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ルシ伝 作者:キルナ

第1章 カノン王国の王女

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ヴァルザード フェンリルを語る

 カノン王国の王都キャメロンを出たルシ達は、街道をゆっくり徒歩で進んでいた。別に馬が無い訳ではない。本当は後1日宿で休み、ルシの回復を待ってから出国しようと言うのがルシ以外の意見だったのだが、ルシが急ぎたいと言うので出国したのだった。ルシが出国を急いだ理由は雪である。数日前にディーエス山脈は初雪が降っている。雪が積もる前に山を越えたかったのだ。ルシ達が進む道は街道と言っても旧街道である、その道幅は狭く馬車1台通るのがやっとの道だった。その上、急斜面に面した箇所が多い。雪が積もってしまえば山越えの危険度が増すのだ。
 ディーエス山脈の南を通る大きな街道もあるのだが、距離的に3倍以上になるので此方の狭い旧街道を選んだのだった。
 それでも馬で走るのは身体にかかる負荷が大きすぎる、と言う事で徒歩になったのだ。ルシにしてみればもう9割がた回復しているのでなんの問題もなかったのだが……
 それと理由はもう一つあった。

 数刻前の宿を出る際のことだった。
「ルシさん、ほんとうにヴァルザードさんに黙って行くのですか?」
 昨日の件で印象を悪くしたヴァルザードだが、それでもキャミにとっては、自分を王国から出国できるように助力してくれた人には違いなかった。
「あぁ。言えば付いて来るだろうからな、巻き込む必要はないだろう」
 ルシはヴァルザードが嫌いなわけではない。キャミの事は助けてもらったわけだが、キャノ王女の件は関係ない。あの男に言えば「手伝う」と言うだろうから、これ以上巻き添えにしたくないだけだった。
「でも、また追いかけて来るんじゃない?」
「まぁその時は……手伝ってもらうさ……」
「じゃぁやっぱりルシさんの身体の事もあるし、のんびり待ちながら行きましょう」
「しかし、追いかけて来るとしても、旧街道を来るとは限らないぞ?」
 旧街道はビズルトラ国に向かうには行程的に早いのだが、冬場のこの季節は旅行者の割合は激減する。途中で雪に降られれば危険度が飛躍的に増すからだ。
「まぁね。だから今日一日だけゆっくり行って、それで来なければ諦めるで良いんじゃない?」「しかたないな……」
 本来なら無理やりでも急ぎたい所なのだが、自分の身体を心配しての言葉だと解かっているだけに、無下に出来ないルシであった。

 そういう経緯で一行はのんびり徒歩での旅なのだ。

 後方から馬蹄の音が微かに聞こえてきた。
(やっと来たか)
 ルシは馬蹄の音を捉えたが他の3人はまだ聞こえていないようだ。
 その数秒後「あっ」と言ってクーが振り返った。
「ん、どうかした?」とシェラとキャミも振り返る。
 馬蹄の音がはっきり聞こえ出すと、皆がそれに気づく。
「あ、ヴァルザードさん、来た」
 クーはどうやら他の2人より僅かに耳も目も良いのかもしれない。
「あ、ほんとだ」

「おーーーーい!」
 此方に向かって走ってくる馬のその背でヴァルザードが叫んでいる。
 どうやらヴァルザードも旧街道を選んだようだ。これも運命なのかもしれない。まぁ目的地が同じなら道を違えようが会う事には変りないのかも知れないのだが。

「ふぅ やっと追いついたよ。って君達はなんで黙って行くんだい?」
「えっと、ごめんなさい」
「「……」」
「黙って行ってもどうせ来るだろう?」
 ルシがしれっと言ってしまう。
「そ、そういう問題なのかい?」
「ちがうのか?」
 ヴァルザードは苦虫を噛み潰したような表情で、次のセリフを考えている。
「もしだよ、オレが南の街道を行ったらどうする気だったんだい?」
「どうもしない」
 ルシのこの発言に、一歩後退しつつ、なんとか立ち直るヴァルザード。
「あーそうだろうとも、君はそう言うと思ったよ」
 ここで完全に諦め顔になったヴァルザードは、降参というつもりで両手を挙げていた。

「あの、私達の目的を知ってて同行下さるのですか?」
 キャミは困惑気味に聞いてみた。
「もちろんだとも。ビズルトラ国王はカノン国王の様に話して判る人物じゃないよ? となると力ずくだろ? この俺が居れば1000人力だよ?」
「ビズルトラ軍は10万とも言われてる。5人が1005人増えたところで、意味ないだろ」
 ルシの言いようはもっともである。
「むしろ秘密裏に動けなくなるだけよね」
「そんな、大勢で行ったら、警戒される」
「えと、できれば内密に行動したいので……」
「あのねぇ、たとえばの話だよ。たとえばの。実際に1000人で行くわけではないよ」
「からかっただけだ」
 またもルシがしれっと言う。
「くぅぅ、君達ねぇ大人をからかうものではないよ!」
 ヴァルザードは手の甲で目頭を押さえ泣く真似などをしている。

