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ルシ伝 作者:キルナ

第1章 カノン王国の王女

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戦 その6

良いのか悪いのか、今回は少し長くなりました。
 ビズルトラ軍は最前列に破城槌を押し出してきた。

 破城槌は車輪の付いた台に巨大な丸太を固定し、さらに矢から守るように屋根が取り付けてある。丸太の先端には金属で補強もされている。
 屋根に守られた兵達数十人が人力によって台を走らせ、その台に固定された丸太の先端を扉にぶつけて破壊するという代物である。

「突っ込めぇーー!」
「うおぉぉぉ!」
 突如雄たけびとともにビズルトラ軍の破城槌が土煙を上げて走り出した。
 破城槌の目指す先は砦の扉である。
 その後方から歩兵部隊の盾に守られ弓隊が後に続く。

 シェラの視線は破城槌を捉えている。破城槌の速度と扉までの距離を見定めているのだ。
「破城槌に続いて、歩兵弓部隊も来たわ!」
 了解! というようにヴァルザードが手をあげる。
 ヴァルザードも一応は扉内側の小窓から外を見ている。それでも防壁上から見ているシェラの目が必要だった。地上からでは後方までは見渡せないからだ。

「「射てー!」」
 カノン軍からも、一拍を置いて斉射の命令が下った。
 待っていたかの様に射弓部隊と投石部隊から敵歩兵部隊、弓部隊へと一斉に矢と石が飛んでいく。

 投石器から放たれる石は直径10から20センチの大きさがある。そんな石が直撃した盾は一発で木っ端微塵となり、それを持つ歩兵まで致命傷に近い傷を負う。
 さらに矢に対しても、数本は耐える様だが、それ以上だと盾が壊れ盾を失った歩兵、それに守られた弓隊はことごとく倒れていく。
 ビズルトラ軍はあくまで先陣の歩兵達は使い捨てにしか思っていない様である。
 それを聞いた王女は、「出来るだけ投降を進めてください」とヴァルザードに頼んでいた。
 王女の優しさを知るヴァルザードは、この王女ならそう言うだろうなと苦笑しつつも了解の意を示す。
 もちろん了解した以上、時折で良いからと、投降を進める檄を飛ばす指示を出している。

 そんな矢の雨降る中、それでも進み出た弓隊からカノン軍防壁上に矢が放たれる。しかしそれもカノン軍の魔法部隊による風魔法でことごとく方向を変えられる始末である。

 さらに破城槌が扉にぶつかろうとする時、シェラの右手が上がりそれと同時に凛とした声が響き渡った。
「今よ。扉開けてっ!」
 扉開閉部隊もその声を待っていたかの様に、一気に扉を開ける。
「おぉぉぉ!」と言う掛け声で扉がギギギギィときしむ音を出して開かれる。
 数十人に押されて進む破城槌が急に止まれる訳も無く、そのまま砦内に吸い込まれる。
「閉めてぇー」
 すかさず扉は閉められた。
 後続部隊は扉前に取り残され、成すすべも無く矢の雨に襲われる。

 しかしビズルトラ軍からは、扉をこじ開けた様に見えていた。
 物見やぐらに登り戦状況を知らせる兵から「扉が開きました!」との声を聞くと指揮官など大いに喜び
「おおぉぉぉ! 突っ込めぇっ」などと歓声が上げている。

 いくら堅固な扉であっても、巨大な破城槌で何度もぶち当たられれば破壊は免れない。それならばいっそのこと扉を開けてしまえということだ。その一瞬に入り込める敵兵の数など、たかが知れている。
 飛び込んできた破城槌を、待っていたのは鶴翼の陣を敷く槍部隊だった。
 抵抗する者はその場で槍の餌食になり、素直に投降した者は後ろ手に縛られ捕虜となる。あっと言う間の出来事だった。

 鶴翼の陣。
 敵に対して両翼を前方に張り出し、「V」の形を取る陣形である。
 通常は相手より兵数で劣っているときには使われないのだが、直進してくる敵軍を翼包囲することで大きな成果を上げ、さらに自軍の被害を抑えることが可能な防御に適した陣形である。

