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幼馴染なお向かいさんに振られたけれど愛おしく思えるものを見つけて立ち直りました。おかげで今では立派な腹黒眼鏡です。

作者:uyr yama


高藤信也には好きな人がいる。

道路を挟んだ向かい側に住む、いわゆる一つの幼馴染の少女がそれだ。
彼女の名前は椎名由希香。
信也と同じ中学3年生で、背は150cm半ば。
髪は肩にかかる程度で目は軽くつり目。口は小さく、鼻はちょい低めってとこか。
小顔……というほど小さくはないが、それでも全体的なバランスがよく、整った顔だと言えよう。
クラスで一番というよりは3番目ぐらいの美少女だが、美少女ではある。

一方、高藤信也はと言えば、少しオタクが入ったフツメンだ。
身長は160にギリギリ届かず。
髪は親に適当に切って貰っている感じの特筆めいた部分のない、平凡とした髪型。
目は垂れて、口はやや大きく、鼻は普通の高さ。
猿顔……と言われればそうかもしれない。今の所、そう言われた事はないが、自分でそう思っている。

そうだ、高藤信也は明らかに平凡である。

幼馴染とはいえ、クラスで3番目の美少女とは釣り合わない。
でも、昔から好きだったのだ。
それこそ幼稚園時代にプロポーズするぐらいには。

あの頃はよかった。

砂場でお城作りに挑戦したり、おままごとで夫役をやったこともある。
夏は手を繋いでお祭りに行って、一緒に盆踊りを踊ったっけ。

そうだ、あの時だ。プロポーズをしたのは。
祭囃子の中、信也は由希香に永遠の愛を誓ったのだ。
由希香も信也の想いを受け止め、2人は結ばれた……はずだったのに……

彼女はそんな可愛らしいエピソードは忘却しているのだろう。近頃妙に避けられてもいたし。
例え想いが届かなくても、せめて普通の幼馴染でいたかった信也には、それがとても辛かった。

そんな信也が一念発起したのは、受験が推薦であっさり終わり、卒業を間近に控えた3月の始めだった。
4月から通うことになる高校は同じだったが、今のままでは一緒の登下校というのは不可能だ。
まあ、高校どころか、小学の3年生にはもう一緒ではなかったのだが。
逆に言えば、小学の2年までは一緒だった。
あの頃の幸せな気持ち……そして、3年に上がる時に、


「もう一緒に行くのやめよ? 噂されると恥ずかしいしね」


と言われた時の絶望。今でも忘れられない信也だった。
あれから7年。いつまでもウジウジしているのに疲れた。
いっそ当たって砕けろの精神で、あの頃の幸せを取り戻すべく、告白をしてみるのもいいかもしれない。
断られたら、それはそれだ。彼女を諦めるいい切っ掛けではないか。

信也にとって、一世一代。
だが、由希香にとって、それは有り触れた場面。

彼女はクラスで3番目の美少女。
3番目とは言え、美少女だ。
告白なんて、中学時代に片手の手では足りない程度にはされている。
まあ、相手がお向かいさんの幼馴染だとは思わなかったが。
由希香にとって、信也という存在は過去の存在。
思い出なんか忘却の彼方だし、今更告白されても迷惑以外の何物でもなかった。
実際、顔を合わす事も殆どなく、冷たくフッても問題は無い。

由希香は素早く計算をすると、その場ではっきりと、「ない」とだけ告げて、告白してきた彼の前を去った。

地面に項垂れた信也だったが、振られる可能性が絶大だったと知っていたため、割と速くに立ちなおる事に成功する。
が、すぐに再び項垂れてショックを受けることになったのは、高校入学から1週間後。
由希香が1学年上のテニス部の先輩と付き合うことになったからだ。

テニス部の先輩は、テニスをやってるだけあって、信也の目から見て何か格好良かった。
だが、ショックな物はショックだ。
由希香は、中学時代には誰とも恋人関係にはならなかった。
だから信也は、心の何処かでこう思っていたのかもしれない。


由希香が誰かと付き合う事は無い


そんなこと、ある訳がなかった。
由希香は可愛い。クラスに数人はいる程度のレベルの可愛さだが、信也にとっては天上の女だ。
だから、男が放っておく訳がないではないか……


こんなことなら、告白なんてしなけりゃ良かった。

信也がそう思ったのも仕方ない。
しようがしまいが、関係性は1mm足りとも変化はないのだろうが、これで告白というのは膨大なエネルギーを必要とする。
その膨大なエネルギーが、完全に無駄だった。

だって考えても見ろ。
告白して振られるまでもなく、少し待てば幼馴染の彼女には恋人が出来て、勝手に失恋出来たのだ。


「でもまあ、これが現実ってヤツだよなぁ……」


しょせん、フツメンはフツメン。
美少女とお付き合い出来る未来なんてないのだ。
しかもそのフツメンだって、自己申告によるもの。
他人が見たら、不細工一歩手前くらいかもしれない。

