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ルシ伝 作者:キルナ

第1章 カノン王国の王女

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シェラとキャミ

 真っ暗な闇、静寂の無。
 ……ここはどこ?
 あれ、声がでない。
 怖い。
 誰か助けて。
 おかーさん助けてー!
 怖いよーーーーーーーー




 はっ!と目を覚ます。
 あたりを見回して夢だと気付く。
「夢か……」
 久々に見た忌まわしい夢、いや忌まわしい過去。

 ふと御令嬢一行のことを思い出し、馬車を確認する。
 (異常はなさそうだな)

 ルシは自分のシャツがびっしょり濡れていることに気がついた。全身汗だくだった。

 焚き火は消え、あたりはまだ暗く、月明かりしか無い、夜明け前のようだ。
 あまりにもビショビショなので水浴びしたい気分だが、街道が川から少し外れて水浴び出来るような水場は見当たらない。とりあえず着替えることにした。

 普段は長袖、長ズボンに手袋の為、肌の露出は顔だけなので判らないが、こうして衣服を脱いでいくと、忌まわしい過去が思い出される。月明かりに照らされて全身に刻まれた古代文字が発光しているように見えた。

 あれは幾つのことだろう。
 物心ついた時からずっとか……

 山間の小さな村、オレが生まれた村、村の名はカイロ。
 そこでオレは村人から悪魔と蔑まれていた。
 そう、髪が銀色だった所為で。
 いつも、苛められていた。友達もいなかった。家からでると、石を投げられた。
 父親は居なかった。母親と2人暮らしだった。
 母親はいつも泣いていた。

 母親はオレを殺そうとした。
 そして母親も自ら、その命を絶った。
 オレは死に切れなかった。
 心臓に短剣を突き立てられたにも関わらず。

 7歳のころ村に『古の大魔道師』とかいうローブを纏った男が現れた。
 その魔道師に封印の為だと、体中に文字の様なものを刻まれた。
 あまりの激痛に、気が狂いそうだった。
 その封印が終わった時の、村長の驚愕の表情は今でも覚えている。
 その時に髪の色が銀から白金に変わった。
 黒だった目の色も、右目が赤、左目が金になっていた。
 肌の色も血の気が失せたように青白くなっていた。

 その後すぐに、魔道師と村長に連れられ、洞窟に幽閉された。
 「お前は呪われている、この洞窟で一生を過ごすのだ」と。
 洞窟の入り口の扉は鍵が掛けられ、一切出ることを許されなかった。
 洞窟には昼も夜もなかった。
 洞窟の中は真っ暗で松明の明かりもない。
 一日一回パンと具のないスープが届けられた。
 その時、扉の小窓が開くが、外はいつも暗かった。たぶん夜だったのだろう。

 どのくらいの時を洞窟で過ごしたのだろう。
 相変わらず洞窟は真っ暗な闇だった。
 しかし見ようと意識すれば微かに見えるようになっていた。
 それからほどなく、意識すれば洞窟の内部がはっきり見えるようになった。
 意識を切れば相変わらず闇だった。
 自分の中に、今まで気がつかなかった力の様なものをハッキリ感じていた。
 そう、魔力を、それも膨大な魔力。
 同時に、魔法が使えることも……

 魔法で洞窟の扉は、簡単に壊せた。
 自由になった喜びもあった。
 自由を奪われた恨みもあった。
 だが、悪魔と罵られ、母親が自害し、幽閉されたことも必然に思えた。
 判らないのは、この体の文字の様なものと、髪と眼の色だった。

 すぐ村に向かい、村長の家に行った。
 村長の目には驚愕と忌避の色が浮かんでいた様に思う。
 村長に尋ねた。
 この体の文字の様なものが、なんなのか。
 この髪と眼の色はどうしてか。
 なぜ洞窟に幽閉したのか? なぜ殺さなかったのか?

