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ルシ伝 作者:キルナ

第1章 カノン王国の王女

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魔獣ヒュドラ

 ビズルトラ王国の王都ディアーク。北東にエルフの森、南には広大な平原、西にミツビ川と、水と草木に囲まれた、大陸でもその大きさなら1,2を争う大都市である。

 その北東に位置するエルフの森は別名魔界の入り口とも呼ばれる。
 エルフの森の名の由来は、古の聖戦で大陸中のエルフ達が逃げ込んだことからその名前で呼ばれるようになったらしい。実際は森の奥は魔獣が闊歩し、古龍と呼ばれる地上最強の魔獣が住むとされるがそれは単なる噂だろう。さらに森の中央部にはエルフ達が隠れ住むと言われる。
 魔界の森と言われる所以は、聖戦の折、この地より魔人が出現したことで、森の何処かに魔界に通ずる道があると噂されたことによるものだった。

 ただ真実は定かではないが……

 今、その森を目指す2人組の冒険者の姿があった。
 前を歩くのは栗毛赤眼の気がきつそうな美少女、名前をシェラ。その手には荷馬車を引っ張る馬の手綱が握られている。その後ろをついて歩くのが金髪薄碧の令嬢風美少女、名前をキャミ。両手で地図を広げていた。2人ともランクDという、なかなか優れた冒険者であった。

 その2人の冒険者はディアークの東門をでて北に進み半時ほど進むと、北と東に街道が分かれる分岐を街道から逸れて森の中に入って行った。

 森に入ると、世界が一変したような異様な雰囲気に包まれている。
 木々は生い茂り、昼間だというのに日の光は、そのほとんどが葉に遮られ、あたり一面薄暗い。先ほどまで聞こえていた小鳥のさえずりも聞こえず、たまに聞こえるのは獣か魔獣の呻き声、あとは木々や草葉が風で擦り合う音のみ。
 森を知らない人々なら、その異様な雰囲気に居た堪れなくなり、すぐ引き返すのだろうが、ある程度経験を積んだ冒険者なら、どうってことはない。実際にこのあたりなら、冒険者でなくとも、マタギや、キコリ、採集や採掘目的の者も訪れる。

 しかし、2人の冒険者は、さらに奥に進んでいった。ついさっき冒険者ギルドで請け負ったグリフォン捕獲の依頼の為である。流石に少し危険な地域だ。
 グリフォンは鷲の頭と翼、胴は獅子、尾は蛇という魔獣である。大きさも体長2メートルから3メートル、その身から採れる牙や皮等の素材も貴重だが、それ以上に貴族のペットや、軍の騎乗部隊として人気なのである。
 魔獣ということで、少し危険な生き物であるが、頭脳は優秀で魔法を持って制御できれば、短距離なら人一人を乗せて空を飛べるし、走る速度も馬並みと、非常にすぐれた性質をもっていた。

「シェラーほんとに2人で大丈夫かなぁ……」
「キャミはほんっと心配性だねー、なんとかなるんじゃないのー♪」
 不安そうなキャミに対して、あっけらかんと答えるシェラ。鼻歌など歌っている。

「それよりキャミー? 森にはいってから、小一時間たつよ、グリフォンの生息地はまだぁ? ちゃんと地図みてるの?」
「そんなこと言うなら、シェラが地図みてよー」
「無理! 私は地図見れないの、どっちが上か下かわかんなくなるから、えっへん!」
 そう言って得意げに胸を張るシェラ。
「自慢しないでよ……」
 呆れ顔のキャミである。

「今、この沼地を迂回してるから、もうすぐだと思うよー」と地図を指差してシェラに見せていた。

 そのとき、沼の中央部がぼわっと盛り上がった。
 2人の視線は瞬時に、それを捉え、すぐさま戦闘体制にはいったあたりは流石である。
 シェラが腰の剣を抜き中段に構え、その後方でキャミは、なにやら呪文を唱える。

