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その五 竜の怒り

前回を少し改定・補足しました。
 翌朝早くからテレビニュースは、東京湾で女の変死体が発見されたことを繰り返し報道していた。
 寝惚け顔で居間に現れた者から順に、そのニュースを目にしたけど、興味を持ったのは男衆の中で三番目に起きて来た本庄英志だけだった。
 雉牟田兄弟は飯台に脚を突っ込んで横になったまま、迎え酒をチビチビやりながら、昨日の自慢話をし合っていた。
 本庄は台所の小雪を呼んだ。
「小雪!」
 小雪はエプロンで手を拭きながら居間に顔を出した。
「何ん?」
 トキが一番鳥で二番鳥の小雪が目覚めたのは六時だった。
 テレビをつけると、そのニュースが目に飛び込んで来たけど、そのまま台所でトキの手伝いしていたのである。
「若を起こしてくれ」
「何してな、ゆっくり寝かせてあげてよ、あげな酷い目に遭って、疲れているんだから」
「いいから起こして来い!」
 本庄の剣幕に小雪は口を尖らせて、竜平が寝ている二階に向かった。

 竜平は正体なく寝入っていた。
 まだ自白用に(もち)いられた麻酔薬の影響が残っているのか、声をかけたぐらいでは目覚めなかった。恥じらいながら布団の上から揺すってみるが、寝返りを打っただけ。
 拷問された傷痕が生々しく、首に幾重も擦れた赤い痕があり、顔には無残な青タンや浮腫(むく)みがあった。
 小雪は思わず布団の上からそっと抱きついた。
 昨夜は二人きりでゆっくり話す機会もなく、竜平は根岸弁護士にばかり気を取られていた。何度も連絡を取ろうとしていた。
 あの先生に助けられたのだから仕方ないけど、何も告げずにいなくなるなんて、あまりにもカッコ良過ぎる。
「何してるんだ? お前ーー」
 振り返ると若頭が立っていた。

 ニュース映像を観て竜平は蒼白になって棒立ちした。
 人相風体から変死体の主が占い師お仙であることは間違いない。

 ーーなお、外傷はなく、警察は事件・事故の両面から捜査しております。

 女性アナウンサーはそういって次のニュースに移った。
 竜平と本庄英志は強張った顔を見合わせた。
 その尋常でない様子の二人を、小雪と雉牟田兄弟が不審な目で見る。
「知ってる(ひと)なのか? 英志」次男が聞いた。
「ああ、若が会いに行った占い師の女ばい」
「何や! それじゃあ、死後一日二日ちゅうけんが、鄭のやつすぐに始末したんだな」
「ああ、拷問して、若に何を喋ったか訊き出したに違いなか」
 竜平は、「新聞、今日の新聞は?」と小雪にいった。
 小雪は玄関に走った。
 竜平は小雪が持って来た朝刊をひったくるようにして座り、三面記事を読み漁った。
「竜平さん、朝刊にはまだ出とらんとじゃろうもん、警察発表は今日の六時やから」
 小雪がいうのも意に介さず、竜平は紙面を繰っては隅々に目をやった。
 そして見つけた、小さな囲み記事をーー。
 それには次のように書かれてあった。

 《一昨日の夜から、佐久間産業株式会社の副社長、前島(まえじま)公則(きみのり)氏が行方不明になっており……》

 竜平は呆然と(うつむ)いた。
「そら見てん、載っとらんとでしょうが。さあ、ご飯ば食べて、元気になってもらわんと。博多のお義母さんにはウチが知らせといたばってん、竜平さんからも元気な声ば聞かせてあげてください。光子さまも心配しとうとよ」
(鄭のやつ……)
 何と素早い対応だろうか、早速危険な芽は摘み取っていた。
 自分が自白した十人も、あの男たちから連絡が行って、すでに防御の態勢に入っていることだろう。
 残りの三人は政治家、政治家に直接渡ることはない、間にきっとあの右翼の大物がかんでいるに違いない。
 そこがネックになって疑獄事件はいつも潰れている、父が手がけた事件もそうだった。
 その大物右翼は十五億円の課徴金をあっさり支払い、受け取った側の大野木大臣の金庫番が自殺して、事件は政治家に及ぶことなく潰れた。
 大野木の秘書官は青山姪臣に生きたままガソリンをかけられて、焼き殺されているのだ。
「竜平さん? どうしたの?」
 俯いて体を揺すっている竜平に小雪が声をかけた。
 竜平は泣いていたのだ。

 それから一週間後に、(てい)民部(かきべ)が自宅マンションで餓死しているのが発見された。
 ドアに鍵は掛かってないのに、ドアを開ける力もなく、糞尿塗れになって死んでいた。
 その事件を機に、竜平は再び姿をくらました。
 だが、今度はちゃんと置き文をしていた。

“もうぼくを探さないように。
 三日しても、ぼくが帰らなかったら、ここを引き払い、みんな本部に帰って欲しい。
 そして今度は光子の力になってやってください。
                  ーー竜平“


 小雪には、

“叔母ちゃんを頼む”

 とだけ記された紙片が新農様のお守りと一緒に置かれてあった。
 その日、思いの(たけ)()めて抱き締められていたから〈変だなと思った〉、ほかに言葉は必要ないのだった。
 小雪はお守りを握り締めて、竜平はきっと戻って来ると自分にいい聞かせた。
 でなければ、夢のような一週間から真っ逆さまに奈落に落ちてゆく自分を保てなかったのだ。

 
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