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ルシ伝 作者:キルナ

第1章 カノン王国の王女

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ビズルトラ王国にて

 見渡す限りの草原の中を一筋の街道がゆるいカーブを描きながら地平線に消えていく。
 そんな街道を南に直走る一行があった。
 3頭の馬に跨る6人の男女である。
 黒毛馬のブライに跨るルシとクー。2頭の栗毛馬にはそれぞれ、ヴァルザードとキャノ王女、シェラとキャミが跨っている。
 ちなみにクーは横座り、リンは尻尾化してルシの胸の中である。

「すまんが、先に行っててくれ。オレはちょっとビズルトラ国の様子を見てから行く」
 そう言ったのはルシである。
「はい?」
「ちょっとっ、どういうことよ?」
「後で説明する。とにかく先を急いでくれ」
 そう言うや否やルシは馬首を翻した。
「ちょっ、ちょっとー」
「おぃ、ルシ君……」
「直ぐ戻るっ」
 呆れる4人を置いてルシは遥か後方に走り去って行った。

「まぁルシ君のことだ、すぐ戻るだろう。俺達はこのままカノン王国を目指そう」
「ええ、そうね……」
「「はい」」
 3人の女性陣は渋々と言った感じだが、ヴァルザードだけは顔がにやけていた。
「ムフフッ」
「ちょっとっ! その嫌らしい笑いは何よ!」
「おっと、声に出てしまったか…… いや聞かなかった事にしてくれたまえ」
「あんた、もし王女様に変なことしたら只じゃすまないんだからねっ!」
「し、失礼なこと言うもんじゃないよ」
 ヴァルザードは非難がましい顔をしているが女性陣は呆れ返っている。


 ルシが気にしたのはビズルトラ国の動向であった。
 まさかとは思うが『馬鹿王』と異名を取るほどのビズルトラ王。『不死の王』などと契約を交わす馬鹿ッぷりも見たばかりでもある。王女を奪い返されてどんな行動に出るのかが少し心配になったのだ。
 ディアーク王都に戻ったルシは少し焦る必要がでてきた。
 思ったとおりだったのだ。いきなりの出兵騒ぎで街中が大騒ぎになっている。

「まさか、いきなり軍を動かすなんて……」
 そんな街の有様を見てクーが思わず呟いた。
「あぁ、『馬鹿王』の異名は伊達じゃないってことだな」
 ルシもこの光景に自然と言葉が漏れてしまった。
「貴様っ 今なんと言った!」
 いきなり後ろから怒鳴られ、振り返ると警備兵が5人。そのうちの1人が此方に剣を突きつけている。
「ルシ様……」
 ルシを心配そうに見あげるクーの頭をそっと撫でて「心配するな」と軽く笑みを見せる。クーはそれだけで安心したように笑顔になった。
(まぁ今更言い訳は無理か)などと思いながらもルシはとぼけて見た。
「ん? なにか聞こえたか?」
「貴様、とぼけるつもりかっ! 今、ば、ば、ばヵ……」
「ん? なんだはっきり言って見ろ」
 『馬鹿王』と言えずに悶えている警備兵を見て、つい顔がにやけてしまった。
「き、貴様、なにを笑っておるかっ! おい、こいつをしょっぴけ! 不敬罪で地下牢にぶち込んでやる」
「「「「はっ!」」」」
 隊長らしき男に怒鳴られ、他の4人の警備兵が剣を抜き近寄ろうとする。 ルシもすかさず魔剣を鞘から抜き放ち、その剣先を警備兵に突きつけた。
 その薄桃色のオーラを纏った剣を見て警備兵が一瞬たじろいだ。
「おぉっ」という感嘆とも吃驚とも取れる声が響く。

「き、貴様っ、わ、我々らに逆らうというのかっ?」
 警備兵達は完全に魔剣に萎縮していた。

 ルシの目的はビズルトラ国の動向である。出兵が決まったならその内容も少しは持って帰りたかった。傭兵に志願という形で入城も考えたが、捕まる方が早いと判断した。

「この娘に手を出さないと言うなら黙って捕まってやってもいいが?」
「えっ?」っと驚くクーをルシが目で「だまっていろ」と押さえる。
 警備兵の隊長らしき男は少し考える様な素振りをみせ、
「よかろう。大人しくするというなら、その娘には手をださん」
「約束は守れよ」
 ルシはそう言って魔剣を鞘に収めると、ブライから下りた。
 クーに魔剣と尻尾化したリンを預け「山猫亭でまっててくれ」と耳打ちした。

 後ろ手に縛られるルシ。
 クーは警備兵に連れて行かれるルシの後姿を、見えなくなるまで眺めていた。


 警備兵の手によって城門の詰め所まで連れて行かれたルシは、そこで番兵に引き渡された。
 そこで待つこと十数分。
 その間、詰め所内ではカノン王国への出兵に関する話題一辺倒だった。
 ルシはそれらを聞き漏らすことなく聞き耳をたてていた。
 城内から衛兵が現れると、今度は城内部へと連れて行かれる。城内には出兵の要請で集まって来た傭兵や、それを御する騎士や衛兵で溢れかえっていた。
(この様子なら実際行軍が開始されるのは早くても2日くらいは掛かるか)