 村長の答えは、この文字の様なものが古代文字だということ、それ以外は魔道師の言に従っただけで何も判らない。魔道師に聞いても教えて貰えなかったと、ただ絶対に死なせず、洞窟から出すなと、そう言って魔道師は去ったと言う。
 そして魔道師はビズルトラ王国に住んでいるといった。

 オレが洞窟に幽閉されていたのは6年間だった。
 自由になれた喜びは少しあった様に思う。しかし自由になったからと言って、なにをすればいいのか、なにをしたいのか判らなかった。別に生への執着もなかったが、死にたいとも思わなかった。この村にオレの居場所がないのはハッキリしていた。この容姿だと、世界中どこにいってもオレの居場所がないと想像するのも容易かった。

 行くあてはない、しいて言うなら、魔道師を探し出し、謎を解くくらいか。
 それもどうでもいい事という気もしたが……
 それからすぐに旅立った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 村を旅立つときは、たしか春だったきがする。冬は2回越した。もうすぐ3回目の冬が来る。随分と寄り道をしたが、ビズルトラ王国の王都まではもうすぐだった。昨日は国境も越えた。あと数日で王都に着くだろう。
 そして今、王都に向かう街道を、昨日出合った御令嬢の共として、その馬車の横を愛馬のブライに跨っている。

 今までの旅で意外に思ったのは、この異様な容姿だが、カイロの村ほど忌避されることはなかったということだ。まぁ多少驚く程度だろうか?
 石を投げられることなど一度もなく、たまに「なんで、そんな色してるんだ?」と聞かれることはあるが、「判らない」と答えると「そうか」と笑うだけだった。
 なかには、「綺麗な髪をしている」と言って「触らせて欲しい」と言うやつまで居た。なぜか、そういうやつは女ばかりだったが……
 ただ、騎士や警備兵などは別である。砦や都への出入り口でも必要以上に詰問されることが多い。忌避はさてれないようだが、やたらと警戒される。どうも普通の人間とは思ってもらえず、魔人族や獣人族かと疑われる。
 たしかに、普通の人間ではないんだろうが……

 それ以外にも旅で色々知りえた事は多い。
 魔法については、あまり使わないほうが良いという事もわかった。遠い昔、この大陸は魔法文明が栄え、大勢の魔法使いがいたそうだが、今はほとんど居ないらしい。たまに居ても使える魔法は下位魔法のみ。つまり使うとしても下位魔法のみがいいだろう。別に忌避されるという訳ではなく、魔法使いは、危険人物として各国で警戒されのだ。魔法使いは時として、騎士数十人にも匹敵するからだ。
 たしかに、攻撃魔法一つで盗賊団を壊滅したこともあった。

 まぁそういう事情で魔法は出来るだけ控え、剣を持つようになったのだが、剣についても興味深い話が聞けた。魔法文明が栄えたころに作られたもので、魔力を剣に付与した、魔剣というものが、まだこの時代にも残っているらしい。その魔剣は付与された魔力にもよるらしいが、とにかく切れ味が抜群で、刃こぼれも滅多にないらしく、中には特別な力がある剣もあるらしい。
 少し興味があるので、魔道師探しが終われば、魔剣探しでもしてみようかと考えている。ちなみに、自分で剣に魔力を付与しようとしたが出来なかった。

 とにかく、ほとんど洞窟に幽閉されていたので、なにも知らないのと同じだった。
旅は、そういう意味でもいい勉強になる、大陸の文化、歴史、伝説など、色々と知識も増えた。
 もう一つ判ったことは、魔法はともかく、剣術や格闘術、馬の乗り方など、体を使うことは、なぜか普通にこなせた事だ。

――――――――――――――――――――


 平原を北から南にゆっくりと流れる川に沿って街道は続いている。国境の砦で聞いた話によれば、砦から王都までは馬車で3日程だという。
 貴族のお嬢様が一緒なので休憩も多くなり、あれから結局4日かかったが、何事もなく無事にビズルトラ王国の王都ディアークに到着した。
 ほぼ4日御令嬢達と旅をしたわけだが、殆ど口を利くことも無く、途中山賊等に出会うことも無く、無事到着となった。

 そして別れ際。
「本来は、お礼として金銭を御渡しするべきなのでしょうが、今は持ち合わせが有りません。どうかこれをお受け取り下さい」
 そう言って、御令嬢は自分の首に掛けられたペンダントを外し、一瞥してから一度しっかり握り締めて、そっと手を差し出してきた。
「「「お、お嬢様……それは……」」」
「いいのです」
 それは各所に宝石を散りばめ、なにか意匠を凝らした見事なペンダントだった。
 一目見ただけでも、そうとうの値打ち物だとわかる品。
「相当な値打ち物だな、こんな物を貰うほどの仕事はしていない」
「いいえ、わたくし達4名の命をお救い下さいました。なんのお礼もしない、という訳にはまいりません。それに、わたくしにはもう必要の無い物……どうか御受け取り下さい」
 御者が心配そうに見守り、メイドはオロオロとしている。
 そんな物を渡してしまっていいのか?という表情である。
「わかった、ありがたく貰っておく」
 まぁ本人が良いと言うのなら、無理に断る必要も無いだろうと、受け取った。
 そうして、そこで御令嬢達と別れた。
 しかし、受け取ったはいいが、こんな物、オレにも必要ない。
 渡された時の表情を思い出せば、さすがに売り払うことも躊躇する。オレはいったい何をやっているんだと、呆れた。

