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ルシ伝 作者:キルナ

第1章 カノン王国の王女

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再戦 ルシvsヴァルザード

とうとうルシとヴァルザードの対決です
「やぁ、おはよう諸君。しかし君たち若いのに早起きだねぇ」
 なぜかご機嫌な様子のヴァルザード。階上から下りて来るなり大声で挨拶をしてくる。
「女将、ここに椅子を頼むよ。それとミルクを貰えるかな。うん新鮮なやつをね」
「あ、おはようございます。昨日はご面倒おかけして申し訳ありませんでした」
 キャミはそう言って深々とお辞儀をする。
「いやいや、気にしなくていいよ。俺は女性の味方だからね」
 うんうんと自分で納得した様に頷いている。
「しかし、君は本当に美しいな、某国の史上もっとも可憐な王女にうおぉっとと」
 突然飛んできたシェラの平手を紙一重で躱すヴァルザード。
「ちょっと! なにを言い出すんですか?」
「君ぃ! いきなりなんだね? 俺だから紙一重で躱せたものの……」
「なにが某国の、ですかぁ、もろこの国の話でしょうがぁ!!」
「ん? そうだったかな?」
 などと空々しい態度のヴァルザード。
「っとに、こんな言動の軽い人がランクAとかあり得ないわよ!」
「やけにご機嫌斜めだね? もしかしてあ「違うわよ!!」っととと」
 また平手を繰り出そうと右手をあげるシェラだが、ヴァルザードはすでにシェラの間合いから逃れていた。
「ルシ君、君は付き合う女性を選ぶべきだな、うん」
 ヴァルザードは、あらためて席に着くと、また1人で納得している。
「そんなことより、なにか用か?」
「なにか用か?って、そりゃ無いだろう君ぃ! 俺たちは仲間だろ!」
「そうなのか?」
 怪訝な顔で一同を見回すルシ。皆が首を傾げて「「「さぁ」」」と一言
「き、君達ねぇ…… ま、まぁいいよ。俺は今日は気分がいいからね。許すことにしよう」
 シ―――ン
「君達! ここは「どうかしたんですか?」とか、聞くべきじゃないのかね?」
「「「……」」」
「えっと、どうしたのですか?」
 やや棒読み気味であるが、キャミが仕方なく聞いてあげることにしたようだ。
「うむ、では教えよう。今日こそルシ君と勝負だからだよ」
(やっとここまで話を持ってこれたか……)とホッとするヴァルザードだった。
「あぁ、じゃ今からやるか?」
 真顔で答えるルシ。そのルシの反応に皆が唖然とする。
「やけにあっさり受けてくれたねぇ、どういう風の吹き回しかな?」
 ヴァルザードもルシに合わせるように真剣な面持ちに変わる。
 そして2人の間に緊張が走る。
「そろそろあんたに付き纏われるのが飽きただけだ」
「フッ! 君には『目上の者を敬う心』というものを教えるべきだな」

―◇―◇―◇―◇―◇―◇―◇―◇―◇―

 王都キャメロンを出て南東に数キロ、街道が緩やかな曲線を描き地平線に消えていく。それ以外は見渡す限り草で覆われた大地である。時折吹く風が草原に草の波をそよがせる。真っ青な空には白い雲が浮かぶ以外は何も無い。たまに鷹だか鳶だかが悠然と風に流されるかのように舞っている。兎などの小動物でも狙っているのかもしれない。

 いまそんな草原に2人の男が向き合っていた。
 魔槍グングニルを手にする『疾風のヴァルザード』もう一方は、魔剣を腰に挿したままの『神速のルシ』
 2人を見つめるのはクー、キャミ、シェラと神狼であるリンの4人。
 草原に吹く風が彼女達の艶やかな灰銀と金と栗色の髪をなびかせた。そしてリンの純白の体毛をキラキラと光り輝かせる。その彼女達の不安と期待に満ちた瞳がルシに注がれる。
 ルシの実力は目で見て知っている。ランクAに引けを取らないだろうと思っている。しかしヴァルザードの大陸中に響き渡るその『疾風』という2つ名、無敗を誇り大陸一と言われるその槍術。もはや伝説と化したヴァルザードにルシの神速が通用するのか。

