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ルシ伝 作者:キルナ

第2章 

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ルシの過去 その2


 ヴァルザードにはそれ以外の言葉が見つからなかった。
 王女達は絶句し完全に言葉を失っている。

 聖戦。それはエプソニア大陸に住む人々皆が知っていることだ。子供の頃から伝説として代々語り継がれているものだが、それはこの大陸、人間達の史実なのだ。
 そして人間は『正義』だった。魔族は完全な『悪』、それ以外は『中立』という扱いだった。 だがアオローラの話が事実なら人間が『悪』になってしまう。人間にとってそれはあってはならないことだった。
「ふぅ、ちょっとお喋りがすぎた様ね…… わたしとしたことが熱くなりすぎたようだわ」
 そう言って立ち上がるアオローラ。いかにも、もう話す事はないわ。という素振りで部屋を出て行こうと扉の取ってに手を掛けた。しかしクーの言葉がアオローラの足を止めた。
「あ、あの、る、ルシ様は……」
 そこまで言って俯いてしまう。
「ん? なにかしら。『彼の事』、なら何でも教えるけど……」
 それ以外の事は聞かないで頂戴。といった感じである。
 もちろんクーにはルシ以外のことなどどうでも良かった。クーにとっては伝説などどうでもいいことなのだ。正義だの悪だのどうでもいい。ルシが全てなのだ。
 クーは頭を上げると、意を決したように大きな声で言い放った。
「ルシ様とアオローラさんは、どういう関係なのですかっ!?」
 部屋にいる全ての者が、耳を塞ごうかと思うほどの大声だった。それまで固まっていた王女達も皆一斉にクーに視線を向ける。クーは顔をリンゴのように真っ赤に染め俯いてしまう。
 アオローラも目を見開き驚きの表情を見せたが、それも一瞬の事で、吹き出してしまった。
「ぷっ、ぷっぷっぷっ、あっはっはっはっー………… 」
「「……」」
「っと、ごめんなさい…… えっと悪気はないのよ。ちょっと、予想外の質問だったから、驚いちゃって、ぷっぷっぷっ……」
 扉の前で身体を大きく揺らしながらも、必死で笑いを堪えようとするアオローラ。
 それに引きかえクーは頬を染めながらも下唇を噛み締め必死で羞恥を堪えようとしている。

 なんとか笑いが治まったアオローラは、申し訳無さそうにクーに向かって両手を合わせた。
「ほんとにごめんなさいね。全て話すから許して貰えないかしら? 貴女にとっても悪い話じゃないと思うわよ?」
 その言葉を聞いて少しは安心したのか、クーは小さく頷く。
「よかったわ。じゃちょっと話が戻るけど、説明させてもらうわね」
 そう言ってソファーに戻ると、ゆっくりと語り出した。
「貴女達は知らなかったでしょうけど、彼は記憶を失っていたの。怪我の後遺症だと思うのだけれどね。彼の髪と瞳の色が変わっているでしょ?」
「肌の色も変わっていますっ!」
 叫ぶように言葉を遮ったのはクーだった。
「あ、そうだったかしら? ごめんなさい肌の色までは覚えて無かったわ……」
「い、いえ。いいです……」
 この時改めてアオローラは思った。
(この娘はほんとうに彼が好きなんだわ…… 何一つ洩らすことなく全て知りたいってことなのね。分かったわ、出来るだけ細かく教えるわね)と。

 そして改めてアオローラは語りだした。
 髪、瞳、肌の色が変わったのは魔王の魂が消え、本来の彼の色に戻ったんだと。体中に刻まれた古代文字の封印は海竜王様のお力で消し去ったこと。魔王の魂と同化したとはいえ、その殆どの力を失っていた為、以前のような力はもう失われていること。ついでと言っては失礼なのだが、ブライのことも教えた。そして記憶を取り戻すために旅に出たこと。その旅には海竜王様の命でアオローラが同行することになったこと。旅の間での会話や行動も覚えている限り全て教えた。と言ってもルシは終始無口だったのだが…… だが胸を押し付けてからかった事だけは隠しておいた。そしてクーに出会った瞬間に記憶を取り戻したこと。そこまでをじっくりと語って聞かせたのだ。もちろん男女の関係なんか全く無かったわよ。と付け加えていた。

