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ルシ伝 作者:キルナ

第2章 

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キャノ王女が大使

 毛足の長い真っ青な絨毯が敷き詰められた広壮で豪奢な一室。カノン国国王の私室である。
 その室内にある真っ赤なビロード地のソファーには、その国王と王妃が座り、豪奢なテーブルを挟んで麗しき両王女が座していた。

 口を開いたのはカノン国第二王女であるキャノ王女だった。
「お父様、どうかモリリス王国への大使の任、わたくしも同行させて下さい」
 凛とした声には、はっきりとした決意が込められている。
 王妃は両目を見開き、その手で口を押さえ驚きを隠せないようだ。しかしカノン王は微動だにせずジッと遠くを見る目をしていた。そして落ち着いた口調で思いを伝える様に言葉を綴る。
「お前達どちらかがそう言うであろうと思っていた。……いや、2人共が言い出すのではないかと心配していたくらいだ。――――さすがに2人同時に行かせる訳にはいかぬがな…… しかしキャミよ、お前はそれで良いのか?」
「……はい、わたくしは第一王女です。キャノの代わりが出来るとは思いませんが、国の為、国民の為に……働きたいと思います」
「お姉様……」
「キャミ……」
「うむ、よくぞ申した。……ならばキャノよ、大使の任、お前に任せる。気をつけて行くのだぞ」
「……はい」

 カノン王はゆっくり立ち上がると、窓際まで歩み寄った。そして外の景色、王都を見下ろしながら語りだす。
「この国はお前達2人を必要としておる。どちらかが欠けても駄目だ。もはやわしに出来ることは殆ど無い。……わかるな?」
「「そんなことは……」」
「フッ」とカノン王の口から小さな笑みがこぼれ、さらに言葉を繋げる。
「気を使う必要は無い。――だが……わしはまだ国王の座から降りるつもりは無い。お前達はあくまでわしの片腕となれ。良いな?」
「「はい!」」
 力強い返事だった。
 その後少し親子らしい会話があったものの、すぐに両王女は部屋を出て行った。
 この両王女には、まだゆったりした時間を過ごす事は許されていないのだ。

 部屋に残ったのは国王と王妃の2人だけである。
 王妃が窓際に立つカノン国王に歩み寄り、そっとその腕にしがみ付く様に身体を寄せる。
「陛下、あの様な言い方をされては誤解されてしまいます」
「なにをだ?」
「……わかっていてそう言う事を言うのですね……」
 王妃は拗ねたような口調でカノン王を横目で睨んでいる。
「フッ、お前には適わぬな…… だが、嘘は言っておらぬ。まだわしにしか出来ぬ仕事がある。いや、あの2人には絶対にさせられぬ仕事だ」
「………………はい。ですが、その時はわたくしもご一緒します」
「……駄目だと言っても聞かぬのであろうな……」
「当然ですわ」
「お前にはあの2人を見守ってやって欲しいのだがな……」
「……」
 国王と王妃は寄り添ったまま、少しだけ無言の時を過ごした。


 時を同じくして、ここはキャノ王女の私室である。
「お姉様、ほんとにごめんなさい……」
 部屋に戻ったキャノは、突然キャミに向かって大きく頭を下げた。その勢いで煌く黄金の髪がふわりと背中から前に流れ落ちた。
 そんなキャノにキャミは笑顔で優しく言葉を返す。
「どうして? キャノが正使を務めることは当然だと思うわよ?」
「ですが…… やはりお姉様の気持ちを考えるとわたくしは……」
「私は嬉しいのよ。貴女が自分自身の為に行動することが嬉しいの」
「……?」
 可愛く首を傾げるキャノは、その大きな瞳でキャミを見つめる。
「ふふっ。誤魔化しても駄目よ。キャノはルシさんの事が好きなんでしょ?」
 とたんに頬を真っ赤に染めるキャノ、慌てて俯き否定の言葉を口にする。
「そ、そんなことありませんわ。た、たしかに、す、素敵な方だとは思いますが……」
 そんな否定の言葉は聞こえていないかの様にキャミは言葉を続けた。
「キャノは今まで人の事ばかり、国民の為、わたしの為、お父様の為、いつも自分を犠牲にして来たわ……」
「そんなこと……」
「いいから聞いて。お父様はああ仰ったけど、本当にこの国に必要なのはキャノあなたよ。わたしは駄目…… 国に残りお父様を助けるのも、正使としてモリリス王国に行くのも、どちらもキャノが適任なの。でも、両方は出来ない、だからどちらかを選ぶしかないわね? キャノが正使を選んだのは何故?」
「それは……」
 答えあぐむキャノの代わりにキャミが自ら答えを口にする。
「ルシさんに会えるかもしれない、からでしょ?」
「…………」
 キャノは否定をしない。肯定と取れる沈黙である。
 キャミは更に言葉を続けた。
「今までのキャノなら、迷わず私に譲ったわよね? でも、ほんの一瞬でしょうけど、ルシさんに会いたい気持ちが勝った。だからつい、「行きたい」って言っちゃった。違う?」
「…………」
「ほんとは、もっと堂々と言って欲しいの。「わたくしに行かせて下さい。ルシ様に会いたいんです」って胸を張って言って欲しいの。たまには我侭言って欲しい。わたしはあなたの姉なのよ? 妹が姉に甘えるのは当然のことでしょ?」
「お姉様……」
 キャノはキャミの胸に飛び込んでいた。声は殺しているが、その瞳から涙が幾筋も頬を伝い絨毯を濡らしていた。
 国王の私室と同じ様に、こちらでも、短い時を2人が抱き合っていた。


 キャノ王女のモリリス訪問が決まると、護衛の任に付く者を選ぶ必要があった。

 シェラ達戦乙女騎士隊が同行すると申し出たものの、「君達だけでは不安が大きすぎるね、それなら俺1人のほうがまだマシだよ」そう言ってヴァルザードが自ら志願したのだった。
 シェラは悔しそうな表情をしていたが、言い返す言葉が無かったようだ。たしかに騎士隊全員よりヴァルザード1人の方が遥かに強いのだ。
 しかし、言い返すことが出来ない代わりに、しっかり嫌味の言葉を吐いていた。
「へぇ、ヴァルザード団長は胸の大きな女性が好みだと思ってましたわ。まさか、まだお若いキャノ王女の護衛を申し出るなんて、女性なら誰でも良いんですね」
 体面があり言葉使いは丁寧だが、内容が危なすぎる発言である。
 ヴァルザードに対してもそうだが、キャノ王女に対しても不敬と取られても仕方の無い言い様なのだ。しかしキャノ王女は苦笑をするだけである。
 他の者たちもシェラのこう言う言動に最近は馴らされ、呆れ顔である。
 ヴァルザードは前回の敗北があるので、負けじと言い返している。
「失礼なことは言わない事だね。俺にだって好みはある。誰でもでは無くて、美女なら誰でもだよ。その辺をちゃんと理解してくれたまえ」
 シェラの表情が、してやったり、と言った冷笑に変わっていく。
 ヴァルザードは完全に墓穴を掘ったことに気が付いた。しかし時すでに遅し。
 いまや皆が軽蔑の眼差しをヴァルザードに向けていた。

 キャノ王女がヴァルザード他数名の騎士と共に旅立ったのは翌日の事だった。

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