 しかし、沼から姿を現した魔獣を見て、2人は目を疑った。
 シェラは剣を落としそうになり、キャミは呪文の詠唱を途中で止めてしまっている、それほど、その魔獣の出現に驚愕しているのである。

「え、え、え、え、あ、あ、あ、あぅ、あぅ」
 驚愕の表情で、泣きそうな、悲鳴のような声を上げるのは、キャミ。

「ちょっと! 発生練習してる場合じゃない! 逃げるよ!」
 言下にもと来た道を一気に走り出す。もちろんキャミの手を引いて。この際、荷馬車は諦めるしかなかった。
 2人を恐怖に怯えさせたその姿は、5つの首を持ち、その胴体は犬の様で、背には翼の様なものもある。それはドラゴンの眷属とも言われるヒュドラであった。
 ヒュドラの持つ毒気で、この辺りの空気が薄っすらと瘴気を帯びている。

 沼から姿を現したヒュドラは、2人に視線を向けると、5本ある首のうち、真ん中のそれが、 ぐおぉ!っと息を吸い込んだ。
 そして、ボワァァァァァ!とけたたましい咆哮とともに炎のブレスを吐きだした。
 2人は一瞬早く逃げ出していたので、そのブレスは回避出来たが、荷馬車が、もろに炎のブレスを受けて燃え上がった。辺りには異臭が広がる。

 ヒュドラが、次のブレスを吐こうとした時には、2人はもう走り去っていた。

 2人は息も切れ切れ、なんとかヒュドラが見えないとこまで命辛々逃げてきた。追ってくる気配がないので、その場で座り込んでしまう。

「ひぇー、まじびびったよー、あの5本の首見たら、5回は死んだ気がしたよ」
「シェラは5回くらいじゃ死なないって」
「あんた、私をなんだと思ってるのよ!」
 相も変わらず、シェラがぼやけば、キャミが突っ込む。

「馬…… 可哀想なことしちゃったね」
「うん、まぁね。でも仕方ないよ……」
「うん……」
 2人の間に沈黙が流れる。

「でもさ、これからどうしようかぁ?」
「荷馬車も無くなったし、グリフォンの生息地はあの沼の向こうだよ……」
「いくらペナなしっつってもさぁあ、受けた依頼をこなせないってのは冒険者の沽券にかかわるよ」
「そ、そうだけどー、荷馬車がないと、捕まえても運べないよ?」
「……」
「ねぇどうする?」
「……」
「ねぇってばぁ!」
「……」
「生きる屍のようね……」
「……」

 2人が息も消沈、生きる屍の真似をしていたとき、足音が聞こえた。
 音の方を見てみると、先ほどギルドであった男が、こちらに歩いてきた。
「「あ」」
 2人が男を見つけて、2重奏で反応する。
「あ、あんた……今頃何しに来たの!」
 さっきのことを根に持っていたので、いきなり喧嘩腰で食ってかかるシェラ。
「まさか、今頃手伝いたいとか言うんじゃないでしょうね!」
「ちょっと、シェラーやめなよー」

「ついでが出来たんで、手伝ってもいいが?」
 ルシはシェラの態度に、気にも留めない様子で答える。

「はぁ? なに? 上からなわけ? ランクCってそんな偉いの?」
「いらないなら、別にいいが……」
 またも、ルシは素で返事する。

「うぅぅぅぅ! こいつむかつく!!!」
「シェラの負けだって……」
 俯いて泣きまねをするシェラの頭のキャミが撫でる。

「で、ついでって、何しに来たの? どんな依頼? ランクは? 報酬は?」
 気を取り直してシェラがまた、質問攻めにする。
「シ、シェラ……」

「依頼は受けてない」
「はぁ?、まじ何しに来たわけ?」
 キャミもうんうんと頷く。

「ヒュドラ退治だ」
「はぁ? あんた、正気? 見た目も変だけど、頭も変なの? 病院行く? それとも死ぬ?」
「いや、頭はお前よりマシだと思うが……」
「うぅぅぅ!」
「ぷっくく」
 泣くシェラと笑うキャミ。
 ルシは、そんな2人の無視して、森の奥に進んでいく。