「ない」とだけしか言われなかった失恋で、自信という自信が失われてしまっていた信也は、どこまでもネガティブになった。

元々暗めだった性格が完全に暗く。
あまり気にしていなかった身嗜みも最低限度。


このままでは、オタクの負の暗黒面に堕ちるのも時間の問題だろう。


そんな信也だったが、ある日、いつも覗いていたネットの小説掲示板を見て、少しだけ前向きな気持ちになった。

何気なく読んだとある短編の主人公は、男女の違いこそあれ、まさに信也の立場その物だったのだ。

主人公の少女は、お隣さんの幼馴染なサッカー少年に恋する乙女。
眼鏡でもっさい感じのする少女は、高校進学を切っ掛けにお隣さんに告白するも、

「んなダッサイお前なんかと、誰が付き合うか。幼馴染って関係だってやめてーよ、このブス! もう俺に近づくなっ!!」

とまで言われてショックで寝込み、高校進学と同時に一念発起。
美容室に行き髪型を整え、軽い化粧に肌のお手入れ。
眼鏡をコンタクトに変えて、趣味を広げて様々な分野に手を出し、内に籠り勝ちな性格を、少しづつ外を見る様にと改善させた。
実は眼鏡を外したら美少女だったというお約束まであり、最後は自分を振った男を見返して、別のもっとランクの高い男とゴールイン。

はっきり言おう。

精神の状態が普通だったら、絶対に読まない系の、先が見透えてみえる単純で未熟な短編小説だった。
だが、今の信也には特効薬にもなりえた。

流石に眼鏡を外したら美少年などということは絶対にないが……そもそも信也は眼鏡をかけていないのだ。
大体、普通にフラレタだけで、別段酷い事を言われた訳でもされたわけでもなかった。
「ない」には流石に傷ついたが、実際「ない」のだろうから、仕方ない。
逆に分かり易く、彼女を諦められる良い言葉だ。
だから復讐という気持ちなんて持ちようがなく、むしろ嫌な思いをさせてしまったなぁと、今になってそう思い始めたほどだ。

しかし……である。

いつまでもウジウジしているよりは、小説の主人公だった彼女のように自分改革をしてみるのもいいかもしれない。
このまま単なる根暗になってしまう未来よりは、どうせ底辺と考えて行動に移した方が建設的だ。
なんせ底辺なのだから失敗のリスクも少なく、改革が成功する可能性の方が高そうだしな。と信也は思った。

そうと決めたら話は速い。

信也は自分改革の手始めに、眼鏡に手を出す事にした。
小説の主人公は眼鏡からコンタクトに変えて成功したが、信也は逆に、裸眼から眼鏡になることで、自分改革の第一歩としたのだ。


  な ん で そ う な る


小さく呟いたのは、彼の少ない友人の一人だ。
だが、彼は眼鏡に走った。
まずは眼鏡屋さんで、お洒落な眼鏡を探す事から始める。
悩みに悩み、選びに選び抜いた結果、瀟洒なコンビフレームを手に取り、装着。


(……うん、いい。だが、髪型がこの眼鏡の素晴らしさを損なっているな)


信也は2万8千円もした眼鏡を、新しいスマホを買う予定で貯めていた金銭で払って購入すると、ショッピングモールにある美容室に駆け込んだ。


「この眼鏡に合う髪型にしてください!」

「……はい?」

「この眼鏡に合う素晴らしい髪型にしてください!!」

「あ、はい」


この件での一番の被害者は、美容師である彼だろう。

だが、彼もプロである。
客の無茶な要求には慣れていた。

流石に眼鏡に合う髪型などという要求は初めてだったが。だが、彼はやり切った。
鏡に映る自分の姿に、何度も満足そうに頷く客を見て、美容師としての誇りが満たされる。

なんだこの達成感は、これ以上ない美酒ではないか……

客としては最低だったが、自分の美容師としてのスキル向上には素晴らしく役に立ってくれた。
信也も満足だったが美容師も満足だった。まさにwin winである。

さて、眼鏡も決まり、髪型も良くなった。
だが、まだ足りない。信也はそう思った。

何が足りないかと言えば、服だ。服装だ。
ズボンから上着といった、普段着ている黒づくめの服装がダメダメだ。
これではイカンと、新しいPCを買う予定だったお金を銀行から下ろし、その足で信也は服を買うためショッピングモールを歩きまわった。
正直、服のセンスなんて欠片も持ち合わせていない信也だ。
これは難航するだろう……と思いきや、適当な店舗に足を踏み入れると、店員に金額を提示して、複数パターン分の服とズボンを買い揃える事に成功した。
簡易更衣室の中の鏡の前で、店員の選んだズボンや服を着た信也は、これまた満足そうに何度も頷いた。
全部買うとしたら、結構な金額になってしまうが躊躇わないし、後悔もしない。
10万を優に超え、20万に届かんとするPC分の金銭のほぼ全てを使い果たして信也は店を出て、家路についた。