 ルシが腰の鞘から魔剣をゆっくりと抜剣する。その剣身は薄桃色のオーラに包まれている。
 ヴァルザードは魔槍グングニルを下段に構えている。その穂先(刃)の部分はルーン文字が刻まれ蒼白いオーラを発している。

「やっとこの時が来たか。たしかに君の剣の腕はたいしたもんだよ。しかし魔槍を手にした俺には勝てない。それどころか俺に攻撃することも出来ないだろう」
 不敵な笑みで宣言するヴァルザード。
「出来るか出来ないか試してみろ」
「いや、試すのは君なんだよ…… ったく君って奴は。まぁ悪ふざけは終わりにしよう。そろそろいかせて貰うよ」
 言葉が終わるや否や、ヴァルザードが闘気を一気に爆発させた。ヴァルザードを中心に草原の草がすごい勢いで波紋となり広がっていく。
 それに同調したかのように、ルシの闘気も膨れ上がった。そしてルシの周りにも同じように草の波紋が幾重にも広がっていく。

 10数メートル離れているシェラ達4人(3人と1匹)にも、その闘気の波が突風の如く襲い掛かり、その美しい髪を後ろになびかせた。あまりの闘気に後退り目を伏せる。すぐさまリンが結界を張りその見えない波動から彼女達を守る。リンを中心とした半径数メートル内だけが無風状態のように静まり返った。その結界の外は幾重にも襲い掛かる草の波が荒れ狂う様相を見せている。
 クー以外は今初めて神狼リンの力の一端を知る事になった。

 ヴァルザードはルシを中心に円を描くように草原のゆっくりと移動する。突如3人の目に映るヴァルザードの身体が霞む、そして消えた。
 ヴァルザードは一気にルシの横方向に跳んでいたのだ。そしてその手に握られた魔槍の突きをルシめがけて繰り出す。空気の渦が出来上がりその中心を魔槍の穂先が走る。ルシは片足を一歩下げ少し胸を逸らすように、その空気渦巻く槍の突きを躱している。しかし突きは止まらず、無数の槍が襲うが如くルシの身体を貫いていく。ルシは一歩二歩と後退しながらその足捌きと体捌きで躱していく。まさに神速の異名通りであった。
 しかしヴァルザードにしては、躱されて当然の如く「どうしたんだい? 躱してばかりじゃ勝負にならないよ?」と、攻撃を止めることなく言い放つ。
 無数の槍突きが雨の如く降り注ぐ中、顔面を襲った穂先に対して、ルシの手が初めて動く。
 ガキィン!
 金属がぶつかり合う激しい音が響いた。ルシの持つ魔剣が魔槍の穂先を弾き飛ばす。そしてルシがヴァルザードの懐に飛び込もうとするが、弾かれた魔槍がそのまま円を描くようにルシの足に斬りかかる。ルシはそれをバックステップで躱す。そこにまた無数の槍突きが空気の渦を捲きつけて襲い掛かる。後退一方で前に出ることが出来ないルシ。
「君の神速はその程度なのかい? 期待はずれだったかな?」
 いやらしく唇の端を吊上げ、挑発の言葉を投げかける。
「手緩い、やる気がでないな」
 珍しくルシが嫌味とも挑発とも取れる言葉を吐いた。