 さすがに大陸1,2を争う王国、その王都ディアークは、美しい街並みだった。
 その大通りは石畳で舗装され、通り脇には露店や様々な店で賑わっている。通行人も髪の色、肌の色も色々で、服装も多種多様の体を示していた。人間以外の種族も普通に暮らしているのかもしれない。時折、馬車や馬に乗る人も居るが、ほとんどが徒歩である。

 御令嬢一行と別れたルシは、ふと見つけた宿屋兼酒場『山猫亭』の扉を開けた。店内を見渡すと、4人から6人ほど座れるテーブルが5つほど、あとカウンターにも椅子が10ほどあり、大勢の客で賑わっていた。客を見ると、獣人やエルフ、ドワーフと言った種族もいる。給仕は猫の獣人のようだ。

「いらっしゃーい」と女将らしき、中年女性の声が店内に響く。
 女将に、軽く会釈してカウンターの椅子に腰を下ろし「エールを一杯」と注文する。
 すぐにカウンター内に居た店主らしき、恰幅のいい中年の男がエールを差し出してきた。
「見かけない顔だなぁ、冒険者か?」
「へぇ綺麗な髪をしてるねぇ、あら、眼も素敵じゃないかい?」
 店主らしき男と、女将らしい女に声を掛けられる。
 これはいつものことだ。あまりにも奇異な容姿のため、こういう酒場ではすぐ声をかけられる。最初はそういうことを嫌ったが、今では情報集めには、こういうきっかけを相手から持ちかけてくれるのはありがたいと思ってる。
 いつもされる質問に適当に受け答えし、本題の質問をこちらからしてみることにする。
「ところで、この国には『古の大魔道師』が居るって聞いたんだが?」
「あぁ、エンムギ様のことかい?」
「エンムギ様?」
「あぁそうさ、数年前までは、お城に宮廷魔術師として御仕えしてたんだけどねぇ、今はこの国の西にあるパナソニ砂漠の古代遺跡に行ってるって話だねぇ」
 意外にあっさりと情報を得られたことに少し驚いたが、『古の大魔道師』なら有名人なのだろうから当然なのかと適当に納得した。
「パナソニ砂漠の古代遺跡?」

 パナソニ砂漠のことは聞いたことがあった、大陸の中央に位置し最大の砂漠、昼間は50度を楽に超え、夜には氷点下まで下がり、サンドワームという巨大な魔獣が住むという。冒険者さえあまり足を踏み入れない危険な地域だと。しかし古代遺跡があるという話は初耳だった。
「あぁなんでも古い遺跡らしくてねぇ、あまり人には知られてないし、エンムギ様は従者の人と調査してるらしいよ」
「調査?」
「って、あんたエンムギ様になんか用なのかい?」
「いや、用って程じゃない。有名な大魔道師なら話を聞いてみたいと思っただけだ」
と、誤魔化す。
「まぁそりゃ大魔道師様だからねぇ、誰でもそう思って当然だねぇ、あっはっはっ」
 うまく誤魔化せたようだ。
 まだ、聞きたいことはあるが、とりあえず、食事を注文した。
 あまり一つのことに固執して聞くと警戒されやすい。質問を変え、街のこと、どんな店が何処にあるか等を聞くことにした。
 ある程度街の事は聞けたし、食事も済んだので、今日はここを宿とすることにした。
 ルシは宿帳に名などを記入する時に、カウンターの男は、ここの店主で、女はその女房だと教えられた。
 店の奥にある階段を2階に上がりながら、ふと店主と女将に眼を向けた。
(まぁ明日もう少し深く聞いてみるか……)