(新聞配達やお年玉で貯めた金はなくなったが、確かに俺は一歩前に進んだぞ。これも、眼鏡、オマエのおかげだ……)


そんな高揚感に包まれながら、信也は自分の部屋でくつろいだ。

特に何が良かったかと聞かれれば、やはり 眼 鏡 だろう。
眼鏡はいい。実にいい。眼鏡は人類がツクリタモウタ芸術品だ。
だが、まだ相応しくない物が有る。と、信也は爪を切り、男性用乳白液で肌を整え、眼鏡のフレームを指でクイッと持ち上げながらながらそう思った。

それは……学力だ。

眼鏡は秀才。そう決まってる。


その日から、信也の猛勉強が始まった。

1学期の中間は、学年で50位。期末で36位。
2学期の中間は、学年で30位。期末で21位。
3学期の期末で一気にジャンプ。ついに一桁、7位だ。


こうして信也の高校一年生という時代が勉強だけで終わりを告げ、2年生になった。
2年生になった信也は、学力向上と同時に、眼鏡キャラとしてクラス委員長となり、眼鏡キャラとして生徒会入りを目指した。

それにはやっぱり学業だろう。

信也は更に猛勉強を繰り返し、

1学期の中間で学年3位。期末で遂に目標の学年1位になった。


「ふっ……ふははははは……」


大きくではない、喉に籠る様な笑い方で、学年1位を祝う信也。
そこには中学時代までの彼は何処にもなく、見るからにテンプレ腹黒な眼鏡キャラである。
身嗜みに髪型と、細かく細かく眼鏡に合う様にと容姿をチェックする今の信也は、美少年とは言い難いが、バランスの取れた良い男にはなっていた。
眼鏡の為に勉学一途な信也は気付いていないが、今の彼は正直モテる。
クラス……というよりは、学年でもトップ3に入るだろう、イケメン予備軍だった。
もっとも、生徒会『副会長』を目指している今の彼はそれどころじゃない。
会長でなく副会長なのは、あの日、信也を変える切っ掛けになった短編小説の登場人物の一人の眼鏡が、副会長だったからだ。
単純明快にして直情径行がある思考展開だが、本人は至って真面目である。
本気の本気で副会長を目指し、そして……当選した。
あえて不満があるとすれば、会長になったのが、金持ちの王子様な俺様タイプでなく、自分と同じ秀才タイプの学年2位の女子だったことか。


(まあ、いい。全部を求めても仕方ない。こればかりは自分や眼鏡の力で如何こう出来る物でもないしな)


身長も、気付けば175cmになっていた信也は、既に癖である中指で眼鏡のフレームをクイッと上げる動作をして、余裕めいた表情で笑った。

如何にも腹黒そうな所作ではあるが、この頃になると、ある種の名物的な人物になっていた信也は、きゃー! とか女子に騒がれているも、完全無視。
この辺、中学生以前のまったくモテなかった時代の後遺症であったかもしれない。
余裕がなかったのもそうだが、自分がモテルというのが信じられないのだ。

例えば、良く見ると美人で素敵な会長に、それとなく秋波を送られようともガンスルー。
数ヶ月前に破局し、私傷ついてるんです☆といわんばかりに、チラっ、チラっ、している幼馴染も同じくスルー。
朝、家の前で「信也くん! 久しぶりに一緒に学校にいこ?」とか言われても、


「噂になったら恥ずかしいだろうから、やめとくよ」


眼鏡のフレームを中指で上げながら、鼻でフッて笑って断るくらいには信じていなかった。
今も彼女のことが好きかと言われれば、多分好きなんだろう。
だが、真実彼女のためを思って断っていると思っている彼は、後天的なニブチン野郎になってしまっていたのだ。

もうどうにもならない。
悔しく歯軋り鳴らす彼女を置いて一人学校に登校する信也は、もう完全な眼鏡キャラとなっていた。
もう彼は止まることなく。ずっと眼鏡キャラで居続けるのだろう。
学校の廊下のトイレの前にある鏡の前に映る自分の姿に、


「ふっ、今日も眼鏡が素敵だな……」


と、やたらとニヒルな彼の眼鏡を愛おしく思う想いを超える想いで、彼を愛する事が出来る突飛な女性が現れる……その日まで。


「人は生まれながらに眼鏡ではない。人は、成るべくして眼鏡と成るのだ……我ながら、素晴らしいセリフだな。これを座右の銘とするか」


たぶん、きっと、現れろ。 メ ガ ネ  ば ん ざ い












雪かき中に滑って転んで首を痛めて寝ようにも首が痛くて寝れなくて、仕方なくPCの前にいたら何でか出来あがった話。
おれ、一体何をやっていたんだろう(茫然

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