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ルシ伝 作者:キルナ

第2章 

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戦乱へ

 ディーエス山脈の南にあるビズルトラ領とカノン領を結ぶ街道。そこは以前ビズルトラ国がカノン侵略で国王を失った辺りである。だからといって国王の墓碑があるわけでもなく、これといった名所になっているわけでもない。今はたまにビズルトラを捨てカノンに亡命する人々が通る程度で、切り立った崖と波高な岸壁に挟まれただけの街道の一箇所に過ぎない。
 そんな場所に1人の女性、いや少女だろうか? が何時間も立ち尽くしている。
 岸壁ギリギリの波打ち際に立つその美少女は、下から吹き上げる潮風でスカートが煽られる事など欠片も気にしていないようだ。
 その美少女、顔だけ見れば15,6。しかしその9頭身の身体はすでに少女のそれではなく、艶やかな銀髪と真紅の瞳、揺らめくスカートから覗く妖艶な脚のラインが特に印象的である。

 何時間も瞑想するかの如く立ち尽くしていた美少女がなにやら呟いた。
「……やはり、もう何も感じられない」
 凛としているが、どこか儚げで哀愁を帯びた声だ。
「しかし――確かにここにあの方の魔力の痕跡はあるのだ」
 数秒の時を挟んで言葉はさらに続いた。
「……だが、ここを最後にその痕跡は消えている――なぜだ……」
 誰かに問いかけているのだろうか? しかし少女の他には誰も見当たらない。


 ルシ達が旅立った翌日のこと。
 カノン王国の主城ヴァイスレーヴェ。その一室で緊急の軍事会議が行われていた。
 各地に散らばる斥候の内、ビズルトラ南方にある小国群の動向を探っていた者たちからの報告が緊急性を要したからだった。

 悲しみに涙する暇も与えられない。それが一国の王女たる宿命なのかもしれない……
 しかしそれが彼女達には良かったのかも知れない。一時でも悲しみを忘れられるのなら。

「うむ、5カ国が合同でビズルトラを攻めると言う事か。それは確かなのか?」
 真剣な面持ちで述べているのはヴァルザードである。
「はっ! それぞれの小国を探っていた者たちは皆一様の報告書を持って帰っております。まず間違いないかと……」
 報告をしたのは室内の扉付近に立つ一介の騎士のようだ。

 ビズルトラ南方の小国群。
 広大な領地を持つビズルトラ国の南には小さな5つの国が存在している。国と呼ぶには小さすぎるその国々は5つが合併したところでビズルトラの半分にも満たないだろう。そんな国々が今まで存在していたのは、その小ささ故と小国同士の結束力の高さ、ならびにビズルトラ国の北にそびえるノルフォルテ山脈を越えた地域の小国群の存在も大きかったかもしれない。あくまで憶測であるのだが。

 その報告でカノン王国は一時騒然となった。この500年の間、小国から5大大国に進軍するなどという事は一度も無かった事だ。もちろん5大大国側から小国への進軍も暗黙の了解のうちにほとんど行われなかった。エプソニア大陸はそれほど安定期だったと言えるかもしれない。
 しかし近年、ビズルトラ国のみがその暗黙の了解を犯しつつあったのだ。大陸最大と云われる軍事力を誇った所為かもしれないが、その王の資質が一番の要因であると言うのがもっぱらの噂である。
 それが今、反対の立場となりビズルトラが小国に攻め込まれると云う、前代未聞の出来事が起こりつつあった。いや、起こっていると言った方が良いかもしれない。
 そしてそれを迎えうつだけの力が今のビズルトラには無かった。

 だが問題はビズルトラ国だけに留まる事ではない。ビズルトラ南の小国群が動き出したという事は北の小国群も動き出すと考えるのが当然であった。小国は自国の小ささ故その繋がりは強かった。その南北の小国が1つに纏まり広大なビズルトラ領を一手に収めればビズルトラに勝るとも劣らない一大大国が生まれることになる。