 翌朝、『山猫亭』の女将に聞いていた冒険者ギルドに向かってみた。
 この街もそうだが、各国の街には色々なギルドが存在する。
 冒険者ギルド、傭兵ギルド、商人ギルド、魔法師ギルド、暗殺者ギルドなど。まぁ暗殺者ギルドは公けに運営されている訳ではないが……
 その各ギルドは組合という組織下に置かれ、その組合を統括しているのがギルド連合組合、その総元締めが商業都市フェールベンにある。

 商業都市フェールベンは近年栄えてきた街で、肥沃な大地と温暖な気候に恵まれ、豊かな産物、産業に支えられ、高い軍事力をも備えていた。その中心がギルド連合組合で、各ギルド組合の長から選出される長老は、大国の王と同等に扱われる存在である。
 それらのギルドは全て共通して登録制になっていて、どこの街のどこのギルドで登録しても、すべて商業都市フェールベンのギルド連合組合で管理される。
 ちなみに、ルシはすでに別の街で登録を済ませている。旅をしながら各街でギルドの依頼をこなし、日銭を稼いでの旅をしていたのである。

 目的の冒険者ギルドは『山猫亭』から歩いて数分で見つかった。
 扉を開け中に入ると、冒険者なのだろう、雑談をしている数人の男たちと2人組の女が居た。奥のカウンター内には20歳位だろうか、なかなか上品な顔立ちの女性が独り、なにやら読書中のようだ。受付係りだろう。

 どこのギルドでも同じだが、出入りは自由、仕事が欲しければ、壁等に張られている依頼の用紙を剥がして、カウンターの依頼受け付け係りまで持っていけば良いだけである。
 まぁランクにより、なんでも受けれるわけではないが、自分のランク以下の仕事ならなんでも受けられる。ルシはCランクである。

 ちなみにランクとはAからJまであり、Aが一番上とされている、最初の登録時はJから始まり、仕事をこなせば上がる仕組みである。ランクにより報酬も変わり、ランクが高ければ報酬も高いが、危険度、難易度が高くなる。ランクCともなれば、結構な高ランクで、各都市に十数人しか居ない。ランクBなどは、各都市に数人、Aともなれば大陸内にも数人しかいない。

 とりあえず、持ち金が少ないので、短時間で出来るだけ報酬の高い依頼を探すことにした。まぁCランクの仕事なら、相当額が期待出来るのだが、高ランクの依頼は中々少ないのも現状である。
 ランクD以下なら壁に貼り付けられるのだが、C以上の依頼を受けたい場合は依頼受付係りに直接聞くしかない。高ランクの依頼は、基本的に高難度で、公けに出来ない依頼が多いということである。
 ちなみに、ランクD以下でも公けにしたくない場合、依頼者よりの申し出で壁に張られることはない、その分目に付きにくくなるのため、受けるものが中々いないのだが。

 とりあえず、出来るだけ高ランクの依頼を受けたいので、受付で聞いてみる。
「あーランクCの、出来れば討伐系の依頼があればいいんだが」
 自分のギルドカードを提示しながら聞いてみた。

「はい、少々お待ち下さい」
 受付係りが少し驚いた表情を見せたが、すぐ後ろの扉に消えた。
 他の冒険者達も同じような表情でルシの方を見ていた。ルシの見た目の若さとランクのアンマッチに驚いたのか、見た目の異様さで驚いたのかは不明であるが、いつもの事なので気にもならない。

「申し訳ないのですが、ただ今ランクCの依頼は一件もございません」
 奥から戻ってきた受付係りが、申し訳なさそうに頭を下げる。
「そうか、仕方ないな。ランクDで探してみる」
 そう言って壁の依頼を探していると、後ろから声をかけられた。

「ねぇあなた、私達この依頼受けたんだけど、一緒にどう?」
 振り返ると2人連れの冒険者らしい女だった。
 片方の手を腰にあて、もう片方の手は依頼書を突きつけていた。少し胸を逸らすようにして薄ら笑いを浮かべている女、たぶんこいつが声をかけてきたんだろう。
 その背には隠れるようにもう一人の女が少し俯き加減で自信無さげに立っている。

