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ルシ伝 作者:キルナ

第1章 カノン王国の王女

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戦 その1

第一章。いよいよクライマックスです

 2日前の軍義の後ことだった。
 早速、徴兵の御布令が出される事になる。
 しかしキャノ王女がとんでもない事を言い出した。

「志願兵を募りましょう」
 キャノ王女がそう言った時、皆が唖然とした。
 当然である。対ビズルドラ国となれば誰も志願する者など居ると思わないだろう。

 しかし実際には想像以上の志願兵が集まった。
 老若男女に至るまで、その数は計り知れなかった。
 選別するのに時間を要したのは痛かったが、それでも嬉しい誤算だった。
 ある程度武器等を使えそうな者、強行軍に耐えうる体力のある者、そして年齢が幼すぎない者を対象に選別した結果、1万強という数が残った。
 これは相手に大きな影響を与えるだろう。予想した兵力の倍以上が待ち受けていると知れば誰もが動揺して当然であった。

 事実この情報はすぐさまビズルトラ側にも知らされ、指揮官クラスはもちろん兵隊達の動揺はかなりのものだった。
 1万弱の兵力しかないと思っていたところが、実際は2万を越えているとなれば当然だろう。 そして有名な『疾風のヴァルザード』がカノンに付く。
 あげくに魔王の剣を所持できた『神速のルシ』までがカノンの味方なのである。
「この戦ほんとに勝てるのか?」などの囁きも聞こえるほどだった。
 もちろん、これは数日後のことになるのだが……

 実際には志願兵など戦力としてはそれほど期待出来るものでは無いのかもしれないが、それでも臆する兵士より覚悟を持って挑む民兵が勝つ例は、過去の歴史に幾つも存在した。

 ルシがこの戦で心配だったのが兵達の士気であった。
 そして戦において一番重要な要素も士気だと考えている。
 今のカノン軍の士気は最高潮に達していると言っても過言ではない。これを何時まで維持出来るかも問題なのだが……
 徴兵と言う形をとらずに、志願兵と言う形にしたのも功を奏したのかもしれない。

 噂でキャノ王女の人気も知っていたし、その人柄も知った。だがそれでもビズルトラに対した時、これほど士気を上げられるとは思っていなかったのだ。

 キャノ王女の王たる器を垣間見る。そんな気がした。
『王の中の王』にもなり得るその器の大きさを。

―◇―◇―◇―◇―◇―◇―◇―◇―◇―◇―

 軍義終了後、1日後の事だった。
 ルシは一端、北の街道の国境に位置する砦まで行くと、カノン王からの書簡を守備隊長に渡しその指示を伝えた。
 その指示の内容は「一兵たりとも損なうことなく、ビズルトラ軍を無抵抗で通過させよ」というものだった。
 もちろん、砦の守備隊長は驚いていたが、実際500名程度しか居ない守備隊で1万からのビズルトラ軍を防ごうというのは無駄死に近かった。

 その後の指示も伝えると、ルシはまたカノン国側に馬首を向け走り去った。

 南北に長く連なるディーエス山脈。
 その南側は東西の幅も結構広いのだが、北側に行くほどその幅は狭まり、最北の果てはパナソニ砂漠に面している。
 故に山脈の東西を行き来するには、南の海岸線に沿った街道か、北にある山脈越えの細く険しい街道を通るしかなかった。
 その北の街道は、勾配のきつい斜面と深い渓谷に挟まれた、馬車1輌がやっと通れるくらいの細い山道だった。そして街道に沿った渓谷は登りきった辺りで滝になっており、その上は緩やかな流れに変わっている。街道もその辺りだけは川原に沿う形になり、行軍時の休息地点して打って付けであった。むしろ行軍のような大所帯では、ここしか考えられない。

 ルシはそんな場所を見渡せる山肌に身を隠していた。

 少ない軍勢で大軍を相手にする場合、相手を殲滅しての勝利などほぼありえない。
 いかに相手の戦意を失わせ、退却に持ち込むかである。
 ルシはその最も効果的な方法として、まず一つは「指揮官を倒す」ことだと考えた。
 特に傭兵の場合はそれで総崩れになる。指揮官が居なければ誰も自分の戦果を報告してくれる者が居なくなる。つまり俸給に影響するのだ。
 それでもまだ戦おうとする者は居るだろうが、指揮官なくしてまともな戦は成り立たない。

 もう一つは「兵糧を無くす」である。
 遠征軍の場合食料が無くなれば戦どころではない。補給物資を待つと言う事もありうるが、今回はそれは無いと踏んでいる。戦の準備期間が短かった事、勝ち戦でしかもあっと言う間に終わると見込んでの出陣なのだから。

 ルシが身を隠して数刻後に長い隊列を組んだビズルトラ軍が姿を現した。
 予想通り川原で野営の準備を始めるようだ。ここから先の険しい街道を真夜中の行軍は自殺行為なのだから当然の結果と言える。

 ルシは兵糧部隊の位置と指揮官のテントの位置を確認する。他にも各地に散らばる部隊長クラスの所在も確認している。

 野営の準備が終わり、それぞれが浮かれた雰囲気で食事をとっている。
 勝ち戦と信じて行軍。
 砦もすんなり通すカノン兵の体たらくぶり。
 経過時刻を考えても、カノン側から進軍は考えられない。
 ビズルトラ軍が浮かれるのも道理である。
 もちろんカノン側の現状を知らせる早馬は到着していない。

 辺り一面が闇に覆われた頃には、松明を片手に巡回する兵士は居るものの、ほとんどの者が安心しきった様に寝入っていた。

 そこに突如雷鳴が轟いた。

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