「ちょ、ちょっとー、ほんとにヒュドラ居てるんですよー。私達今しがた、ヒュドラに遭遇して逃げてきたんですよ」
「だけどさーあんなとこにヒュドラがでるなら、なんで教えてくれなかったわけぇ? あとでギルドに文句いってやる!」

 ルシは、自分には関係ないという態度で、そのまま振向きもしないで歩いて行ってしまった。
 呆気にとられ、見詰め合う2人。そしてお互い頷きあい、ルシの後を気配を消して歩き出す。もちろん気配を消しても、ルシには判っているのだが。

 沼地まで来て、ルシは足を止める、その瞳は沼をジッと見つめていた。
 あたり一面に瘴気が満ちているのが判る。
 ぼわっと水面が膨らんだと思ったら、ヒュドラが姿を現した。先ほどシェラ達が見た5本首のヒュドラである。

「「ヒィッ!」」っと後方で小さな悲鳴が聞こえる。
 後を付いてきた2人の声である。

 ルシはすーっと腰の鞘から剣を抜き放つと、ジッとヒュドラを見ている。
 ヒュドラの口が大きく開かれた。その目がルシを睨みつけている。
 ボワァァァァ!!けたたましい咆哮と共に、ヒュドラの開かれた大口が、炎のブレスを吐き出す。
「「キャー!」」
 後方で見ていたシェラ、キャミは同時に悲鳴をあげた。
 ルシの体が炎に包まれたかと思うと、あたり一面の炎が舞う。
 炎に包まれたと思われたルシの体がぶれて、ふっと消える。
 残像を残しての神速の横移動。その後バックステップ。
 しかし、ヒュドラは、さがるルシにめがけてどんどんブレスを吐きかける。ルシはその全てを軽々サイドステップとバックステップで躱していく。
 辺り一面、炎と瘴気で混沌と化していった。
 ヒュドラは前進しながらルシめがけてブレス攻撃。その巨体が沼から陸にでると、ルシは後退をやめ、一気に前進、一瞬の間にヒュドラを間合いに捕らえる。

 ルシは神速でヒュドラまで間合いを詰めると、ヒュン!という風きり音の横薙ぎ一線。
 銀の閃光を残しルシの一撃はヒュドラの首を薙いだ。
 ジャキィィィィン!という金属同士がぶつかり合う様な音が響く。
 ルシの剣撃をヒュドラの鱗が弾いているのだ。ヒュドラの強靭な鱗には筋が入る程度で、血が出るほどには切れていない。
 そこに、別の首が大口を開けてルシに襲い掛かる。
 その大口の上顎と下顎が激しくぶつかり合う。今度こそヒュドラの大口がルシの体を捉えたかに見えた。が、その体が薄れ残像となり消える。
 気がつくと、別の首まで神速でもって跳んでいる。そのまま強烈な斬撃を繰り出す。そこから止まらず、第2撃、第3撃と続けさまに浴びせる。同じ箇所に寸分たがわず右から左から上から下から斬撃を繰り出す、その乱舞はまるで剣が何本もあるかのような神速の連撃。
 パキィィィィン! 
 ガラスが割れる様な音が響いた。
 超連撃の同一箇所への猛攻でもヒュドラの首には微かに血の様な液体が流れる程度、首を落とすどころではない。しかもルシの剣が折れてしまったのだ。
「チッ!」
 微かにルシの表情が曇る。
「ちょっとーなんなのあいつ……あれでランクC? てか、あれ人間の動きなの?」
「う、うん……」
 後方で2人が驚愕の表情で見つめている。

