4月1日の勇者さま
エイプリルフールなので嘘をついてみた。
「俺、実はこの前魔王を倒して異世界一個救ったんだぜ! いや、ゲームの話じゃない、マジマジ!」
友人は半笑いで聞いていたけど、春休み中で退屈だったせいもある。俺の繰り出すリアルな妄想を大人しく聞き、ときおりツッコミをいれつつ、それなりに楽しんでいたようだ。
「というわけで、俺は泣く泣く姫を置いてこっちに帰ってきたってわけ」
「ひっどい話だな、おい」
「現実なんてこんなもんよ?」
「いや、そりゃリアリティはあったけどね」
(聞こえますか、異世界の勇者よ……)
「ん? 声が……」
「急にどうしたん?」
「いや、なんか声がしねー?」
「いやなんにも」
(私は今、あなたの心のなかに話しかけています)
「あ、ハイ」
(勇者様の話はすべてお聞きしました。どうか我々の世界もお救いください。我々なら我々の差し出すことのできる、ありとあらゆる富と名誉をお約束しましょう。ですからどうか魔王を倒し、世界をお救いください)
(ははーん。エイプリルフール返しだな。手が込んでる)
「よかろう。俺にまかせろー」
(ありがとうございます、異世界の勇者様! 星の配置が最高の今のうちに召喚を!)
目の前に光り輝く魔法陣が発生し、驚く友人の目の前で俺は飲み込まれた。
俺は本当に異世界に召喚され、魔王と戦う運命を科せられた。
俺には強大な潜在的魔力があった。それで召喚の条件に合致し、接触したのそうである。
俺が戦えない、魔王を倒した話は嘘だというと、落胆し怒り出す人もいたが、星の巡りの関係で今後数年は新たな召喚はできない。
そうして俺は勇者候補として一から鍛えられることになった。
否応もなかった。召喚は契約でもある。彼らは富と名誉を約束し、俺は魔王を倒すことを約束した。それが果たされるまで、俺は契約に縛られ解放されることはない。
そして10年の歳月をかけ、艱難辛苦の果てに、魔王を倒し、異世界を救った。
「お帰りになるのですか、勇者様……」
「ああ。魔王城の宝物庫にあった、時の秘法の書を使えば、俺はあの召喚した時点に、あの時の年齢のまま戻れるみたいだし」
「ああ、勇者さま。愛しております。このままこの世界に!」
「……すまない。俺には家族や、愛する人が故郷にいるんだ」
俺は時の秘法を使い、元の世界に帰還した。
「うおっ、まぶしっ。何? 今の何!?」
「だから俺が異世界で魔王を倒して世界を救ったって話だろ。今のがその召喚陣」
「またまたー。手が込んでるねー」
「そういえば、これ、お前に言ったことなかったな」
「何を?」
「愛してる」
「ふぁっ!?」
「子供の頃からずっと好きだった」
「え、あの、エイプリルフール?」
「いや、本当だよ。嘘じゃない。本当に本当に愛してる」
そう、俺は再びこいつに会うために、苦しい修行を耐え抜き、命がけで魔王を倒し、富も名誉も共に戦った仲間たちも、全てを捨ててこの世界に戻ってきたのだ。
「あ、あの。私も、その、好きだよ。嘘じゃなくて……」
不安はあった。もしかしてこいつは俺のことを男だと見ていないかもしれない。振られるかもしれない。だが賭ける価値はあったと、これまでの苦労が報われたと、俺は目の前で顔を真っ赤にしている幼馴染を見て安堵し、涙を流した。
「え? え? なに泣いてんのよ!?」
「ごめん、嬉しくて」
「そ、そう? それもいいんだけど……どうして服が変わってるの?」
「イリュージョンだよ」
まあ服が行きと違ってたり、魔法が使えて魔王が倒せるくらい強くなってたりするのも、俺の願いがいま叶ったことに比べれば全部些細なことだ。
「それもエイプリルフール? まさか全部嘘じゃないよね?」
「もちろん異世界で魔王を倒したのも、俺がおまえを好きなのも全部本当だよ」
「……やっぱり嘘だっ!」
信じてもらえるまで結構時間がかかった。