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前に続く

「思い出したぜ、青山(あおやま)(てつ)(おみ)に双子の片割れがいたことをな。どこかで見たことがあるような顔だとは思ったが。寸でのところで騙されるとこだった。
 もっとも、青山姪臣自体伝説の人物、業界でも、その素顔を知る者は誰もいやしねえが、ひと頃マスコミを賑わした風体が、頭の隅に残っていたんだ。
 一覧性双生児の片割れは、城島検事のーーいや、弁護士事務所のイソ弁から、その弁護士事務所の後を継いでるって話は開いている。そいつが、この俺様に何の用だってことだろーーつまりは」
 車は揺れていないのに鄭の体は揺れている。車がカーブするたびに、根岸に寄り掛かったり、助手席のドアに体を押し付けた。
 目もトロンとしている。
「まあ、まとめて始末してやるさ、そこだ、そこを曲がれ!」
 カマロは冷凍倉庫会社の門をくぐって入った。
「降りろ」
 根岸ともみは運転席から出ると助手席にまわってドアを開けた。
 鄭はよろよろと立ち上がった。
 が、初期の認知症者のように、一歩を踏み出せない。
「……あれ?」体から力が抜けて、立っていることさえ危なかしく、よろめいて車に背を預けた。「……あれ?」
 根岸ともみは手を差し出していった。
「そんな重たい拳銃なんか持ってちゃーーお預かりしましょう」
「おっ! お前まらか! い、一服、盛りやったのかあ……?」
 毒を以って制する、伝説の刺客青山姪臣から学んだ鄭は今ようやくそれに気付いて、根岸の顔をじっと見た。
「お、お前は……」
 青ざめた顔で拳銃を突き出した。
 震える手で撃とうとする。
 だが、あっさりとそれを根岸にもぎ取られてしまった。
 引き金を引く筋力さえ失せていたのだ。
 青山姪臣が常用した筋弛緩剤を、カクテルに混ぜて呑まされている。
 城島民子を拉致監禁拷問した筋弛緩剤をーー。

 小雪と本庄英志らが駆け寄って来た。
「先生!」本庄が鄭の肩と腕を掴む。
 今度は女になっている根岸を小雪は驚いて見る。
「中は?」と聞く根岸に、「あ、はい。あのままです」
「扉を開けて」
 雉牟田兄弟が両方から引き開けた。
 根岸ともみに襟首を掴まれて鄭が立つ。
 鄭は言葉にならない声を発した。
 ()(れつ)がまわらず、(よだれ)(したた)る。

 中から黒服の三人組が駆け寄って来る。
「どうしたんです、鄭さん?」
 根岸が掴んでいた襟を放すと、鄭は崩れ落ちた。
「お前は?」
 三人が度肝を抜かれている間に一斉に突入した。
 拳銃を持っているのはサングラスの男だけ。
 根岸と撃ち合いになった。
 その間、雉牟田兄弟と男たちが格闘になり、本庄英志と小雪は竜平と蛇覇那記者の元に走った。

 所詮は素人同士、火花を散らすだけで当たらない。
 倉庫の中を追いつ追われつしながら、たちまち根岸ともみは六発撃ち尽した。
 サングラスの男は弾を補給した。
 根岸の弾切れを知ると、襲いかかって来た。
 根岸ともみは物陰から物陰に逃げる。
 火線がそれを追いかける。
 追い詰められた根岸を助けたのは本庄英志だった。
 銃弾を掻い潜って男に体当たりを食らわし、格闘となった。
 格闘になったら本庄の敵ではない。
 たちまち軽量級の男はねじ伏せられて、一巻の終わり。
 雉牟田兄弟のほうもケリをつけていた。
 そっちも同じ、ケンカ慣れした彼らの敵ではなかった。
 竜平と蛇覇那記者は小雪に介抱されていた。
 三人組は鄭を担いで追い払われる破目になったのである。
 根岸ともみはいつの間にかいなくなっていた。

 頚骨を損傷した蛇覇那記者を病院に入院させてから、みなはアジトに帰った。
「若も、いい加減にしてもらわんとのう」と次男が苦言を呈した。
「面目ない」と竜平は頭を掻いた。
「若頭ちゃ、大きな体しとるとに、いっこも弾の当たらんとやねえ」
 と小雪が話しを逸らした。
「バカ、ケツに一発食らったけんが、口から吐き出してやったたい」
「あればっかり」
「バッテン若、うちもそろそろ拳銃ば持たんと、命が何ぼあったってんが、たりやんばい」と本庄がいう。
「ーーダメ!」と、竜平。
「英志! 先代がいいよろうが、ヤクと拳銃は外道、わしら一家はまっとうな商いで(いのちき)する、商人たい」と次男がいう。
「ケンカの醍醐味はのう英志、ヤッパでの、斬り合い、突き合いたい。何んが拳銃か。先代の十人斬りは凄かったぞ」
「オジキ達は見たんか?」
「残念ながら、親父に聞いた話じゃけどな」
「さあさ、もうそんな話は後にして、今夜は早メシ食って、一杯呑んで寝るたい。久々に若と小雪が逢うたんじゃ、二人っきり、色々積もる話があろうでのう。年寄りの冷や水にならんようにな」と、トキがいう。
「バアバ、もう! すか~ん」
「あはははは」
 そういうトキが炭坑節を歌って、一族は夜遅くまで騒ぎ、飲み明かしたのであった。
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