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ルシ伝 作者:キルナ

第1章 カノン王国の王女

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ルシと王女、カノン王国へ

カノン王国の主城名を間違えていましたので修正しました。8/14
 翌朝早くに一行は宿屋を出ることにした。
 辺りはまだ薄暗く、空にはまだ星も少なからず浮かんでいる。冷え込みもだいぶ厳しく外套を着ての出発となった。

 皆がそれぞれ自分の馬に跨っていく。ルシが黒毛馬のブライに跳び乗ると、キャノ王女を片手で馬の背に引きあげた。
「じゃオレ達は先に行くが、お前達も出来るだけ早く来てくれ」
 ヴァルザードに馬上から引き上げて貰ったクーが驚いた様にルシを見た。
「えっ、出発くらい一緒でも……」
 クーは思わず口にしてしまったが、語尾が擦れて聞き取れなかった。
 クーにとってはルシと一緒に行けないことが耐え難い事だった。それもルシ以外の男性と馬の相乗りなど考えただけでも嫌だった。それでも事を性急に進めるには仕方の無い事だと必死の想いで自分に言い聞かせていた。せめて付いて行ける所までは一緒に行きたかったのだ。

 ルシはブライを操りクーの傍に移動した。懐から尻尾化しているリンを取り出しクーに渡す。
「一緒に出てもあっと言う間に離れるぞ? ブライの速さはお前も知ってるだろ?」
 優しく諭すつもりでそう口にする。
「は、はい。そうでした……」
(そんな事は解っています)と心の中で囁く。
 そのやり取りを聞いていたシェラが、ルシの傍まで来ると「ちょっとこっち来てっ」と馬から引き摺り下ろし宿屋の裏手まで引っ張って行った。
「なんだ?」
「あんたねぇ、いい加減あの子の気持ち解ってあげなさいよっ!」
 小声ながらも棘のある口調だった。
「一時でもあんたと離れる事がどれだけ辛いか、ほんとに解らないわけ?」
 ルシは黙り込んだ。クーがなぜ自分を慕うのか解らないのだ。
(シェラやキャミが居るじゃないか)と言いたかったが、別の言葉を口にした。
「もうそろそろオレは必要ないだろう?」
 その言葉を聞いたシェラの顔が見る見る紅潮していく。
 そして口を開こうとしたシェラを手で制して言葉を続けた。
「この戦がどういうものか解ってるだろ? クーを頼む」
 それだけ言うと、シェラに背を向けた。
 シェラはその言葉の意味を理解出来なかった。理解していたが、必死で否定していたのだ。

 ルシは皆の元に戻ると、キャミに声をかけた。
「オレはキャメロンに付いたらすぐ戦場に行くと思う。オレが戻るまでクーの事頼めないか?」
 キャミは一瞬キョトンとした表情を見せたが、すぐ笑顔を見せてくれた。
「はい、もちろんです」
「そうか、なら安心して行ける。頼んだぞ」
 そしてクーの方に振り返り、その頭をおもむろに撫でて(元気でな)と心の中で呟いた。
「じゃ行ってくる。リンをよろしくな」

 クーはまだ何か言いたそうだったが、ルシはさっさとブライに跨り走り去ってしまった。
 ブライは一瞬でトップスピードに達したかのように、風を切る音だけ残し遥か前方に消えていった。

 ブライのスピードはキャノ王女にとって想像を絶するものだったかもしれない。
 見渡す限りの草原なので、あまり実感し難かったかもしれないが、それでも左右に広がる草原の草葉が見る見る後ろに消えていく。ルシが前方に魔法で風のシールドを張っていなければ息すら出来なかっただろう。

 草原を貫く街道から左に逸れて山脈越えの街道に入った。
 かつてキャノ王女を山賊から助けた場所はこの旧街道のもう少し行った辺りだった。あの辺りで休憩にするかと思っていたが、王女の顔を伺うと苦痛の表情が見え隠れしている。
 子供だとはいえ女の子である、お尻が痛いとは言い難いのだろう。鈍いルシでもその辺は理解していた。シェラに理解させられたと言うべきだが。