 カノン軍は兵数において大きく劣っているものの、扉の開け閉めで敵を分断、少数のみを相手にしその不利を打ち消している。さらに扉という狭い範囲を通ることで敵兵は一直線に成らざるを得ず「V」の型を狭めて対応し敵の動きを封じ一気に殲滅しているのである。

 飛び込んできた破城槌をどけ、捕虜及び死体を片づけると、ヴァルザードは射弓及び投石部隊の攻撃の手を少し弱める様に指示をだす。
 攻撃が弱まったことを知らされると、ビズルドラ軍の指揮官はここぞとばかりに一気に兵を送り出す。歩兵、弓隊のみだったが雄たけびを上げながら防壁を目指して駆けて行く。
 その一団が防壁に近づいた時、シェラの右手がまた上がり扉が開かれた。その開かれた扉目指して兵達が雪崩れ込んで来る。
 100ほどの兵が砦の内に入った時点でシェラが扉を閉めるように指示をだす。実際に数を数えている訳ではなく勘である。

 ヴァルザードはシェラの力量を把握していた。砂漠遠征では同行する予定だったのでギルド内での評価も長より聞いていた。実際に同行はしなかったのだが、それでも数日共に旅することで、見えてくる部分が沢山あった。例えば身のこなし、敏捷性、動体視力の素晴らしさ等だ。もとよりヴァルザード程の達人になると相手の力量はある程度見ただけで解るものである。
 最初は剣撃部隊に入れる事も考えていたが、それより自分が実戦部隊(槍部隊)に入り、指示役を彼女に回す方が得策だと考えたのだ。それに彼女以外に任せられる者も居なかった。

 扉が閉められた時点で突入できた兵はもはや籠の鳥と化した。降参か死である。
 突入当初は勢いもあり向かってくるものの、扉が閉まり味方がどんどん倒されていくと歯向かう者も減りほぼ半数は降参していった。
 戦い方、諦めの速さ、どうみても只の民兵のようだった。

 扉の外にはまだ多数の兵がごった返している。雲梯を使い防壁を登ろうとする者、斧や槍で扉を壊そうとする者、防壁の上に矢を射る者。
 だがそこには投降を進める声と矢が降り注ぐ。
 防壁の上まで登りきれた者は居らず、それらの兵や扉を壊そうとする兵は即座に狙われる対象になっている。
 そしてまた扉が開けば100程度が雪崩れ込み、閉められる。それの繰り返しだった。
 さらに捕虜となった兵が砦内に増えたのは言うまでもない。

 そんな応酬が何度か続く中、砦を奪取できない事に苛立ちを覚えるビズルトラ軍だった。

「まだ砦を奪えんのかぁっ!」
「はっ! 味方の兵が相当数は侵入してると思われますが、なにぶん民兵ばかりです。カノン軍も雑兵が多いとはいえ正規の騎士や傭兵も砦内には沢山おりますゆえ、多少の時間がかかるものかと……」
「では、此方も騎士隊を送り込めぇ!」
「は、ははっ!」

 最初の破城槌で扉をこじ開けたと勘違いしたのがビズルトラ軍の失態であった。その後の扉の開け閉めですら、砦内では戦闘が続いておりカノン兵が閉めればビズルトラ兵が開ける、その繰り返しだと勘違いしたのだ。
 扉が開くたびに兵が雪崩れ込む、すぐ閉められるものの、また直ぐ開く。砦を奪うのも時間の問題だと高をくくっていたのである。
 ましてや突入した兵が半数近く死に残りが捕虜になってるなど知る由も無かった。

 そしてその日の戦は日暮れとともに終結し、ビズルトラの第一軍は壊滅に近い状態だった。
 それに引き換えカノン軍はほぼ無傷と言っていい。敵の矢で即死したものを除けば魔法部隊による治癒魔法でほぼ傷は完治している。さすがに疲れまでは回復出来ないが、炊き出し部隊が野戦食とは思えない豪華な料理を作っている。それらを食したっぷり睡眠をとれば明日も問題なく戦いに参戦できるだろう。

