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ルシ伝 作者:キルナ

第1章 カノン王国の王女

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戦 その5


 翌朝夜明け前からヴァルザード一行は王女達が集まる一際大きなテントに呼ばれていた。

「ヴァルザード様にお願いがございます」
 第一声はキャノ王女だった。
「はっ、なんでございましょう?」
「カノン軍の総指揮を執って頂きたいのです」
「なっ……」
 王女の為なら死ねますよ。などと考えていたヴァルザードも流石に絶句した。
「そ、そんな大任を私に、でございますか……」
「はい、ヴァルザード様が適任かと思いますので」
「しかし、こちらに歴戦の上将軍がいらっしゃるではありませんか?」
「えぇ、そうなんですけれど……」
 困惑の色を見せ始めたキャノ王女。それに気付いた上将軍であり近衛騎士隊長のロドハイネックが小声で「よろしいですか?」と王女に伺いを立ててから口を開いた。
「実に申し上げ難い事ですが、私を始め此処に居る上将軍はほとんど実戦を知りません。長年の平和のためなのですが戦の経験がないのです。砦や国境付近の小さないざこざ、盗賊、山賊、魔獣の類は守備隊や警備隊で事足りますし、それできついようなら冒険者ギルドに依頼します。ですのではっきり申しまして、これほどの戦の指揮を執れる者がおりません」
 申し上げ難いと言いながらも、淡々と述べるロドハイネック。
「なるほど、そういった事情がおありでしたか」
 頷きながらも(王宮での件で嫌われたかな?)などと考え、しかし(騎士と言うのはやはり固いな)とも考えていた。

「そういう事ですので是非ヴァルザード様に総指揮をとって頂きたいのです」
 改めて懇願するような瞳で見つめる王女。
「解りました。では不肖ヴァルザード、王女様の為この命捧げましょう」
 渋るヴァルザードだったが、王女の申し出に大仰しく頭を垂れている。
「いえ、お命は大事にして下さい……」

 そこで上将軍の一人がおもむろに口を開いた。
「して、ヴァルザード殿、敵の進軍を5日凌げばビズルトラ軍は瓦解すると言う事だそうですが、それは如何なる理由なのですかな?」
「は? それはどういうことでしょう?」
 ヴァルザードには寝耳に水である。
「ヴァルザード殿の策略で5日凌げば瓦解すると……ルシ殿が仰ってたのですが?」
(またあいつは俺をはめたのかっ!)と思いつつ口には出せず誤魔化す事にした。
「ま、まぁその件については、このヴァルザードにお任せください」
 顔を引きつらせながら、溜め息混じりに返答する。
「いや、しかし」
「失礼します!」
 と、そこに入り口から大きな声が掛かった。
 皆一斉に入り口に視線を送り、ロドハイネックの「入れ」と言う言葉で騎士が入室してきた。
「報告します。ここより西20キロの地点にてビズルトラ軍が陣を構えている模様。確認した時点ではまだ動きはなかったとのことです」
 騎士の報告に対しテント内に緊張が走る。しかしそれはほんの一瞬のことだった。
「ご苦労。また何か解かったら頼む」
 そう答えたのはロドハイネックである。
 報告に来た騎士は恭しく頭を垂れて退出した。

「いよいよ来たか」
「では、時間もありません。現状の作戦をお聞かせ願いたい」
 ヴァルザードは上将軍の質問をうやむやにしようと話を切り替えた。質問した上将軍も時間が惜しいと思ったのかそれ以上の追求はしなかった。
 そしてロドハイネックより現状の作戦の説明を聞かされた。

