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ルシ伝 作者:キルナ

第1章 カノン王国の王女

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ヴァルザード来る

 大陸中央にあるパナソニ砂漠の南の広大な平原、その広大な平原の最西に位置するディーエス山脈の麓、そこに大陸一の豊かさを誇る都があった。カノン王国の王都キャメロンである。
 しかし豊かなのは民の暮らしであって、国力、特に軍事に関しては実に頼りないものだった。
 王都キャメロンの町並みは白を基調とした造りになっており、礼拝堂や教会などの大きな建造物はもちろんのこと、王都に走る6本の大通りはすべて白の石畳で舗装されている。さすがに民家や商店などは木造や煉瓦であるが、それでも何処かの王都の貧民街の様な地域は見当たらない。

 王都キャメロンに到着した3人は、夕刻ということもあり宿を探すことにした。ルシは3部屋借りようとしたが、クーが2部屋で良いと駄々をこねる。呆れる2人だったが、シェラが1部屋で良いわと、さっさと4人用の部屋を借りてしまった。
「そのほうが話し易いし良いでしょ?」
 お前達は良いかも知れないがオレが困るんだ。とは言わなかった。

 宿を確保した3人と1匹は、まず食事を取る事にした。メニューを確認し、魚料理や肉料理、スープに惣菜、焼き立てのパン、7日ぶりのまともな料理に舌鼓を打っている。しかしルシは食事よりエールのが良いようだ。シェラなどはいつも通りワインを煽るのかと思っていたが、どうやら心此処にあらずと言った感じで、食事もあまり進んでいない。
 食事が済むとそれぞれ順番で湯浴みも済ませ、疲れを取る為にも早めに休むことにした。

 翌朝ルシが目を覚ますとリンはルシを一瞥したが、また直ぐ寝なおす始末。2人はまだ眠っているようだった。シェラは昨夜ベッドに入った後もなかなか寝付けなかったようだし、クーにしても慣れない旅で疲れたのであろう。
 ルシは(もう少し寝かせてやるか)と思い、クーの布団を掛け直して、シェラの方目を向けると、ちょうどシェラが寝返りを打ち布団を蹴飛ばす…… 一瞬眼を見張ってしまったルシ。慌てて視線を逸らし、部屋を出て行った。
(クーならまだいいが、やはりシェラとは同室はまずいな)と思うルシだった。
 部屋にいると、目のやり場に困るので1階で2人が起きるのを待つ事とにした。
 店の女将に「朝食は後でいいからエールだけ頼む」と告げる。

 そしてこれからのことを考えるとにした。
 どうやってキャミを城から連れ出すか、出入り業者に成りすまして城に忍び込む、水掘りの水門から潜入、騒ぎを起こしてワザと捕まる手もあるか、出来るだけ騒ぎを起こしたくは無いが。あれこれ考えるが頭を捻ってしまう。やはりルシには強行手段しか思いつかなかった。そんなことを考えていると、2人が階段を下りてきた。2人とも着替えてはいるが、眠そうに目を擦ったりしている。
「ルシ様、おはようございます」
 眠そうな目をしていても、深々と頭を下げて挨拶するクー。
「おはよう。ルシ」
 目も合わせず、気だるげに言ってそのままドン! と大きな音をたてて席に着くシェラ。
 ちょうど2杯目のエールを持ってきた女将が、対照的な2人を目を丸くして見つめる。
 ルシは苦笑いで、女将に朝食をたのんだ。

