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ルシ伝 作者:キルナ

第1章 カノン王国の王女

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不死の王 2

 ブシュゥゥゥゥゥ!
 間欠泉から熱湯か蒸気が噴出すような音が突如響き渡る。
 アン・リッチの不浄の臭気が漆黒のローブの内より噴出したのだ。
「むぅ!」
「うおぉ!」
「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!」」」
「キャイン!」
 強烈な臭気で皆が吹き飛ばされた。
 ルシ以外は受身も取れずゴロゴロと転がる。
 すかさずルシが結界を張り事なきを得たが、皆の顔が苦痛に歪む。
 それでもヴァルザードは槍を杖代わりに起き上がろうとする。
「くそ! か、身体が、うごかん……」
 しかし生命力を極限まで削られた身体では当分起き上がれないだろう。
「駄目です!」
 そんなヴァルザードをキャミが押さえつける。
 リンに結界を頼み、ルシが立ち上がる。その表情はいつになく厳しいものだった。
「あとはオレがなんとかする」
 ルシは腰の魔剣を引き抜くと皆に背を向けた。

「むおぉぉぉぉ。いかに不死とて今のは堪えたぞ。貴様らもはや生きてここから出れると思うでないぞ!」
 ブシュゥゥゥゥゥ!
 そんなアン・リッチを嘲笑うかのようにルシが言い放つ。
「やけに復活が早いじゃないか? そんな干物のような身体の何処に魔力を維持できるんだ?」「ぬぅ、貴様の知った事ではないわぁ!」
 ブシュゥゥゥゥゥ!
 言下に漆黒のローブが大きく波打ち、胸の前で合わされた手より紅き閃光の刃が放たれた。
 ルシはそれに合わせる様に魔剣を振るう。アン・リッチの放った魔紅刃は音も無く方向を変化させ石の壁に突き刺さる。
 ルシは魔紅刃を弾くのではなく剣腹を用いてカットするように受け流したのだった。
「馬鹿の一つ覚えのような魔法がオレに通用すると思ったのか?」
 ルシは無表情のまま吐き捨てた。いかにも『下らん真似をするな』とでも言うように。
 そしてルシも魔法を唱える。
「魔光連弾」
 ルシの眼前に小さな薄白色の球が無数に浮かび上がり、次々にアン・リッチに向かって飛んでいく。しかしアン・リッチの身体に吸い込まれる様に消えていくだけで、ダメージは全く与えられていない様だった。
 アン・リッチは口元を緩め薄笑いを浮かべている様である。
 そして右手を差し出し、ルシのそれに対抗するように次の魔法を唱える。
「爆炎熱弾」
 差し出された右手より小さな火球が無数にルシに襲い掛かる。
 その全てがルシにぶつかり爆発していく。
 濛々と立ち込める煙でルシの身体が煙で見えなくなる。
 そしてその煙が消えると、ルシの身体が薄紅色のオーラに包まれていた。それはルシの持つ魔剣のオーラが霞む様な神々しく禍々しいオーラだった。
「フゥゥーーーー!」
 それを見たアン・リッチは吐息のようなものを洩らし、その鈍く光る深紅の両眼を大きく見開くのみだった。
 しかしルシも魔剣を下段に構えてはいるものの、そこから攻撃に転じる様子は無い。
 お互いの動きが無くなった今、静寂が辺りを支配する。

 ルシは実際打つ手無しの状態だった。剣は通用しないうえに魔法を行使するにしても場所が狭すぎた。せめてもう少し広ければ良いのだが、これでは周りの石壁や天井に被害なく攻撃出来る魔法は少ない。攻撃出来たとしても通用するとも思えない。下級の魔法で攻撃したのは一応魔法の効果を試したに過ぎない。
 しかしアン・リッチにしても同じだった。先ほどから魔紅刃の様な下級魔法しか使わなかったのもその所為だろう。そして今ルシの禍々しいオーラを見て下級魔法程度では全く通用しないと判り、次の手段を考えてるのかも知れない。