「なるほど、あくまで守り主体で砦を造りながら後退と言う訳か。たしかに岸壁と崖に挟まれたこの地形なら可能なのか…… しかし石や煉瓦などはどのくらいあるのです?」
 眉間に皺を寄せ厳しい表情でヴァルザードが質問する。
「はい。今も王都から運んでいるのですが、第2砦を造るのにも予想以上に必要でしたので、第3砦を造る頃には使い切ってしまいそうです」
「そうですか」
 それだけ答えると考え込む様に瞑想する。可能かもしれないが、かなり難しいと思ったのだ。(砦を放棄するタイミングもそうだが、果たして砦が壊される前に次の砦を造り終えるのか? 第2砦はまだ完成していない様だが見るからに脆い。壊すより造る方が遥かに時間が掛かる。いかに長時間砦を守りぬけるかが勝負だな。ただ矢の雨を降らせるだけでは……)

 数分瞑想しおもむろに目を開けると、ヴァルザードは作戦の変更を指示していった。
 まず第3砦を構築を中止。その代わり出来るだけ第2砦を強固なものにする。
 防壁の上から矢を降らせるだけでは長時間砦を維持するのは厳しいと、それ以外の対応を指示していった。
 王女や上将軍達は驚愕の表情を示す部分もあったが、味方兵の死傷を出来るだけ少なくする為ですと、強引に押し切った。

 その作戦を上将軍達が自分の部隊の小隊長に伝えると、まずは部隊の再編成である。
 砦の防壁から弓で攻撃する射弓部隊。
 砦の防壁から投石器で攻撃する投石部隊。
 その射弓隊、投石隊を守る為の風魔法部隊。
 その射弓隊、投石隊に矢や石を運ぶ供給部隊。
 砦の門の内側に鶴翼の陣を敷く槍部隊。
 怪我人を治療する治癒魔法部隊。
 さらに、砦内で死んだ敵兵を片づける部隊、崖から石を調達する部隊、敵が放った矢を集める部隊、門を開閉する部隊、第2砦を強固する部隊など、実に細かく編成を行った。
 もちろん間諜部隊は既に動いている。

 そして新たに間諜からの報告が来た。
「ビズルトラ軍第一陣が今からおよそ2時間前に進軍を開始した模様。その数約5000、それを10の隊に分け、破城槌や雲梯も数基確認されました」
「よし、編成が済んだ部隊から直ちに防御体勢を整えよっ!」
「はっ!」

―◇―◇―◇―◇―◇―◇―◇―◇―◇―


「敵部隊を視認しましたっ!」
 物見塔からの声である。
 その数分後には防壁上からでも視認出来る位置まで敵が進軍して来た。

 各部隊が所定の位置に着いている中、ヴァルザードだけは門の上で敵の動きを見ていた。その横にはシェラが待機している。
 キャミは治癒魔法部隊に、クーは風魔法部隊にそれぞれ入っている。リンは既に獣化しているものの、クーの足元を離れない。
 リンはある意味クーよりもルシに忠実だった。たとえ尻尾化していても周りの状況は全て把握している。人の声も聞こえればその動きも解る。そして人の心も。
 だからルシが一人で北の街道に向かったことも知っていたし、その覚悟も知っていた。それでも黙ってルシと別れたのだ。それはまさに身が引き裂かれる想いだった。
 しかしルシの言葉が「4人を守ってくれ。だがお前も絶対死ぬなよ」だったので、今この地にいるのだ。今はルシのことを忘れ4人を命に変えても守るつもりでいる。そしてこの戦いが終わり、万が一ルシが死んでいたら自分も死ぬつもりだった。

「じゃシェラ君、あとは頼む。君の冒険者としての感を信頼しているよ」
 シェラの返事を聞く前に、ヴァルザードは防壁の上から内側に飛び降りた。

 シェラの任務はヴァルザードに敵の動きを伝え、門の開閉の指示だった。
 ヴァルザードは総指揮をする立場にありながら槍部隊に入るようなのだ。

 これは王女をはじめ上将軍達からも異を唱えられた。
 王女は、ヴァルザードが危険すぎるど苦言し、上将軍達は総指揮をする立場で、全体を見通せない場所に居るのはおかしいと言うものだった。

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