「これが私の知る全てのことよ。納得して貰えたかしら?」
「あの…… なんで海竜王……様? が一緒に旅をするように命令したの?」
「あー、ごめんなさい。それは私も聞かされていないのよ。それに私たち海人族は海竜王様の命令は絶対に逆らえないから…… あ、だからって嫌々一緒に旅した訳じゃないのよ。それとこれは私の憶測だけど、この世界がまだ『彼』を必要としてるんじゃないかな……」
 一同は言葉が見つからないと言った感じで、部屋は沈黙に包まれる。
 アオローラは、当然かな? と思いつつ苦笑を浮かべていた。
「さて、疲れちゃったし戻っていいかしら?」
「あ、あぁ、ありがとう。また何かあったら話を聞かせてもらうかもだが、とりあえずはそうだね。戻ってもらって構わないよ」
 ヴァルザードがそう言い、軽く頭を下げた。つられるように他の面々も一礼している。
 それを確認するとアオローラは「じゃぁね」とウィンクをして部屋をあとにした。

「まだ本題が残っているのだが、ちょっと一息入れようか?」
 ヴァルザードは皆の返事を待たずにメイドを呼ぶと新しい紅茶を用意させた。
 一同はその紅茶を飲みながらも、思い思いの考えにふけっているようだ。そしてヴァルザードも(あぁ、俺はまたこの美少女達に嫌われる事になるんだろうなぁ……)などと憂鬱な気分に襲われていた。

「さて、本題に入りたいが、そろそろいいかな?」
 そう言って一同を順に見渡す。皆、軽く頷くだけで返事は無い。
「まず、ルシ君に聞きたいんだが、今後どうするつもりなんだい?」
「どうするとは?」
「うむ、この国に残るのか、また旅を続けるのか、旅に出るなら何時出立するのか。そして旅に出るなら、またここに戻るつもりがあるのか。だね」
 一同の顔色が変わっているのが目に見えて分かった。とくにシェラなど激昂しそうな雰囲気を漂わせている。
 ヴァルザードはちょっと性急すぎたかと後悔もするが、それも致し方ないかと諦める。
 ルシの答えは決まっていた。もとより一つの場所で定住するつもりなどは無かったし、明日にでも出立したいと考えていた。しかしそれを皆に話す切っ掛けが無かった。特にクーに。
 今がそのチャンスだとは思うものの、クーにだけは黙って行く方が良いと考えていたのだ。
「旅にでるつもりはあるが、それ以外はまだ未定だ」
「そうか、それを聞いて少しは安心したよ。しかし旅に出るなら、出来るだけ早く出立して欲しいんだがね?」
「「なっ!」」
 バンッ!
 シェラが机を力いっぱい叩いて立ち上がった。
「それ、どういうことよっ! 何時までいたってルシの勝手でしょー」
 爆発したのはシェラだった。しかし皆一様に厳しい視線をヴァルザードに向けている。
「ヴァルザード様。それはどういうことでしょうか?」
 キャノ王女までもが、厳しい口調で問いただす。
 さすがにヴァルザードも顔が青ざめている。シェラは慣れたものだが、キャノ王女がこれほど激しく怒りの感情を露にしたのを見た事が無い。思わずどもってしまった。
「い、いや、その……」
 ルシはヴァルザードが言いたい事を全て理解した。と同時に、自ら言うべきだったと後悔もした。ヴァルザードはこの国に必要な人間なのだ。こんなことで不信感を持たれるのは避けるべきだった。
 ルシはすっと立ち上がった。
「今日…… 今すぐに出て行く。そして2度とこの国に戻る事はない……」
「「「なっ!」」」
「ルシ様ぁ!」
 そのまま出て行こうとするルシを皆が引き止める。クーは抱きつき、両王女やシェラはそれぞれルシの腕や服を掴んでいる。
「ヴァルザードォォォォッ! なんとか言いなさいよっ!」
 シェラの怒りも最高潮に達している、いくら無礼講だからと言って呼び捨てなど初めてのことだった。しかし誰もそんなことは気にもとめない。
「いや、すまない。ルシ君、とりあえず座ってくれ。君はいつも性急すぎるよ」
「俺は、敵兵といえど、殺しすぎた…… それにビズルトラの民が大半カノンに流れている」
「わかってるわよそんなこと。だからって、だからって……」
「「「……」」」
 皆が分かっていたことだった。分かっていても考えようとしなかったのだ。考えたくなかったのだ。あえて言わなければそのまま時が解決してくれると淡い期待を持っていたのだ。

 ヴァルザードが立ち上がり深々と頭をさげる。
「すまない…… せめて、もう少し待つべきだったようだね。この件は改めて皆で話し合うということで、どうだろう?」
「……」
「そうね……」
「「はい……」」
「わかった」

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