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ルシ伝 作者:キルナ

第1章 カノン王国の王女

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奴隷クーと盗賊

 コンコン!
 扉を叩く音がした。クーが自分の部屋で、買ってもらった服を、あれこれ見ている時だった。「クーちょっといいか?」
(ルシ様?)
「あ、はい、少々お待ちを」
 ばたばたっと駆け出し、ガチャ!っと扉を開ける。
「ど、どうぞ」と、頭を下げてルシを迎え入れる。
「あぁ、邪魔するぞ」と言って部屋に入るルシに、椅子を差し出す。
 ルシが部屋を見渡すと、ベッドの上に沢山の服が広げられている。クーは恥ずかしそうに下を向いて、もぞもぞしている。ルシはそんなクーの頭をワシワシと撫でた。クーはずっと下を向いたままだが、その顔はすごく嬉しそうだったことをルシは知らない。

 ルシは椅子に腰を掛けると、徐に用件を話し出した。
「クー、ちょっと調べて欲しいことがあるんだが?」
「はい、なんでしょうか?」
 クーは畏まって、真摯な眼差しをルシに向ける。
「んー硬いな。もう少し普通に出来ないか?」
「それは、ちょっと難しいです……」
「そうか……まぁいい。じゃぁ2日前から今日まで、王城から出てきた者を調べて欲しいんだが出来るか?」
「えっ…と、全ての者を、ですか?」
 少し困った様に、目線を下に向け、ちょっと難しいと言いたそうにしている。
「いや、14,5の少女だ。金髪の貴族のお嬢様、但し変装してないとは言い切れない」
「わかりました。そこまで絞れているなら大丈夫だと思います」
「大丈夫か? 昔の仲間とか……」
「はい、大丈夫です、お任せ下さい」
 ルシは少し心配したが、クーはむしろ嬉しそうに眼をキラキラさせている。
「昔の仲間に会うのが嬉しいのか?」
(まァ仲の良い奴もいたのかもな)
「えっ? なぜですか?」
「いや、べつにいい、じゃ頼んだぞ」
(ルシ様に誤解されちゃったよ……)

「あぁ、その前に、ドワーフがやってる鍛冶屋知ってるか?」
 ルシは今思い出した。という感じで別の話に切り替えた。
「えっと、大通りを少し東に行ったとこにある、武器屋さんの近くですか?」
「あぁそこだ、そこで剣を貰ってきてくれないか? 修理に出してるやつだ」
「はい、わかりました」
「うむ、じゃ剣を貰ってきたら、その後で王宮の件、頼むな」
「はい!」
 ニコニコして返事するクーだった。
 そこで出て行こうとするルシを「あのぉ……」と引き止めた。
「ん? どうした?」
「いえ…その、ルシ様の言葉使いなのですが……」
「ん? きつかったか?」
「いえ! 違います。もっと命令口調で良いと思います。私は奴隷ですから……」
 ルシは、クーに近寄って、また頭をワシワシと撫でる。
「オレはお前を奴隷だとは思ってない。あんまり気を使うな、いいな?」
 そう言って部屋を出ていった。

 クーは、戸惑った。
 奴隷とは身分として最下級である。自分が売られて奴隷になった時、悔しくて惨めで泣きそうになった。しかし、ルシに買われて、『お前は自由だ』って言われて、『盗賊も止めて良い』と言われて、嬉しくて、この人の奴隷なら、たとえ最下級の身分でも良いと、正直に思った。
 ずっとこの人の傍に居たい。だから奴隷で居たいと、心から思った。奴隷としてルシ様に尽くせるなら幸せだと、心から思ったのだ。なのに奴隷じゃないと言われたら、自分はどうしたらいいのか? 奴隷でなければ、ルシ様に恩返し出来ない。お傍に居られないと思ったのだ。

 しかし(今は考えるときじゃない、早速お役に立たねば!)と決意して即、行動に移す。

 クーは『山猫亭』を出ると、全速力で走りだした。
 まずは鍛冶屋である。鍛冶屋につくと、すでに剣の修理は終わっていた。その剣を貰い一旦宿屋に帰ったが、ルシは居なかった。仕方が無いので酒場の女将に剣を預けて、次の目的地に向かって全力で走る。

