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ルシ伝 作者:キルナ

第2章 

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 ルシが戻った夜、ヴァイスレーヴェ城内では、極々小規模ながらも宴が催された。出席者の人数も極力抑えられている。カノン王をはじめ、王妃、キャミ、キャノ両王女、騎士団長のヴァルザード、近衛騎士隊長のロドハイネック、戦乙女騎士隊長のシェラとその部下10数名、クーとリン、アオローラ、猫獣人のサラ、そしてルシであった。
 それ以外にも高位の文官や武官が数名だが見受けられる。

 キャミ、キャノ両王女は、もっと大規模な宴を提案したのだが、さすがにそれは難しいと言う事だった。理由は簡単で、そんな大規模な宴を開く口実が無いのだ。
 本来ならルシはカノン王国の英雄とも救世主とも言える立場なのだが、ルシの働きはごく一部の者しか知らず、今回の入城も両王女の知己という理由でしかなかった。そしてなによりルシ自身が宴の出席を拒否したからだ。両王女は国王や重臣を説得するより、ルシを説得するのに苦労する羽目になった。ルシ説得には両王女の他、シェラとクーも加わり、小規模ならという条件で渋々了承を得たのだ。

 サラの出席は、クーの申し出によるものだった。クー自身はサラのみならず、女将のアンナと亭主のマイラスも呼びたかったのだが「あたしらがお城のパーティーなんぞに出られるもんかい」と言って断固拒否されたのだ。しかしサラだけは「私は行きたいっ!」と大喜びで出席を決めたのだ。

 いざ宴が始まると、ルシを取り囲む様にシェラをはじめとする戦乙女騎士隊の面々が集まっている。クーとリンはそんな騎士達に弾き出され、ルシに近づく事も出来ないでいた。
 ヴァルザードは目を輝かせアオローラをダンスに誘い、一曲踊り終わると次にはサラを誘っている。2人では飽き足りないのか、ついには職権を乱用し戦乙女騎士隊のメンバーを次から次へとダンスに誘っている始末。それを見ていたシェラが一言。
「ヴァルザード団長って、胸の大きい順にダンス誘ってない?」
「「…………」」

 ルシはなんとか戦乙女騎士達の輪から抜け出すと、城の裏庭に逃げる様に足を運んだ。もちろんクーとリンも着いて来ている。
 その庭は小さいながらも辺り一面に芝生を敷き詰め、彩り豊かな花壇が置かれている。庭の奥には小さな池も造られ、その池の周りに桜の木が数本植えられている。外灯などの明かりは見受けられないものの、城の小窓から漏れる明かりが十二分に辺りを照らしていた。
「ふぅ、ここならのんびりやれるな」
 呟いた言葉は独り言ではなく、クーとリンに対するものだった。
「はい」
「ワン」
 2人は嬉しそうに答える。
 遠くから宴の喧騒が微かに聞こえてくるものの、ここはもともと静かな場所で、たまに吹く風が枝を揺らし草葉が擦れる音が聞こえる程度だ。しかしその夜風が素肌に冷たく感じていた。
「しかし、ちょっと寒いか?」
 ルシは全然平気なのだが、季節はまだ冬である、クーのことを心配したのだった。
「いえ、平気です。でもルシ様が寒いなら私の体温で暖めます」
 そう言って嬉しそうに笑ってルシにしがみ付いている。
 ルシは苦笑をするものの悪い気分ではないようだ。
「とは言っても、食い物と酒は欲しいな。ちょっと待ってろ、すぐ取ってくる」
 そう言って宴の会場に戻ろうとしたルシをクーが引き止めた。
「待ってください。そういう事は私の方が得意だと思います」
 自信ありげに断言するクーである。しかしその心の内は、ルシがまた騎士達に捕まるのでは?と心配していたのだ。ルシにもそれが分かったので素直に頼む事にしたようだ。
「あぁ、そうか? じゃ頼む。酒はわすれるなよ」
 そう言ったルシの顔は微笑を湛えている。クーはそんなルシの顔を見るのが大好きだった。
「はい♪」と喜び勇んで宴の会場に走って言った
 しばらくすると、持ちきれんばかりの料理と酒を持って帰って来る。そしてまた走っていく。 それを幾度か繰り返すと、裏庭の芝生の上には料理と酒が食べ切れないほど並べられた。
 3人はそれらの料理を囲み、自分達だけの宴を再開した。
 本当に心の休まる一時である。ルシはそう実感していた。
 記憶を失い彷徨ったあげくに、とうとう辿りついた自分の故郷の様に思える。それがこの2人だった。もちろんシェラ達もである。
 しかしその反面自分が此処に居てはいけないと思うのだった。
(俺は人を殺しすぎた。戦争とは言え逃げる兵達を後ろから何百何千と……ビズルトラからの難民の中には俺を覚えてる奴も居るだろう。俺が此処に居れば王家に迷惑がかかる)
 ルシは出来るだけ早くここを離れるつもりでいた。
 この国の現状を見る限り、もう安心だと思っている。万が一王女を狙う者が居たとしても、ヴァルザードやシェラの騎士隊がいる。クーのことは100%安心と言うわけでもないが、それでもシェラや王女が傍に居れば大丈夫だろう。もう自分が守るべき者は居ない。そう思っていた。(俺が出て行くと言ったら、シェラ達は止めはするだろうが納得もしてくれると思う。しかしこの2人はどうだろう?)
「クー、リン。此処の居心地はどうだ?」
「はい、皆とっても親切だし、お姫様になったような気分です」
「ワン」
「そうか……」
 目をキラキラ輝かせて答える2人の顔はとても嬉しそうだった。
(やはりこの2人にも俺は必要ないな。此処に残して出て行こう)
 クー達の嬉しそうな顔を見て、ほんとうにルシは嬉しかった。しかし何故かルシの表情がほんの一瞬だが曇っていた。
 その事をこの2人が見逃すはずは無かった。
「あ、の…… ルシ様、どうかしたのですか?」
「ク~ン」
「いや、どうもしない。お前達が幸せならそれでいいんだ。さぁ食べよう」
 今は考えないで置こうと、ルシは料理に手を伸ばす。もちろん2人に心配させないように微笑を湛えたままである。
 クーとリンは少し気になりはするが、それ以上に聞きたいことが山ほどあった。
 今まで何処に居て何をしていたのか、髪と瞳は何故変化したのか、アオローラとはどういう関係なのか、なぜ今になって戻ってきたのか、しかし怖くて聞けなかったのだ。

