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ルシ伝 作者:キルナ

第1章 カノン王国の王女

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盗賊クー

第四章をダブって更新していました。
読んで下さってる方、申し訳ありません。
 ルシは宿屋に戻り、腰の剣をベッド脇に立てかけ、そのままベッドに腰を降ろした。そして3日後の出発までの間、どうしようかと思案していた。
(そういや金が少ないな。もう一度ギルドにいって依頼でも見てみるか……)
 と、金が無くなった原因の、ミスリルの剣を手に取り、鞘から抜いてみた。
(むぅ……ぼろぼろ、だな……)
 ゴブリンを40ほど切り殺したのである、いくらミスリル製でも、その刃は血糊で汚れ、刃こぼれもあるだろう。
(あの金髪に魔力付与をさせればよかったか…… こりゃギルドの前に鍛冶屋だな)
 ルシは思い立つと行動が早い、剣を腰に挿し、即刻鍛冶屋に向かうことにした。

 宿屋の1階『山猫亭』で、主人にドワーフの職人がやってる鍛冶屋を教えてもらい、宿屋を出た。先日女将にある程度の店の情報は聞いていたが、その時点でドワーフの鍛冶屋に用ができるとは考えていなかった。

 ミスリルは特殊な金属の為、加工が難しい。ドワーフ族にのみ伝承される技術が必要なのだ。
 鍛冶屋は、ミスリルの剣を購入した武器屋のすぐ近くだった。
「この剣の修理を頼みたいのだが」
 ルシは腰の剣を鞘から抜くと、その刃をドワーフの職人に見せた。
「なんじゃこりゃ!……どれだけ手入れをしてないんじゃ!」
 無愛想に黙って剣を受け取ると、ドワーフは刃を見るなり声を荒げた。
「たのめるか?」
 そんなドワーフの態度を、まったく意に介さず、ルシも無愛想に言ってのける。
「うむ、明日の昼に取りに来い」
「わかった、じゃ頼む」
 そう言って店をでた。ルシの無愛想度もドワーフに負けていなかった。

 店を出ると、横合いからいきなり小さな子供がぶつかって来た。軽く体を開き、それを躱すが、その手はルシの腰にある革袋をつかもうとしていた。すかさず、その手を捻り上げる。
「いたたたたたっ!痛いって!」
(痛がるほど、力はいれてないだろ……てか、細いな…)
 やけに細いと思い、よく顔を見る。その服装や、深めに被ったフードから、一見少年だと思ったが、よく見れば少女だった。
 仕方なく少し力を緩めてやった。しかし手は離さず。
「は、はなせよー」
「離せ? それがスリに失敗したやつのセリフか?」
「な、なんのことだよ……」
 少し殺気を込めて睨むと、心底恐怖を感じた様に、下を向いてガクガク震えだす。
(やけに殺気に敏感だな……余程怖い目にあってるのか?)
 よく見れば腕や脚に痣が見える。
 ルシは「逃げるなよ」と言って手を離してやった。
 その少女は、逃げなかった。まだ震えている。
「なぜ、こんなことしてる?」
 殺気は完全に消して、優しく聞いてみたが、俯いたまま答えない。
「お前なら、オレから掏れるかどうか位、想像がつくだろう?」
 ルシはその少女の身のこなしから、それくらい判断できる力量はあると思った。
「お、お前が、無防備に腰に吊るしてるし、焦ってたから、つい……」
「……なるほど、お前達の犯罪を助長してたわけか」
「……」
「……ほら、これを持っていけ」
 そう言ってルシは自分の腰の袋は差し出した。
 その少女は、少し驚いた表情を見せ、革の袋をジッーと見詰め、そして、そぉーっと手を伸ばした。が、袋を取らずに手を引いた。
「オ、オレは、乞食じゃない」
 そう小さく呟いた。その顔は歯を食い縛り、悔しさに歪み、涙を浮かべていた。
「そうか、わるかったな」
 自分の言動が、その少女を傷つけたと知り、素直に謝っていた。
 少女は、すっと立ち上がり、一瞬ルシを睨んで、そのまま走って逃げていった。ルシはそれを黙って見送ることしか出来なかった。そしてそんな自分に少し驚いている。
(オレは今あやまったのか? 今までこんなことあったか?……)

 ギルドにやってきたルシは、受付係りにランクC以上の依頼がないか聞いてみたが、ソロで出来る様な依頼はなかった。すべて人数指定がされている。前回のヒュドラの時の様に、依頼を受けずに倒してくる事も可能だが、あまり推奨されることではないので、止めておく事にした。