 砦内では王女立会いの元、捕虜の尋問が始まった。
 王女の命令で一切の拷問は無く、答えたく無ければ答えなくて良いという形で行われた。
 最初こそ口を閉ざし喋る兵は居なかったが、王女に真摯に見つめられ、優しく問いかけられると次第に口を開く兵が増えてきた。
 これを傍で眺めていたヴァルザードや上将軍達は「甘すぎる」と思ったものの、次第にその考えを改めていくしかなかった。
 この王女が後にカノン国王になればカノン王国は安泰だろうと考えていた。

 最後に王女は捕虜達の前に立つと優しい笑みを浮かべた。
「この戦が終われば必ずお国へお返し致します。ですので今しばらく我慢して下さい」
 そう言って捕虜に小さく低頭したのだ。
 さらに捕虜にまでカノン軍が食べる物と同じ食事を提供するように指示していった。
 これにはさすがに味方も捕虜も度肝を抜かれたものだが、誰も口を挟む者は居なかった。
 涙を浮かべる捕虜達は口々に感謝の意を表していた。

 尋問(ただの質問だったが)が進むに連れて多くのことを口にする捕虜だったが、あまり得られる情報は無かった。
 戦状況から予想していた通り、第一軍はほぼ民兵の集まりで捨て駒だったこと、次に進軍予定の第2軍からが騎士傭兵及び魔法部隊も加わる正規軍であること、民兵はもちろんだが、騎士や傭兵ですら、この戦を好ましく思っていない者が多いことなど。
 それらは間諜からの報告でほぼ解っていたことだった。

 その夜、いや明け方に近かったか。ビズルトラ軍は夜襲を仕掛けた。
 このままおめおめと引き下がったのでは、厳しい処罰が待っているだけだと思ったのかもしれない。雲が夜空に覆い月明かり、星明りなど一切を隠してしまったからかもしれない。

 音を殺し雲梯を担いだ兵達が防壁に近寄ってくる。さらに歩兵も歩み寄る。
 しかしヴァルザードが指揮する以上警戒を怠るわけがなかった。夜の闇が危険なことは冒険者にとっては当然のことである。
 雲梯を防壁に掛けた瞬間、防壁に灯りがともり雲梯が蹴り倒された。
 防壁の上には昼間と同じ数の射弓部隊、投石部隊がずらりと並んでいる。

「死にたく無ければ投降しろっ! カノン国キャノ王女の優しさはお前達の国でも聞き及んでいるだろう? 決して無慈悲な扱いはしない」
 動揺するビズルトラ兵だった。

 そして王女が防壁の上に立つと灯りがその姿を照らす。
 闇夜に浮かぶ王女の姿は、灯りに照らされたことでさらに神秘性を増したようだった。
 風にそよぐ髪は神々しく煌き、透き通る肌まで光って見え、優しい香りまで運んでくるようだった。ビズルトラ軍にはまるで天女か女神そのももに見えただろう。
 実際に天女や女神にも例えられる程の美貌なのだから当然なのだが、それでもビズルトラ側からすれば噂だけで実際に目にした者は少ない。

「お願いします。これ以上無益な戦いはしたくはありません。帰ることが適わないのであれば、どうか投降して下さい」
 その声は、今までに聞いたどんな音よりも優しく慈悲深いものだった。心に染み渡るその声に感動しない者は居ない。
 その場にいた全てのビズルトラ兵は王女に跪き投降を願い出た。

 残ったのは後方で待機していた指揮官と取り巻きの騎士達だけだった。

 そして翌日は昨日の晴天が嘘のような曇天模様に見舞われた。
 砦の西にはビズルトラの第2軍と思しき軍勢が陣を敷いている。
 この新たな軍勢は第1軍とは違い重装備の騎士が目立つようだ。見るからに正規軍が出てきた感じである。
 もしこのまま雨か雪にでもなれば、大地は泥濘み重い破城槌を動かす事は難しく、さらに重装備の騎士達も足を取られて思うように動けないだろう。
 まさに天がカノン軍に味方をしているようだった。
 まさに重装備で隊列を組むなど、愚かしい行為だった。

