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ルシ伝 作者:キルナ

第1章 カノン王国の王女

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キャノ王女奪回

 アン・リッチの脅威が去った一行は、リンを先頭に迷宮をさらに奥へと進んでいく。
 そこは迷宮と呼ぶに相応しく到る所で通路が分岐していた。しかしリンは野性の本能なのか神獣としての特性なのか一切の迷い無く目的地を目指していた。

 数時間歩いただろうか? 通路前方が全面鉄格子で塞がれていた。その鉄格子に嵌る扉も鉄格子で、その1メートルほど先に上りの階段が微かに見える。

 ルシが魔法で鍵を開け、鉄格子の扉を潜り階段を上っていく。カツンカツン! と足音だけが通路にこだまする。
 階段を上りきった先にはさらに鉄の扉があった。皆がそこで立ち止まると辺りは静寂に包まれる。心臓の鼓動が聞こえそうな程の静寂だった。

 キャミは自分の胸に手を当てていた。緊張で心拍数が上がっているのを手で確認するように。(ここが王宮内部なら、もうすぐキャノに会える……。早く会いたい……)
 祈るような仕草のキャミ。その肩をシェラがそっと抱き寄せている。

 ルシが扉の前に立ち、その向こうに人の気配が無い事を確認した。「開けるぞ」と視線で皆に合図を送る。皆がそれに視線で答える。

 魔法で鍵を開け、そっと扉を開く。
 ギギギギィィィーー
 錆びた鉄が擦れる嫌な音が小さく響いた。

 扉を潜るとそこには小さな部屋があった。もちろん灯りなどは無く全てを見渡せたわけではない。足音を殺し部屋の中に入るとカンテラの灯りで辺りを照らし出す。
 そこは地下通路と同じく壁も床も石で組まれ、廃墟か牢獄を思わせる造りだった。
 しかも家具などは一切無く対面の石壁に扉が一つあるだけだった。
 しかしその扉は今潜った鉄の扉とは打って変わりオーク材か何かで出来た重厚な物だった。そしてもちろん此方にも鍵が掛かっている。

「どうやらあの扉が王宮内部の一室に繋がっているのかな」
 小さな声で囁いたのはヴァルザードだった。
「王族逃亡用の隠し部屋ってとこか……」
「そうですね……」
 キャミは複雑な表情を浮かべていた。王族が国を捨て自分達だけ逃亡するような抜け道を造っている事に憤りを感じているのだろう。同じ王族の身として……。

「じゃぁ、その扉の向こうに行って見ようじゃないかね」
 皆が重々しく頷いた。

 扉を開けるとそこは広大な広間の様相を呈していた。高い天井には灯りは消えているものの豪奢なシャンデリアが幾つもぶら下がり大きな絵画など飾られている。その周りには動物か何かの彫像まである。壁に備え付けられた燭台には灯りが燈したままになっていて。様々な絵画が額に収まっている。床には真紅の毛足の長い絨毯が敷き詰められ、部屋中央には複雑な模様を施した豪奢なテーブルとビロード地のソファーが置いてある。その他にも様々な調度品やら豪華な家具が並んでいた。

「しかし驚くほど派手な部屋だな。王族っていうのはこんな贅沢な生物なのか?」
 ルシ達は部屋の豪華さに驚愕の表情を表していた。
「わたしもビックリよ。カノン王宮にもこれほどの部屋なんてないわよ」
 王宮で育ったキャミやシェラまでもがその絢爛豪華さに目を奪われている。
「ならばここは王族の居間で間違い無いかもしれないね」
「じゃキャノ王女を探さなくちゃ」
「うむ、そろそろ皆起き出すかもしれないし急いだほうが良いね」
「リン、もう一仕事頼む」
 そう言ってルシは懐から例のペンダントを取り出しリンの鼻先に持っていった。リンは鼻先をヒクヒク動かし匂いを嗅ぐと「解った」と言わんばかりに小さく頷き、そのままトコトコ歩き出す。気配で衛兵が居ない事を確認しながらリンは部屋をでて廊下を歩いていく。そしてある一室の前で「ここだよ」と言わんばかりに小さく鳴いた。

 とりあえずキャミとシェラが部屋に入り、一同は廊下で待つことにした。
「早くしてくれたまえよ。いつ衛兵が見回りに来るかも判らないからね」
「はい、わかりました」
「うん」

 キャミ達が部屋に入ると天蓋付きのベッドで金髪の少女が眠っていた。
(間違いない、キャノだわ)
「キャノ 起きて」
 キャミはキャノ王女の耳元で囁いた。
 キャノ王女は「ぅ~ん」と可愛らしい声を出して片目を開ける。キャミと目が合うとその大きな瞳をさらに見開き一瞬固まるが、すぐさま飛び起きた。
「ねっ、むぐぅうぅ」
 驚愕の声を上げようとしたキャノ王女の口をキャミの右手が塞いだ。
「大きな声を出さないで!」
 左の人差し指を口元に当てて、小さな声で注意する。
 口を押さえられたキャノ王女は、コクッコクッと何度も頷く。それを確認したキャミがその手をそっと外す。
 ふぅーっと小さな吐息をはいて、キャミ見あげるキャノ王女。
「姉様、どうしてここに?」
「話は後。ここから逃げるの、急いで準備して」
 その言葉を聞いたキャノ王女は儚い表情を浮かべる。
「駄目よ。私が逃げれば……」
 キャノ王女は言葉途中で俯いてしまう。
「話しは後って言ったでしょ。責任は全部私が取る、貴女は何も心配しないでいいの。だから早くして。皆が廊下で待ってるのよ。衛兵が来たら大変な事になるの。お願い急いで!」
 そう言って無理やりキャノ王女をベッドから引き摺り降ろす。
 それでもキャノ王女は戸惑った様子で動こうとしない。
「で、でも……」
「これはお父様の指示よ。大丈夫だから後の事は私に…… いえ私達に任せて」
「お父様の?……」
「お願い! 早くして! 時間が無いの……」
「は、はい……」
 キャミの必死の説得でようやく準備を始めたキャノ王女だった。
 準備にはシェラが手伝う。流石は元メイド、手馴れたものであった。
「着替えたら、必要最低限の物だけ持ってね」
「はい」