 ルシは衛兵に連れられて城内西側の別塔へとやってきた。
 別塔に入ると地下に続く階段があった。ルシはその階段を下りて看守に引き渡された。
(看守は2人だけか)
 衛兵が出て行くのを確認すると、後ろ手に縛られたロープを腕力のみで引き千切る。
 看守が驚いた表情を見せた時には、すでにルシの姿が眼前から消えていた。
 1人は首筋に手刀を入れ昏迷させた。
 もう1人は後ろから口を押さえ、その腕をねじり上げていたのだ。
 その間わずか1秒弱。

「大声出したら顎を握り潰す。いいな?」
 そう言って口を押さえる手に少し力を込めた。
 看守は痛み呻きながらもコクコクと頭を上下している。
 手に込めた力を緩めルシは聞いた。
「この城に魔王の剣があると聞いた。どこにある?」
 看守は知らないと言う様に頭を左右に何度も振って見せた。
 その瞬間に看守の背中辺りからからボキッ!と言う音が聞こえた。腕をねじ上げていた手が看守のそれをへし折ったのだ。
 看守が悲鳴をあげかけたが、その口が強く塞がれた。
 看守の眉間に冷や汗が流れ苦痛に顔を歪めている。
「もう一度だけ聞く。どこだ?」
 その冷え切った声に感情などはない。看守には死の宣告にしか聞こえなかっただろう。
「こ、この前の武闘大会で、しゅ、主塔の、1階に飾ったままだ」
 看守は痛みに堪えながら必死に訴えた。
 その刹那手刀が首筋に落とされた。
「なるほど、誰も所持出来ない魔剣故、盗まれる心配も少ない、なら隠すより誇示って訳か」
(ならちょうどいい)
 ルシは2人の看守を尻目に(当分起きそうも無いな)と別塔を出た。

(これだけ傭兵がウロウロしてたら怪しまれる心配もないか)
 辺りを見渡し傭兵に紛れる様に主塔に向かった。城中央にそびえ立つそれはすぐ見つかった。 流石に入り口には衛兵が立っているが、今は門も開かれていた。中にも自由に入れるようだ。中は大広間になっていて傭兵達でごった返している。

 大広間の最奥に大きな大理石の台座があった。その上にその魔剣は飾られていた。
 台座も周りには衛兵10人程がグルリと囲んでは居るものの、それ以上の警備はないようだ。 その上希望する者には触らせている始末。
 腕自慢の傭兵が数名順番待ちで並んでいるようであった。
 しかし傭兵が手に触れた瞬間、魔剣が一瞬光りを放ち、触った者は痺れた様に尻餅などついている。

 その時、衛兵の叫ぶ声が広間に響いた。
「貴様は、さっきの不敬罪の男ではないか? こんな所で何をしているっ!」
それはルシを地下牢に連れて行った衛兵だった。
「チィッ!」っと舌打ちするとルシは魔剣に向かって走り出す。
「その者を取り押さえろッ!」
 しかし傭兵達は他人事の様に見ているだけだった。傭兵と言う人種は金が絡まないと動かない人種なのだ。まぁ面白半分で動く奴も居るにはいるのだが。
 逆に騎士や衛兵はその傭兵が邪魔で思うように動けない。ルシは素早い動きで傭兵達の間をすり抜ける様に走り、あっと言う間に台座に飛び乗っていた。
 その台座の周りには次々と騎士や衛兵が集まりだす。その数数十人になっている。

 ルシはおもむろに魔剣の柄に手をかけた。
 刹那、フゥォォォンという音とともに剣腹が煌々と輝いた。ルシは一瞬魔力を吸われるような感覚があったものの、それも刹那の事で、今はなにも感じない。むしろ手に馴染む感じは今まで握った剣の比ではなかった。

 その真紅の輝き、真紅のオーラを纏った魔剣を頭上にかざし辺りを見渡した。

「この魔剣はオレが貰う。そして…… オレはこの戦、カノン王国に付く。死にたい奴だけ向かって来い!」

 そう言って軽く台座の後ろに飛び降りる。
 そのまま頭上の魔剣を台座に向かって振り下ろした。
 高さ1メートルはあった大理石の台座は真っ二つになっていた。
 誰も目を見張るばかりで声を上げる者も居ない。

 ルシはそのまま広間の入り口に向かって歩き出した。まるで無人の境を行くが如く。

 広間、つまり主塔を出るとルシは一気に城門に向かって走り出した。それを見ていた衛兵達は慌てたように叫びだす。
「その男を取り押さえろぉ!」
「逃がすなァッ!」
 しかし時すでに遅くルシは城門を渡っている。
 前方からルシを呼ぶ声が聞こえた。
「ルシ様ぁーーー!」
 クーである。クーがブライに跨りルシが出てくるのを待っていたのだ。
(山猫亭で待ってろって言っただろ……)もちろん口には出していない。
 苦笑を浮かべブライに飛び乗るルシ。
「助かった、ありがとな」
 そう言って頭を撫でる。
「ルシ様、ご無事で何よりです」
 クーは嬉しそうにルシの胸に頬を埋めた。
「オレの心配はいつだって不要だ」
ルシは一気に馬首を翻し王都の南門を目指した。その速さは馬とは思えないほどで追っ手の兵達はあっと言う間に見えなくなっていた。

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