 見ている4人は呆気に取られているのか一切言葉を発しない。目を見開き口まで少し開けている様は、せっかくの美少女が台無しかもしれない。

「フッ 君も言うねぇ。では本物の『疾風』の槍術を見せてやろう!」
 言うや否やヴァルザードが攻撃を止め距離をとる。
 ヴァルザードの闘気が殺気に変わっていく。ルシの鋭利な眼光がさらに研ぎ澄まされる。
「いくぞぉ!」
 直後にヴァルザードが猛然とダッシュ! 下段に構えた魔槍が斜め上方向に斬り上がる。完全に捉えたと思えた一撃もルシは躱している。残像を残しヴァルザードの眼前から消える。瞬時にヴァルザードの懐に入ったルシだが魔槍の石突が足元からルシをを襲う。ルシは身体を大きく逸らして躱すが、そのまま後ろに倒れそうになる。しかし咄嗟に片手を地面に着けてそのまま側転とバック転で距離をとった。
「ほぅ、例え一瞬でも俺の懐に入り込めたことは褒めてあげようじゃないか」
 ヴァルザードは嬉しそうに微笑み、さらに続けた。
「しかし、そこまでだね。そろそろ降参したらどうかな? 俺としては彼女達を泣かせたくはないのだがね」
「いや、まだだ。まだ槍術を出し切っていないだろう? すべてを見せろ」
「なっ!」
「懐に入ればもっと見れるのか? ならいくらでも入ってやるが?」
「むむぅぅ、入れるものなら入ってみろぉ!!!」
 ヴァルザードの渾身の槍突きが風を纏い襲い掛かる。蒼白い光の軌跡とともに。しかしルシは今までの神速をさらに超えた超神速でもって、軽々躱し懐に入ってしまう。しかし魔槍は縦のベクトルを横に変化させる。横薙ぎの様にルシの胴を魔槍の穂先が強襲。魔槍の蒼白き閃光がルシの身体に2つに分かつ。しかしヴァルザードには手応えが感じられない。
 一瞬バックステップして、直後懐に飛び込んでくるルシ。ヴァルザードの攻撃を全て躱しながら常にヴァルザードの懐に入り続ける。神速を超えた超神速に流石のヴァルザードも目で追えなくなってきた。ヴァルザードの顔に冷や汗が浮かぶ。
「もっと見せろ! それで終わりか!」
 今度はルシである。攻撃を全て躱しながらヴァルザードを挑発する。いや挑発ではない。ただ純粋にヴァルザードの槍術が見たいだけだった。剣技に無いその動きを。

「ウォォォォォー!」
 ヴァルザードが獣の咆哮が如く吼えた。
 その咆哮に感化されたようにヴァルザードの腕が少し太くなる。足も、首も。身体も微かに膨れたかもしれない。そしてその瞳が赤く染まる。
「うぉりゃぁぁぁぁ!」
 先ほどよりさらに速く力強い槍突きがルシの心の臓を襲う。しかしルシはすでにヴァルザードの槍術の間合いを見切っている。
 ルシはヴァルザードの間合いギリギリまでバックステップで躱した。それと同時にヴァルザードは魔槍を握る拳の力を緩め、手の中を魔槍の柄を前方に滑らせる。つまり間合いがその分拡がったのだ。槍の柄は剣のそれと違い遥かに長い。数十センチは間合いが拡がった事になる。
 それに気付いたルシはバックステップでは躱し切れないと判断しサイドステップで横に飛ぶ。 しかし先ほどより速く力強くなった分、間に合わない。脇腹を大きく抉られた。
 ズバァー! 骨と肉を斬り裂く音に血飛沫が舞う。
 そのままルシは横向きに倒れこむが2転3転してすぐさま起きあがる。が、そのまま片膝をついてしまう。
「ルシ様ーーーーー!」
「「キャァーーーー!」」
「ワウゥゥー!」
 4人がルシに向かって走り出す。その表情には悲壮の色が現れている。
「来るなぁぁぁぁ!」
 ルシが吼えた。
 4人はルシの数メートル手前でぴたっと止まってしまう。
「まだだ。まだ終わらせない。下がっててくれ」
「無茶です! もう止めて下さい」
「そうよ! 死ぬ気なの?」
「そうです。もう止めて下さい」
「クーーーン」
 4人が必死で戦いを止めようと懇願している。当然だろう、ルシの傷は浅くない。数分もすれば致死量の血液が流れ出てしまうだろう。
「大丈夫だ。俺は死なない。守るべきものがある内は絶対に死なない」
 そしてゆっくり立ち上がる。瞬間血がドバッと吹き出し、よろける。
「下がっててくれ」
「無理です……」
「無茶よ……」
「死んでしまいます……」
「ワウ!」
 4人はそう言ってとルシに駆け寄ろうとする。
「はぁぁぁ!」
 ルシは血が吹き出ようがお構いなしで、さらに気合を入れ闘気を高めた。
 その圧力で彼女ら4人は足を止められた、前に進めないのだ。
「止めてぇぇぇ!」
「ルシ様死んじゃいやですぅぅぅ!」