 ヒュドラの5本ある首が次々とルシめがけて襲い掛かる、残像を残してルシは跳ぶ。そこに別の口が襲い掛かるが、ヒュドラの口が捉えたのは残像である。また別方向から襲い掛かるが、これも残像、全ての攻撃はルシの残像を捉えるばかりだった。ルシが距離をとった。
 魔法で倒そうと考え距離をとったのが、後ろで2人が見ている。特にあの栗毛、あいつは五月蝿そうだと思い、その考えを消す。

 そして、ヒュドラめがけて自分の間合いまで猛然とダッシュ。
 2人の眼には、またルシが消えたように見えた。

 またもヒュドラの大口が次々とルシに襲い掛かる。
 ドカァ! 強大な物が落下したような衝撃音。ヒュドラの顎が大地をえぐったのだ。
 寸前で体を開きそれを躱す。と同時に拳を叩き込む。別の首がルシに襲い掛かるが、バックステップで躱す。そしてまた拳を叩き込む。あまりのスピードにルシの体が何人にも見える。
 次々を襲い来るヒュドラの顎を全て躱し、躱しざまに拳を叩き込んでいく。

「ちょっとーあいつ今度はなにしてるわけ!!!」
「あの人、いっぱいいてる……」
「てか、あいつ馬鹿? 剣で切れないからって殴るか普通……」
「ど、どうしよー」
「馬鹿はほっといて逃げよっか……」
「で、でもー、そ、それは人として……」
「だよねー……」
 だからといって、自分達が助けに入れるわけでもない。明らかに力不足なのだ。いや足手纏いになる。2人で思案していると、キャミが「そうだ!」っと自分の掌を拳で叩いて、今まで泣く寸前だった表情に満面の笑みを湛える。

「シェラの剣だして!」
「え、剣? ……あ、そっか! キャミ偉い!」
 シェラも思い出したのか、頷いて腰の剣を抜くと、キャミの前に差し出した。
 キャミがその剣に両手を添えて魔法を唱える。すると、シェラの持つ剣がボワーっと蒼白い薄い光に包まれた。
「できたよ!」
 キャミがそう言うと、「よし!」っとシェラが頷く。

「おーい! そこの馬鹿ー! 剣投げるから受け取れよぉ!」
 シェラが口に手を沿えて怒鳴り、力いっぱい剣をルシに向かって投げた。
 ルシが、シェラの声に反応して視線を向けると、今投げられた剣が目に入った。
 ヒュドラの攻撃を躱しながら、投げられた剣をジャンプして受け取り、「たすかる」っと一言返す。
「その剣は、キャミが魔力を込めた即席の魔剣だよ! それなら多分折れないし、ヒュドラの鱗でも切れるはず!」
 ルシはその剣に目を落とし、少し驚いた表情を示す。微かに蒼白い魔法のオーラを纏っている。確かに魔剣だ。
「でも、15分位しか持たないですよーー」
「問題ない」と真顔のルシ。
 ふたたび、ヒュドラのブレスに襲われるが、すぐさまブレスの範囲から跳び去る。
 一気にヒュドラの首に跳びこみ、蒼白い閃光がその首を薙いだ。風を巻き込む様な、その動きで次々とヒュドラの首にその斬撃を繰り出す。
 ザシューザシューザシューザシューザシュー!
 鱗が切り裂かれる鈍い音が連続する。
 それはまさしく刹那の出来事、ヒュドラとルシの動きが止まると、5つの首が血飛沫をあげ、落下した。

 2人の少女が固まっていることは言うまでもない。

 ルシがヒュドラの首から『炎瘴石』を取り出した。
『炎瘴石』とは直径5センチから10センチくらいの大きさで、それはヒュドラの固体の大きさに比例するらしく、透明な石なのだが、中に炎が宿っている。
 ヒュドラが炎を吐くことができるのは、真ん中の首だけで、その首にのみ、その宝石が精製されるらしい。名は『炎瘴石』だが、それ自体に瘴気を含んでるわけではなく、ヒュドラのもつ瘴気のため、そう名づけられただけらしい。
 宝石としての価値も相当なもので、また内に込められた炎が魔法アイテムとしても大変な価値がある。ヒュドラという固体も少ないため、激レアアイテムなのである。

