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ルシ伝 作者:キルナ

第1章 カノン王国の王女

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カノン王の苦悩

 カノン王国の王城、その謁見の間。
 そこは縦長の広大な広間で、複雑な模様を施した白亜の円柱が数十本立ち並び天井を支えている。天井には魔法石が仕込んであるのか豪奢なシャンデリアが煌々と広間を照らしている。壁にも魔法石を使ったと思われる燭台がならぶ。光量的には外の明るさにと比べても遜色ないほどだ。広間の最奥には豪奢な玉座が数段高い位置に置かれている。床は大理石が一面に敷き詰められ入り口から玉座までを真っ青な絨毯が広間を二分するように中央に敷かれている。
 その謁見の間をヴァルザードとルシは並んで進み、玉座の数メートル手前で片膝を付き頭を垂れる。此れは昨夜、謁見に連れて行く条件として出された儀礼だった。

「はじめまして、カノン陛下。この度は貴重なお時間をいただき、まずはありがとうございます。わたくしはヴァルザードという一介の冒険者でございます。卑下な身分ゆえ礼儀がなってないかと存じますが、どうぞご理解下さいますよう」
 玉座に座するカノン王に向かい、ヴァルザードは頭を垂れたまま恭しく口上を述べる。玉座の両隣には近衛騎士だろうか? 白銀の甲冑に身を包んだ男が控えている。
「うむ、よくぞ参ってくれた。『見えざる剣』『疾風』の2つ名は我が王国にも聞き及んでおる、そう固くならずに気楽にすればいい。頭を上げてくれ」
 カノン王はランクA冒険者の来訪に、さも喜んでいるようだった。
「はっ、ではお言葉に甘えまして」
 そう言ってヴァルザードは頭をあげ視線を王の足元に据えた。
「してヴァルザード殿、今日はどのような件で参られたのかな」
「はっ、じつは内密に陛下にお話したいことが御座いまして……」
 ヴァルザードが慇懃な口調でそこまで言うと、ルシは黙って頭をあげ、視線をカノン王に向けた。
 「「無礼な!」」と言う声と共に剣の柄に手をかけた騎士達だったが、「よいっ!」とカノン王の一言で騎士たちは姿勢を元に戻した。
 ヴァルザードは一瞬肝を冷やしたという。
「オレはルシと言う。まずはこの書状を見てもらいたい」
 そう言って手に持った書状を持ち上げた。
 まったくもって礼儀も糞もない言い方である。
「「き、貴様ぁ!」」今度こそ剣を抜き放とうとする騎士達。
「よいと言っておる! いちいち反応するな!」
「は、ははっ!」と剣を納める騎士達。しかしその瞳には殺意が漲り、射抜かんばかりにルシを睨みつけている。
『内密に』と言ったのが幸を相したのであろうか? カノン王の興味を引いたようだった。でなければ普通なら斬られて当然であった。
 ヴァルザードは騎士達に(すまないね)と心の中で謝りながら、横目でルシを睨んでいた。

 側近の手により、ルシの手からカノン王に書状が渡される。それを見たカノン王の顔色が見る見る朱に染まっていく。眉間に縦皺が刻み込まれ、その目は吊り上がっていた。終いには立ち上がってプルプル震えだす程だった。
「「へ、陛下?!」」とうろたえる側近達だが、ルシだけは、その顔に薄っすらと笑みを浮かべている様に見えた。
「出来れば邪魔な奴は排除して欲しいんだが?」
 その言葉に反応したのはカノン王だった。他の者はうろたえて、ルシの声に気が付いていなかったのかもしれない。

 王宮の一室に通されたルシとヴァルザードは、真っ赤なビロードのソファーに座っていた。
そこにカノン王と騎士隊長らしき男、そしてキャミもが姿を現した。その目は部屋に入ったときから驚愕の色を示しルシを見つめていた。
 ヴァルザードは立ち上がり深々と一礼をする。
 2人の前のテーブルを挟んだソファーにカノン王が座り、その横にキャミが並んで座った。カノン王の後ろに騎士隊長らしき男が直立不動の姿勢で立っている。
 その男が王族直属の騎士隊長で上将軍のロドハイネックということ、そしてキャミの事を知る数少ない人物で、王宮内で一番信頼の置ける臣下だという。
 カノン王の許しを得てヴァルザードは座るがルシは最初から座ったままだった。

 ルシが持参した書状は王都キャメロンに着いてから4日間で作成したものだった。
 その内容は、キャノ王女との出会いと経緯。キャミとシェラ2人との出会いと経緯。そしてキャミの危険性である。つまり今現在王位継承権を持っている者で反国王派の者、または野心の強い者の名を挙げ、もしその者がキャミの存在を知っているなら、その者の手によって、近いうちに暗殺されるか、あるいは誘拐される可能性。そして攫われれば傀儡の王として祭り上げられる可能性。そしてその危険性を回避するには、人知れず出国することが一番であること等を書き綴った。