 しかしまだ雨も雪も降っておらず、大地も乾いている。そして号令と共にビズルトラ軍が攻めてきた。
 昨日の失敗に懲りたのか、今回は破城槌を数基並べ扉でなく防壁を壊そうと突進してきた。
 ヴァルザードもこれは予想の内だった。敵がこういう攻めをしてきた時の為に油を温存しておいたのだ。
 ヴァルザードの指示の元、射弓隊は火矢を射た。布などに予め油を湿らせそれを鏃に巻きつけて射るのである。

 敵もそれを予想してたのか破城槌の屋根には水が掛けてあるようだが、幾千と降り注ぐ火矢には、まさに焼け石に水の如く、破城槌は防壁に辿りつく頃には燃え上がっていた。

 しかし燃え上がる破城槌からもくもくと黒煙が上がり防壁上の射弓部隊や投石部隊の視界を奪い、弓を射る手がほとんど止まっている。

 これをビズルトラ軍は好機と見た。一斉に扉を破壊しようと兵が押し寄せたのだ、しかし結果は昨日と同じである。シェラの合図で扉が開かれ雪崩れ込む、そして扉が閉まる。中の兵は鶴翼に敷いた陣に良い様にあしらわれ、捕虜になるか死ぬだけだった。
 実際に昨日の戦に参加した者が居れば同じ結果には成らなかったのかもだが、新たに進軍してきた兵達はそんなことは知る由も無く素直に扉内に雪崩れ込んだ結果だった。

 そんな戦闘が続くなか空が次第に暗くなり雪に変わっていた。それに伴い大地も次第に泥濘んでいく。重装備の騎士には弓が効き難いが、泥濘んだ大地に足を取られる指揮たちは投石部隊の格好の餌食と化した。

 昼を回る頃には積雪でまともに動けないと判断したのか、ビズルトラ軍は攻撃を止めた。全ての兵が陣に戻り寒さに震えているようだった。

 そして今日の戦いもカノン軍の勝利といえる状況で終わる事ができた。昨日ほどの大差では無いにしろカノン軍の死者は殆ど居ない。

 見張りを数名残し、今日も野戦食とは思えない料理に皆が舌鼓を打っている。特に雪で気温もぐんと下がり、暖かいスープや煮料理は大評判だった。
 そして信じられない事だが捕虜の顔にも笑みが浮かんでいる。どうやら兵としてビズルトラ軍にいるより捕虜として此方に居る方が待遇が上だと言うのだ。さらに王女は味方兵にはもちろんの事だが、捕虜にまで「大丈夫ですか? 寒くはないですか? お食事は足りてますか?」と声を掛けているのだ。
 さすがに敵味方両方から呆れられるが、王女は気にした様子も無く自分の食事も忘れ巡回しているのである。

 そしてヴァルザード達も疲れを癒すように火を囲い食事を摂っていた。
「皆、平気か?」
 ヴァルザードが一同に声を掛ける。ヴァルザードはまだ余裕があるようだったが、女性陣はそうでもなかった。顔色を見るだけで一目瞭然といった風である。
 シェラは防壁の上で交代がいないままずっと任務を遂行しているのだ。その上敵から常に狙われ、なんど敵の矢を受けたかわからない。キャミが魔法部隊から抜けてシェラ専属の治療役を務めて無ければ今頃死んでいただろう。それ故キャミも魔力消費が激しく憔悴しきっている。
 そしてそれはクーも同じだった。途中から魔法部隊を抜けシェラの防御専門に回り敵が射ってくる矢を風魔法で逸らしていた。その小さな身体では魔力を使い果たしているだろう。
 リンは3人を襲う敵の投石攻撃をその身で受けて防いでいた。純白の毛並みは汚れその輝きを失っている。さらにリン自身の血で所々赤く染まっていた。
 もちろんシェラが交代出来ない以上この3人もずっと交代なしで戦っていたのである。

 そんな4人は声も無く頷くだけだった。

 ヴァルザードはシェラにその役目を与えたことに後悔していた。自分以外ではシェラしか任せられる者が居なかったのだが、今更言ってもシェラの気性ではその任を譲らないだろう。後でルシに数発殴られるだろうなと覚悟をしていた。
 とにかく今晩はぐっすり眠らせ、もし夜襲が来ても、自分ひとりで対処するつもりだった。