 そしてやって来たのは、盗賊達の溜まり場『飛竜亭』だった。
クーは、その扉を見つめて少し佇む。

 正直に言えば、クーは不安だった。ここには自分を折檻と称して、虐待まがいの殴る蹴るの暴行を行ったグループのボスがいるのだ。優しい仲間もいたが、それでも助けてはくれなかった。もう関係ないと判っていても、やはり怖い。
 だが、いつまでも怖がってはいられない。それにルシ様のお役に立てることが嬉しい。もはや仲間ではないが、盗賊ギルドとしての繋がりがある。たとえ盗賊行為は止めても、こういう情報収集には、欠かせない繋がりなのだ。

 クーは「よし!」と小さく呟くと、覚悟を決めて店の入っていった。

 店に入ると、やはりグループの元仲間達が居た。その中に、あのボスも。
 クーは「ゴクッ」っと唾を飲み込むと、その仲間達が座るテーブルに近寄っていった。
「よぉ! おめークーか? クーだよなぁ?」
「これが、あのクーかよ!?」
「ほぉ! 見違えたなぁ」
 などと、元仲間達が、一斉に声を掛けてきた。その顔はニヤニヤ笑っている。なにか企んでいるのかと、一瞬恐怖が襲ってきたが、グッと堪えて、凛として話しかけた。
「あの、ちょっとお聞きしたいことがあるんですが……」
 声が震えないように必死である。その手は硬く握られていた。

「おぅ、そんなに硬くなんな! もうおめーは俺等の手下じゃねぇんだよ。もっと堂々としてりゃいい」
 グループのボスだった。まさかそんな事を言われるとは思いもしなかった。

「まぁ、今までは悪かったな。ちったぁオレも遣り過ぎたわ。まぁそのお返しって訳じゃねぇがよ。今後は何でも相談のるぜぇ、遠慮はいらねぇ!」
「……」
 クーはボスのその言葉が信じられなかった。今まで散々、殴られ蹴られ罵倒されてきたのだ。いくら今は関係ないと言っても、そう急に変われるはずがない。(なにか企んでるの?)そういう思いでいっぱいだった。

「まぁそう言われて、ほいほい信じてちゃ、俺達の家業はやってられねぇわなぁ」
「「そりゃそうだ」」
「「「わっはっはっ!」」」
 一斉にその仲間達が笑い出した。
(やはり、罠?)

「まぁ正直に言うとよ。さっき、おめーを買った、あの怖えーにーちゃんが来たんだ」
「えっ?」
「ルシとか言ったか? おめーを買ったにーちゃんだ」
「ルシ様が? ここに?」
「おぅ、そのにーちゃんがよ、2度とおめーに手ぇ出すなって言いに来たぜ。それと、もしおめーが来たら、手を貸せとも言われた。さすがにあんなバケモンに睨まれたら、逆らえねぇぜ!」
「ほんとはよぉ、ここに来たことも、おめーには『言うな』って言われてたんだがよ。言わねぇと、おめーも信じられねぇじゃねか、なぁ? 喋ったことは、奴には内緒だぜ?」
 クーは、訳がわからず頷いていた。

「よし! そうと決まりゃぁ、なんでも協力するぜぇ。なぁ、やろーども!」
「「「「おぅよ!」」」
「まぁ、正直、あのにーちゃんが来なくてもよ、おめーの頼みなら、みんな喜んで協力するってもんだぜ。」
「元仲間なんだ、なんも遠慮するこたぁねぇや」
「それによぉ、俺達ゃぁ、可愛い女にゃ弱ぇからなぁ!」
「おぃ、おめーそりゃあぶねぇセリフだぜぇ」
「そりゃそうだ!」
「「「わっはっはっ!」」」

 ルシはクーを使わなくても、盗賊達を動かして裏の情報を手に入れることなど、簡単だったのだ。ただ、クーを使うことで、クーをこの王都で生き易いようにしてくれたのだった。

 しかし、ルシはちょうどその頃、シェラ達がこの王都を出たことを伝えられた。
『どうしても妹が気になるので、一度カノン王国に帰ります。黙って行く事をお許し下さい。それとお金を預けておきますので、クーちゃん為に使ってあげて下さい』と。
 そして、女将から金貨の入った革袋を受け取った。
(またキャミに借りが増えたか……)ルシが思ったのはそれだけだった。

 そして盗賊達は、城門の門番、城に出入りする業者など、八方尽くして、情報を仕入れていった。

 翌日、ルシはクーから情報を聞いた。
「3日前に城内に入った『条件に合う』人物は1人だけだそうです。逆に城を出た人物は居なかった、とのことです」
「そうか、ご苦労だったな」
「いえ、一応もう少し探って貰ってます」
「うむ」

