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ルシ伝 作者:キルナ

第1章 カノン王国の王女

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キャミと王女

 ルシ達4人は、朝から大通り歩いている。
 昨日から面倒を見ることになったクーの服やら身の回りの物を買いに行くのだ。
 今まで盗賊グループの下っ端としてスリをやらされて、その身なりは男にしか見えないような小汚い服装。年齢に見合う女の子が持つような物は何も持っていない。そのうえ奴隷商人に売り飛ばされたのだ。一から全て揃える必要がある。と言ったのはキャミだった。
 まぁそう言われれば、年齢に見合う服くらい必要なのかも知れないが……

 そういう経緯なのだか、ルシは何を買えば良いのかも判らないので、キャミ達に任せることにして、ただ後ろから付いて歩いているだけだ。

「じゃぁ、まず洋服から買いましょうか♪」
 なにやら楽しそうにしているキャミだが、シェラは面白く無さそうだ。顔をあわせるたびにシェラとクーは喧嘩になる。それでいつも、シェラは言い負かされているからだろう。
 洋服店に入って行く3人を、ルシは店の外で待っている。店の中から、なにやら奇声が聞こえるが無視だ。

 数10分待っただろうか、なにやら3人は大量に買い込んで店から出てきた。まったく興味なさそうなルシだったが、その後、雑貨屋、道具屋など散々付き合わされ、少々うんざりしているようだった。
「てかさぁ、今日使ったお金、またキャミに借りるつもり?」
「ん? あぁそういやそうなるか……」
 ルシはお金のことなど、なにも考えていなかったようだ。
「あんたねぇ、どこまでキャミに甘えるのよ? だいたい買い物について来ても全然役にたたないんだし、そんなに暇なら依頼でもこなして、少しは金返しなさいよね!」
 キャミは困った様子だが、当の本人、ルシはまったく意に介さない。
「そんなに言うなら、お前がお金稼いで来い。ご主人様に命令するな」
 とんでもないことを言い出すクーである。
「はぁ? だれの買い物してると思ってんのよー っとに可愛くないわねぇ!」
「ヒステリーな女だ……」
「むぐぅ……」
 相変わらず喧嘩する2人に、冷や汗のキャミ、知らん顔のルシである。

 あらかた買い物も終わり宿屋『山猫亭』に戻ると、ルシを1階の酒場で待たせて、3人は2階に上がっていった。ルシは女将が見当たらないので給仕にエールを頼む。

「お待たせー。エールお持ちしました!」
 猫獣人の給仕がエールを運んできた。見た目は頭に猫の耳があるだけで、いたって普通の人間風。その見た目の年齢は15,6だろうか。普通といっても、かなり可愛い部類に入るだろう。赤い髪はウェーブが掛かったショートヘア。目は金で大きく、小さな口は笑うと牙が少し見える。スタイルはスレンダーだが、メリハリのある女性らしい体つきで、この猫娘目当ての客も多いかもしれない。しかし本来は獣人である。うかつに手を出せば怪我ではすまないだろう。

「えっと、お客さんの馬、なんて名前?」
 給仕がニコニコしながら聞いてきた。
「ブライだ」
「ブライかぁ。カッコいいなぁー、少し普通の馬より大きいよね?」
「あぁ……」
「……えっと……反応薄いなぁ。私嫌われてる?」
「いや、そういうことは無いが?」
「そう? ならいいんだけど…… えっと私、たまにブライに話し掛けるんだけど、なんか言葉が判るみたいで、もしかして普通の馬じゃないの?」
「あぁ普通の馬じゃない。スレイプニルの血を引いている」
「スレイプニルってなに!?」
「んー簡単に言うと神々の馬だな」
「うわぁーそうなのかぁ、どうりで普通の馬と違うと思ったぁ。……今度乗っても良いかな?」
「あぁブライが乗せてくれるならな」
「やったー! サンキュー あ、私サラっていうんだ、よろしくね♪」
 そういって猫獣人のサラは、大喜びで仕事にもどっていった。