 そして夜襲も無く夜は過ぎていった。
 朝には雪も止み青空が広がっていたが、辺り一面銀世界だった。

 ヴァルザードはこの状況が自分にとって有利だと思っていた。
 昨日は第2砦が完成していた。それも第1砦より強固な物が出来上がっている。それに引き換え第1砦はだいぶ傷んでおり扉は既に半壊に近い状態である。
 そろそろ次の段階だと思ったのだ。

 そして第1砦の門は開かれた。
 防壁の上の射弓部隊、投石射部隊はそのままである。扉内側の鶴翼の陣も同じである。唯一変わったのはヴァルザードの守備する立ち位置であった。
 昨日までは扉の小窓から外を覗き、扉を開き敵を誘い込んだ時に臨機応変に攻撃するのみで、鶴翼の陣に加わって居た訳ではなかった。
 しかし今は違う、扉は開かれたままなので窓を覗く必要は無い。
 鶴翼の陣の両翼の真ん中より少し前方、つまり門の少し外側と言った場所に立っているのだ。 まさにその位置は全ての敵を1人で相手することになる場所だった。

 もともとヴァルザードはルシのように神速で動くタイプでは無い。じっと構え、その神速の槍捌きで戦うタイプなのだ。
 この積雪で敵の動きも鈍くなる。自分はもともと動くタイプでは無いから持ってこいの状況と言えた。
 そしてこれならシェラ達の負担もだいぶ減るだろうとも考えていた。すべて自分に攻撃が集中するのだから。

 いっぽう、ビズルトラ軍は、このあまりにも無防備な守りに、罠でもあるのかと攻め倦んでいた。ヴァルザードにしてもあえて挑発はしない。時間が過ぎる事は望ましいことなのだ。

 しかしそれは何時までも続かなかった。業を煮やした様に、敵指揮官の声がこだまする。
「ええぃ、どんな罠があろうと構わん。歩兵つっこめぇっ!」

「うぉぉぉ!」と言う掛け声で歩兵が一斉に走り出した。その手には槍が握られている。前方に突き出した穂先でヴァルザードを突き殺そうと考えているのだろう。
 しかし門近くまで来るとその足が止まった。
 ヴァルザードの持つグングニルの蒼白い魔法のオーラに恐れをなしたのか、ヴァルザード自身から湧き出るような、闘気のオーラに戦慄を覚えたのか。
 とにかく誰もが動きを止めヴァルザードを凝視していた。その目には畏怖の念が見え隠れしている。
 後方から「突っ込めぇ!」と叫び声が聞こえるが、誰も耳に入っていないようだった。

「投降しろっ! そうすれば決してお前達を傷つけはしない」
 後ろの声は聞こえなくてもヴァルザードの言葉は聞こえたようだった。皆が困惑の表情を示し、「おい、どうする?」などと囁き合っている。
「武器を捨てて入って来い。命の保障はしてやる」
「俺は死にたくないっ!」
「投降するっ」
「俺もだぁ」
 そう言う声が彼方此方で聞こえだすと、武器を捨て両手を上げて砦内に駆け込む兵士で溢れかえった。

 歩兵のほとんどが居なくなると、後ろに控えていたのは騎馬隊と弓隊だった。
 さらにその後ろに居る指揮官が苦虫をかみ殺したような顔でヴァルザードを睨んでいる。
「おのれぇ! 雑兵の分際で、あとで皆殺しにてやっぞぉー。 ええぃ、弓隊、そいつを射殺せぇぇ!」
 その合図で弓隊が一斉にヴァルザードに向けて矢を放った。数百と言う矢がヴァルザードめがけて飛んでいく。
 ヴァルザードの顔が冷笑に変わる。そして槍を風車の如く回し出した。
 槍が見えない速度で回ると、蒼白い円盤がヴァルザード前方に出現する。
 弓隊から射られた矢は、その蒼白い円盤に吸い込まれると四方八方へと弾き飛ばされていき、その殆どが折れ曲がるか真っ二つになっていた。
 弓の斉射が終わると、無傷のヴァルザードが仁王立ちしている。