 仕方なく他の依頼から探そうと、壁に目を向けると、一際大きな張り紙が目に入った。そこには、『ビズルトラ王国主催、武闘大会』と書いてあった。その内容を見てみると。
 大会日程、大会場所、年齢制限、ルール、注意事項、等など事細かく書かれていた。その中でもルシが気になったのは、日程と賞金、特に副賞である。開催日は今から一ヵ月後、優勝賞金は1000万Gとなっている。そして副賞は、騎士叙勲と魔剣であった。それも、ただの魔剣ではなく、500年前の聖戦で魔王が所持していた物らしいのだが、条件として、『所持出来る者』とある。理由は普通の人間は魔剣に魔力を吸い取られ、倒れてしまうか下手をすれば死に至るらしく、今まで所持できた者は居なかったらしい。

 早速、受付に行き、大会参加の書類に必要事項を書き込むルシであった。

『山猫亭』に戻ると、またもシェラ達が飲んでいた。「こっち!こっち!」と手を振っている。チラッと目線を向けるが、女将に『食事はあとで部屋に頼む」とだけ言って2階に向かった。
「ちょっとー! なに無視して行こうとしてるわけ!?」
 そう言って、無理やり袖を引っ張られテーブルに連れて行かれた。
「なんか用か?」
「あんたねぇ!、『なにか用か』じゃないでしょ? こんな美人が居るのに、無視して行くってどういうこと? 説明しないさいよ!」
(こいつまた酔ってるのか……)
「別にそういうつもりは無いが……」
「っとに無愛想なんだから! フン!」
「シ、シェラー……」
 シェラは拗ねたのか横を向いてしまった。

「あんたも大変だねぇ、あっはっはっ! で、エールでいいかい?」
「あ、あぁ、頼む」
 女将は面白がっているが、ルシは仕方ないので、渋々座ることにした。

「あ、それで今日は何処に行ってたんですか?」
 珍しくキャミが話しかけてくる。シェラが不機嫌なので、気を使ってるのだろう。
「ん? あぁ剣の修理とギルドにな」
「また、ギルドに行ったのですか?」
 不思議そうな顔でキャミが聞いてきたが、シェラはまだ横を向いたままだ。
「まぁ、ちょっと金が無くなってきたからな」
「そうなんですかぁ…… なにか依頼うけたんですか?」
「ん? あぁ依頼な……」
(そういえば、依頼わすれてたな)
「……?」
「受け忘れた……」
 答えを待ってるようなので、仕方なく答えるルシ。
「あら……」
「はぁ? やっぱりあんた馬鹿ねぇ きゃはっはっはっ!」
 してやったりと、急に元気になるシェラだった。

「そ、そういえば、今日スリにあったんですよ」
 またしても、話を変えようとするキャミ。
「そうそう! ばっかなガキでさぁ、とっ捕まえてカード確認してやったよ!」
「それ不思議に思ってたんだけど、どうしてカードの確認したの?」
「ん? あぁ一応本人の自己申告だけど、身分証明書じゃん? なら知ってて損はないじゃん?」
 意味が理解出来ないのか、キャミはまだ首を傾げている。
「えっとね、あいつらって結構情報もってたりするのよねぇ、それに持ってなくても、調べるのが得意なわけよ。 だから必要なとき利用したいじゃん?」
 キャミはその言葉を、まだ首を傾げたまま考えている。

「そのスリってどんな奴だ?」
 珍しくルシから会話に入ってきたので、2人とも驚いてルシの顔に視線を向けた。
「えっとねぇ、カード見たから知ってるんだけどぉ」と小声で説明を始める。
「年齢は12、ハーフエルフの女で、って言っても肌から見てダークエルフが混じってるかもだね。深めにフード被ってて、最初は男だと思ったんだけどね、だからおもっきり、ひっぱたいちゃったよ、あっはっはっ」
 最後には、いつも通りの声にもどっていた。
「そうか……」
 ルシの態度が妙だったのか、「それがどうかした?」と聞いてきた。
「いや、そいつならオレも会ったかもしれない」
「えええっ? どういうこと?」と興味深々で聞き返して来た。
 その時の状況を説明していると、会話を聞いていたのか、女将が近くにきて、「それはちょっとやばいねぇ」と眉間に皺を寄せている。

 女将に言わせると、その子は多分、盗賊ギルドに所属していても、その中の悪どい連中に利用されてるんじゃないかと言うことだった。ほとんどの上前を撥ねられて、稼ぎが無い日は殴る蹴る。ルシが見た痣はたぶんそれだと言う。
 それを聞いたキャミなどは泣きそうな顔をして、「取られてあげれば良かった」等と呟いていた。
「それに立て続けの失敗ってなるとねぇ……」
 女将の話はまだ続きがあった……

 ルシ達3人は『飛竜亭』と言う酒場に向かっている。ルシは1人で行こうとしたが、シェラとキャミの2人が、どうしてもついて行くと聞かなかったからである。酒場に着いたルシは、おもむろに扉を開けた。中に入ると眼つきの悪そうな連中が一斉にルシの方に視線を向ける。最初に店に入ったルシを見て、店の外まで聞こえていた喧騒が一瞬静まり返ったが、続いて店に入ったシェラとキャミを見て、なにやら奇声を上げ、さらに五月蝿くなったようだ。