 年の頃は2人とも10代後半だろうか。声をかけて来たと思しき方は、栗色の髪に、赤い瞳。少しウェーブの掛かった髪を肩より少し下まで垂らしている。少しつり上がった瞳は値踏みするように、ルシを観察し、まったく遠慮がない。美人なのだが、少し高慢な女というイメージだろうか。
 方や後ろに隠れる女は、艶のある綺麗な金髪を短く揃えてカットしているが、薄碧色の瞳と相まって、何処かしら高貴な感じである。後ろに隠れるしぐさも遠慮深く大人しい令嬢をイメージできる。此方は品のある美人だ。こうやって首から上だけを見ていると2人とも冒険者には見えない。
 しかしその体は、すらっとしていて、かなり引き締った感じに見える。栗毛の女は腰に剣をぶら下げ、金髪の方はレイピアを挿している。2人とも皮の膝上ズボンに皮のシャツ、小さな胸当にマント、膝下までのブーツという、冒険者らしい装備をしている。

 その突きつけられた依頼書を見てみる。
 依頼ランク D
 依頼内容  グリフォン一匹の捕獲
 地域指定  無し
 人数制限  無し(推奨人員6人以上)
 期限    依頼受託より3日
 ペナルティ 無し
 成功報酬  金貨3枚(30万)
 依頼者   オッペン卿

 備考 無傷で捕獲(針などの小さな傷ならOK)対象のサイズ制限は無し。

 ルシは猜疑の表情で、少し首をかしげた。
(推奨人数6人なのに人数制限無し? そのうえペナなし? ……まぁランク付け、条件等はギルドの判断だ、どうこう言うつもりはない、ランクD2人じゃきついだろうとは思うがオレのしったことではないか)

「報酬が30万、1人当たり10万か、遠慮させてもらう」
 そう答えると、栗毛赤眼の瞳が大きく開かれ、その口も半開き、いかにも信じられないという表情をみせた。
「1人10万が不服だっていうの? ここらじゃ平民の1日の稼ぎは、多くても1000あるかどうかよ? ランクC様は1日10万じゃ足りないってわけ? あんた普段どれだけ稼いでるっての? ちょっとなんとか言いなさいよ! すましてんじゃないわよ! ていうかぁぁ、その歳でランクCーー? ごまかしてんじゃないの? 白状しなさいよ! えぇ? 黙ってちゃわかんないわよ! 口がきけないの? どこまで偉そうなのよ!」
「ちょ、ちょっと、シェラってば、落ち着いて!」
 栗毛赤眼が、すごい剣幕でまくしたてると、後ろの金髪薄碧の女が、慌てて諌める。
「スゥハァースゥハァースゥハァースゥハァー」
「肩で息してるし……」
「返事する間をあげないと……」
 他の冒険者風の男達が口にすると、「キッ!」という音が聞こえそうな眼で睨まれて、皆しらん顔。

「まぁ、おまえには関係ない」
「な、な、な、な、むぐぐっ」
 シェラと呼ばれた女はプルプルと肩を震わせている、怒り心頭だろうか。
 そのシェラという女が、なにやら喚きそうだったが、すぐさま後ろの金髪薄蒼の女が、ガバッ!と口を押さえると羽交い絞めにし、バタバタと暴れるシェラを引きずり、そのままギルドを出て行った。出て行く際に「ごめんなさい」と、頭をさげていた。

 カラン。
 ドアベルの軽い音だけがあとに残る。
 シーーーン
 そのあとに部屋は静まり返った。

「……なんだったんだ?」
「……なんだったの?」
 と他の冒険者と受付係りが、呆れたように呟いていた。
 ルシも思わず頷いてしまった。

 気を取り直して壁の依頼を見ていたが、ふと疑問に思い受付係りに、聞いてみる。
「このあたりにグリフォンの生息地でもあるのか?」
「はい、この街の北東に位置するエルフの森と呼ばれる樹海があるのですが、ご存知ですか?」
「あぁ、知っている」
「その森に昔からグリフォンの生息地があります。ただ、最近になって、その道中の沼地にヒュドラが出るという噂もありまして、最近はグリフォンの素材も不足気味ですし、もともとグリフォンは軍や貴族の方のペットとしても人気があるのですが……」
受付係りの声が尻つぼみになっていた。

