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ルシ伝 作者:キルナ

第2章 

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失ったもの


 エプソニア大陸の西に強大な軍事力を誇る大国があった。
 500年前の聖戦で5人の勇者達が王位を継いだ5大大国の1つビズルトラ王国である。その王国の北に位置する王都ディアークは、広大な草原と連なる山脈、大陸一の砂漠と樹海と言われるほどの森、それら4つに囲まれ高い防壁と大きな堀を持つ堅牢な城塞都市であった。

 そんな城塞都市の大通りを1組の若い男女が歩いていた。
 15歳くらいに見える少女は名をアオローラという。潤いのある瑠璃色の髪は地に擦るかと思うほど程長く、瞳は金色、肌は透き通るほど白い。
 一見水着かと思う様な胸しか隠していない上着と、下着が見えそうな短いスカートは極めて露出度が高く、顔の美しさも然ることながら、その露出度の高さゆえ街行く男の視線を独り占めにしていた。さらに言えばまだ季節は冬、女の格好は常識を逸脱する物だった。

 そして少女の後ろを歩く男、いや少年と呼ぶ方がいいかも知れない。
 艶やかな銀髪に漆黒の眼、全身を黒い外套に包み、その体躯は伺い知れない。

 アオローラはたまにすれ違う男達の視線を気にする様子も無く、キョロキョロと街並みを見渡していた。その首が左右に振れるたびに瑠璃色の髪がフワリと揺れ微かにハイビスカスの香りが漂う。そんな彼女の口から漏れる言葉は見かけとは違い、やけに艶のある大人びたものだった。
「なんか人の数が少ないわねぇ?」
 アオローラがそう思うのは無理も無かった。普段なら人で溢れかえっている大通りが今や時折荷馬車が慌しく行き交うのみで歩行者は数えるほどしか居なかった。
 アオローラの言葉に、少年は怒っているのか聞こえていないのか、答える様子はない。しかしアオローラは後ろを歩く少年を一瞥しただけで更に言葉を続けた。
「大陸一の強国だって言うから期待してたのに、大きいだけで寂れた街って感じだわね?」
 それでも少年は表情1つ変えずただ真っ直ぐ歩を進める。
 アオローラの顔に苦笑が浮かんだが、それもほんの一瞬のことですぐ笑顔に戻り、また街並みをキョロキョロ見渡している。ふと視線を前に戻すと少年はいつの間にか数歩先を行っていた。
「ちょっと待ちなさいよ 歩くのまだ慣れてないんだから……」
 そう言って小走りで少年に駆け寄るとその腕にしがみ付いてしまった。
 少年の腕には豊かな胸が押し付けられている。少年は視線をその胸に移し一瞬困惑の表情を浮かべたかと思うと、なにかを彷彿するような表情を見せた。
 視線に気が付いたアオローラは、少し頬を赤らめるが、悪戯心を刺激されたように呟いた。
「ふふっ 胸が気になるのかしら…… 宿屋にでもいく?」
 大胆なことを言う割には心臓の鼓動はそうとう早くなっているようで、少年にもその鼓動が伝わっている。
 しかし少年はその腕を振り解くと「興味ない」と一言発し、先々行ってしまった。
「もう……」

 ここビズルトラ王国の王都ディアークは、ほんの数ヶ月前までは人通りも多く賑やかな街だった。だがカノン王国侵略に失敗。さらに国王や多くの指揮官を失うという大敗を喫し、それ以降、王都は様変わりしてしまったのだ。
 多くの兵も失ったビズルトラ王国は、国民の反感もかえりみず強制徴募を行い、さらなる増税で国民の不満は爆発した。
 地方の街や村では暴動や反乱が相次ぐが、領主にそれを鎮圧する兵力は無く、援軍を要請された本国側にもそれを送る余裕は無かった。それもそのはずここ王都ディアークでも同じように反乱や暴動が相次いでいたからだ。
 今は国王が強制徴募と増税を取りやめると発表したので、その混乱は治まったものの国を捨て国外へ逃亡する民衆が後を絶たない状況だった。

 しばらく歩くとアオローラは荷馬車になにやら家財道具などを積み込んでいる1人の男に声を掛けてみた。もちろんその腕は少年をしっかり捕まえている。
「あのー、ちょっといいかしら?」
 男は振り返るとアオローラを見て絶句している。そして脚の先から頭の天辺までを舐めるように視線を送ると、胸の谷間を凝視して固まってしまった。アオローラの後ろで在らぬ方向を向いている少年のことは眼に映っていないようだ。
 間近で胸を凝視されるのは流石に恥ずかしいのか、アオローラは胸を手で隠してしまった。
 その頬も少し赤みを帯びている。
「そんなに見ないで貰えるかしら?……」
「おっと、すまねぇーいやーあまりにもすごいんで、つい……なっはっはっっ!」
 男は後頭部を掻きながら照れくさそうに笑い出した。
「で、オレになんか用かい?」
「えぇ、この街はいつもこんなに人が少ないのかしら?」
 アオローラの質問に男は少し首を傾げる。
「ねぇちゃんは、異国の人みたいだが、なんもしらねぇのかい?」
 アオローラは「ねぇちゃん」と言われ一瞬その瞳が冷気を帯びたものの、すぐ笑顔にもどす。「えぇ、つい先ほどこの街に着いたばかりなの」
「そうかい、ならねぇちゃん達も早くこの国から出た方がいいぞ」
 そう言って男は事の成り行きを説明しはじめた。