 そして、さらに翌日、新たな情報がもたらされた。
「その城内に入った人ですが、どうやらカノン王国の第一王女で、しかも人質として秘密裏に入国したらしいです」
「人質……なら幽閉状態か……」
 ルシはそう言って、なにやら考えていた。クーにはなぜか、その表情が悲しそうに見えた。
「……ルシ様?」
「あぁ、『調査』はもう終わっていい、明日オレは砂漠に遠征するんでな、それと、このことは他言しないように、念を押しておいてくれ」
「わかりました」
(あぁ。もう終わりなんですね……)
 クーは、そう言って恭しく頭を下げた。

 ルシは、また考え込むように、黙ってどこか遥か彼方を見るような眼で一点を見つめている。
(この情報はどうする? キャミ達を追ってカノン王国に行くか? それとも……)

 クーは「失礼します」と頭を下げて部屋をあとにした。

 ルシは、用事が無い限り、クーを部屋に呼ぶことも、クーの部屋に行くことも無い。だから話しをすることは、ほとんどなかった。
 食事は女将が2人を同時に呼ぶので、1階で一緒に食べるが、その時ですら、一切話しかけない。クーも遠慮して一切話さない。そんな2人を見て、女将が「このテーブルはお通夜だねぇ」と笑われることがあったくらいだ。

 そんな中で、王城の調査は、唯一ルシが話をしてくれることだった。

 クーは自室に戻ると、ルシの言った『砂漠遠征』のことについて考えていた。
(砂漠の遠征って何だろう、砂漠遠征って1日や2日で帰れないよね? 何日くらい掛かるのかな? 私は連れて行って貰えるのかな? 聞きたいけど、奴隷の身分で此方から話しかけるなど出来ないし……。こんなとき、キャミさんがいてくれたら……。そういえば、キャミさんと、あの女、ここ2,3日見ない。どうしたのかな?)

 クーは、急に一大決心をしたかのような表情で立ち上がると、部屋を飛び出し、ルシを部屋の扉をノックした。

 コンコン!
「あのぉ、クーです……」
 すぐに返事が返ってきた。
「開いてる、はいれ」
 無愛想ではあるが、優しい声音であった。
 扉を開けると、失礼します。と頭を下げてクーは部屋に入った。

「えっと……」
 クーは実に困ったように、もじもじしている。
「どうした?」
「その、砂漠に遠征と言うのは、どういうことでしょうか?」
「あぁ、言ってなかったか……」
 そう言ってルシは、じつはな、とさらに口を開く。
「ギルドの依頼で、砂漠中央のパナソニ・ロックまで行くことになってる」
「えっ?……」
「まぁ、20日ほどで帰るから、お前はこの宿屋で待っててくれ」
「嫌です!」
 突然、声を張り上げて、怒鳴っていた。ルシもさすがに驚いているようだ。ほんの少し眼を見開いてる。
「あ、あぅ…」
 喘ぐような声をだし、いきなり土下座になった。
「も、申し訳ありません。申し訳ありません。申し訳ありません……」
 頭を何ども床にぶつけて謝っている。
「クー!」
 ルシも怒鳴るようにクーを呼んだ。すると「ビクッ!」と音が聞こえる気がするほどクーが体を振るわせた。
「も、申し訳ありません」
 さらに大きな声で、床に頭を擦り付けて謝るだけである。ルシはクーの両の二の腕を掴むと、そのまま持ちあげた。自分の顔の真正面にクーの顔が来るように。
「いいかげんにしろ。お前は奴隷じゃないんだ。なんど言えばわかる?」
 そう、諭すように優しく言葉を発する。
「で、でも……」
「でもじゃない。いいか、2度と土下座なんかするな。オレに遠慮もするな。わかったな」
「……」
「言うことが聞けないなら、もうお前をここに置くことは出来ないが、それでもいいか?」
「それは、い、いやです……」
「じゃ言うことを聞けるな?」
「はい……」
「そうだ、オレが砂漠に行ってるあいだ、お前にこいつを預ける」
 そう言ってルシは、懐から『尻尾』の様なものをとりだした。そして、その『尻尾』に向かって「獣化」と呟いた。すると、ポン!と音がしたと思ったら、その『尻尾』が消え、純白の体毛を持つ小さな子狼が現れた。
「ワゥ!」と一言吼えた、その声は、とても可愛かった。

 その子狼の名前はリンと言うらしい。ルシは、リンに「クーを頼むぞ」と言っていた。
(この狼の子に、私を頼むの?)
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