 3人と一匹が朝食を取っていると、バタン! という木を打ち据えるような音を立てて扉が開かれた。一歩店内に入り、立ち止まると店内をキョロキョロ見回す不審な男。その不審な男がルシ達を見つけると、ズカズカと歩み寄って来て、「君ねぇ! いったいどういうつもりなんだい! えぇ?」などと激昂している。
「ん? ヴァルザードか? どうしたんだ?」
 自分に対して怒り心頭などとは思いもしないルシである。
「どうしたんだ?! って言ったのか君は?…… ハァァァァァァ!」
 そういうとヴァルザードは大きく溜め息をつき、「女将、エールだ! それとここに椅子を持ってきてくれ」といって同席してしまった。
 3人と1匹は呆気にとられた様子でただ呆然と眺めていた。
 運ばれたエールを一気に飲み干すヴァルザードを見ながら、シェラがルシに耳打ちをする。
(ねぇ、いまヴァルザードって言った?)
「あぁ、いったが?」
 ルシがそう答えるとシェラは急に立ち上がり、ヴァルザードに向き直った。
「あの、『見えざる剣のヴァルザード』さんでしょうか?」
 いつものシェラとは思えないような畏まりようであった。
「うむ、いかにも俺はヴァルザードだが? 君は?」
「はい! 冒険者ランクCのシェラと申します。よ、よろしくお願い致します」
 などと大仰に一礼をする。
「なにをよろしくしたいんだ?」
 そういうルシに、「ば、ばかぁ!」とルシの顔面に平手を飛ばす。もちろんルシはあっさりと躱すのだが。
「あっはっはっは! 君は相変わらずだねぇ。…… ところでこの可愛いお嬢さん方は君のなんなんだね?」
 ヴァルザードは、すっかり怒りを忘れてしまったようだ。
「べつになんでもない」
「君ねぇ……………… まぁいい、お嬢さん方に直接聞くさ」
 とシェラに向き直り、「シェラ君だったね。ルシ君とはお友達なのかね?」
「えっ! いえ、冒険者仲間です……たぶん」
「うむ、じゃそちらの小さなお嬢さんは?」
 そう言ってヴァルザードはクーを見た。
「わ、わた、わたしは、ど、ど「奴隷じゃない!」」
 どもるクーの言葉に被せたのはルシだった。
「奴隷!? ルシ君! 君は、こんな可愛いお嬢さんに何をしているんだね! なにを!」
 またもや怒りだすヴァルザードである。
「だから、違うと言っている……」
 まだなにか言いたそうなヴァルザードを止めたのはシェラだった。
「えっと、それは誤解なんです。それより、ヴァルザードさんはルシとどういう関係なんでしょうか?」
 そこで思い出したように立ち上がったヴァルザードは、ルシの眼前に腕を伸ばし指を突きつけた。
「ルシ君、君はなぜ俺から逃げたんだね? その魔剣の約束は果たしてもらわないと困るよ」
「あぁ、そこのことか」
 気だるそうに答えるルシ。
「そこのことかって君ねぇ。わざわざ俺はそのために、こんなとこまで追ってきたんだよ!」
 ヴァルザードは顔を紅潮させ、わなわな震えている。
 しかしルシは何か気付いた面持ちで立ち上がった。
「ヴァルザード、そんなことより聞きたいことがある、ちょっと上に来てくれ」
 と、階段の方に歩きだす。
「そ、そんなことって! おぃいい加減にしないかね」
 そういうヴァルザードを無視し「はやくこい」と言いながらルシは行ってしまう。


 2階に上がると、ヴァルザードに「座ってくれ」と椅子を勧め、自分も椅子に座る、シェラとクーはそれぞれベッドに腰掛け、リンはベッドで丸まっている。
 ヴァルザードは困惑しきった表情で椅子に座り腕組みなどしている。そしてルシがおもむろにたずねた。
「ヴァルザードはランクAだったな? Aっていうのは一国の王にも匹敵する名声だと聞いているが、実際はどうなんだ?」
「そりゃぁね、ランクAの冒険者は大陸全土の王より数が少ないからねぇ。名声だけなら王並みかな?」
「それで?」
(そんなことはどうでもいい、早く結論を言え)と言う風に先を促すルシ。
「それでとは?」
 ルシの質問の意図が解からないといった表情のヴァルザード。
 少し拗ねているようにも見える。
「国王に謁見出来るほどなのか?」
「まぁ願い出れば、断る王はあまり居ないだろうねぇ」
 唇の端を少し緩め、ちょっと自慢げに語るヴァルザード。
「じゃぁ、願い出てくれ、それで謁見には俺も連れて行け」
「はぁ? 君はいったい何を言い出すんだい? そんな簡単に出来る事じゃないよ」
「今、出来ると言っただろう」
「むぅ…… なにか事情がありそうだねぇ。話してくれないかい?」
 呆れ顔だったヴァルザードの目が厳しいものに変わって行く。
「べつに話すことは無い。俺を連れて行ってくれればいいだけだ」
 ヴァルザードの目が閉じられた。呆れて物が言えないのだろう。こんな無茶な願いを言っておきながら、その理由も言わないのだ。しかもルシは歳下、ランクにしても下なのだ、目上の相手にこれほど失礼な態度はあったもんではない。
 沈黙が一分近くあっただろうか、ヴァルザードが口を開いた。
「無理だね。理由も判らず、王の御前に連れて行くことなど出来ないよ」
 ヴァルザードの瞳は真剣そのものだった。強引に進めるのは無理だと思ったルシ。しかし事情を話せないのも事実だった。
 そこで今まで黙って聞いていたシェラが口を挟んだ。
「ルシ、どういうこと? なにがしたいの?」
「王に直接交渉するだけだ。断るなら無理やり連れて帰ってきてもいいしな」
「無茶よ! ルシまで捕まるわよ?」
「それでも構わない、というか好都合だな」
 一人でなにやら納得しだしたルシである。