 噂? ……なるほどな

「てか、ヒュドラが出るなら、それに関する依頼があってもいいと思うが?」
「えぇ確かにあります。でも決まりなので詳細は言えませんが」
「ヒュドラっていやぁ、『炎瘴石』だろ?」
「え、えっと、その、決まりなので詳細は……」
「まぁ他にあるわけも無いからいいが、で、もう一つ聞きたいんだが?」
「はい、なんでしょう?」
「仮にだ、仮に、依頼主の要求が『炎瘴石』だとしてだ、ギルドの依頼を受けずに、それを取ってきた場合、ギルドはどういう対応をする?」
「えっと、それは、時と場合によるというか、とにかく前もって、どういう対応になるかは申し上げられません」
「そりゃそうか、まぁ『炎瘴石』なら素材屋や宝石屋に持って行っても100万は下らないか」
「はぁ……あの、どういうことでしょう?」
「いや、いい、邪魔したな」
「ちょ、ちょっとまって!」
 ギルドを出て行こうとしたら、受付係りに呼び止められた。
「ん?」
「まさか、ヒュドラを討伐に行くのですか? ヒュドラ討伐はランクBで最低5人以上なんですよ?」
「そうか? まぁオレの敵じゃないし、金になるならなんでもいい」
「え、ええええええ……まさか倒したことあるんですか?」
「ん? ……そういや無いな」

 カラン!
 ドアベルの音に続いて、ギギィーと重厚な木製ドアの音がギルド内に響く。
 白金虹彩異色の男が出て行った。

 大通りに出て、あたりを見回し、地図屋がどこだったか、昨日の『山猫亭』の女将との会話を思い出してみる。
 そのまま大通りを東に歩いて、路地のある角を右に曲がり、少し歩くと地図屋が見えた。
「いらっしゃいませー」
 小さな女の子が、元気よく挨拶をしてくる。
 まだ7,8歳だろうか? 店番をしているのだろう。
「あー、エルフの森に関する地図はないかな? 出来るだけ詳細な地図」
 あまり小さな子と話した事が無いので、すこし言葉使いに戸惑う、できるだけ、怖がらせないように勤めたつもりだが……

「え……えっとー、あ、ありますぅー、ちょっと待ってくださーい」
 女の子は少しだけ驚いた表情をみせるが、すぐ笑顔に変わり、カウンター内の棚を、ゴソゴソしている。
 少し待つと、大きな羊皮紙を2枚出してきて、カウンターの上に広げて見せてくれた。
「うちにあるのは、この2枚なんだけど、あ、2枚なんですけど。えへへ…… で、こっちはあんまり詳しく書いてないけど、安いんです。でもこっちは、すごい詳しいんだけどちょっと高いんですぅ」

 困った様な表情で説明してくれる。
 さっと見ただけでも、高いという方の地図は、たしかにびっしりと文字が書き込まれているようだ。
「いくらなんだい?」
「えと、これが1000で、こっちが、その…ご、5000です……でも、これお父さんが一生懸命作って、その……」
 5000と言う金額を、実に言い難そうに、最後は声が擦れていた。
「じゃその5000の方を貰えるかい?」
「え……、あ、ありがとうございますぅーー」
 ぱぁーっと笑顔になり、実に嬉しそうに、なんども頭をさげるので、思わず頭を撫でてしまった。
「えへへっ」っと首を少し傾けて笑顔を向けられたのは、なんともくすぐったい。

 こんな感情は初めてだ、自分の顔が引きつっているようで、どうも可笑しな気分だった。
 銀貨で5枚を渡し、さっそく地図で確認する。森中央部は強力な魔獣が生存する為立ち入り禁止区域となっている。森の外周は結構細かく、洞窟、崖、沼、谷、川等の地形、そこそこ弱い魔獣や通常の獣の生息状況、薬草、山菜、樹木の分布等も書いてあり、よくここまで調べたものだと関心する。
 さすがにヒュドラのことは書かれていないが、最近住み付いたのならしかたがない。しかしグリフォンの生息地は書かれている。目的地はその左したの大きな沼だろう。
 地図をたたみ、バックパックにしまい込み、少女に礼を言って店をあとにする。振り返ると、笑顔で手を大きく振っている姿が、なんともくすぐったい。

 大通りまで戻ると立ち止まり、口笛を吹く。
「ピィィィーーーーーーーーーー!」
 右手の親指と人差し指で円を作って、それを口に銜えて吹くだけだ。
 そのまま大通りを東門に向かって歩いていると、すぐにブライが走ってきた。
 ブライは、『山猫亭』の前に繋いでいたのだが、口笛を聞いて、起用に綱を外し、走ってきたのである。
 走ってきたブライに飛び乗ると、「ごくろう」と首筋を撫で、そのまま東門に向かう。門を出て馬首を北に向けると、一気に加速。街の北東、エルフの森を目指した。


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