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前に続く

   ㈡ 

 ーー命懸けになるーーってどういうことだ?
 ーーさっきいったじゃない、自分の首を抱えて歩くはめになるって。
 ーーああ、いった。それが?
 ーーその秘密バラす勇気ある?
 ーーそんなこと聞いてどうするんだ?
 ………
 ーーああ、そうか、悪かった、悪かったよ、露骨に金で買い叩くようなこといって。気に障ったのなら許してくれーーぼくは酔ったのかなあ……デリカシーのないことをいってしまった。
 でもぼくの気持ちはーー酔っちゃいない。酔っていってるんじゃないんだ、メグミ。いい歳こいて、抑制が利かないほど、もうほんとに……。
 ーー命懸けであたしを抱く勇気ある?
 ――ああ、爆弾でも何でも、金で買えないなら命懸けで」
 ーーじゃあ、それを示して。
 ーーそれって、転換社債のことかい? あ、いやーー」
 ーー転換社債って、未公開株と同じなんだよね、濡れ手に粟で儲かる、そんな事件が何度もあった。その度に人が死んだ。あなたのような知り過ぎた弱い立場の人間が、何人もーー。
 ――な、何をいってるんだ君は!」
 ――あなた、議員のために死ねる? 事件が明るみになったらあなたが泥を被るんでしょう? 秘書が勝手にやったことだって。でもそれだけでは済まない時はどうするの? 顎で使われている後輩の、議員のために死ねる?

 本母警部は頭を振った。
「何いってるんだ、ぶち壊しじゃないか」

「お前は一体、ーーまさか、お前、そのためにおれに近付いたて来たのか?」
 布団の上に胡坐(あぐら)をかいた菅沼は光子を見上げて睨み付けた。
「ある検事は謀略に嵌まった妹を助けるために、ドロボウまでしたけど、結局破産して、妹も自殺した。あの時もあなたのような秘書官が自殺したよね。検事自身も謀殺され、そうして正義は葬り去られた。秘書って議員のためなら死ねるものなの、見下され、バカ呼ばわれされた議員のために」
 菅沼は握り(こぶし)を膝の上にして、震えている。
 肌蹴(はだけ)た浴衣からギャランドウの見える太鼓腹が出ていた。
「それも焼身自殺だった。あれでみんな口をつぐんでしまった」
「お前……まさか、城島検事の?」

 ーー怖いんだ……。
 ……いつか自分もそうなるんじゃないかと。
 ……だから、悪銭身に付かずで、湯水のようにお金を使って、果たせなかった夢を果たしている……。 
 ……実は議員とも連絡が取れてないんだ……予定の訪問先にも姿を見せてないし、議員だっておれと同じ弱い立場の人間だったし、今でもそうだ。

「大丈夫、あたしが守ってあげる」
 光子は菅沼のところへ行って、両膝をついて菅沼を抱いた。
「そのためにはーー宣言すればいいんだよ、譲り受けた相手の名前を公言するの。そうすれば誰も手出しできなくなる。だって認めることになるから。警察も守ってくれるし、証人保護システムはアメリカほどじゃないけど、人知れずガソリンをかけられて焼き殺されるよりはましでしょう」

 ーーもしかして君は警察官なのか?
 ーー実はそう、ごめんね。
 ーーここで、告白すれば?
 ーー自動的に保護システムが作動することになってる。

「録音の用意はいいな」警部が係官に念を押した。
 係官はそれには答えず「何だろう? このノイズはーー」といった。
 ピーピーガーガー、ノイズはだんだん酷くなった。
「周波数が合ってないんじゃないのか」
「……変ですねえ? そんなはずは」
「これじゃあ、中の様子がわからんじゃないか」
「どこからか、妨害電波が出ているようです」
「何っ! そんなバカな」
「何とかしたまえ!」
 山田警部補も苛立って叫んだ。

   ♤

 赤木智子は榊原光子の後を追って温泉から出た。
 榊原光子が二階の階段に上がってゆくのを見届けてから、携帯に電話した。
「二階です」
 といったところで、携帯を握った腕を捉まれ、後ろ頭に硬いものを感じた。
 そのまま腕を後ろに捻じ曲げられ、壁に押し付けられた。
 首を捻じ曲げて見ると、キャバクラで見かけたことのある遊び人風の男が、ニヤリと笑っていた。

   ♤

 ノイズがだんだん治まって、とぎれとぎれに声が聞こえて来た。

 ーーありーーとう。ーーを信じて。きっとーーるから。
 ――何だか、肩のーーが下りたよ。ーーじま検事のことは気の毒にーーている。
 ーーあなたには責任はない、議員にはあるけど。ーー通りーーでもあたし、まだキスもーーことないし、ーーを知らないから、それでもよかったら、すきにして。
 でも、今夜だけにしてよね。今夜だけーーを愛してあげる。
 ーーああ、こんなーーもう、死んでもいいよ。
 ーーあ……。

 「いかん!」本母警部は一斉モードになっているマイクを取って叫んだ。
「突入だ! 突入しろ!」
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