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ダークマター 作者:なしか 空
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前に続く

 蛇覇那記者だ。
 蛇覇那記者は今度は双眼鏡ではなく、同じく首に()げた一眼レフカメラを東の空に向けた。

 蛇覇那記者はあれからーー竜平救出に出向いて(てい)真部(かくべ)につかまり、首吊りの拷問を受けているところを、根岸ともみ弁護士に助けられたーー頚椎(けいつい)を痛めて長いこと入院していた。
 第一と第二頚椎を傷め、その(あいだ)の環軸関節も損傷しているので、今でも首には南方の首長族のような頚椎コルセットを嵌めている。
 従って首は自在にまわらない。体ごと相手に向けないことには、顔は正面を向かないのである。その際勿論片方の義眼も米神を叩いたり(あご)を突き上げたりして正面を向くようにしなければならない。面倒がひとつ増えていた。
 灰白のツバ広帽を目深に被り、灰白のサファリールックに、草色のリュックを背負い、スネークウッドの杖をついた姿で、十二時ごろやってきて、それからケンタッキーでフライドチキンを食べ、コーヒーを飲んで過ごし、頃合いやよしとばかりに午後一時過ぎに、カチャカチャ音を立てながら、だぶだぶのズボンの裾をはためかせて、毛蟹(けがに)()うように観覧車の所までやってきたのである。
 観覧車は不景気の折でもあり普段はガラガラ、今時観覧車に乗って大分市街や、別府湾の景色を〈夜景は特に素晴らしい〉眺めようなんていう、家族連れもカップルもほとんどいないのであるが、今日はドームに入りきれない家族連れやカップルで賑わっていた。臨場感を味わおうとして、想像以上の長蛇の列をなしていた。
 といっても、谷を隔てた向こうの、全開したドームの中が見られるわけではない。歓声や音楽が聞こえるだけである。それでも開会式の模様は感じ取られる。
 子供が多いから神経を使う。まめに米神を叩いたり、顎を突き上げたりして、目玉の向きを揃えておかないと、怖がられてしまう。それでなくても、左右アンバランスな耳や、銃弾がめり込んだ顔は充分に不気味で、小さな子供は怯えて親にしがみつく〈さっきもーーケンタッキーの中でもそうだった〉。
 これでも昔は、サンダース軍曹のように男前といわれ、女によくもてたものだ。正義の代償は高くつく。その点少しは親父の国、アメリカを尊敬するようになった。
 蛇覇那記者は、長蛇の列に業を煮やし、腕にマスコミの腕章を巻いて、わざとらしくバシバシ写真を撮ってから係員と交渉した〈紙幣を握らせさえして〉。係員は特別に割り込ませてくれた。
 ーードームできっと何かが起きる。
 だが、天皇皇后両陛下がご入場遊ばされて、十三時五十一分に始まった開会式は、何事もなくスムースに運んだ。
 大会旗が入場し、式典音楽隊の演奏とともに、役員・選手団の入場、開会宣言がなされ、場内全員が起立して、天皇皇后両陛下のもと、国旗儀礼がなされた。
 それから大会旗・日本体育会旗・競技団体旗・大分県旗・都道府県旗・会場地市町村旗儀礼もすんで、大会会長のあいさつ、文部科学大臣のあいさつ、歓迎のおことばなどが続いた。
 そして、天皇陛下のお言葉を賜り、厳粛な儀式は何事もなく終わった。

 その時であった、「タコだあ~!」
 という声を聞いて、蛇覇那記者は、下の席の幼児が指差すほうを見た。西日とは反対方向だから、東の空だ。
「何あれ?」と母親も連れ合いに声をかけている。「パラグライダーだろう?」
 確かにそのようだ。蛇覇那記者は首に提げた双眼鏡で見た。山の稜線の上空にぽつんと落下傘のようなブルーの翼と、その下に人影が見える。
「あれよう」だが母親はそれより下のほうを指す。「どれ?」
 蛇覇那もその方向に双眼鏡の視線を落とした。幼児はそっちを指差していたのだ。
 ーー何と!
 そこには、グリーングレーの山波をバックに、無数のカイト〈洋凧〉がーーいや、三角形の翼をしたハンググライダーだーー送電線の鉄塔が見える山の(いただき)から、色取り取りのハンググライダーが、続々と飛び立っているではないか。
 背景が山だから一見目立たなかったのであるがーーそこが九六位(くろくい)山キャンプ場であることを彼は知らないーーまるでそれは紙吹雪きを飛ばしているかのようであった。
 空高くから、それをエンジン付き〈と思われる〉パラグライダーが見守っているーーといった場景だった。
(ーーそうか! その手があったか!) 
 ーーこれは大変なことになるぞ!
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