 一夜明けて翌日の事、朝からルシはヴァルザードに呼び出されていた。
 そこはヴァルザードの私室。大した調度品は無く、酒瓶を入れた飾り棚とベッドと応接セットのみ。その応接セットには王女2人が腰掛けている。その他にはシェラ、クー、リンという仲間達も揃い、そしてアオローラも呼ばれていた。
「あー人数が多すぎて皆が座れないようだね。ちょっと椅子を運ばせるから待っててくれたまえ」
 メイドを呼び、ヴァルザードが指示をだす。そのメイドを見るシェラの視線は冷たかった。
 メイドが一礼して部屋を出ると、シェラは聞こえよがしに呟いた。
「胸が大きな娘だったわね……」
「「「……」」」
「き、君は何を言っているのかね。は、はっはっ……」
 ヴァルザードの顔は引き攣り、冷たい視線を浴びることになった。

 椅子が用意され全員が座ると、メイド達は退室させられた。もちろんシェラの視線が怖かったからでは無く、あくまで内輪だけで話したかったからである。しかしシェラの視線だけは未だに冷たいままである。
 シェラの視線を気にしつつ、ヴァルザードは気を取り直し話を切り出した。
「えーまずは、両王女様に一言お断りさせて頂きます。この場ではカノン王国での立場はお忘れ頂いて、あくまで『仲間』での会話、という事で話しをしたいと思いますが、よろしいでしょうか?」
「「はい、もちろんですわ」」
 両王女がすかさず答える。
「今更何言ってるの? いつも私達だけの時は無礼講で話ししてるじゃない?」
 シェラが冷たい視線のまま、両王女の後を引き継いだ。
「まぁそうなのだがね。一応アオローラ殿も居るから、断りを入れただけだよ」
「ふ~ん、で、いったい何を話したいの?」
 棘のある切り出しをしたのはシェラである。
 シェラはヴァルザードにある不信を抱いていたのだ。
 シェラの知る限りヴァルザードはルシが帰って来て以来一言もルシとは口をきいていない。
 それが何故なのかは分からないし、ただの偶然かもしれない。けれどもシェラにはヴァルザードがなにか企んでいるとしか思えなかった。それがこの呼び出しだと思ったのだ。
 ヴァルザードは此処に集まる全ての者と異なる考えを持っていた。今からそれをどう伝えるか悩んでいたのだった。それをシェラが感じ取っていることはヴァルザードも気が付いていた。
「もちろん、ルシ君のことだよ」

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