 ビズルトラ前国王はカノン王国侵略と同時に大陸全土にも『宣戦布告』を行っていたらしいのだ。噂によると前国王は『不死の王』リッチーと密約を交わし、その力をもって大陸を支配しようと考えていた。新国王もそれを利用しようと地下迷宮を探したが『不死の王』の姿はどこにも無い。慌てた新国王は強制徴募と増税によって国力を回復しようとしたが国民の反発に合い更に国力を低下させてしまった。今まではビズルトラ王国の軍事力を恐れ、手をこまねいていた近隣諸国も、今や時勢と逆に進軍を宣言した。
 つまり早く逃げないと戦火に巻き込まれると言う話だった。

「『馬鹿王』って噂は聞いたことあるけど、まさか『不死の王』とはね……」
 話を聞いたアオローラも流石に驚きの色を隠せなかったようだ。

『不死の王』。
 その力も然ることながら、恐ろしいのはその配下たる『不死の軍団』である。彼らは普通の武器では倒す事が出来ず、さらに彼らに殺された者はアンデッド化する。つまり戦を重ねれば兵がどんどん増えるのだ。大陸を支配したころには大陸全土が『不死の兵』で溢れ返ることになるだろう。

「あぁ、悪い事は言わねぇ、早くこの街から出た方がいい」
 男はそう言うと、また慌てたように家財道具を荷馬車に積み込み始めた。
 アオローラは男に礼を言い、その場をあとにした。

 アオローラと少年は再び大通りを歩き出すが、どこに行くという目的が在る訳ではない。そもそもこの王都に来たのも旅の途中で偶然立ち寄ったに過ぎない。

 旅を始めたのは今から2ヶ月ほど前。そして少年とアオローラが出会ったのがその1ヶ月ほど前である。死に掛けていた少年を偶然アオローラが見つけ、自分が住む神殿に連れ帰った。少年は一命は取りとめたものの記憶を失っており、その記憶を取り戻すために旅に出ることにした。アオローラは神殿の主たる海竜王の命で少年について行く事になったのだ。

「海竜王様は「旅をすれば記憶に触れるモノにも出会えよう、さすれば失われた記憶を取り戻せるやもしれん」なんて言ってたけど…… なにか思い出せそう?」
 大仰に両手を広げたアオローラ。海竜王に成り切った口振りで問いかけるが少年の視線は大通りから裏通りに向かう一本の路地に向けられていた。
 アオローラが可愛く首を傾げるものの少年は足早に路地へと向かう。
 ズンズンと進んでいく少年を、「待ちなさいよー」と潤んだ瞳で追いすがるアオローラ。

 少年が脚を止めたのは一軒の酒場だった。
 屋号は『山猫亭』。

 少年が扉を開けるとカランというドアベルの音が鳴るものの、そこは閑散として客はおろか店番すら見当たらない。
 少年とアオローラが店に入って行くと奥から女性の声が聞こえてきた。
「誰だい? もう店じまいだよ」
 言い終わると同時に奥の扉から割腹の良い中年女性が顔を覗かせた。
 その女性はアオローラの衣装を見て一瞬ギョッとするものの、視線を少年に向けると、ズカズカと歩み寄りその顔をまじまじと眺めだした。少年は首を傾げ少し訝しむ表情を向ける。
「あんた、名前なんてんだい?」
 少年は答えず、じっとその女性を見ている。しかしアオローラが逆に質問をした。
「こんにちは。私はアオローラと言います。おばさんはこの店の方かしら?」
「あ、あぁ。あたしゃこの店の女将でアンナって言うんだけどね、で後ろに居るのが亭主でこの店の主のマイラスだよ。ってあんた何鼻の下伸ばしてんだいっ!」
 女将と名乗った女の後ろには、いつの間にかこれまた恰幅のいい中年男が立っていた。
 アオローラに視線を釘付けにされていた店主が、女将に怒鳴られ苦笑いを浮かべている。
 もちろんアオローラは慣れているのか気にも留めない。
「そう。はじめまして」
 笑顔で軽く頭を下げると、「じつは」と続けた。
「この子記憶がないのよ。おばさん達、何か知ってるのかしら?」
 少年が吸い寄せられるように店に入った事、この女性の態度、それらを見たアオローラはこの少年の記憶に触れるモノが此処にあると思った。
「いや、あたしの知ってる子、って言っても店の客なんだけどね、この子にそっくりなのさ。髪と眼の色は違うけど、それにこの子の方が幼く見えるねぇ、もしかして兄弟かなにかかねぇ」
 少年は後退るが、その女性はさらに観察するように眺めている。
「しっかし、ルシさんにそっくりだねぇ」
「おばさん、詳しく話してもらえるかしら? たぶんこの子がおばさんの言う「ルシさん」に間違いないわ」

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