 もちろんカノン王が馬鹿でなければ、この書状に書いている事位解かっているはずである。こんな解かりきった書状をわざわざ書いたのは、カノン王が2人の王女を同じように愛しているのだとシェラから聞かされたからであった。
 ルシは当初、ほんとうに捕まるつもりでいたのだ。そして牢を破りキャミを連れ出すつもりでいた。ルシ1人ならたとえどんな所からでも無事生還出来る自信がある。いや確信だ。問題はキャミまで無傷で連れ帰れるかどうかだった。まぁそれも99%以上で問題無いとは思っていた。
 ただどうせなら、追っ手も無し。指名手配も無し。そういう状態で出国出来るならその方が後々面倒が少ないと思ったわけである。なら少し面倒でも書状でも書いて王を説得しようと考えたのだった。
 なぜ4日間を要したのかは、この国の現状、反国王派、王位を狙いそうな貴族等を調べさせる必要があったからだ。『名前も解からないが狙われている』では全く信憑性に欠けるということだ。
 そしてそれらを調べたのはクーであった。この王都の盗賊ギルドでそれらの情報を手に入れさせたのだ。もちろんリンがクーの護衛をしていたのは言うまでも無い。

 カノン王はソファーに座ると瞑目し、なにやら考えに耽っている。ロドハイネック上将軍はルシを警戒するように見据えている。キャミは訳がわからないと言った面持ちであるが、すでに下を向いてしまっている。
 おもむろに口を開いたのはルシだった。
「カノン王が馬鹿じゃなければ、キャミの危険性位解かってるとは思うが?」
 ロドハイネックの顔が一気に紅潮した。そして鬼か悪魔かという形相でルシを睨みつける。だが口を開く様子は無いようだ。王に止められているのだろう。
 しかしキャミは驚愕の表情で口に手を当てたりしている。
 カノン王は静かに目を開くとキャミを一瞥しルシに視線を向けた。
「もちろんだ。だが、この娘が出奔し今まで無事でいた事に心底驚いておる。だからと言って、もう一度出奔して無事でいる保障など何処にも無い。ならば手元に置き出来るだけ守るのが親であろう? こいつが出奔して以来、わしがどれほど心配しておったか。お前に解るまい?」
 それを聞いてキャミが申し訳無さそうにしている。
「そうだな…… オレにはわからない」
 そう言って遠くを見つめるような視線のルシ。そしてカノン王に視線をもどし、
「カノン王、あんたはキャミを絶対に守りきれるのか? キャノ王女を守りきれなかったあんたが……」
 その言葉にカノン王の身体が一瞬震えた。そしてその両手が固く握り締められていく。固く血が滲むほど固く。
「ルシさん、お父様を責めないで下さい。国王である以上仕方が無いのです。国王にとって国民全てが自分の子供のようなものだのです。それに…… キャノはお父様に言われて行った訳ではないはずです。私にはわかります。あの子は自分から行ったんです……」
「判っている。だからあえて聞くんだ。キャノを守りきれなかったのに、次はキャミを守れるのかとな」
「……」
「だがオレは違う。オレも守れなかった…… だから、もう2度と……」
 ルシの言葉が止まる。その瞳の闇に悲しみが浮かんでいる。
「オレならキャミを守れる。どんな事をしても守る……」

 カノン王はまた瞑目した。口を開く様子は無い。(国王である限り、国を守る義務がある、そのためにキャノを犠牲にした。次同じようなことが起きたら、キャミを守れるのか? それ以外でも、この陰謀渦巻く王宮でキャミを守れるのか? キャミの母親はその陰謀で殺された。何度自分の愛する者を失えばいいのか……)
 カノン王が目を開けキャミに視線を向ける。
「キャミよ、お前はどうしたいのだ?」
 その声には王たる威厳は欠片も無かった。だた親が子を想う気持ちのみ。
「わたくしは、ルシさんと、シェラと行きたい…… そしてキャノを助け出したい」
 キャミの膝にボロボロと涙が落ちていた。
「そうか…… では行くが良い。しかしキャノを助ける事はこの国を、滅ぼす……」
 カノン王の言葉は切実な問題だった。

「カノン王、国王とはなんなんだ? 国民の意見は聞かないのか?」
(いきなり何を言い出すんだ?)といった怪訝な顔でルシを見るカノン王。 
「わしは国民の意見は大事にしているつもりだ!」
「そうか、なら国民が王女に『人質になって国を守ってくれ』と言ったわけか」
「そ、それは……」
「わかった。それじゃキャミは連れて行く。邪魔をした」
 そういってルシは、もう用は無いという風に立ち上がった。
 ヴァルザードも一礼をして立ち上がる。
「キャミ行こう」
 キャミはルシの言葉に頷き、父王が気になる様子だが、ゆっくり立ち上がった。
 そして「失礼します」とヴァルザードが部屋をでる。
 キャミが後ろ髪を惹かれる思いで「それでは、お父様……」と部屋を出た。
 最後にルシが部屋をでる寸前で振り返る。
「最後に一つ聞きたい。なぜキャノ王女のことを隠してる?」
「あの子はまだ14だ。わが国では法律で婚儀は15からと決まっておる。正式な輿入れでもないのに、発表なぞできん」
「そうか、そんな国は滅べばいい」
「なっ!」
「14の娘一人に守って貰うような国は、滅べばいいと言ってる」
 そういってルシは出て行ってしまった。

「陛下……」
 ロドハイネックがカノン王を気遣い、そう呟いていた。
「ロドよ、わしはどうすればいいのだ……」
「陛下……」

お読みいただきありがとうございます。
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