 とりあえず目的を果たしたルシは、シェラに剣を返し、剣の礼として、グリフォン捕獲を手伝うことにした。

 通常、魔獣の捕獲となると、眠らせるか、麻痺させるか、気絶させるか等で、その体を完全に捕縛し、荷馬車等で運ぶものである。もちろん2人も、そのために荷馬車を引いてきた。
 当初の作戦は、グリフォンの群れから、出来るだけ少数を引き離し、キャミが1匹に対し、魔法で眠らせ、シェラが他のグリフォンを牽制するのである。

 これを聞いたルシは少し呆れたものである。
 実際、かなり無謀な作戦である。
 まず、キャミが1人でグリフォンの攻撃を躱しながら、魔法詠唱で眠らせるのは、かなり難しい。グリフォンほどの固体なら、下位魔法1回では簡単に眠らないからだ。
 そして、シェラの方もかなり難しい。群れから引き離した数にもよるが、捕まえようとするグリフォン以外の、全てを引き付けないといけない。一匹でもキャミの方に向かえば、キャミは魔法詠唱どころではなくなるからである。
 しかし、ルシが手伝うことによって、作戦は変更された。
 群れから少数のグリフォンを引き離すというとこまでは同じであるが、その後が少し変更になった。
 捕まえるグリフォンを決め、その固体の注意をシェラが引き付ける。で、その固体に対して、キャミが魔法をかけていく。そのあいだ、他のグリフォンの注意は全てルシが引き受ける。ルシの神速なら、問題ないだろう。
 もう1つの問題は、捕まえたグリフォンの輸送だが、なんとルシが連れていた馬の背に乗せて帰るというものであった。
 通常の馬がグリフォンを乗せるなど不可能であろうが、この馬は平気な顔で乗せて帰ったのであった。

 ギルド内の一室、部屋の片隅に机、中央にオーク材を用いた重厚なテーブルとソファーしかない部屋。そこに3人の男女が腰を下ろしている。

 コンコン!
 オーク材の扉がノックされる重厚な音に続き、開かれた扉から1人の壮年男性が入ってきた。
 その男性を見ると、すかさずシェラとキャミは立ち上がり、会釈する。
 シェラに袖を引っ張られルシも立ち上がる。2人に遅れて微かに頭を下げる。ほんの数ミリ。
「あぁ、楽にしていいよ、私はこの冒険者ギルドの長を務めるアラン=クロードだ」
 そう言って軽く頭を下げ、3人に座るように促す。
 ギルドの長と名乗る男は、荒くれ者の多いギルドを纏めるだけあって、落ち着いた威厳のある風体で、頭は半分ほど白くなってはいるものの、その眼は鋭く一部の隙もうかがえないが、口元は笑みを浮かべ、歓迎している風を装っている。
 シェラとキャミの2人は「失礼します」と再び頭を下げ、腰を下ろす。ルシは無言で座った。
 横から冷たい視線を感じたが相手にする気もないようだ。

「今、お茶を用意させているので、話はお茶を飲みながら伺おうかな」
 そう言って笑顔を向けているが、その眼は3人を値踏みしているようだった。

 コンコン!
 再びノックの音が響き、アランが「はいれ」と告げる。「失礼します」と言って、メイド風の見た目10台の女がお茶を持って部屋に入ってきた。
 メイドは、お茶をテーブルに置くと、すぐ「失礼しました」と部屋を後にした。

「では、お茶を飲みながら話させてもらおうかな?」
「んむ、何を話せばいいんだ?」
 ルシがそうかえすと、「ちょっとー失礼よ!」と横槍が入るが、アランは「気にしないで良い」と、2人に笑顔をむけた。

「まぁ聞きたいことは一つなんだよ。ことの成り行きはどうでもいい、どうやって3人でヒュドラを倒したのか。それだけだな」
 一瞬、ギルドの長、アランの眼光が鋭くなった気がしたが、すぐに元にもどる。