「ヴァルザード、時間がない。いくぞ!」
 ルシは4人を無視して戦いを急かす。
「よし! 俺の全てを見せる。俺の槍術で殺られたことを冥界で自慢しろぉ!」
 言い終わらないうちから、ヴァルザードは魔槍を頭上に掲げグルグルと廻しだした。
 ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!と空気が切り裂かれる音が辺りに響き渡る。ヴァルザードの頭上では穂先の蒼白き閃光が、あたかも円盤の様な光の輪と化した。そしてその蒼白き光輪がゆらゆらと揺れだし、次第に頭上で八の字を描き出す。ヴァルザードの足元では、魔槍の回転が発する風圧で草葉が引き千切られヴァルザードの身体を中心に草葉の渦となって宙に舞う。
「俺の槍術、受けてみろぉ!!」
 そう叫びながらヴァルザードが草葉の渦と共にルシに突っ込む。そして縦横無尽の無限とも思える穂先が閃光とともにルシを斬り刻む。
 そのヴァルザードの攻撃をルシも魔剣でもって受けにいく。ルシの眼前には薄桃色の壁が有るが如く全ての魔槍の穂先を弾いていく。
 ビュー!と空気を切り裂く音とキィン!キィン!という魔槍と魔剣のぶつかり合う音が延々と続くなか、次第にビシュ!ビシィ!っと言う肉を斬り裂く音が時折聞こえ鮮血が飛散る。
 もちろんシェラ達には鮮血が飛散るのは見えても、どちらの血が舞っているのかまでは見えていない。彼女達の顔の悲壮感がさらに濃くなる。その手は固く握られガタガタ震えている。
 見えていなくても、ルシ達の距離が槍の間合いであり、剣の届く距離でないことは至極当然のことだった。
「終わりだぁぁぁぁ!」
「やめてぇぇぇぇぇぇ!」
「いやぁぁぁぁぁ!」
 ヴァルザードは叫ぶと同時に今までで最強最速の一撃を繰り出した。空気の壁を突き破るその一撃は衝撃波を伴いルシに襲い掛かる。ルシはそれに対し避けるでも受けるでもなく、力によって巻き上げた。
 シュキィィィン! 魔剣と魔槍の交差する音。ヴァルザードの手にあった魔槍がルシの巻き上げで空高く舞い上がる。
 ルシは返す刀でヴァルザードの首筋に閃光を走らせる。その薄桃色の閃光がヴァルザードの首筋で止まっている。
 数秒後に魔槍が大地に突き刺さった。

「ルシ様ぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「ルシーー!」
「ルシさーーーん!」
「ワゥーーン!」
 4人がルシの闘気が消えたとたん走り寄ってくる。

「どうやら負けを認めるのは俺の方だったね。よもや槍VS剣で負けるとは俺も引退かな」
 ヴァルザードのその言葉を聞いたルシは魔剣を鞘に収めた。そしてゆっくりと傾いでいく。

 リンの次に駆け寄ったシェラが倒れこむ寸前のルシを抱きかかえた。しかし傾いたルシの身体を支えきれず、そのまま自身もルシを抱えたまま座り込んでしまった。
 ルシは「すまん」と言って起き上がろうとするがシェラに「じっとしてて」と押さえつけられてしまう。
「服が、汚れる」
「もう、遅いわよ! いいからじっとして!」
「むぅ」
「キャミ! 治癒魔法お願い!」
「は、はい!」
「わたしも、できる!」
 シェラに抱えられたルシはキャミとクーの治癒魔法によって、どうにか傷が塞がり失血死は避けられそうだった。実際ルシは自身でも治癒魔法で傷を完治できたのだが、あえて任せることにした。しかし出血量が尋常でない今、そのままシェラの膝の上で意識を失っていく。

「3人の美少女に手厚い看護とは、羨ましい限りだねぇ」
 羨ましそうに呟いたヴァルザードは、4人から同時に「この最低男、死ね!」みたいな目で睨まれて、後退りしてしまった。
 この言葉でクーとキャミ、リンにまで軽蔑されるようになったのは言うまでも無い。

 ルシは、満足そうに微かな笑みを浮かべている。普通の目には判らない程度だが、ヴァルザードにはそう思えた。
 ヴァルザードにしてみれば、この顔を見ればそういうセリフが出ても当然だと思うのだが…… 勝負に負けて、美少女3人に軽蔑されて、踏んだり蹴ったりとは正にこの事を言うのだろう。と自分の運命を悲観せずにはいられなかったようだ。
お読みになった感想、評価、よろしくお願い致します。

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