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十四 イソ弁・井川拓馬

 翌週から光子は井川拓馬と行動を共にすることになった。
 ボス弁は係争中の民事案件の申し送りを済ませると、早々に名古屋に出張してしまったのだ。残された日にちを考えるとぼやぼやしてはいられない。
 ――いつもやきもきさせられて、損な役回り、ばっかり!
 と、光子は朝からご機嫌斜めであった。そのせいばかりでもなく、家から出がけに母親とひと悶着あったのである。来年の成人式に何を着て出席するか、着物にするか洋服にするかというバカバカしいことで。
「どしたんです? えらい機嫌悪そうですね。アメちゃん食べますか?」といって井川が助手席からアメを差し出した。「いらいらした時にはこれが一番ですねん。黒砂糖アメですけど」
 事務所で事件の仔細を説明した後、これからどうするかを協議した結果、井川の発案で、死亡した守山孝明の人物像を掘り下げてみようということになって、彼の家の周辺の聞き込みに向かっているのである。
 井川は勢家町の春日神社の裏手にアパートに見つけてーー実際は根岸ともみが前もって探しておいたものだったーー日曜日に光子らも動員されて引越をすませている。男の独り身、驚くほど荷物は少なかった。、軽トラ一台で運ばれて来ていた。
「ありがとう」
 光子はアメを受け取って、口に放り込んだ。
「ね? 黒砂糖の甘さはひと味違いますやろう? 学生時代にあっちこち放浪して歩いて、沖縄でサトウキビ畑も見たんやけど、ざわわ、ざわわ――って歌、ありますやろ。人間の愚かな営みなんかに関係なく、太古の昔から、風は吹いてんねんやなあって気いしましたわ」 
 初めて見た時は目がつり上がっていて、やはり司法試験に合格するような頭のよい人は顔つきからして違うなあーーと思ったけど、あれは緊張して精一杯目を見開いていたからだった。今は眠たそうにマツゲだけの線になっている。
「井川さんって、弁護士会の事務局長さんとどういう関係なんですか?」
「何も関係あらしません」
「え、でも? じゃあ、どうしてうちの事務所に来るようになったの?」
「ああ、それは、県の弁護士会に登録したい旨伝えた時、事務局長の黒田氏が、根岸ともみ事務所から若手の弁護士の募集が出ているけど、どう? といわはるから」
「え? 募集が?」
「だいぶ以前から出てたみたいでっせ」
 そんなにあたしはあてにされてないのだろうかと、光子は思った。それとも自分がもっと自由に出歩く時間が欲しかったのか。そんなに仕事が多くあるわけでもないのに〈きっとそうだよ〉。
「ぼくとしては地元の中津の方がよかったんですけどね」
 光子はアメ玉をガリガリと噛み砕いた。
「あっ、光子ちゃん! 噛んだらあきませんがな。アメは口の中で転がすように舐めるもんでっせ。噛んだらいちどきになくなってしまいますう。学生時代のぼくなんか、アメ玉一つで、一日空腹を紛らわせたもんでっせ」
(ほっといてよ!)と光子は乱暴にアクセルを踏み込んだ。
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