「首を切り落としただけだ」
 ルシは相変わらず無表情で、説明にならない答えを返す。
 ほかの3人は少し呆れ顔だが……
「えっとですね、この娘、キャミが簡易の魔剣を作れるんです」
 とっさにシェラがキャミを指差して説明をする。
「ほう、君はエンチャンターなのか?」
 少し驚いた表情で、キャミに眼をやる。
「は、はい……」
 キャミは、恥ずかしそうに俯いてしまった。
「今の時代貴重な人材だな」
 なにか納得したような表情で頷く。
「しかし、確かに魔剣があれば切ることは可能だろうが、簡易魔剣なら、そう長くは持つまい? そんな短時間で、たった3人で倒せるものかね?」
「あぁ、問題ない」
 ルシはまたも、愛想もくそもない表情で、一言で済まそうとする。
 そこにシェラが割ってはいり、説明をしていく。
「えっとですね、キャミが後ろで支援魔法をしてくれるので、私がキャミを守ってる間に、ルシが首を切り落としていったんです」
「んー炎のブレスは来なかったのか?あれを躱して、ヒュドラの懐に入り込むのは、相当至難の業だと聞いているが?」
「問題ないと言っている」とルシ。
 シェラは、(もうあんたは黙ってて!)と言わんばかりの表情をルシに向けた。
「えっと、ブレスが来る前にルシが切り落としちゃいました。正直ルシの剣技、その動き、スピードはランクAにも引けを取らないと思います」
 多少誤魔化した部分はあるが、これは真実である。
「そ、そうなのか……」
 と、ギルド長アランはお茶を口に運び、少し考え込んだ。

「君達にひとつお願いがあるんだが?」
「は、はい、なんでしょう?」
 ルシは無表情、キャミは俯いたまま、しかたなくシェラが返事をした。
 アランは立ち上がり、部屋の隅にある机の引出しから一枚の羊皮紙を取り出し、テーブルの上に広げる、それはエルフの森の地図だった。
 ルシは顔をしかめ、その地図み見入っている。
「この地図を見てもらいたいのだが」とアランが指差すその先、森の一箇所。
「このあたりに洞窟があるのだが、そこに最近ゴブリン達が住み着いたそうなんだが、そのあたりは、まだ街道に近く行商や旅人に、いつ危害があるやもしれない」
 そこで区切り、アランは3人の顔を見渡す。ルシが先を進めろと言わんばかりに目配せをする。それを確認したのか、アランが話を続ける。
「それを君達に退治して貰いたい。もちろん3人でとは言わない、こちらからも専属の冒険者を出す予定だ」

 専属とは、この街に住み、この街のみで依頼をこなす者のことで、ルシやシェラ、キャミの様な旅をしながらのフリーの冒険者より信頼度が高い。

「なるほど、俺達の腕を確かめたいと言う事か? だがゴブリン程度でいいのか?」
「うむ、まぁ数が多いとだけ言っておこうか」
「条件がある!」
「ふむ、言ってくれ」
「1つ、ヒュドラ退治、これを正当に依頼扱いとして、その報酬を貰いたい」
「2つ、『古の大魔道師』の情報がほしい。以上だ」
「うむ、なるほど……」
「まず一つ目の条件だが、報酬は正規の金額を今すぐ払おう。しかし、もしそれを正当扱いにすれば、君達3人はそれぞれランクBにしないといけない、それはゴブリン退治の結果を見てからと言うのでは駄目かな? もちろん2つ目は問題ない、知ってることは全て教えるし、なんなら会わせることも可能だが、ただしゴブリン退治後ということでいいかな?」
 一瞬ルシの眼が微かに光ったと同時に、2つ目の条件をあっさり飲んだ事に疑問を覚えたが、まぁ断られないだけマシかと話を進めることにした。
「それでオーケーだ」
「ちょ、ちょっとー私達には相談もなしなわけ?」
 シェラがルシに対して不平をもらす。
「ん? 嫌ならオレ1人で行くから問題ない」
「そ、そういう問題じゃないでしょ?」
「じゃどういう問題だ?」
「えっと、それは……」
「シ、シェラ……」
 キャミがシェラの腕を引っ張り、(べつにいいじゃない)という顔をしている。
「う、わ、わかったわよ、行くわよ……」