「あぁ言ったが、ブライが乗せるとは思えないがな」
 とルシは呟いていた。

「あら、ルシさん今日は1人かい?」
 どこからか帰ってきたのか、女将がルシを見つけて話掛けてきた。
「あぁ、3人なら上にいる」
「なんかしてるのかい?」
「さっきクーの買い物に行ったんで、今着替えてると思うが」
「そうなのかい、そりゃ楽しみだねぇ、あっはっはっ」
 と、笑いながら去っていく。

 その後20分程して、やっと2階から3人が降りてきた。
「……」
「お待たせしましたぁ♪ どうですかルシさん?」
「驚いたでしょ? これが孫にも衣装って言うのよ! って、なに固まってんのよ!」
「……いや、お前クーなのか? まるで女の子じゃないか」
 クーは頬を桜色に染めて俯いてしまった。
「ル、ルシさん! なんてこというんですか!?」
 珍しくキャミが怒っている。シェラは笑っているが。
「いや、見違えた……」
 女将と店主、給仕のサラまで、クーに駆け寄ってきて、べた褒めするから、余計クーの顔が真っ赤に染まっていった。

 元を知ってるものは流石に驚愕ものだろう。たしかにまだ12歳と子供で、体型的にも女性としてはまだまだなのだが、エルフの血が入っている所為で、とにかく美形なのだ。銀に近いグレーの髪も艶があり、左右に少し尖った耳が見えている。肌は少し濃い小麦色、銀の瞳は切れ長で、少し吊り上り、細い鼻筋、小さな唇には紅を差している。その上、着ているものは真っ赤なドレス。所々にレースでバラの様な飾りが付いている。いったどこのパーティーに出席させるつもりなんだ。という感じである。

 さらに何度か2階に行き、降りてくる度に着替えている。酒場は今や、クーのお披露目パーティーの様相で、すべての客から歓声を受けるクーだった。クーも最初は照れて顔を真っ赤に染めていたが、だんだん慣れてきて笑顔を見せるようになった。が、最後には……
「私は、ルシさんに『奴隷』として買われ、幸せです」とわんわん泣き出す始末である。

 その言葉に酒場の客達が一瞬静まりかえったが。
「こんな可愛い娘を奴隷だとぉ!」
「どこのどいつだぁ! ぶっ殺してやる!」
 などと客達が騒ぎ出し、一時酒場は騒然としたが、女将と店主がなんとか事情を説明し、事なきを得た。シェラだけは大笑いであったのだが。

 結局、クーが落ち着かないと言うので、シェラ達の様な冒険者風の格好に落ち着いた。しかし今までの様に男の子に見える様なことは無かった。

「そういやぁあんた、またキャミに借金増えたねぇ」
 と嬉しそうに言うシェラ。
「まさか、お金借りるだけ借りて、念書も書かない気?」
「えっえええー、いいよー」
「そういうのはきちんとしないと駄目なの! それに担保くらい取らないと」
「そ、そんなのいいってばぁ」
「うむ、たしかにそうだな」
 ルシもそれに納得の表情を示す。シェラは冗談で言ったのだが、納得されて困り顔だ。

「その担保なのだが、これを見てもらえるか?」
 そう言って、ルシはペンダントを取り出し、キャミに見せた。
「「あっ」」
 2人がそれを見て眼を見開き、「あんぐり」という擬音が聞こえてきそうな口を開けて、固まっている。その時間およそ10数秒。
「売りたくは無いんだが、かなりの価値があると思う、担保にならないか?」
「い、いえ、あのー、ルシさんは、こ、これを何処で手に入れたのでしょうか?」
「ん? どうしてだ?」
「そのーここではちょっと……」
(……やはり曰くありか、ならここじゃまずいな……)
「ん? あー……じゃオレの部屋にいこうか?」
「えっ?」
「ちょっとー、あんたキャミを部屋に連れて行ってどうするつもり!」
「おまえもだ」
「え?」
 シェラは、この展開で、あらぬ勘違いをした自分を恥じた。