「少し早いが休憩にしよう」
 そう言って川原の砂地でブライから下りると、ドッカとその場で寝ころがってしまった。
 キャノ王女は戸惑って立ち尽くしている。寝ころぶどころか、地べたにそのまま座る事など
したことが無いのだろう。そんなことは露知らずルシは怪訝な顔をする。
「どうした、座って休んだらどうだ?」
 しかしキャノ王女はモジモジするだけで座ろうとしない。
 ルシは地べたが嫌なのか? と思い自分の外套を川原に敷いて、そこに座るように勧めた。それでもキャノ王女は「えっと」とか「そのぉ」とか言うだけで座ろうとしなかった。

 さらに考えたルシの結論は「尻が痛い」だった。だがそれは流石に言えず、
「あぁー、その、痛いのか?」
 とだけ聞いてみた。
 キャノ王女はすぐに意味を理解したのか、見る見るうちに白磁の様な頬を、リンゴの如く真っ赤に変えていた。
 ルシは自分の頭を大仰に掻き毟り困惑した。
「あぁ、とにかくそこに横になってみろ」
 投げやりな言い方だった。
 無理やり王女の手を引き座らせると「ほらっ」と背に手を添えて寝転ばせてしまった。
「キャッ」
 キャノ王女は成すすべも無く寝かされてしまった事に驚いて固まっている。
「空を見てみろ、気持ちいいだろ?」
 ルシの言葉で改めて空を見てみた。
 丸い視界の隅には森の木々が写る他は真っ青な空が広がっている。何処までも高いその空には真白な雲が悠然と流れていく。
 たまに吹くそよ風が王女の金髪を靡いてキラキラ煌かせた。
 ルシはそんな王女の顔を、横にすわりじっと眺めていた。
 お互い言葉も無いまま数分の時が流れた。
「なんという開放感なんでしょう……」
「王宮の天井もシャンデリアや絵画で綺麗かもしれんが、たまにはこんなのも良いだろ?」
「はい、心が洗われる様です。城に帰ったらすぐさま天井を壊したい気分ですわ♪」
「あっはっは。無茶苦茶なお姫様だな」
 ルシが笑うと、王女も「ウフフッ」と小さく笑った。
「初めて見たな、お前のそんな顔――」
「えっ」っと少し驚いたキャノ王女。
「そんな顔が出来るなら、ずっとそうしていろ。それがお前に一番似合ってる」
 また愁いを帯びた表情に戻る王女だったが
「はい、努力します」
 力なくそう囁いた。
「そうだな……」
(努力じゃないんだがなぁ、まぁ今は仕方ないか)と思うが口にはしなかった。
「でも、ルシ様もそんなお顔が出来るのですね」
 少し悪戯っぽくそんな事を口にする王女。
(そう言えばいつからこんな顔をするようになったのだろう。これもあの3人の所為か?)
「まぁそうだな…… 最近出来るようになった、気がする」
「そうだったのですか」
「可笑しい……か?」
「いいえ、とても素敵です」
 そう言って王女は少し頬を赤らめた。
 ルシは何と答えて良いか判らず沈黙するが、王女は話しを変える様に突然質問をしてきた。
「ルシ様は、手相詠みと言うのをご存知ですか?」
「てそうよみ? 星詠みなら知っているが?」
「同じようなものですわ。手の相を見てその人の未来を詠み取るのです」
 ルシは自分の手を見て「こんなもので未来をか?」などと呟いている。
「手をお貸し願えますか?」
 ルシは「あぁ」と言って王女に手を差し出した。
 その手を両の手でそっと触れるように挟むと王女は目を閉じた。

 数分待ったが、王女はずっと目を閉じている。しかも何故か頬も耳までも薄っす紅を差したように赤かった。
 ルシは少し心配になり、
「おい、大丈夫か?」などと口にした。
 王女は、ぱっと目を開くとニコッと笑顔を見せる。そして、
「ウフフッ。冗談ですわ♪」
 などと笑い出す。
 ルシは怪訝な顔で首を傾げている。
 王女は顔を見られるのが恥ずかしくなり
「そろそろ行きましょうか?」と起き上がるとルシに背を向けた。

 ほんの10数分程の休憩だったが、キャノ王女はとても満足だった。そしてルシに対して徒ならぬ想いを寄せている事に気付く。それが何なのか14歳の少女には解らなかった。

 ルシと王女はその後小さな休憩を数回取ったものの、予定通り2日後にはカノン王国の主城ヴァイスレーヴェに到着した。
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