 3人の話が纏まったことに納得したのか、アランが話しを進める。
「では、まずはヒュドラ退治の報酬を払おう、報酬金額は150万だ、問題あるかな?」
「いや、ない」
「ふむ、ではゴブリン退治についてだが「その前に、これをみてほしい」」
 アランが説明しようとしたとき、ルシがアランの説明を止めた。
 そう言ってルシは自分のバックパックから羊皮紙を取り出し、広げて見せた。
「ギルドなら、これくらいの地図を用意するべきじゃないのか?」
 遠慮の欠片もなく、まるで押し付けがましいことを言っている。
 しかし、ギルド長アランは気にした風でもなく、地図を凝視していた。
 アランが出してきた地図とは、比較にならないほどの情報量が書き込まれている。
「ほーこれは大した物だな、どこで手に入れた?」
 ルシが地図屋で購入したこと、その場所、値段を教えた。
「うむ、これだけの地図なら、その値でも安いくらいだ。他の場所の地図も見てみたいが持っているか?」
「いや、これしかない」
「そうか、わかった、此方で調べよう」

 その後2人の専属ギルド員を紹介され、明日朝一番でゴブリン退治に出かけることになった。1人はランクBで名をジーク、もう1人はランクCで名をハスナーという。

 ルシが教えた地図屋に各ギルドから大量に注文が入ったのは、その数日後のことであった。

 ちなみに、グリフォンの捕獲報酬は3等分されたが、ヒドラの討伐報酬は、2人が断りルシ一人が貰うことになった。ルシは今日一日で160万を稼いだことになる。
 その代わり、2人はルシの旅に同行することを約束させたのだった。まぁルシとしてはお荷物が2人増えるのは好ましくないとも思ったが、簡易魔剣は役に立つと思い、その意向に受けた。もちろん当分稼がないで済む、という考えも無きにしも非ずだが。

 ギルドを出た3人は、後でルシの泊まる宿屋で合流することを決め、一旦その場で別れた。

 ルシは折れた剣の代わりを求め、武器屋を訪れていた。
 店はさほど大きくは無いが、店の壁に、びっしりと各種武器が飾られている。
 長剣、短剣はもちろん、斧、棍棒等、サイズ、素材まで多岐にわたる。

 奥のカウンター内に店主らしき男が座っているが、こちらを一瞥しただけで、対応する気がないらしい。魔剣がないのは当然として、少し金に余裕が出来たこともあり、ルシはミスリル製の剣はないかと、武器屋の主人らしい男に聞いてみた。
 武器屋の主人らしい男は、(ガキの玩具じゃねーぞ?)という顔をしているが、ルシの異様な雰囲気を見て、さすがに口には出せなかったようだ。しぶしぶ、2本の剣を出してきて、「今はこれしか置いてねぇ」と一言うだけだった。
 ミスリルは真銀とも呼ばれ、鋼以上の硬度と魔力伝導にすぐれ、希少性の高い金属である。ミスリル製の剣となると、2本あるだけでも、さすが王都の武器屋と言えるかも知れない。
 値段を聞くと、長剣が90万、短剣が60万だという。ルシが「両方売って欲しい」と金貨を見せると、まさか買うとは思っていなかったのか、主人の顔が一瞬鳩が豆鉄砲を食らったようになったが、すぐに満面の笑顔に変わる。
 急に愛想が良くなり、揉み手までして「他に入用なものがあれば、なんでも仰って下さい」などと言葉使いまで変わっている。
 ルシは(現金なものだ)と思ったが、まぁ愛想良く聞いて来るなら、ちょうど良いかと、魔剣がどこかで手に入らないか聞いてみた。
 さすがに売れば一本数千万、いや億も下らないと言われる魔剣は、大陸にも、数人しか持ってる者は居ないらしく、武器屋に流れてくることは無いらしい。
 どうしても手に入れたいなら、古代遺跡や地下迷宮などで、人の手が入ってない所を探すしかないという。

