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ルシ伝 作者:キルナ

第2章 

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再会

『山猫亭』の荷馬車は国境を越えカノン国の領土に入っていた。もちろん国境の砦は難民を受け入れる為、常時開け放たれている。よほど怪しい者でなければ素通り状態と言って良いだろう。
 国境を越えしばらく進むと、左手の切り立った崖もいつしか平原に変わっていた。右手の海岸線からも段々と遠ざかり次第に海は見えなくなる。アオローラは寂しそうな表情を見せるが、こればかりは仕方がない。
 さらに一日ほど東に進むと南北に走る街道にぶち当たった。その街道を北上、厳密に言えば北北西に一日ほど進めばカノン王国王都キャメロンに到着する。反対に南下すればモリリス王国領へと続くことになる。もちろん一行は北へと進路を変える。

 馬車が平原の街道を北北西に進んでいると、前方から一頭の馬が疾駆してくるのが見えた。その横に小さな白い体躯も見える。
 荷馬車を操るマイラスが、最初に気が付いたようだ。

「おい、アンナ、あれ……」
 マイラスが、疾駆してくる馬にゆびを指す。
 指された先に目を向けたアンナは一瞬驚くものの、バシバシと亭主のマイラスを叩きだした。
「ちょっと、あんた馬車を停めてっ!」
「おぃ、いてーよ。叩かなくたって停めるわい」
「ごちゃごちゃ言ってないで、さっさとお停めっ!」

 馬車が停止すると、慌てて飛び降りるアンナ。街道の真ん中に両手を広げて疾駆してくる馬の往く手を塞いだ。
 驚愕の表情で手綱を引き馬を止めたクー。しかし止められたから驚いているのではない。懐かしい顔ぶれに驚いているのだ。
「お、おばちゃん…… おじちゃんも?」
 不思議そうにアンナとマイラスに視線を交互させるクー。
「クーちゃんっ! それにリンちゃんも。元気にしてたかい?」
 声を掛けながらも手を差し伸べ、馬の背からクーが降ろしてやる。そしてしっかりと抱きしめている。その目には暖かいものが浮かんでいた。
「いやー懐かしいねぇ。でもそんな格好で何処行くんだい?」
 夜着のままのクーを不審に思ったアンナだが、マイラスがその質問を制した。
「んなこと後でいいだろ。それより、おーい後ろの3人ちょっと来てくれぇ~」

 マイラスの呼ぶ声で後ろからルシ達3人が姿を現した。
 ルシを見つけたクーは、代わり果てたルシの姿に驚愕の表情を示す。
 しかし直ぐにその表情は崩れ去る。
 大きく見開いた瞳からは溢れる様に涙が零れ、その小さな身体は小刻みに震えている。
 口から零れる声には嗚咽が混じり聞き取る事が出来ない。
 一歩、また一歩、よろよろとルシに歩み寄っていく。

 ルシはクーとリンを見たとたん頭の中に激しい衝撃が走った。
 と同時に次から次へと走馬灯のように記憶の映像が頭の中を駆け巡っていく。
 リンとの出会い。クーとの出会い。様々な思い出がよみがえる。
 ルシが記憶を取り戻した瞬間だった。

「クー…… リン……」
 ルシの口から小さく声が漏れた。
「ルシ様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 クーとリンが駆け出しルシの胸に飛び込んだ。
 その柔らかな身体をルシが優しく包み込む。


 キャメロン王都に辿りついた一行を待ち受けていたのは数名の女性騎士だった。
 白銀の鎧の胸には白い獅子が、それ以外の箇所に真紅の小さな薔薇も描かれている。鎧と言ってもプレートアーマーの様な重装備ではなく女性でも身軽に動ける様、軽量化の細工が随所に施されている様だ。
 そんな美麗な鎧を纏うのは、女性のみ10数名で編成された『戦乙女騎士隊』である。
 どうやらシェラの命令によりクーの捜索に当たっていたようだ。

