期に東京都を席巻した不動産王の三宮グループを、整理回収機構から守ったのも、彼であった。
 そんなところへアポもなしにのこのこやって来る者などいない。またアポがあればあったで相手にもされなかっただろう。
 根本弁護士は、横長の小さな銀縁メガネの奥から光る目で、竜平を見据えた。
 竜平の頭の中は、どういう相談にしょうかで高速回転しており、時折その回転が止まって、“どうしてこの弁護士はお仙にもらったのと同じ時計を嵌めているのだろう”という考えが()ぎった。 

 
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