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ダークマター 作者:なしか 空
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177/250

前に続く

    ㈢ 

 翌日、光子は十二時十五分発のJAL1787便で大分に向かった。
 それだと十三時五十分に大分空港着になり、ちょうど国体の開会式が始まる頃になるが、病院で点滴治療を受けてからだから、そういう便になってしまったのだ。
 空港からはホーバーフェリーで〈今現在はもう廃業している〉約三十分かかって大分市西新地のホーバー基地に着いた。大分川の河口沿いの、かつて空港があった所である。1964年2月に富士航空機が着陸に失敗して、大分川の河川敷に墜落した事故があり、それをきっかけにして、空港は別府湾を挟んだ対岸の杵築市(きつきし)に移転になったのだと聞いている。、
 待合室の窓に懐かしい顔が待っていた。色白でウサギ目の濃い顔、ドモリのタツである。海上から水煙を上げてスロープに這い上ったホーバーは、カニのように立ち上がって(うな)っていたのが脚を畳んで、乗客が降り始める。
 タツオが改札口で待ちきれない様子で体を乗り出している。菜っ葉服姿である。
 光子は鉄無地のスーツから白いカッターシャツの襟をのぞかせたいつものノーネクタイスタイル。美容院で髪を短めにカットして七三に分けーー頭の傷はうまく隠しているーーサングラスをかけているから、それでなくても長身でスタイルがよいから目立つのに、一際目立った。公安警察官がこんなに目立っては命がいくつあっても足りないのであるが。
 人々は盗み見るように光子を見ては、こそこそ私語を交わして改札口を出て来る。改札口で待ち構えている人々とて同じ面持ちで光子を見た。「女だよねえ」「芸能人みたい、女優の誰かに似てない?」「カッコイイ!」というささやきも聞こえる。
 光子が改札口から出て来ると、タツオは手荷物を奪い取り、()き込んでいう。
「ひ、ヒメ、わ若が、うう若がーー」
 遠くから思う分にはまんざらでもない男だが、切実な濃い顔が間近に迫ると引いてしまう。付きまとって鬱陶(うっとう)しい、いつものタツオである。
 感慨に(ひた)(ひま)もなく光子は、「タツ急いで!」と()かせた。
 村上タツオは玄関前に停めてあるバンに光子を乗り込ませた。後部座席から後ろは縁日で売るバッタもんで溢れかえっていたから、助手席に。手荷物は後部ドアを開けて押し込んだ。
 そこから開会式がある九石ドーム〈以前はビックアイと呼ばれ、現在は大銀ドームと呼ばれる〉までは普通で三十分はかかる。混雑が予想されるから時間に余裕はない。
「間に合うかな」
「だ、大丈夫です、まま間に合わせます。ばばバッテン、ヒメ、何んだか、べ別人のごたる、り、立派になられて」タツオは涙声でいう。
 修羅場を潜って来た光子であるーー初めて人を撃ち殺した光子であるーー久し振りに会うタツオには明らかに以前の光子ではなかった。
 だが、大怪我を負っていることまでは思いもよらない。汗ばんで光っている額と、唇を引き結んでいる引き締まった頬は、もはやふっくらした少女の頬ではない、以前にも増して凛々しく、そして色っぽい大人の女にタツオには見えた。
 聞きたいこと、話たいことは、山ほどあるタツオだけど、うううと唸るだけで、言葉が出て来ない。光子も何かに心をとらわれているようで、じっと前を向いたままである。
 タツオは産業道路〈通称四十メーター道路〉を日岡(ひおか)まで来て、歩道橋がある日岡の交差点を右折した。
 そこを左折すると、新日鉄の東門にぶち当たり、すぐ傍に貨物船が接岸する製品バースがある、その乙津泊地に、刑務官の最上七男と、国宗八州の運転手兼ボディーガードの西塔万里が、仲良くゴミ袋に入れられたバラバラ遺体で浮いていたのだ。光子はちらりとその方向を見た。
 日岡の交差点を右折すると後はもう九石ドームまで一直線である。案の定、仲西陸橋辺りからドームに近付くに連れ、車の量が多くなり、信号待ちの列が長くなった。イライラするほど前に進まなくなった。

 その間、九石ドーム周辺では大変なことが起きていた。
 その様子を近くの商業施設の巨大な観覧車の上から双眼鏡で見ている男がいた。
 双眼鏡を外して、天井が開いてにぎやかな音がしているドームのほうに目をやると、その男の片方の目は他所を向いていた。

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