 数分の静寂があっただろうか? ルシの口元が綻び身も凍るような冷笑を浮かべた。
「お前なら、ヘルの婆さんと仲良くなれそうだ」
 そう呟くと古代語と思しき言葉がルシの口から紡がれていく。
 アン・リッチは『こいつは何を訳のわからないことを言っているのだ?』と思ったが、その古代語を耳にしたとたん驚愕の色を示した。すでにルシの言葉は忘れ去っている。
「な、なんじゃその呪文は? 古代語なのか……なぜ貴様がそんなものを知っておるのじゃ?」 アン・リッチはどもりながら聞いてくる。呪文への恐怖よりその探究心が勝ったのだろう。
 短い呪文の言葉が終わると、さらに発動の言葉がルシの口から発せられた。
「暗黒封縛結界」
 とたんにアン・リッチの身体を暗黒の結界が包みこんだ。
「うぉぉ、なんじゃこれは! ぐぉお!」
 アン・リッチの唸り声とともに稲光が暗黒結界にほとばしる。
「如何なる者も封じ込め、出ることを許さない古代語の結界だ」
 ルシが淡々と呪文の説明をした。
「ぬぉぉ。じゃがこれほどの結界、そう長くは維持出来まい?」
 アン・リッチの声に少しの戸惑いと不安が混じる。
「たしかにな。だから特別にもう一つ、取って置きの禁呪を呉れてやろう」
 そしてルシの口から別の古代語と思しき呪文が紡がれていく。
「なっ、なにをするつもりじゃ! 何をしようと我を倒す事は不可能なのだぞ」
 それは先程とは違い長い呪文だった。延々と紡がれる呪文は終わりが無いのかと思わせるほど長かった。そして終にその長い呪文の詠唱が終わる。
「死ねないことを後悔するんだな」
 冷ややかな声音でそう呟き魔法を発動させる。
「暗黒洞冥界地獄」
 ルシの眼前に異常な磁場が形成されていく。そして小さな黒い穴が稲光を伴い出現した。
 その黒い穴がアン・リッチを閉じ込めた結界内に吸収されるように入り込んでいく。
「ふぅぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
 通路内にアン・リッチの雄たけびが響き渡る。その声が段々と擦れる様に小さくなり、やがて消えていった。
「ヘルの婆さんに可愛がってもらえ」
 最後にそう呟くルシであった。

 皆が後ろで口を開き放心状態だった。
 ルシが戻ってきても、少しの反応も見せない。
「おい?」
 訝しむ表情でルシが声をかけた。
 やっと気が付いたように皆の肩がビクッっと震える。最初に声を発したのはシェラだった。
「なんだったの今の?」
 続いてヴァルザード
「あれは魔法なのか? 古代語の様だったが、いったい何がどうなったんだ?」
 ほかの者はジッとルシを見つめている。ルシは一同を見回し答えた。
「あぁ、古代神との契約によって行使される魔法だ。簡単に言えば奴は生きたまま冥界に行ったってことだ」
「むぅ、よく解らん。もう少し詳しく説明を頼むよ」
「ん…… 一度しか言わんから、よく聞けよ」
 困惑した表情を浮かべたルシだが、仕方が無いといった風に説明を続けた。

「まずは強大な魔力と古代神の力によって閉鎖空間を作り出し、そこにアン・リッチを閉じ込めた。これは只の結界だが古代神の力が作用しているから、奴が万が一にもオレ以上の魔力を保持していても脱出は不可能だ。結界に封じ込めたのは、次の呪文がやたらと長く時間がかかるからだ。そして次の魔法も古代神によるものだが、ニヴルヘイムへと繋がる亜空間を作り出した。それを結界内に放り込むことで奴は生きたままニブルヘイム、つまり冥界に行ったわけだ」
 一端此処まで説明すると、なぜかルシの表情が変化していった。
「で、その冥界を支配するのがヘルって婆さんで、こいつは性格がとことん腐ってる。その上、生者を毛嫌いしてるからなぁ。アン・リッチの奴は死ねない事を後悔する事になるだろうよ」
 困惑の表情だったルシだが、後半の説明では身も凍るような冷笑に変わっている。
 その表情に皆は背筋に冷たいものを感じていた。
(ルシ性格わるぅ……)
(ルシさんって怖い人なのかも……)
(なんとなく解ってはいたが、この男の性格もとことん酷いな……)
(ルシ様…… カッコいい♪)

「えっと、その冥界? からこっちに戻ってくる事は無いの?」
「無理だな。あそこは閉鎖空間のうえ魔力も及ばない。オレでも自力で脱出は不可能だろう」
「しかし、君は冥界とかを知っている口ぶりだな? その上古代語だの、禁呪だの、それにあの膨大な魔力、いったい何故だ?」
 ヴァルザードの言葉でルシが困惑の表情に変わって行った。
「……わからない……」
 ルシ自身ほんとに何も解らなかった。そう呟くしかなかったのだ。
「わからないって何よ。答えになってないわよ?!」
 シェラが食って掛かろうとするのをヴァルザードが制した。
「いや、この表情を見れば嘘は言ってないだろう。本当にルシ君自身も解らないのかもしれないね、まだ何か秘密があるなら教えて欲しいものだが……」
 ヴァルザードの真摯な態度にシェラも黙り込んだ。ルシは少し悩んだようだが
「そうだな…… 帰ったら全て話す」
 ルシのその言葉に皆が小さく頷いた。
「クゥーン……」
 心配そうにルシを見つめるリンをの頭を撫でて、「いこう」と口にした。
「うむ、こんな場所で話す事ではないだろうね、では先を急ごうではないか」
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