 他の4大大国の動静如何によって大陸全土を巻き込む戦乱の時代へと突入しかねないのだ。

 軍事会議が行われる一室では、皆一様に厳しい面持ちで思案しているようである。

 静まり返る中、カノン国王が自ら言を発した。
「皆に問いたい。我カノン王国はどのような体制で臨めばよいだろうか?」
 皆が自然と俯き加減になっていく。国王の問いに答えられない自身を恥じているのかもしれない。しかし堂々と手を挙げ発言を求めた者がいた。
「うむ、ヴァルザード殿、なにか良い案はあるかな」
「はっ、愚策かも知れませぬが、ここは砦の強化のみを行い、他国の動静を見るだけに留めるべきかと思います。もちろん他の3大王国とは直ちに連絡を取り合う必要はございますが」
 室内がざわめきだす。特に武官達には気に食わないようだ。
 上将軍の1人フォルティスという男が挙手もせず立ち上がると、突然罵声を浴びせてきた。
「ヴァルザード殿ともあろうお方が何を申される! たかが小国群などに恐れをなしては、我国はとんだ笑いものになるわぁっ!」
 それに賛同するように多くの武官から「そうだそうだ」と言う声があがる。
 しかし文官達はヴァルザードの意見に概ね賛成の様である。
 その理由は違うものかもしれないが……

 1人の文官がおもむろに挙手し発言を始めると、室内は更なる意見が飛び交うようになる。
「我カノン王国は今、多くの難民を抱え財政難にございます。とても遠征など出来る状態ではありません。今は情勢を見るのが一番かと思われます」
「馬鹿なっ! そんな事をしていればビズルトラ以上の脅威を作ることになるのだぞ! ここは此方から攻めべきだ!」
「簡単に攻めると申されるが、軍事費もまま成らない今、どうやって遠征するのです?」

 武官達の意見はこうだった。
 ビズルトラに進軍する小国は城の守りが手薄になる。そこを攻めて城を奪えば財政も潤う。さらに余力があればビズルトラに向かう軍勢の背後を突き、ビズルトラ軍との挟撃で一気に攻め滅ぼすと言うものだった。

 黙って聞いていた両王女だったが、とつぜん2人同時に立ち上がった。我慢の限界だったのかもしれない。しかしそれを制したのはカノン国王であった。
 両王女を制したカノン国王はおもむろに立ち上がると。テーブルに両の手を力いっぱい叩き付けた。
 騒然としていた室内は一気に沈黙へと変わる。
 皆が静まり返った中、国王が静かに、しかし力強い言葉で口を開いた。
「このワシに居留守を狙うこそ泥の様な真似をしろと申すのか? この歴史あるカノン王国にそんな汚点を刻めと申すのか?」
 武官達は項垂れてしまった。
「どうなんだ、フォルティス。なんとか申してみよっ!」
「はっ…… 失言でした。返す言葉もありません」

 更なる怒りをぶちまけようとする国王を、こんどはキャノ王女が制した。
 そっとカノン国王の手を握り「それぐらいでお許しを」と、小さく囁いたのだ。
 カノン国王は薄っすら涙を浮かべるキャノの顔を見て怒りがすぅーと治まったようだ。そのまま席に座ると、代わりにキャノ王女が立ち上がる。
 キャノ王女は武官達を見渡しゆっくりと優しい声音で語りかけた。
「フォルティス様。そして他の武官の方々も聞いてください」
 室内にいる全ての視線がキャノ王女に注がれる。
「フォルティス様達の危惧するところは分かります。確かにカノン王国は『弱国』などと非難されるかもしれません。わたくしも自国が馬鹿にされるのは嫌ですわ。――ですが、『卑怯な国』と罵られるよりはマシではないですか? それにたとえ小国が纏まり大国になったとしても、わたくしたち他の4大大国が纏まれば脅威でもなんでもないはずです。あらたな5大大国の一角になって頂いてもいいと思います。今、むやみにカノン国が介入すれば戦乱を招く事になり兼ねません。わたくしの考えは間違っていますでしょうか?」

 皆が納得したわけではない。正直甘すぎると思っている。4大大国が纏まることなど不可能なのだ。新たな5大大国の一角にするなど、他の大国が許すはずが無い。もし小国が纏まりビズルトラ以上の国力を持てば、まず最初にカノン王国が潰される。そして他の3国は黙って見ているだろう。カノンを潰す際に衰退すればそこで潰せばいいと考えるかもしれない。
 とにかく一番危ないのはカノン王国なのだ。それが大半の考えであった。

 だが、この王女なら…… そう考えてしまう。
 カノン王国を1人で纏め上げ、強力な戦士を招きビズルトラを撃退にまで追い込んだキャノ王女ならと。そしてあの時誓ったではないか。
 この王女の為に死のうと……

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