「シェラ君だったね。俺にも解かる様に話してもらえないかな」
 ルシに聞いても無駄だと思ったヴァルザードがシェラに問いかけた。
 シェラは困惑した表情を浮かべる。これは王家の存続に関わる問題に成りかねないのだ。本来ならペンダントの事が無ければルシにだって話さなかっただろう。いくらヴァルザードが尊敬する冒険者であっても、言えるものではなかった。
 そんな表情を見透かしてか、ヴァルザードがおもむろに背負った槍を胸の前で構えた。
「余程人には言えない事情があるようだね。だが信用して欲しい。この『疾風のヴァルザード』『魔槍グングニル』に誓う。一切の他言はしないとね。
 流石にこれにはシェラも驚いた。この世界において、自分の武器に誓うとは『命に代えても』と同じ意味合いである。ここまでされれば話さない訳にはいかない。
「わかりました。お話します」
 そういって恭しく頭を下げ、一切の事情を話し出す。
 キャミと言う公式には知らされていない王女がいること。キャミが幽閉されていたこと。キャミと2人で逃げ出して冒険者をしていたこと。キャノ王女が人質としてビズルトラ王国に囚われていること。キャミがまたカノン王国に捕まったこと。そして自分達がキャミを連れ出そうとしていること。
 黙って聞いていたヴァルザードの顔色が少し青くなったきがした。
「なるほどねぇ、事情はよく解かった。さっき誓ったように一切他言はしない。しかし、だからといって、ルシ君を謁見の間に連れて行くことは出来ない」
「そ、そんな……」
「勘違いしないでくれたまえ? 勝算があればべつだよ?」
「えっ、どういうことですか?」
「シェラ君が言ったじゃないかね。ルシ君が捕まる、とね。それはすなわち俺も捕まることになるのだよ。いくらなんでも捕まる為に謁見は出来ないってことだよ。しかしながら、ルシ君に国王を説得出来る材料があるなら別だってことだね」
「そうですか…… ルシどうなの?」
 まだ半信半疑といった感じのシェラ。
「なら問題ない」
「……そうよね、あなたはいつでも、「問題ない」だったわね……」
 完全に諦め顔のシェラである。
「まぁいいだろう、君が問題ないと言うんなら、そうなのだろうさ。それに乗りかかった船だしね、たとえ沈没しても、俺なら岸まで泳ぎ着ける」

 その晩の宿も4人用の部屋を借りた。
 ヴァルザードは「俺もその部屋に泊めてくれないかね」と言っていたのだが、シェラはもちろんクーにも反対され、リンには噛み付かれん勢いで反対された。「なぜ俺だけ1人なのかね……」と泣き言のようなことを言い「この恨みはルシ君に晴らさせてもらうよ! 魔槍グングニルに誓ってね」などと軽々しく魔槍に誓う有様だった。もちろんシェラは、ヴァルザードに対しての尊敬の度合いを一気に下げたのは言うまでも無い。

 そして4日後、ルシはヴァルザードと共に王城へ向かう。
 ちなみに「今は時ではない」と勝負を先延ばしにしたのはヴァルザードであった。

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