「でも、理由をお聞かせ下さい。妹を、いえ王女を助けてヴァルザード様になんのメリットがあるのですか? むしろビズルトラに敵対したことになり、今後不利益になるのでは?」
 キャミの真剣な問いにヴァルザードは大仰に胸を張ってみせた。
「前にも言ったと思うがね。このヴァルザードは女性の味方なのだよ。それも『カノン王国史上もっとも可憐な王女』の為なら、全世界を敵に回しても構わないというものだよ」
 自分の発言に酔いしれるヴァルザードは誇らしげである。
「ようするに、女好きってことね?」
 シェラがいともあっさり訳してしまった。
「これ以上時間を無駄にしたくない。いくぞ」
 ルシは相手にするのも無駄だと言うように、さっさと歩き出した。
「「はい」」
「だよね」
「おい、待ちたまえ、俺も連れて行きたまえ!」
「連れて行かなくても、どうせ来るんでしょ?」
「もちろんだ。君達のような美少女のために戦うのが男と言うものだからねぇ」
「「「ロリコン」」」
「なっ! お、俺は、断じて、ロ、ロリコンなどではないよ!」
 ヴァルザードは狼狽している。ロリコンだということを肯定してしまったようだ。
 3人はヴァルザードからそーっと離れていく。リンまでも……
「君達ぃ、あらぬ誤解はやめたまえ!」
 ヴァルザードは悲壮な表情になりつつ、必死の弁解をはじめようとする。
 不憫に思ったのか、ここでルシが助け舟をだした。
「精々働いてもらうぞ?」
「お、おぅ。まかせたまえ!」
 そっと胸を撫で下ろすヴァルザードだが、3人の汚物を見るような視線はそのままだった。

 その夜は街道沿いの寂れた宿場町で宿をとる事にした。この先はディーエス山脈を越えるまで宿はないので仕方なくである。
「ところで、そのリンと言う子狼? この前から気になっていたんだが、まさか神狼かい?」
 ささやかな夕食の最中にヴァルザードが、リンを見ながら聞いてきた。
「あぁ、フェンリルの子だ」
「はやりそうなのか。その神々しい純白の体毛がフェンリルそっくりだったからね。気になっていたのだよ」
 懐かしそうにリンを見るヴァルザードだが、リンはその目に嫌悪を感じルシの後ろに隠れてしまった。
「フェンリルに会った事があるのか?」
「あぁ、もう10年近く前になるかな」
 ヴァルザードは回想するように語りだした。
「俺は冒険者として駆け出しの頃でね。見聞を広める為に大陸中を旅して回っていたんだよ。それである小さな村に辿り着いた。そこはモリリス王国の領内だったんだが珍しく自治村でね、モリリス王国としては何度も税を取り立てに傭兵や民兵を送り込んでいたのだが、すべて失敗に終わっていたらしいのだよ。俺がその村でお世話になっている時もちょうどそんな時だった。ただ今までと違い税の取立てとかいう生易しい物ではなかった。目障りな自治村を叩き潰す為に軍が派遣されたのだよ」
 そこでお茶を一口啜り皆の顔を見回した。ちゃんと聞いているか心配だったのだろう。ルシ以外は皆真剣な面持ちだったので気をよくしたヴァルザードはさらに続けた。
「あれは不思議な光景だった。軍が村の入り口近くまで侵攻してきた時も、村人は誰一人慌てなかった。別に逃げるわけでも戦おうとするわけでもなかった。皆普通に眺めているだけだった。俺は皆が死を覚悟しているのかとさえ思ったね。しかし突如森の中から数百という狼の群れが現れて村を守るように包囲したのだよ。その後始まった軍隊と狼の戦いは熾烈を極めたが数が違いすぎた。狼がどんどん倒されていったよ。それなのに村人はそんな光景を黙って見ているだけで誰一人加勢しようとしない。俺は釈然としなかった。気がついたら飛び出していた。多少腕には自信があったのだけどね、十数人倒した辺りで意識を失っていたよ。」
 ヴァルザードはまたお茶を啜り一同を見回す。「うむ」と頷いて話を続けた。
「気がついたとき辺り一面の氷河地帯だった。そして目の前に巨大な純白の狼がいた。その巨大な狼がフェンリルだったのだよ。どうやら俺が気を失ったあと、フェンリルが現れ軍を一掃してしまったらしい。俺は深手を負っていたはずなのになぜか傷は消えていた。そしてフェンリルに礼を言われ一本の槍を譲られた。それがこの魔槍グングニルなのだよ」
 そう言ってヴァルザードは魔槍グングニルを持ち上げた。
「この魔槍はね。遥か昔神々の時代、異世界の神の持ち物だったらしいのだけどね、その神をフェンリルが倒し手に入れたものらしいんだ。まぁフェンリルに魔槍など必要がないから、置いておいただけで使った事などないらしいけどね」
 そこではじめてルシが興味を持ったように聞いてきた。
「神の武器ってことか、どうりで俺の魔剣が刃こぼれするわけだ……」
「まぁ君に譲った魔剣は無銘の魔剣だしね、それほど優れた品じゃないのだよ」
「異世界の神か……」
「うむ、神は神でも主神だそうだよ。名をオーディンと言ったかな……」

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