 武器屋を後にして、石畳の大通りを歩き、宿屋『山猫亭』に向かう。
(とりあえず2本の剣を手に入れたが、また持ち金が底をつきそうだ)
『山猫亭』のドアをあけ、中にはいると「あら、おかえりー」と、女将のハリのある声が店内に響き渡る。
 すると、くだんの2人はもう来ていたようで、「こっちこっち!」と手を振っている。2人はテーブルでワインを飲んでいた。
 ルシが2人の座るテーブルに着いて注文をしようとすると、女将がニヤニヤしながら聞いてきた。
「すみにおけないねぇ、此方のお嬢さんとは、どんな関係なんだい、え?」
「別に、ギルドの依頼を一緒に受けただけだ、それよりエールを一杯たのむ」
「ちょっとーそれはないでしょ!」
「そ、そうです、せめて仲間とか、と、友達、とか……」
 珍しくキャミまで反論したのには、シェラも驚いた。
「友達? それはないだろう。それにオレの仲間はブライだけだ」
 あっさり否定されてキャミは、俯いてしまった。もちろん泣きそうな顔をしている。
「じゃなに? あたしら馬以下……」
「ほらほら、この子ったら、なに照れてるんだよー」と、ルシの背中を叩く女将。
 意味が理解できず、困惑するルシであった。

「で、今まで何処行ってたのさ?」
 首を少し傾げ眼を細めて斜交いにルシを見つめる。
 シェラはワインが入ってる所為か、少し顔が赤い。
 もともとの白い頬に薄紅をさした様で、さらに眼までとろーんとしている。そのうえ、その仕草である。大抵の男なら、ドキっとするのだろうが、ルシは何も感じない。
 まったく無反応のルシをみて、少しムッとするシェラであったが、そこは我慢した。別に口説こうとしてる訳ではないのだろう。
 「剣を買いに行っていた」
 ドン! 机を両の手で激しく叩いて身を乗り出してくる。
「えええええええーーー!!!」
 ルシが一瞬引いてしまったほどだ。
「なんで、それならそうと言わないのよー!! ついて行ったのに……」
「そ、そうですよ、私も武器屋なら見に行きたかったですぅ……」
 さすがは冒険者だろうか、服屋などより、武器屋などに興味があるのかもしれない。
「で、どんなの買ったの? 見せて!」
 シェラは早く早くと言わんばかりに手をルシに指し出している。
 キャミまで、眼を大きくして、興味津々といった感じである。
 ルシが腰の剣を外し、長剣をシェラに、短剣をキャミに渡した。
 受け取った2人は、そっと鞘から剣を抜いて繁々と剣を眺めている。
「へぇーミスリルじゃん、高かったでしょ?」
「90と60だ」
「さすがいい値段するわねー。で、それって売値? 買値?」
 ルシは眼を細め、首を傾げる。
「あーだからぁ、幾らで売ってたのを、幾らで買ったかよ!」
 ルシが値引きのことかと理解して、「そのままの値段だ」と言うと。
「はぁーあんた馬鹿? 2本で150なら、うまくやれば100まで値切れるわよ!」
「うんうん、シェラなら出来るね」
「あたしの色気にかかれば一発よ、えっへん!」
 などと胸をはっている。胸当を外しているためか、胸の大きさが目立った。その胸に、客の男達の視線が集中していたのは言うまでも無い。
「お前も役に立つ事があるのか」
 ボソッと呟く言葉に、キャミが苦笑い、あいにくシェラには聞こえなかったようだ。
 そんな下らない会話と食事も終え、2人も『山猫亭』を今晩の宿として、それぞれ部屋に戻っていった。
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