 店内を見回してから、カウンターに向かい、中の男に「クーという娘は居るか?」と聞いた。男は、胡散臭そうな顔をして「あん? クーだ? しらねーなぁ」と、さっさと仕事に戻ろうと後ろを向いた。
「ちょっと! そん……」
 シェラが何か叫ぼうとしたが、途中で声は止まっている。ルシが、いつのまにかショートソードを抜いて、その男の首筋に当てていたのである。
 酒場内の喧騒がまた止み、静寂が広がった。酒場に居る誰もが凍りついたように動かない。いや、ルシが発する殺気に誰一人動けないのである。シェラとキャミでさえ。

「娘は何処だ? 2度は言わんぞ」
 とても静かな声音だった。
「こ、ここには居ねぇ……」
 男は声がひっくりかえり、その体はガクガク震え、今にも膝から崩れ落ちそうだった。
 ルシは剣を持つ手に少し力を入れた。男の首から赤い筋がにじむ。
「2度は言わないと言ったな?」
「ま、待て、い、言うから、待ってくれ。ゲ、ゲイルの屋敷だ」
「それは何処だ?」

 その男の案内で、ゲイルの屋敷に着いたルシ達は、制止する執事やメイドを無視して屋敷内に入ると、「ゲイルはいるかぁー!」と叫んだ。



 今また、ルシ達は『山猫亭』でテーブルを囲んでいた。女将も一緒にである。
「しっかしさぁ、『飛流亭』のルシ、まじびびったよねー」
「うんうん、怖くて怖くて心臓止まるかと思っちゃいました」
 豪快にワインを煽りながら、けたたましく喋るシェラと、同意するキャミ。
「そうなのかい? あたしゃーあんた達が、心配で心配でどうしようもなかったよ」
「実際、女将さんの危惧どおりだったしねぇ」
「ん? あぁ、奴隷商人に売られるかもって話かい?」
「うん、それで、あわてて奴隷商人のゲイルんとこ行ったんだしねぇ」
「『飛竜亭』もそうだけどさ、奴隷商人の屋敷でも、傭兵がびびって凍りつくなんて前代未聞だよねぇ、情けなくて笑っちゃうよーあっはっはっ!」
「おまえだって、凍ってたくせに……」ぼそっと呟くクー。
「う、うっさいよー! てかなんだその態度? 誰に助けられたと思ってるんだ!」
「お前は関係ない!」
「くぅ、かっわいくねーガキ!」
「それより、どうやって、この子連れて帰れたんだい?」
「えっとですねぇ、その奴隷商人の、ゲイルさんって方のお屋敷に着いた時、ちょうど、クーちゃんが売られたとこだったんですよ。それで、ルシさんなんて言ったと思いますぅ?」
「なんて言ったんだい?」

「『お前が買った金額の10倍だすからオレに売れ!』ですよー。もうビックリ仰天しちゃいましたよー」

「金も無いくせに、なにが10倍だよ! 馬鹿じゃん!」
「ええっ? 10倍って、お金はどうしたんだい?」
「えっとぉ、そ、それは私が立て替えました……」
「嬢ちゃん、どんだけ金持ちなんだい……」
「きゃはっはっはっ! 今思い出してもわらっちゃうわよ!」
「おまえ、五月蝿い! ご主人様を笑うな!」
「「「「な!?」」」」
 ルシ、シェラ、キャミ、女将、4人が驚愕の表情でクーを見た。
「クーは、俯いてしまった」
「今なんて?」
「ル、ルシ様は私を買ったのだから、ご、ご主人様です……」
 これには流石のルシも無表情では居られなかったようだ。
「お、おい、オレはお前に『もう自由だから、盗賊もやめて好きにしろ』って言ったはずだが?」
「はい、ですから、今日からご主人様の奴隷として生きます」
 そう言って恭しく頭を下げるクーである。
「それに、私は『飛流亭』の地下倉庫に住んでたので、もう住むとこもないですし……」
「ちゃんと最後まで責任もちなさいよねーきゃはっはっはっ……」

 結局ルシは、クーの面倒を見ることになった。クーはあくまで奴隷として仕えるつもりのようだが……。
 そして、クーの泊まる部屋が必要になり、さらにキャミにお金を借りたルシであった…… 
 クーはルシと一緒の部屋でいいと言ったが、「これは命令だ」と言って無理やり隣の部屋を取ることにしたのだった。しかし、『ご主人様』という呼び方は、命令だから止めろといっても『断固拒否します』と譲らない。なかなか頑固な一面を見せたクーであった。
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