 数分後にキャミとシェラがキャノ王女を連れて出てきた。
(な、なんという美しさだ……)
 ヴァルザードはいつもの軽口も忘れ、顎を落としていた。
 クーとリンもその美しさに見とれている。
 しかしキャノ王女の顔には不安と後ろめたさが滲み出ている。本来の美しさはこんなものではないはずだった。
 しかしルシを見つけるとその表情に驚愕の色まで加えられた。
「あっ。貴方はルシ様……?」
「久しぶりだな。これはあんたに返す」
 ルシはそう言うとペンダントをキャミ王女の手に握らせた。
「これは……」

「さぁ話は後、急ぎましょ。ぐずぐずしてたら見つかっちゃうわ」
「う、うむ。そうだな…… い、急ごう……」
 シェラに答えるヴァルザードだが、その視線はキャノ王女に釘付けだった。
 シェラは苛立たしげな表情でヴァルザードを見た。
 一同はシェラからブチッっと言う音が聞こえた様な気がした。
「さっさと行くわよ! ロリコンランクA!!」
 凄まじいハイキックがヴァルザードの横顔を捉えた……

 一行は来た道、つまり地下通路を戻る事にした。
 帰りはモンスターも魔獣も出る心配がないと判断した結果だった。まぁどうせブライと他の馬の事もある、余程の事が無いかぎりこれは決まっていた事なのだ。

 さすがにキャノ王女にはきつい行程だった。
 ヴァルザードは何度も「オレが負ぶろうではないか」などと言っていたが、その都度皆の冷たい視線とシェラのハイキックが跳んでいく。
 もちろんキャノ王女も「いえ、大丈夫です」と断り続けるのだが。
 しかしこんなやり取りでも、キャノ王女には救いだったかもしれない。
 カノン王の指示とはいえ、本当に逃げ出して良かったのか、それが頭から離れないのだ。一瞬でもそれを忘れさせてくれるヴァルザードの軽薄な態度にも少し好感を寄せていた。

 しかし後々ヴァルザードの本性を知る事になるのだが……

 地下迷宮、エルフの森と延々歩き続け、ようやくブライが待つ木こり小屋に辿り着いたのは昼近かった。キャノ王女が一緒なので休憩を取りながらの行程は思ったより時間が掛かった。

 すでにキャノ王女が居なくなった事は知れ渡っているだろう。一行はディアーク王都には寄らず、一気にカノン王国を目指すことになった。


―◇―◇―◇―◇―◇―◇―◇―◇―◇―


「どういうことだ! 詳しく説明せい!」
 怒気に満ちた声が広間にこだまする。
 ここは、ビズルトラ王国主城。王族専用の食堂である。唾は飛ばしながら怒鳴っているのはこの城の主ビズルトラ国王であった。

 それは朝食時のこと。国王のほか、王妃、王子が席に着き、末席にはカノン王国王女であるキャノ姫が座っているはずだったが、その姫が居ないのである。侍女達に聞いても誰も知らないと言う。

「申し訳ございません。どこを探してもキャノ姫様のお姿がありません」
 深々と頭を垂れる侍女長。その身体は恐怖でガタガタと震えていた。
「どういうことか説明せよと言っておる!」

 そこに近衛騎士隊長に連れられて一人の侍女が飛び込んで来た。
「も、申し上げます。キャノ姫様の身の回りの物が幾つか消えております。それとこんな物がキャノ姫様のお部屋に……」
 そう言って侍女は1枚の羊皮紙を差し出した。

 そこには一言
「キャノ姫は返して貰う。欲しければ力尽くで取りに来い。
                          カノン王 代理」

「カノン王代理だと…… おのれカノン王っ このわしをコケにしおって!」
 怒り狂ったビズルトラ王はテーブルの食器を床にぶちまけた。
「今すぐ出兵の準備をいたせっ カノン王国滅ぼしてくれるわ!」
 ビズルドラ王の頬はリンゴより赤く染まり、プルプル震えていた。
「し、しかし陛下、それでは他の5大王国が……」
 恐る恐る口にしたのは、側近の文官であった。
「なぁに、先日あれも届いておる。いざとなればエプソニアを統一してくれるわ!」
「しかし、それではあまりにも」
「えぇい! うるさいっ 此れは決定事項だ。今すぐ出兵の準備じゃ!」
 側近の言葉を遮り、「これは命令である」と付け加えた。
「はっ ははっ」
 そこに居る全て者が諦めて低頭していた。
(まさか、あんなものを御使いになるとは……)

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