「じゃ、おばちゃん、あとで必ず行くね」
「あいよ、まってるよ。じゃぁねー」
 アンナ、マイラス、サラの3人は、そのまま難民居住区域へと行く事になった。

 ルシとアオローラとクーの3人は戦乙女騎士隊に連れられて城に向かう。
 その道中、クーは戦乙女騎士隊の副隊長にお叱りを受けているようだ。

 城に戻ると、騎士隊より報告を受けたシェラが一番に駆けつけた。
「クーっ! 一体何処行ってたの? それも夜着のままって、何考えてるのさ!」
 心配が安堵となり、さらには怒りに変わっているようだ。
「ルシ様の、お迎えに、決まってる」
 クーも少しは反省しているようで、ぼそぼそと呟いている。
「ルシィー? 何処にルシがい……る……のよ……」
 クーが夜着のまま飛び出したと聞いて、もしやとは思っていたが、一見してルシらしい男は見当らなかった。もちろん黒い髪の男と、瑠璃色の長い髪の露出狂女が居る事は、視界の端に捉えてはいたが、その髪の違いで顔など確認していなかったのだ。
 しかしクーの言葉で改めて顔を見た。髪の色、瞳の色が変わり、幾分幼く見えなくも無いが確かにルシだった。幼く見えるのは髪と瞳の所為だろう。
「あんた、ルシなの……?」
 怒りの表情が驚愕へと変わり、さらには目に涙を湛え今にも泣き出しそうな表情に変わる。
「あぁ、心配かけたな……」
 小さく呟かれたその声は、まぎれもないルシの声だった。普通の人には解らないだろうが、一瞬見せた照れくさそうな表情。そしてすぐ無表情へと戻る。そんな小さな表情の変化は、間違いなくルシの癖だった。
「ルシぃぃぃぃ!」
 思わず、シェラはルシの胸に飛び込んでいた。
 その顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃである。
「ルシ……あん……った……今……まで何処で……なに……っん……ってたの…………」
 その先は嗚咽に変わりほとんど聞き取れなかった。
 ルシはシェラを抱きとめると、そっとその栗色の頭を撫で、
「すまん…………」と一言だけ呟く。
 シェラは人前だという事を忘れワンワン泣き叫んでいる。

 普段の強気なシェラしか知らない騎士隊の面々は呆然と眺めていた。
 クーは一瞬、抱きつくシェラを引き剥がそうと思ったが、こんな弱々しいシェラを見て、さすがに思い留まったようだ。
 そんな場面に現れたのはヴァルザードに連れられた両王女だった。

 黒髪の男に抱きつき、泣き喚くシェラ。その声は嗚咽で聞き取れない。
 そんなシェラを見て両王女達が咄嗟に思ったことはクーの安否であった。もしやと思い一瞬にしてその表情は青ざめていた。しかし声を掛けようと思うと同時に夜着のクーが視界に映る。
 なにがなんだか判らず、おろおろするヴァルザードと両王女。
「クー、これはどうしたんだい? シェラ君はいったいなにを泣いているんだね?」
「ルシ様が、帰って来たから……」
 嬉しそうに呟き返すクー。その言葉に3人は改めて黒髪の男をじっくり観察する。
 黒髪黒眼だが、確かにルシだった。
「ルシ君なのか……?」
「ルシ様なのですか……?」
「ルシさん……?」
 3人が同時に呟いていた。
 ルシも3人に気付き、また一瞬照れくさそうにすると「あぁ、ただいま……」と呟いた。
 その後の両王女の行動はシェラの時と同じである。
 2人とも同時にルシの胸に飛び込んでいた。
 さすがにルシも3人に抱きつかれて、困り果てているようだ。それに感化されたのか、またクーまで抱きついて泣き出す始末。

 城内中庭では4人の美少女達の泣き声が当分静まる事はなかった。
 後にこの事は『4人の戦乙女号泣事件』と名付けられ、在らぬ噂が飛び交う事となるが、真相は闇の中へと消えていった。

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