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前に続く

前回は描写が荒くなったので加筆訂正しました。
 光子は菅沼のそういう切実な思いをなんとなく感じ取った。後で後悔したけど、今はどうすることもできない。
「菅沼の逮捕はいつになりますか?」
 菅沼が出て行ってから光子が安東警部に訊いた。菅沼は厳重な警護のもとに自宅マンションまで送り届けられるのだ。
「そうだね」頬骨が出て顎の尖った顔の安藤警部は、調書を手に掲げ、「おかげで、明日にでもーーいやもう今日かーー彼のマンションを任意でガサ入れし、裏を取ったら、いつでも逮捕はできる。だけどーー」
「だけどーー?」本母警部が聞き咎めた。「だけど何んだ?」
「上が妙に慎重なんですよ。相手が相手ですからねえ。多分検察サイドの意向もあるんじゃないのかな?」
「おいおい、もうから腰が引けてるのか。グズグズしてたら連中に証拠隠滅の機会を与えてちまう。一気にやらねえと。下手すりゃあ、いつもの調子で、大山鳴動、菅沼一匹てなことになりかねん」
「何しろ相手は雨宮廷臣と国宗八州ですからねえ、じっくり内偵してからかからないと、というのが上の考えなんですよ」
「バカいえ! そんなこたあ、検察が考えることだ。どうせすぐに召し上げられちまうんだから。俺らのすることは、この機会に、国宗事務所と雨宮事務所にガサ入れすることだ。証拠があろうがなかろうが。何、怖気(おじけ)てやがるんだ。グズグズしてると立件もできずに潰されちまう。お前んとこがやらねえんなら、俺んとこでやるぞ!」
「ははは。相変わらず無茶な人だ」安藤警部は毒気に当てられて鼻白(はなじろ)んだ。外したメガネを見つめている光子に目をやり、つぶやいた。「……まだ若いんだな」
 光子はメガネもスーツの内ボケットに入れて、「担当検事はもう決まっているんですか?」と安藤警部に(たず)ねた。
 安藤警部もしみじみ光子の顔を見てから、「決まってるもなにも、この事件は地検特捜部が扱うことになるわけだから、特捜部検事ということになる。誰が主任になるか知らんが。今、実務の指導を受けているのは新顔の検事さんだ。最近名古屋地検から召集された検事で、本母警部さんとは少なからぬ縁があるらしい」
「あらいでか」といって本母警部は光子に片目を(つむ)って見せた。「大ありのコンコンチキだ。あの野郎にひと言、物申さねばならん!」
「自分の知ってる人?」光子は二人の顔を交互に見て訊く。
小堀(こぼり)検事だ」二人ともほぼ同時に答えた。「コボリボリボリイボリボリーー何かそんなタレントがいたな、名古屋に」
「えっ? あの小堀検事?」
 顎が尖ったネズミのような先細りの検事の顔が浮かんだ。チタンフレームのメガネがよく似合っていた。安藤警部と同じく体はコンパクトサイズだが、向こうは細身でスタイルはよかった。年齢は二人とも三十代後半といったところか。
 小堀検事とは最上七男失踪バラバラ事件の捜査本部で初めて会った。愛知県警津島署で開かれた合同捜査会議には、光子は県警本部の高城警視に随行、そして大分地検の東浜検事も一緒に参加した。警視庁からは本母警部も来ていて、小堀検事が父と民子叔母とが関係した名古屋事件の、担当検事だったことを知らされた。
 その時は挨拶程度の会話を交わしただけだったけど、光子はそのまま警視庁へ出向になり、東浜検事と小堀検事もこっちに出張で来たので、一度だけ赤坂ホテルのラウンジで、本母警部を交えて四人で飲んだことがある。
「そんなこと何もいってなかったじゃん」
「やつはエリート中のエリートだからな。いずれ東京地検に戻ることにはなっていたんだ。特捜部に呼ばれたということは、特捜部長から検事総長へのエリートコースを歩むんだろうが、保身に走りやがったらただじゃおかねえ」
 その小堀検事は(しき)りに、城島先輩は特捜部長から検事総長への王道を歩んでいたのにーーと、悔しそうにいった。その彼が、父と叔母の罪を暴き立てたのだ。不思議と憎しみは湧かなかった。父と叔母が根岸弁護士の双子の弟、青山(あおやま)(てつ)(おみ)を殺害したことは間違いないのだから、正当防衛とはいへ。
 光子は名古屋出張の時にもうひとりいたことを思い出した。臼杵署の佐藤めぐみという同い年の刑事。黒人と白人のハーフの父親と日本人の間に生まれたクオーターで、両親に捨てられた可哀想な子だった。ゴムのような浅黒い肌をした可愛い子だった。根岸一味に拉致されていたけど、ついこの間、目撃者の少年に次いで、無事救出されている。
 無性に懐かしく声を聞きたくなった。官舎に帰ったら彼女の実家に電話してみようと思った。名古屋のホテルではクスリの飲み忘れから、テンカンのひきつけを起こして、彼女の介抱を受けた。さぞかしびっくりしたことだろう。口から泡を吹いて昏倒、白目を剥いて痙攣を起した無様な姿を見られたこともあって、友達のような親近感を抱いている、向こうはどうだか知らないけど。国体の開会式を控えた大分の状況も知りたい。
 そんなことを考えていると、本母警部に背中を叩かれて官舎まで送ろうといわれた。
「その前にどっつかでラーメンでも食おう。ろくに夕飯も食ってないからな」
「晩酌もしてないし」
「ははは。安藤警部もどうだ?」
「ご遠慮しますよ。夜はしっかり眠ることにしてますんで」
 本母警部の酒癖の悪さには定評がある。誰も彼の酒席には近付かない。何しろ目が合っただけで、俺が鍵っ子で何が悪いーーという、酒癖の悪い俳優のように絡まれるのだ。

 

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