挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ダークマター 作者:なしか 空
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

142/250

前に続く

 竜平の首に巻きついている小太りを引き剥がすようにして追い払い、光子は竜平の横に腰を下ろした。
 香水の芳香とともに密着して来たものだから竜平はうろたえた。
「あっち行けよ」
「だっておかしいでしょ、ここはそういうとこなんだから。ほら、あいつが見てるし」
 菅沼がこっちを見てシマコに何やら訊いている。
 聞こえはしないけど、シマコは、「あれはホストのサブちゃん、あのイケメンに稼いだお金、全部貢いでるバカな子が結構多いのよね。ああやってお客を盗りに来てるの」といっている。
 嫉妬心を煽るように光子は竜平にしなだれかかって、ビールをグラスに満たして、空瓶を振った。
 すぐにボーイが代わりを持って来る。

 しばらく見ぬうちに光子は幼虫から女に変態していた。
 子供時分には頭一つ背が高く、福岡の叔母に「お前らあべこべになればよかったちゃねえ~」といわれるほど、光子のほうが凛々(りり)しかった。
 とはいえ、暗がりの中の照明のせいで、夜の女は、化粧が()えて何倍も美しく(なまめ)かしく輝いて見えるもの〈ところが昼日中に会うと、小皺や不健康な肌が(あら)わになって、がっかりしてしまう〉。
 夜の世界は、〈酔いも手伝って〉光線による錯覚がもたらす夢の世界なのだ。
 ブラウンのカツラに長い付けマツゲをした光子は見違えるようだった。
 それでも兄の目から見れば、まだまだ無垢な幼さを残している妹が、急に(いと)おしくなって、こんなところで男に(けが)されている光子に、竜平は猛烈な怒りを覚えた。
「お前、何やってるんだ! みっともない格好してーー」
「ちょっと、声が大きい」
 光子はあたりを(はばか)った。
「何の真似だ、あいつが何者か知ってるのか?」
「兄ちゃんこそ知ってるの?」
「当たり前だ。篠原耕太議員の私設秘書の菅沼卓司。西塔(さいとう)万里(ばんり)国宗(くにむね)八州(やしま)と繋がり、さらにアメリカ大使館のダニエル・中西公使とも当然繋がっているはずだ。
 ああ見えても、とても危険な人物なんだぞ。
 そんな危険極まりない人物に、警察官になったばかりのお前がーー警視庁に出向になったんだって?――小雪から聞いたよ。(おとり)捜査なのか? ダニエル・中西の行方を追ってるのか? やつは何者かに拉致されたに違いない。全く姿が見られなくなった。
 でもそれと篠原耕太の私設秘書の菅沼とどういう関係があるんだ? 西塔万里の姿も見えない。篠原耕太はヨーロッパに出掛けてるようだけど」
 竜平はまだ大分のバラバラ遺体の一人が西塔万里であることや、篠原耕太議員が実は出国していないことも知らない。
 元刑務官の最上(もがみ)七男(ななお)については公開されたばかりだ。ほかはまだ伏せられている。
「一体どうなってるんだ? 目の前でダニエル・中西も最上七男も消えた。と思ったら最上の遺体が大分でーーもしかしてほかの連中もそうなのか?」
「ということはお兄ちゃん! 最上も!」
「ああ、ダニエルを取り逃がしたから、最上をーーと思って名古屋に行ったら、一足違いだった」
「止めて! そんなことしても(なん)にもならない。ママが悲しむだけ。警察に任せて。あたしが何とかするからーー」
「声が大きい」
 今度は竜平が注意した。
「警察に何ができる。きっとお前は力を結集するシンボルに利用されているだけだ。だが、所詮警察は一次捜査機関、立件できても、二次捜査機関の検察に召し上げられてしまう。そして政治力で潰される。親父が手がけた事件がそうだった」
「お願いだから、邪魔しないで。それより、根岸先生を止めて!」
「根岸先生? やっぱり根岸先生が関与しているのか? いや、根岸先生一人でできる仕事じゃないーー最上はともかく、ダニエルを拉致したのは複数のーー女もいたけど根岸先生じゃなかった。
 別の勢力だ。アメリカ大使館の様子がおかしい。近頃屈強な黒人と白人のコンビが頻りに出入りしている。
 そうか、それで公安のお前らが動いてるのか。
 確かに最上七男に関しては、おれも根岸先生らしき人物の目撃情報を得ている。
 根岸先生には窮地を救われたけど、それはお前の差し金だったんだろう? お前のいうことなら聞くかも知れないけど、おれのゆうことなんか聞くもんか」
「根岸先生と連絡が取れないのよ」
「こっちだって同じだ。それにしても、菅沼に取り入っているのはどういうわけだ? あいつの周りは危険人物ばかりだけど、あいつ自身はただのエロ親父だぞ」
「じゃあ、兄ちゃんはどうして張り付いているのさ?」
「西塔万里と接触するのを待ってるんだ」
 西塔はもう死んでいると知らせてやりたいけど、それはできない。いずれ公開されるだろうけど、今はいえない。
 ましてや、菅沼卓司がCB〈転換社債〉事件の蟻の一穴ともなるターゲットであることなど、捜査情報を漏らすわけにはいかない。
「とにかく、何とかして根岸先生を止めなきゃ。先生にはそんなことする義理はないんだもん」
「そうだよな。血を流すべきはおれたちだ。しかし、ダニエルを拉致したのが根岸先生だとすると……信じられんな。大分のバラバラ遺体遺棄事件といい、大勢が係わっている」
「とにかく、お兄ちゃんは根岸先生を探し出して。これ以上罪を重ねないよう説得して。もう何もかも手遅れなんだ」
「手遅れ?」
「もう、行かなきゃ、次のお客が待ってるから」
「おい光子、手遅れってどういうことだ?」
「ホストクラブの名刺持ってるでしょう」
「ああ、持ってるけど」
「それ、ちょうだい」
「指名してくれるのか?」
「バカ!」
 竜平は名刺を取り出して光子に渡した。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