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ダークマター 作者:なしか 空
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前に続く

 竜平は六階建ての三宮ビル前まで来て、どうしようか迷った。ビルの中に入ってお仙と鉢合わせなんてことは避けたい。でも、中に入らなければ二人の行き先を調べることはできない。
 こうまであのダークスーツの男に拘泥するのは、どこかで聞いたことのある、あの声の調子だった。もしあの男と自分に接点があるのなら……切れ切れに聞こえて来たお仙との会話によれば、男は占いに来たのではなく、誰かの使いのようだった。転換社債のことも話していたから、あの男が誰の使いなのか是非とも知りたい。
 見上げると、雑居ビルならではの様々な業種の看板があった。各階ごとにテナント名が入った、縦長の看板が、ビルの側壁に取り付けてあり、それによると、一階は、喫茶、レストランなど飲食関係の店が占めていて、二階は法律事務所と会計事務所と金融会社が分け合い、三階は業種の分からない会社が何社か、四階も同じ、五階は、大半を占める不動産会社と、建設会社が二分していた。
 竜平の目はそこで止まった。西日を受けた不動産会社の窓には白いペンキで『丸徳不動産』という会社名が大書されていた。阿佐ヶ谷営業所という文字がその下にあった。建設会社の窓には遮光カーテンが引かれてあり、看板によると『不動建設株式会社』という社名になっていた。
 六階にはテナントが入っていないのか看板に表記はなかった。しかし蛍光灯が点いている箇所はあった。
 コンクリート打ち放しのビルは、全体的に色褪せて、錆びれている。屋上には『三宮ビル』という大きな三面の看板塔がそそり立っているのだが、この鉄骨も錆だらけだった。都内随所で見受けられるお馴染みの看板塔のビルである。
 竜平は五階に目をつけ、意を決して、出たとこ勝負で乗り込むことにした。そういう決断は早い。決断すると大胆である。ドイツの諺のように“始めなければ終わりはない”主義である。
 そんな彼が飛行機やゼットコースターを怖がるのだからおかしなものである。遊園地の像の背中にも乗れなくて妹にバカにされた。「キビショ(小さいヤカン)ば提げてからに、情けなか」と博多の伯母によくいわれた。

 玄関フロアーで、ダークスーツの長身の男とすれ違った。一瞬竜平は身を硬くしたけど、タクシーに乗り込もうとしていた男とは趣きが明らかに違ていた。向こうは肥満系のように見えた。
 しかしその長身の男からは、すれ違いざまに風圧を感じた。只者でないものを感じたのだ。目が合わないように、前を向いたまま、すれ違う際は軽く頭を下げたので、相手の顔は見てないけど、その足の運びは父親を彷彿させるものがあった。
 その男も意識して竜平を見た気配はないーーけど、視野の端に映った竜平に何かを感じたのか「おや?」という風に振り返った気配を、竜平は背中に感じた。
 現に大またで歩いていた靴音にワンテンポの乱れがあった。が、立ち止まったわけではなく、そのまま歩き去った。
 竜平は大きく息をした。
 やはりこのビルには何かある。獣の棲みかのニオイがする。
 エレベーターホールまで来た時、突如蘇った。お仙と連れ立っていた男は、新宿の飲み屋街で襲われた時の三人組、その中のデブのほうだった。イントネーションに独特のナマリがあった。
 あいつらはヤクザではなかった。地回りでもない者がどうして? という疑問はまだ解けてなかった。これは偶然なのか?
 竜平はエレベーターの「5」の数字を睨みつけた。
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