 そう言ってクーを女将に預けて、3人はルシの部屋に行くことにした。
 クーが切なそうな顔を向けるが、仕方が無い。

 ルシの部屋はベッドとテーブルと椅子が一つ、あとは小さな収納スペースが備えてある程度。その椅子にルシが座り、2人をベッドに座らせた。

「さっきの話しの続きだが」
 ルシはそう言って、ペンダントをテーブルに置き、言葉を発した。
「これは、礼として受け取った物だが、なにか曰くがありそうだな?」
「曰くと言うか、それは……」
「それより!、それを何処で! 何時! 誰から貰ったのよ!」
 言い難そうにしているキャミに代わりシェラ。その手は硬く握られ震えていた。

(こっちから先に言った方がよさそうだな)
「オレは先日この王都に来たんだが、その道中で、山賊に襲われている馬車を偶然助けた。その馬車に乗っていた貴族のお嬢さんに、この王都まで護衛してくれって頼まれたわけだ、で、別れ際に、お礼だと言って、これを渡された。それと素性は言えないと言っていたが、確か名前はキャノだったか? 私にはもう必要ない品だとも言ってた」
 キャミの体がガクガク震えている。その手はペンダントを握り締め、眼には涙を浮かべている。
「さぁ、次はそっちだ、説明して貰おうか?」
「「……」」
 2人は何も言葉を発せないようだった。

「そうか……、まぁ言いたくないなら言わなくてもいいさ。だが担保にも使えそうにないな。ってことで、これはオレには無用の物だ、お前らこれの持ち主を知っているようだし、返してくれるか?」
 そう言ってペンダントを渡そうとしても、受け取らない。ただ震えているだけだった。
「キャミ……」
 心配そうにシェラがキャミの肩を抱いている。
「私が言うね?」
 シェラがそう言うと、キャミは小さく頷いた。

 シェラが話した内容はこういうものだった。

「つまりこういうことか? あのペンダントの持ち主は、キャノ・フォレスト・カノン。カノン王国の第1王女で、キャミの腹違いの妹。で、キャミの本名はキャミ・フォレスト・カノン。本来なら第1王女として生を受けたはずだが、母親がエルフだったため、公式には発表されず、その存在すら、よほどの側近しか知りえなかった。そんなキャミが城の外に出れるはずも無く、城内ですら王家専用区域から出ることは許されなかった。シェラはキャミと歳も近いということでキャミの侍女になった。隙をみてシェラを連れ城を逃げ出した。姉妹だった2人は同じペンダントを持っていた」

「はい……」

「てことは、キャミもハーフエルフか? しかしその耳を見ると、エルフとしての特性はほとんど出なかったってことだな?」

「はい」
「てか、キャノ姫様がこの国にいらしてるってことよね? なんで?!」
 シェラが今ごろ気がついたように、身を乗り出し迫るように聞いてくる。
「さぁ、オレはしらん」
「知らないって、あんたねぇ…… なんで聞いとかないのよ!」
「……」
「じゃぁそれって何時のこと? 何日前?」
「2日前だ」
「ええっ!」
「ど、どうして、キャノがこのビズルトラ国に……」

-----------

 シェラとキャミの2人は自分達の部屋に戻っていた。

「キャノが、あのペンダントを自ら手放すなんて信じられない」
「うん、じゃぁルシが嘘を言ってるってこと?」
「そうは思いたくないけど……」
「たしかに、ルシは何考えてるか判らないし、無愛想だけどね、でも人を騙したりする奴じゃないと思うよ?」
「それは判ってるよ。でも、なにかの事情で話せないとか?……」
「事情って?」
「判らないけど……」
「そっかぁ、じゃこの件に関しては、2人だけで動こう」
「えっ?」
「少しでもルシに疑問を抱いてるなら、あいつには相談できない、そういうこと♪」
 そういってウィンクするシェラだった。
「シェラ……」

 そして2人は、考えうる可能性をいくつか出してみた。あらゆる可能性を吟味してみたが、結局2人の取れる行動は限られていた。

 そして2人はルシに伝言を残し、ディアークを後にした。故郷カノン王国を目指して。
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