 そのヴァルザードを見て震え上がらないものは居なかった。皆その場で後退りしている。
「なにを恐れているっ! 相手はたかが1人だぁ、騎馬隊突っ込めぇ!」

 騎馬隊がその速さを生かし、突っ込んでくるが、馬の速さに突きの速さを上乗せしても、ヴァルザードの突きには適わない。すべて馬から突き落とされて行く。馬だけがそのままヴァルザードの横を抜けて砦内にと入っていった。
 馬から落とされた兵達は死んでは居なかった。ヴァルザードが致命傷を避けて突いたのだ。
「お前達、次は命がないと思え。 死にたく無ければ武器を捨てて投降しろ」

 しかし騎士である、傭兵や民兵とは違い降伏は良しとしないのであろう。誰も武器を捨てることなく、立ち上がってきた。
 そして次々とヴァルザードに突っ込みことごとくグングニルの餌食となっていった。

 しかし、そんな戦いが何時までも出来るわけではなかった。

 ヴァルザードの表情に曇りが生じている。槍捌きにも精彩を欠いている。その身体には小さいけれど多くの傷が目立ってきた。ヴァルザード自身もそろそろ限界だと思い始めていたその時。
「閉めてぇっ!」
 凛とした声が響き渡る。シェラの声で扉開閉部隊が渾身の力で扉を閉めた。その一瞬前にヴァルザードはバックステップで砦内に戻っていたが、その顔に苦笑が浮かんでいる。
(最高のタイミングだったよ)

 この作戦を話した時に、皆から無茶だと止められていた。
「そろそろ門の耐久が限界に来ている。最後に一度、門を開け放ち出来るだけ敵を倒し、閉めた時点で第1砦を放棄しようと思う」
 皆が首を傾げる。ヴァルザードの言い分をあまり理解できていないのだ。
「つまり、今までの様な開け閉めでは、もう扉が持たない。あと1度か2度で破壊されると思う。だから1度の開門を出来る限り長くして、その間に多くの敵を討つ」
「なるほど、ヴァルザード殿の言い分は解りました。しかし長時間の開門は味方兵をも減らす事になりませぬか?」
「今までの鶴翼の陣ならそうなるだろう。だから少し変化をもたせる」
「変化とは、どのような?」
「俺が門の前に立ち、1人で敵を迎えうちます。後ろに逃れた兵を鶴翼が殲滅する。そういう方法です」
「なにを馬鹿な……」
「そんなことをしたらヴァルザード様が危険すぎます」
「ヴァルザードさん、死ぬ……」
「いくらなんでもそれは無茶だ」
「いえ、仮にもこのヴァルザード、槍を握ればこの大陸で右に出るものは居ないと自負しております。数時間なら持ちこたえて見せましょう。その間に撤退の準備を進めて欲しいのです」
「「……」」
 皆が押し黙り、苦渋の表情を浮かべる。
「その数時間ってどのくらい?」
 口を挟んだのはシェラだった。身分を考えると自分はこんな席にいるのはおかしいと思っている。だから発言は控えていた。しかし聞かずにはいられなかったのだ。
 しかし誰も咎めるものなど居ない。シェラが自分達以上に戦に貢献している事を判っているのだ。
「んーそれは難しいが、俺の体力が限界に達した時かな? 俺も死にたくはないからね、その辺は自分で判断して合図を送るよ」
「解ったわ、ただし、私の目から見て限界だと思ったら直ぐ門を閉めるわよ?」
「……あぁ、了解した」
 ヴァルザードは一瞬考えたが、シェラなら読み違える事は無いだろうと納得した。
 そうしてこの作戦が実行されることになった。

 そしてシェラは最高のタイミングで扉を閉めたのだ。あまりにも良すぎたタイミングにヴァルザードも苦笑を浮かべてしまったのだ。

 扉が閉まると、一斉に撤退が始まった。
 もちろんただ逃げる訳ではない。
 敵から奪った破城槌等を、扉を塞ぐように配置し火を付けていったのだ。
 これで門が壊せても、直ぐには進入は出来ないだろう。

「皆、第2砦内側に急げっ!」

 第1砦は火に包まれ、カノン軍は全て第2砦内側に避難していた。

戦まだ終われませんでした。
長くなりすぎた感もありますが……

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