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その六 臼杵警察署

「あんたどう、ようそげんこつう、今頃になっち、ゆうち来るなえ」と現場に駆けつけた地域課の制服警官はいう。もう一人は出かけていなかった。
 体もデカイけど声もデカイ米満巡査長は、威嚇するように二人に目を剥いた。
「初めからそげなもなあなかったんじゃ。ヤー公の、すもつくれんいいごち、そういつまってん、へつろうち、おらるるかえ」
 吉賀という、その当時の刑事課の担当刑事のほうに根岸が訊く。人相はこちらのほうが厳しい刑事の顔である。
「お隣や前の屋敷も入念に調べたんでしょうね」
「勿論です。隣り近所は一通り捜索しましたよ」ハンマーのようなおでこをした初老の巡査部長は穏やかに答えた。
「樋の中も?」と光子が口を出す。   
「トイ? ああ、雨樋ね。勿論」
 吉賀巡査部長は苦みばしった顔を光子に向けた。

 人口四万五千人余りの街にしてはこじんまりした警察署の、免許証の手続きなどをする交通係の待合室でのこと。先客がいないせいもあるが、かつての担当刑事は今や交通係長なのだった。
「目撃者のご老人には、少年が刃物を持っていたかどうか訊ねたのですか? それとも向こうから?」と根岸は訊いた。
「そりゃあ、あんた、こっちが訊かんで、誰が訊くんかえ」とまた米満巡査長が口を出す。
「そうしたら何んて、答えたのかしら」根岸は吉賀交通係長に向かって訊く。
 交通係長は少し考えてからいおうとした。
「そらあんた、持ってねえもなあ、持ってねえち、いうがええ」と米満巡査長が答える。
「あのさあ」光子が遮るように口を差し挟んだ。「もしタツがーー村上タツオがいうようにだよ、少年が刃物を持ってたとしたら、訊かれる前にーー110番通報する時に、刃物を持って暴れよる! とか、ケンカしよるち、いうよねえ、普通は」
「おお! そうじゃ! そうじゃ、ねえちゃん。いいこというじゃねえか。そん通りじゃ。緊急性をアピールする為に、きっとそういう筈じゃ。じゃけん、持ってなかったちゅうことになる」
 米満巡査長は勝ち誇ったように口から太い歯を覗かせていった。
「ということは、よう見えんかったゆうことじゃないん。そん時の天気はどうなん?」
「何? 天気? 天気はお前……曇っちょたわい。ちゅうか、黒雲が鎮南山の方からせり出しち来ち、薄暗れえくらいじゃった。グワリグワリグワリッ! ち、鎮南山ん上で、ゴロンゴロン様が鳴りょったけん、雨にならにゃいいがち、思ったことじゃ」
「ああ……やっぱり」
「何がやっぱりじゃ?」
「じゃけん、見えんかった。暗くて見えんかっただけったい!」
 根岸ともみはくすくす笑い、「肥後守というナイフはどういうナイフですか? どこに行けば、手に入れられるでしょうか?」と吉賀交通係長に訊いた。
 交通係長が答える前に、「そんなもん今頃あるかいや。わしらでさえ見たことねえに」と米満巡査長がいう。
「わたしらが子供ん頃のものですわ」と五十年配に見える係長がいった。「男ん子には必須アイテムでした。それで、木や竹を切ったり(けず)ったりした。紙鉄砲やら水鉄砲やらを拵(こしらえたものですわ」
「いうにことかいち、そげな昔ん、レトロな小刀を持ち出すとは、すもつくれんやっちゃ」
「じゃけんなおさら、真実味があるんと違うん? その少年のおじいちゃんかおばあちゃんに訊いてみたん? 不良仲間や、学校の生徒にも訊いてみたん?」
 何んじゃこいつはーーという顔で、米満巡査長は光子を睨みつけた。しかしその為には仰ぎ見らねばならなかった。立派なガタイはしていても、背丈は光子に遠く及ばなかったからだ。
 光子は、こいつを法廷に引っ張り出して、ぎゅうぎゅうの目に合わせてやればよいのにと思う。
 根岸ともみは光子の腕を取って、吉賀係長に会釈し、あわてて署を出た。

「――うふふふ、光子ったら」歩きながら滅多に笑わない根岸が笑った。「でも、目の付けどころは間違ってないわ。自分でやってみなさい。わたしは悪いけど、一つの案件にばかりかかりっきりというわけにはいかないのよ」
 それはわかる。刑事は儲からないとママがよくこぼしていた。民事はお金にものをいわせて勝訴しようとする金持ちが多いけど、刑事事件を起こすような連中はお金に困っている者が多いから、下手すれば赤を打つこともあるし、その上弁護料を踏み倒されることだってあるという。
 まして、クライアントは弱小組織の天門屋一家。義理で受けたような仕事である。博多の竜子伯母ちゃんは口うるさいけど、ケチじゃない、気前はいいーーけど、ない袖は振れない。
(成功報酬なんてあるのかなあ……)
「――まかしといて!」光子は元気よく胸を叩いた。
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